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最強魔女さんの混沌とした日常  作者: クリオネ
第三章
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第59話 雨の日の来訪者


「ふぁ......」


 夜明け前、私は昨夜から降り続いている雨音によって目が覚めた。


「......ッ!」


 気持ち良さそうに眠っているリサーナ達を見て、私も二度寝の態勢に入ろうとするとその時、昨夜感じた強大な魔力を感知する。この宿の前だ。


 私は音も立てずに部屋を出て、ローブを着込み仮面を付ける。


 この宿は夜遅くまでやっているが、夫婦と娘で切り盛りしているのでこの時間帯はお休みのようで、一階には誰も居なく、明かりなども無かった。


 そして外へと続く扉の前に立つと、ひしひしとその身に強大な魔力を感じる。だが、不思議な事にその魔力に敵意などは一切感じない。


 そして私は意を決して宿の扉を開けて外に飛び出すとそこには......


「あ! 出てきた出てきた! やっぱり、私の勘は正しいな! わはははは!」


 偉そうな幼女がいた。


 私が宿から出ると、その者は何故か喜び飛び跳ね回っていた。ぴちゃぴちゃと飛び跳ねる度に水も跳ねる。


 見た目は緑色の髪のツインテールに赤い瞳。赤い瞳は私とは違う純粋な赤だ。

 そして服装がウィルガルムの街景色から浮く程に派手だ。真っ赤なローブのようで、所々に金の刺繍がされている。私の服装と刺繍が似ているので恐らくあのローブもドラゴンが落としたのだろう。

 そしてそのローブにはフードは無く、裾が幼女の膝辺りまである。ローブの中の服装は、ちらりと見えただけだが可愛らしいフリルの付いた膝上丈のスカートだった。

 幼いながらも妖艶な生足のようだが、それを長いブーツによって更にスラッと見せている。


「あ、お腹空いた......」


 気の済むまではしゃいだ後、そう一言呟くとその場に倒れ込む。地面に倒れる前にそっと支える。

 支えた際、この雨の中なのに一切濡れていない全身に驚いた。


 腕の中を見てみると、苦しそうな表情で両手でお腹を抑える幼女がいた。


「な、何か食べる物を......私、何も食べてなくて......」


 どうやら本当にお腹が減っているようだ。とりあえず雨の中外にいるというのも不味いので宿の中へ幼女を抱えて入る。


 先程感じた強大な魔力の持ち主とは思えない程弱っているように見える。実際に、今感じている魔力は微かなものだ。昨晩の一度消えた時は今のようにお腹が減って倒れてしまったのだろうか。


 アイテムボックスから小さく切ったコカトリスの肉を焼いてから渡す。


 因みに、アイテムボックスを開いてコカトリスの肉を選択して加工と念じると加工済みチキンになると言うことを知ったので、最近のコカトリスさんの衛生管理は完璧である。


「はむっ、むむ! これは、美味いな! あ、もう少し下さい」


 一口齧ると、幼女は頬を緩め食べ進める。いい食べっぷりなので私は次々と欠片となったコカトリスさんを出す。その量こそ尋常ではないが、丸ごとコカトリスさんを出すよりは常識的だと思うんだ。


「ふぅ、なんか、凄い美味かった! お前! 私にこれからも作る事を許してやろう! わはははは!」


 汚れた口元を拭ってあげると、突然そんな事を言ってきた。本当に訳の分からない幼女だ。見た目可愛いんだけど、偉そうなのがちょっと......。

 ってな理由でここは丁重にお断りする。


「ごめんなさい、お断りします」

「何ぃ!? この私の許可が出たんだぞ!? ほら、もっと喜んだり......?」

「いや、お断りします」

「えぇっ!?」


 私が断ると思っていなかったのか、私が断ると物凄く驚愕に満ちた表情になった。

 この幼女は何処かのお偉い人の子なのかな。それにしてもお腹が膨れた後から魔力もどんどん大きくなっているな。


「な、なんで、断るんだ......? はっ! そうか、こういう時はお願いをするんだな! お願いだ!」


 なんでこの子は私が断らないと思っているのか......。一切頭を下げる事なく私と同じくらいの控えめな胸を張ってお願いされても私は何とも言えないのだが。まぁ、頭を下げられたくらいで付いていくわけ無いけどさ。


「お断りします」

「くっ、こうなったら力尽くで連れて帰るぞ! もう許さん! 泣いて詫びるまで私は止めないからな!」


 幼女が溜まりに溜まった鬱憤を晴らすかのように魔法を発動するために構築を開始する。思い通りにいかないと実力行使って......見たまんま子供だね。


 その時、厨房奥から一人の女性が入ってきた。


「あのー、今の時間帯は営業時間じゃ無いんですけど......ってアスカさん? と、その子は?」


 パジャマ姿のセラだ。厨房奥の従業員部屋兼セラの自室まで物騒な事を仕出かしそうな幼女の声が聞こえてしまったか。


 と、その問題の幼女はセラを見るなり魔法の構築を止めセラの方へと走り出した。


 危ない! ......なんだこのデジャヴ感は。

 私は一歩でセラの前に辿り着き、危険幼女がセラに伸ばした手を掴み止めながらそんな事を思った。


「え? あ、きゃあっ!!」

「ごめんなさい、セラ。驚かしちゃったね」

「な......私よりも速く動いた!? と言うよりこの手を話せぇ!」


 突然の出来事にセラはその場で尻餅を付いてしまった。後でちゃんと謝らないとな。

 その前に危険幼女をちゃんと叱らねばならない。早速転移の準備を始める。


「こ、この距離で魔法か!? や、やめろ、危ないだろ!」


 危ないなんてよくその口が言えたものだ。無関係の人を巻き込もうとした罪は重い。

 本音を言うと、私の睡眠を害した罪の方が重い。リサーナ達ともう少し寝ていたかったのに。


「やめっ――」


 最後まで私の手を振り払おうと抵抗していたが、私は問答無用で転移する。今回もメルガス大森林だね。

 瞬きした瞬間に景色が変わる。




「ここは......!?」

「あ! アスカね! もう、また変なの連れてきて」

「こんな夜遅い時間にごめんねライアさん。」


 私達が転移した先では緑色の体をした森の精霊、ドライアドのライアさんが待ち構えていた。


「ドライアド!? しかもライアだって!? もしかしなくてもあの、魔王殺しのライアか!」


 私がライアさんと挨拶をしている隙を見て危険幼女は私の手から抜け出したが、ライアさんの名前を聞いて変な事を言った。


 魔王殺し......。ライアさんならやりかねないからそこまで驚きはしなかったけどさ。


「なんでそんな事知ってんのよ! 知ってる人はもう数人しかいない筈でしょ! もしアイツらが言い触らしたのなら......国民全員を樹に変えてやるわよ!」


 あ、事実なんだね。それに国民全員を樹に変えるって......。その時はその光景を是非見てみたいものだ。


「ふふん! その数人の内の一人が私なのだ! どうだ、驚いただろう!」

「え!? アンタ......もしかしてジーク?」

「そうだ! 竜の国の王、竜魔王とはこの私、ジークリィン・ドラグマだ! どうだ、恐れ入ったか! わはははは!」


 え? 魔王なの? この子が? 嘘でしょ......。

 ジークリィンは「これから育つぞ!」とでも言い出しそうなくらい貧相な胸を張り、ドヤ顔でそう言い放った。


 あまり信じられないが、私が感知したあの魔力の量を考えると納得できる。

 だがその魔王が何故あんな所にいたのか。


「何? ジークってばアスカに喧嘩売ったの? 馬鹿だねぇ......。まぁ、アスカは無闇に殺したりしないから力試しなら丁度いいのかもねぇ」

「喧嘩? 私はコイツに私の料理人になれと言ったのにコイツが断ったから力尽くで連れて行こうと思っただけだぞ?」

「あぁ......そうだったね、ジークはアホの子だったんだ......」

「言ったな! アホって言う方がアホなんだよ! この

、アホライア!」

「アンタもアホって言ってるじゃないか、アホジーク!」

「アホアホアホアホ!」

「アホアホアホアホアホアホ!」


 突然のアホアホ言い合い合戦。私から見れば二人共アホなんだけどね。


「はぁ、はぁ、なかなかやるわね......」

「流石は......魔王殺しの名を冠するだけはある......」


 二人揃って肩で息をしている。二人曰く、いい勝負だったようだ。私は眠いので早く帰りたいのだが......。仮面の下で何度目かも分からない欠伸をする。


 その後も子供のような言い合いを暫く繰り返し、竜魔王ジークリィンがその場に倒れ込んでライアさんが満身創痍な雰囲気を出して拳を突き上げる。


 どうやらライアさんの勝利で終わったみたいだ。


「あ、終わった? 私は帰るから、じゃあね」


 私は転移を発動させながらそう呟く。なるべく聞こえないように言ったからね。それでもライアさんには聞こえていたようで軽く手を振ってくれた。

 ジークリィンはピクリとも動かないので後の事はライアさんに任せよう。


 あのアホの言い合いでどうやったらそこまでダメージを受けるのだろうか......。


 私はこれ以上関わりたくないので即座に宿に転移した。





「ただいま、セラ」

「ひゃっ!? あ、あああアスカさん!?」


 暗い宿の中一人で待っていたセラに私は声を掛ける。驚かれたがすぐに私だと気付いてくれたみたいだ。


「はぁ......もう、驚かさないで下さいよ。話し声がすると思ってここに来てみたら変な子いますし、そしてら急に変な子と一緒にアスカさんまで消えちゃうしで......あの子は誰だったんですか?」


 なんとか誤魔化さないといけないなこれは。

 あの変な子は魔王だった! とか説明が大変すぎるし。後眠いし。


「彼女は......そう、迷子だよ迷子。どっかの偉い人の子供みたいだったし、ちゃんと届ける所に届けてきたから大丈夫だよ」


 我ながら完璧な言い訳を考え付いたと思う!

  ローブは派手だったし、我が儘だったから誤魔化しきれるかな。


「迷子......? この時間にですか? それに、こんな所に貴族様が来る理由ないですよ。何か、隠してませんか?」


 誤魔化しきれなかったわ。まさかセラは以外にも頭脳派なのだろうか。これは侮ってしまったな。


 リサーナやレヴィならこれでころりと騙せるんだけどな......。はっ! 誤魔化せるんだよ。騙すんじゃないよ。


 こうなったら久し振りの出番の詐称スキルさんに頼むしかないか。


「えっと......彼女は通りすがりの魔王だよ」


 んん? 遂に詐称スキルさんまでバグった!?

 魔王である事を隠すために誤魔化していたのに本当の事を言ってしまうなんて......。


 どうしよう。頼みの綱である詐称スキルまで壊れてしまっては情報操作スキルで記憶を消すしか......。


 しかし、そんな私の心配をよそに、私の言葉を聞いたセラは笑っていた。


「あはは! アスカさんも面白い冗談言うんですね。貴族様どころか魔王なんて! それこそ、こんな所にいるわけないじゃないですか! やだなぁ、もう」

「えっ、あー、うん、そうだよね!」


 なんか......私はもう色々と疲れたよ。


 ジークリィンの事はきっとライアさんがどうにかしてくれるだろうし、今日の料理の事もあるし、寝よう......。


「ふぁ......。安心したら眠くなってきました。それじゃあ、私は寝ますね。おやすみなさいです」

「はい、おやすみなさい」


 セラが厨房奥へと入っていったのを見届けてから、私も自室へ戻る。


 そこから先の記憶は曖昧だった。眠らなくても活動する事が可能な私の身体だが、この時はただひたすらに眠りたいと思っていた。


 部屋に着いてからは、どこで、どのようにして眠りについたのかすら覚えていなかった。




 次に目が覚めた時は、とにかく幸せいっぱいな気分だったから良しとしよう。

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