第58話 無能なのか、万能なのか
お待たせしました。今回は少し説明回です。
「パンデミアさーん、お酒持ってきたよー」
「む? 待っていたぞ」
異界の中ではパンデミアさんがいつものように待っていた。
異界は、私の思うがままに姿形を変えるため、何も無い空間からテーブルや椅子を出すのは容易い事なのだ。まぁ、魔力を多少使うんだけどさ。
「で、あの後から調子はどうなのだ?」
私の持ってきた酒瓶から酒を注ぎ、それを勢い良く喉に流し込んでから話を振ってきた。
私は空になって差し出されたグラスに再び酒を注いであげながら返答する。
「うん、今日は問題無かったよ。本当にただ疲れてたみたい。疲労なんて全く感じてなかったけど、やっぱりちゃんと休まないとダメだねこりゃ」
「うむ、休みはしっかり取らねば......食われるぞ?」
「ふふ、ハイリスクすぎるね」
私はパンデミアさんとは違ってしっかりと酒を楽しみながら飲むのだ。
今日の酒は麦焼酎のようにキリッとしているが度数が強いのか喉が焼ける気がする。本当に気がするだけですぐに何も無かったかのように元に戻る。
正に喉元過ぎればなんとやら、ってやつだ。
え? 違う? 大体同じだ。
「今日は何の用ですか来たのだ? 酒を飲ませるためだけならここに放り投げるだけで良かっただろうに」
「え? 飲み相手が欲しかったから、ってのはダメなの?」
「くはは! 構わん構わん。しかし、何か聞きたい事でもあるのだろう? 顔に書いてあるぞ?」
バッ、と咄嗟に水鏡を作り出して自身の素顔を見る。久し振りに見たけど何も書いていない。
リサーナとかレヴィに落書きされたのかと思っちゃったよ。
しかし、黒のメッシュが増えただけでなく、私の瞳の色が更に濃くなっているのは気の所為だろうか? より一層血の色に近付いたと思うのだが......。
「本当に書いてあるわけ無かろうが。それで? なんでも聞いてやるぞ?」
折角なのでまずは明日の大食事会(仮)について、場所の相談等を聞いてみた。
「ほうほう、セラと言う小娘か。ならばちょうど宿にいるのだから宿の厨房を借りれば良いのではないか? まぁ、無理ならばここでやってもいいんだがな。それにしてもお主の手料理かー......」
「なるほど、朝になったら聞いてみるよ。安心してね、パンデミアさんの分も作ってあげるからさ」
パンデミアさんの「我も食べたい!」と言う視線がウザいのでそう言ってあげると、表情が一気に晴れやかになる。
知ってるか? こう見えてもこの人魔王並の力の持ち主なんだぜ......?
やれやれと思いつつも、次に武器の作成方法を聞いた。
「手作りの武器か、なるほど、それはあの子らは喜ぶだろうな。まぁ、最初っから武器作りなんて難易度が高いからな。まずはアクセサリーなどの小物から作り、スキルを習得していくのが良いだろうよ。何か鉄屑でも出してくれ」
アイテムボックスから手頃な物が無いか探すも、特に何も無かったので小さなナイフを取り出してそれを右手で砕いて鉄屑にしてから渡した。
「お、おぉ......お主は本当に常人離れしすぎておるな......それに、これは玉鋼の更に上の魔力を持つ金属ではないか? 魔鋼、だな?」
「ん? そうなの? まぁ、いいからやっちゃってよ」
玉鋼は確か日本刀とかの材料だった気がする。刀かー。私は武器よりも素手の方が強いからいいでしょ。......なんか本当に脳筋みたいになってきたな。武器使ってみようかな、なんて......。
「まぁって......。いいか、見ておれよ」
そう言うと鉄屑を手に持って魔力を鉄屑に流し始めた。すると、手に持つ鉄屑を紫色の光が覆い始める。
この紫色はパンデミアさんの魔力光かな? パンデミアさんらしい色だね。
その光が収まると、パンデミアさんの手の中には小さな鉄の馬の模型が出来ていた。
「ふむ、初めてにしては上出来だな」
「おぉー、すごいすごい。で、どうやるの?」
「んー、説明が難しいからお主も実際にやってみよ。頭の中でイメージしながら、手の中の物を変形させるのだ。更に魔力を流せば出来る! 多分!」
いや多分って......。
そう思いつつも実際にやってみる。再びアイテムボックスから小さなナイフを取り出して砕く。それを手に持ち、頭の中でイメージをしながら魔力を......どんな感じで流せばいいんだろうか?
とりあえずパンデミアさんのように覆い尽くすように魔力を流してみると、
《条件を満たしました。細工スキルを獲得します》
お、合ってたのかな?
スキルを獲得してから、どうやれば出来るのかが頭に流れ込んで来る。
まずは魔力で手の中の素材を粒状体にしてから、頭の中に作りたい物のイメージを浮かべる。すると手の中にそのイメージ通りの物が出来上がった。
「完成!」
私の手の中には一つのフィギュアが出来ていた。素材故か、色味の無い無機質な感じだがしっかりと作り込まれていてその顔に浮かぶ笑顔が素敵な......
「ほう、これはリサーナではないか」
リサーナだった。
あれ? 私は前世のお気に入りのフィギュア作ろうと思ったんだけどな......? なんでリサーナが?
「くはは、頭の中でイメージしたものがそのまま作られる細工よ。お主はリサーナの事をそんなにも思っていたのか! その表情からするに無意識のようだな。面白い奴よお主は」
パンデミアさんがニヤニヤしながらこっちを見てくる。物凄く不愉快だが、手の中に佇むリサーナを見ると何だか落ち着いてくる。
先ずはイラッとしたのでパンデミアさんに強烈なデコピンをしてから、リサーナフィギュアをそっとアイテムボックスに入れる。
後で色付けとかもしてみようかな。
「ふぐぅ! や、やりおったな、やりおったなアスカよぉぉ!」
今にでも襲い掛かってきそうな目つきで睨んでくるが、それを風のように流して話題を変える。
「そう言えば、パンデミアさん細工スキル持ってなかったじゃん? どうして細工出来たの?」
「くっ、うぐぅ......。む? あぁ、それか。ほら、我ってばカッコイイじゃん?」
「はぁ?」
額を擦りながら突然変な事を言ったパンデミアさんに対して、私は侮蔑のような哀れみを含んだ視線を送る。
「そ、そんな顔をするでないわ! 本当の我はもっとカッコイイわ! この体の持ち主の話だわ!」
なるほど、そっちか。本当の姿のパンデミアさんがカッコイイかどうかはこの際どうでもいい。
「あ、ちょっと何か我、今傷付いた気がする......」
確かに今のパンデミアさんの体、竜鱗族初代族長の体は戦闘狂の竜鱗族達からすればモテるんじゃないだろうか。
鍛え上げられた肉体。磨き上げられた竜鱗。そしてそれらを纏め上げるような甘いマスク。
見てるだけでイラッとしてくる存在だ。
「で? そいつがどうしたって言うの?」
「そんな怖い雰囲気出さないで欲しいのだが......。まぁ、それなりにモテたんだろうな。この体の持ち主の脳内をちょっと弄ると、そう言った記憶が見えるのだ。そこで、此奴も細工スキルを持っていてな。恐らく女に贈り物でも渡していたのだろうな。ほら、モテるかるぁッ」
二度も同じ事を言わせる気は無い。私はパンデミアさんが言い切る前に脳天にチョップを食らわせた。
「い、痛いぃ......」
頭を抑えて蹲っているパンデミアさんを見て少しスッキリしたので落ち着く。
まぁ、要するにその記憶にあった細工の仕方を見様見真似で模倣したって所か。パンデミアさんって以外と器用だな。
「細工と武器を作るのは同じ感じでやればいいの?」
「あぁ、そうだな」
「分かった。後は......これで義手と義眼を作れたりはしない?」
折角なのだからステラの左腕の右目を作ってやりたい。そこら辺の構造はやっぱり魔法でどうにかなるんじゃないかな。
と楽観視していたが、続くパンデミアさんの言葉にその考えは砕かれた。
「無理だな。いや、今の段階では不可能だ。武器は構造が分かれば簡単だが、義手や義眼ともなるとそれに伴った知識が必要だ。それは恐らくウィルガルムでは理解出来んだろうな。我も簡単な作りは分かるが、精巧な事までは知らんのだ」
ん? パンデミアさん、少しでも知ってるの? それなら私でも出来そうだ。
「簡単な作りさえ教えてくれればいいよ。後は自己流でどうにかするし」
「......は?」
知識なんて作っている過程で知ればいい。それだけなのだから。一々学びに時間をかけるより、現場で学ぶ方が成長率は高いだろうし。
百聞は一見に如かず、ってね。
あれ? ちょっと待てよ......。義手や義眼を作るよりも、元々あった物を再生させれば、そんな手間省けるんじゃないのかな?
「ねぇ、パンデミアさん。再生する事って不可能?」
「再生? 何をだ? ......って、話の流れで分かるのだが......。まさか失った部位を再生させるとでも言うのか?」
「何か変?」
「あぁ、うん。お主に常識なんて無いんだよな。今再び思い知ったわ......」
これは、貶されている? もう一回デコピンを食らわせてやろうかと思ったけど話してくれそうなので我慢しよう。
「いいか、まず魔法には上位互換がある事を教える」
「上位互換? 火魔法の上があるって事?」
「そうだ。と言うかこれは常識なんだがな。学び舎へ行けば、いや行かなくとも教えられる事だぞ?」
そんな事、この世界の住人でない私が知る筈無いだろうに。
あ、私が転生者ってのはリサーナとステラしか知らないんだっけか......。
「例えば、火魔法の上は火炎魔法。水魔法の上は、氷結魔法。風魔法の上は、旋風魔法。土魔法の上は、地烈魔法。光魔法の上は、聖光魔法。闇魔法の上は、暗黒魔法と......このようにある。まだまだあるのだがな」
「へぇ......」
火炎魔法か......。無意識ながらそれを使ってたって事かな? でもそうなるとスキルに出てる筈だし、持ってないって事はこれは転生者特典の魔術の超越のお陰かな。
とか考えていると、先程聞いた声が再び響いた。
《条件を満たしました。火炎魔法を獲得します》
《火魔法Lv.10を火炎魔法と統合しました》
《条件を満たしました。氷結魔法を獲得します》
《水魔法Lv.10を氷結魔法と統合しました》
《条件を満たしました。旋風魔法を獲得します》
《風魔法Lv.10を旋風魔法と統合しました》
《条件を満たしました。地烈魔法を獲得します》
《土魔法Lv.10を地烈魔法と統合しました》
《条件を満たしました。聖光魔法を獲得します》
《光魔法Lv.10を聖光魔法と統合しました》
《条件を満たしました。暗黒魔法を獲得します》
《闇魔法Lv.10を暗黒魔法と統合しました》
これが、スキルUNKNOWNの効果のスキル獲得条件の緩和とでも言うのだろうか? ただ聞いただけで上位スキルを獲得出来た。もう頭が追い付かないよ。
「おい、アスカよ。聞いておるのか?」
「ん、あぁ、ごめん。なんだっけ?」
少し呆けていたみたいだ。後でしっかりと整理しておかないとな。ステータス確認しておかないといつの間にか他のスキルまで変わってたりしたら嫌だもんね。
「それでだ、人の部位を再生する事は、理論上可能だ。だがそれは本当にその人の部位が再生するとは限らない。全く別人の、知らない人の部位が再生されるかもしれないのだ。魔法はイメージ。再生させる人の部位をしっかりと、強くイメージしなければ完璧に再生させることは不可能なのだ」
まぁ、そりゃそうだろうね。もしも失敗してステラの左腕が変な腕だったりしたら嫌だもんね。
「そして、それを可能にする事が出来る魔法は、回復魔法とは違う魔法なのだ」
「違う?」
「そうだ。回復魔法は主に怪我を、表面の傷と体力を回復させる魔法なのだ。そして......治療魔法、それも超高度な魔法行使によってのみ、部位欠損を治すことが出来る」
《条件を満たしました。治療魔法を獲得します》
やっぱり取れた......。でも、他の魔法とは違い、回復魔法と統合はされないんだね。上位互換魔法って事でも無いのか。別の魔法、か。
「治療魔法は回復魔法とは違って、体力の回復はしない。怪我を治すのは回復魔法と同じだが、コストがこちらの方が安く済む。そして決定的な違いが、病を治すことが出来る事と、先にも述べた部位を再生する所だ」
これでステラの無くなった腕と目を再生出来るのか......。しかし、やっぱり何かで試してからじゃないと恐ろしいので今度魔物か何かで試してからにしよう。
それにしても本当に今夜は疲れた。話を聞いただけでスキルが取れるなんて思ってもなかったしな......。
私はアイテムボックスからもう一本の酒瓶を取り出してから異界を後にする。
空は曇っていて月明かりすらも遮っているため、街中も闇の中だ。
眠る前にステータスを改めて確認しておこうかな。
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アスカ・ニシミヤ 女性 18歳
魔女
レベル148
封印
HP73800/73800
MP126000/126000
STR96100
VIT89710
《スキル》
火炎魔法Lv.10、氷結魔法Lv.10、旋風魔法Lv.10、地烈魔法Lv.10、聖光魔法Lv.10、暗黒魔法Lv.10、空間魔法Lv.10、破滅魔法Lv.10、結界Lv.10、万能耐性【NEW】、回復魔法Lv.10、治療魔法Lv.10【NEW】鑑定Lv.10、魔力操作、魔力感知、詠唱省略、縮地、剣術(短剣)Lv.1、幸運Lv.6、自己再生、詐称、情報操作、身体強化Lv.5、調理Lv.5、手加減、思考加速Lv.1
《称号》
転生者、魔物の殺戮者、勇気ある者、魔王、魔王の友、リサーナの嫁、フラグ回収のプロ、天然の人たらし、脳筋、ドライアドの友、反逆者、残虐者、ドライな人、幼き竜鱗族の保護者兼愛人、酒豪、約束を護りし者、喰われし者
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納得のいかない称号が増えているのはいつもの事だが、確かに主属性魔法達が上級魔法に統合されているね。
それといつの間にか耐性郡が万能耐性に統合されてるし。よく見ると他のスキルのレベルも少し上がってる......。
これからはこまめにチェックしないといけない気がする。
それにしても、喰われし者......か。
私は今夜も可愛らしい四人娘の寝顔を見て癒されてからベッドに横になる。
「アスカ......?」
「ん、起こしちゃった?」
フルフルと横になりながらも顔を振るリサーナがいた。私が優しく今は茶髪に変わった髪を梳くと、気持ち良さそうに目を細め再びそのまま眠りについた。
スキルUNKNOWNに悩まされながらも、今は横になり明日の食事会のレシピを考えていると、魔力感知が激しく反応するのを感じた。
「外か......」
ウィルガルムは広い。ウィルガルム全ての範囲を私の魔力感知が拾えるわけでもないが、確かに真っ直ぐとこちらへ向かっているのを感じる。
「来る......?」
暫く進んだ後、その反応は消えた。
ウィルガルムに来てからはそれなりに強い冒険者もいたが、それとは比べ物にならないような魔力を感じた。
「何も無いことを祈るか」
それ以上は特に何も無かったので私は眠る事にした。
翌日の早朝、ウィルガルムには雨が降り始めた。




