第56話 ショッピング
お買い物って楽しいですよね。特に食料品を選ぶのは楽しいです。
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「ん......朝か......」
窓から朝日が差さり、私は目が覚めた。
昨夜、パンデミアさんの言う通りお酒を少し飲んでリラックスした後軽く眠るつもりで横になったら、予想以上に深く眠ってしまった。いつもならリサーナやレヴィの寝相に邪魔され途中で起きたりするのだが、同じベッドで寝たというのに全く目が覚めなかった。
「うっ! ......レヴィか......びっくりしたな」
天井を眺めてぼーっとしていたら、左側からレヴィが転がってきて私に衝突した。
「それにしても、五人で三人用ベッドは狭いね......」
窓側から、私、レヴィ、リサーナ、ステラ、そして端から落ちそうになっているラ・ビールがいた。
確かラ・ビールは私が寝る前は天井に蝙蝠のように張り付いて寝ていたと思うのだが......落ちたのかな?
レヴィが小さいので、私はレヴィをそっと抱き寄せる。ちょうど抱き枕サイズなので可愛らしい。
「んんぅ......アスカぁ?」
「あ、起こしちゃった?」
「もう少し、こうしてる......」
そう言うと今度はレヴィの方から私に抱きついてきてそのまま眠ってしまった。
と、その時部屋の扉をノックする音が聞こえた。
私は腕の中で心地良さそうに眠っているレヴィをそのまま抱きかかえ、扉の方へ向かう。
「はい、どうしましたか?」
「あっ、お客様。おはようございます」
「おはようございます」
扉の向こうにいたのは、この宿の看板娘さんだ。
「えっ!? あれっ!? ぎ、銀髪......?」
しまった! 仮面もローブを被るのを忘れていた! 看板娘さんが驚いている間に部屋の中へ無理矢理引き入れる。
「えっ、えっ、えっ!?」
「ごめんなさい。叫ばれるとちょっとめんどくさかったから」
「ま、魔王、なんですか......? こ、殺さないで......!」
「うーん、何と言うか......」
恐怖に染まった表情をする看板娘さんに私が魔王では無い事を事細かに説明する。後で気付いたのだが、情報操作スキルで記憶を改竄すれば良かったと後悔したのは内緒だ。
そうだね、無闇矢鱈に人の記憶弄るなんてそれこそ魔王みたいだから、ここは説得して正解だったと思うんだ。
「――だから、黙ってくれると嬉しいんだけど......」
必死になって説明をしている時でも幼いレヴィは私の腕の中でスヤスヤと眠っている。羨ましいな。
「わ、わかり、ました。この宿に危害を加える事は無いって事ですか......?」
「いや、その、私は魔王じゃないから。はぁ......」
私が魔王では無い事の説得は無理だったが、なんとか悲鳴を上げられる事は回避出来た。
「それで、私達に何か用があったんじゃ?」
「あ、はい、そうです! もうすぐ朝食の時間なので、呼びに行けとお母さんが」
そっか、この宿は朝食付きだもんね。
私は疲れた体を癒すように眠ったので、昨日までの辛い感じは綺麗サッパリ無くなっている。
用は済んだので看板娘さんが帰ろうとしたので、少しの間呼び止める。
「これ、黙ってくれるお礼と言っては何だけど」
私は金貨一枚を看板娘さんの手に握らせる。すると看板娘さんは、
「こ、こんな大金! 受け取れないですよ! そ、そもそもチップと言うのは銅貨とかで払うものなんですよ! 金貨なんて受け取れないです!」
そうだったのか。だが、私が看板娘さんを怖がらせてしまったのは事実だ。不可抗力だとしても、私の不注意故だったのだ。
「そうですか......では、お金の代わりに、何か欲しい物とかは無いですか? それくらいは、させて下さい」
看板娘さんは、それなら......と少しの思考をした後、こう言った。
「お肉......干し肉じゃなくて、ステーキとか食べてみたいです! ......あっ、はしたなかったですね、すみません。お礼なんて気にしないで下さい。強いて言うなら、この宿を満喫して下さればそれだけで私達は嬉しいですから」
とびっきりの笑顔を浮かべた後、看板娘さんは他の客にも声をかけに部屋を出ていった。
ステーキ、か。この世界では家畜が少ない。そのため、肉と言っても魔物の肉を干し肉として食べるか、牛や豚の肉を食べるくらいしかない。牛や豚は、高級なので貴族達しかまともに食べる事は出来ない。
そのため、一般人達は主に魔物の干し肉を食べるのが当たり前のようだ。
もちろん、コカトリスを飽きるくらい食べているのは私達だけだろうが......。
そうだね、ステーキくらいならご馳走して上げてもいいか。コカトリスでも大丈夫だろう、多分。
鶏肉のステーキか。たまには味や趣向を変えてみても面白いかな。
色々と試作してから振る舞う事にしようと決める。ソースとかも試してみたいしね。
そうと決まれば買出しに行かないと。と、その前に朝食だね。全員起こさないとだ......。
「さ、みんな起きてー! ほら、リサーナ、ステラ、ラ・ビール、起きなさーい。レヴィ、起きて〜」
四人を起こすのには想像以上に時間がかかった。そのため、宿の朝食を食べに行った頃には既に朝食は冷めていた。こっそり火魔法で温め直したのは内緒だ。
朝食は硬いパンと温かいスープにサラダだった。スープはともかく、サラダまで美味しくないと言うのはどうやれば出来るのだろうか......? 他の皆は美味しそうに食べていたので私も完食はした。
「これからちょっと買い物しに行こうか」
「あ、そうですね! 昨日は何だか忙しかったですもんね......」
私はリサーナの髪をポニーテールに纏めながら今日の予定を決める。
リサーナは私の纏めたポニーテールを幸せそうにゆらゆらと揺らしている。
「今日はアスカにちゃんと守ってもらうぞ」
「......私も、欲しい物がある」
「どんな物買いましょうかね」
レヴィが絶対! と瞳でも訴えてくる。確かに、レヴィも弱体化しちゃってるんだよね。冒険者くらいなら逃げられると思ったけれど、不意打ちには弱かったので、昨日の出来事が起こったのだ。今日はとことんレヴィを甘やかしてやろう。
「ステラは何が欲しいの?」
「......槍、かな」
槍か。そう言えば馬車で槍を構えているのを見覚えがある。でも、その状態では満足に振るえないのではないか? そう思ったが口には出さないでおいた。好きに見せてあげよう。
「今日はソース、タレの材料とか、お米とかかな」
「後々、果物とかも食べたいのです!」
「フルーツならレンジの実がオススメだぞ!」
「......私はナバナが食べたい」
「わ、私はハッピーフルーツが食べたいですね!」
「我は酒を頼むぞ?」
「はいはい、好きな物買いましょうね......」
どさくさに紛れてパンデミアさんも意見を主張した。私もお酒は好きなので飲み相手が居るというのはなかなかに嬉しいのかもしれない。心がワクワクしている。
因みに、レンジの実はオレンジのような赤い果肉が甘酸っぱいグレープフルーツのような実で、ナバナはバナナのような形をしているフルーツで、長持ちする為冒険者達が好んで携帯する食料の一つでもある。HPが回復する効果があるとか無いとか。ハッピーフルーツとは、食べた瞬間口の中で果肉がパチパチと弾け、食べる度に幸せを感じるのでハッピーフルーツと言うらしい。そんな駄菓子があったよね、懐かしい。
「ウィルガルムにもアルテナ商会ってあるんだねぇ......」
目の前の、ギルドより一回りほど小さいアルテナ商会を見て驚いている。こんな世界でも、全国展開とかしているアルテナ商会はかなり大手企業なのだろう。
いつもの配置で私達は今日も行く。......しかし、今日はレヴィが私に抱っこされている。レヴィは人混みが苦手のようだ。
五歳くらいといってもまだまだ小さいので問題はない。竜鱗を隠すために、ダボダボのローブを着せている。
「アルテナ商会は全世界に支部を持っていますよ? メルガスはかなり大きい方でしたね。本部はザッハノルンにあるそうですよ」
ザッハノルン? 聞いたことあるような無いような? 思い出せない......。思い出せないと言う事は、大して重要では無いということだろう。思い出さなくていいか。
「アイリスとステラは、好きな果物とか選んでおいて。私達は他に必要になりそうなものを揃えてくるから」
「......大量に選んでみせる」
「私達に任せて下さい!」
リサーナが絡むと何でもかんでも心配になるが、ステラも付けたので大丈夫だろう。大丈夫だと信じたい。
リサーナがステラの手を引いてカウンターの前に行く。リサーナの社交性はかなり高いから問題は無いだろう。多分ね......。
「ラ・ビールも好きなように見てきていいよ」
「ほ、本当ですか!? いや、しかし......」
後ろでキョロキョロとアルテナ商会の中を興味深そうに眺めていたので声をかけてみた。
「遠慮しないで大丈夫だよ。欲しい物あったら余程の物じゃなければ買うよ?」
「ありがとうございます! ちょっと行ってくるです!」
軍隊のように背筋をピン! と伸ばして敬礼をした後、奥の雑貨売り場へ向かった。
ウィルガルムのアルテナ商会も、基本的にメルガスと同じ造りのようだ。左右にサービスカウンターのように店員が配置され、真ん中にはお金を払うところがある。
奥行の広い造りなので、奥に奥にと様々な物が関連する形で陳列されている。
流石にメルガスよりも規模が小さいと言っても私から見ればとてつもなく広いので、アルテナ商会の人に聞いて買う事にしよう。
「すみません」
「はい! いらっしゃいませ! どのような物をお探しですか?」
とびっきりの営業スマイルで出迎えてくれたのは私達と年齢が同じに見えるソバカスが特徴の元気な女性だ。しかし、彼女の持つたわわな二つの実は主張が激しいようで、彼女が動く度にゆっさゆっさと揺れている。それはもう、揺れまくっている。
「はい......お米と――」
その揺れを意識しないように注文をする。フルーツはリサーナ達に任せているので、それ以外を買うことにした。
お米、布、酒、とりあえず野菜を購入した。お米と酒の量が半端なかったので少々驚かれたが、そこはまぁ、気合いでなんとか誤魔化した。
調味料等はメルガスで購入してから殆ど手をつけていないため、買わなかった。
「レンジの実は?」
「アイリス達が選んでくれてると思うけど......お腹すいた?」
受け取った商品を適当にアイテムボックスに投げ込んでいると、レヴィが私を見上げて聞いてきた。
こくこくと頷いているので、食べたいのだろう。私も気になったので購入しようと思う。
「レンジの実を二つありますかね?」
「レンジの実ですね! ありますよ〜! お子さんですか? 可愛らしいですね〜!」
レヴィは褒められると、照れ隠しのように私の胸に顔を埋める。
持ってきてくれたレンジの実は見た目は完全にオレンジのようだった。
久しぶりの出番のめちゃくちゃよく切れるナイフで両断してからレヴィに渡す。食べる時はちゃんと下ろしている。
「いただきます。はむっ、はむっ」
レヴィは渡されると笑顔でレンジの実にかぶりついた。その光景をアルテナ商会の女性が顔を蕩けさせて眺めている。気付かないフリでやり過ごそう。
私もこの世界初めての甘味と言うか、フルーツを頂く。切断面はルビーのように赤く果汁の滴る果肉が幾層にも重ねられ輝いていた。
一口齧ると、一つ一つの果肉が弾け、甘酸っぱい果汁が口いっぱいに広がる。これは......
「美味しいっ」
「だろ!」
レヴィが口元を真っ赤にして答えた。後で吹いてあげなきゃな。
それにしてもこのレンジの実は物凄く美味しい。グレープフルーツのようだけどオレンジに近い、そんな感じだ。甘さもしつこくなくサッパリと食べられるので食後とかにもってこいだろう。
と、そこへラ・ビールが戻ってきた。
「あっ、レンジの実ですか? 美味しいですよね」
「ラ・ビールもどう? 食べる?」
「ありがとうございます! いただきます〜」
半分に切った方を渡す。人に化けているがバレることは無いだろう。後で聞いてみたが、他にも野良の悪魔がこのように人に化けて人間社会に隠れているのはよくある事らしい。
物騒だなおい。
「そう言えばこれ見つけたんですよ」
ラ・ビールは雑貨売り場から持ってきたであろう玩具のような物を見せる。どこか禍々しい雰囲気を感じる......。
「あっ、これ人気なんですよ。結構高いんですが評判が良いので飛ぶように売れてます」
アルテナ商会の女性が「こうやって遊ぶんですよ」と教えてくれた。魔力を流すと動くようだ。面白いな。
コマのようだ。流す人の魔力の量で回転時間が決まるらしい。そして流す人の魔力の色が端に浮かぶので、回っていると幻想的でとても綺麗だった。
「綺麗だな」
「はい、綺麗です」
「綺麗だね」
「え、えへへ......」
アルテナ商会の女性の魔力の色は橙色で、まさに元気といった感じだ。綺麗と褒められて照れている。
そのままコマを購入してラ・ビールにプレゼントする。喜んでくれて何よりだ。
レンジの実は皮まで食べられるようで、食べてみたら、少しの苦味を感じたが皮までどこか甘い気がした。レヴィの口元を水で濡らした布でしっかりと拭き取ってあげる。
「アスカ〜!」
向こう側から私たちに近付いて来たのはリサーナ達だ。
「選べた?」
「......ハッピーフルーツが無かった」
「まだ仕入れられていないそうです」
「あぁ、いえいえ、気にしないで下さい。私はコレで十分なのです」
申し訳なさそうに話す二人にラ・ビールは慌てて気にするなと言う。そして得意そうに先ほど購入したコマを嬉しそうに持っている。
その後、リサーナとステラが選んだフルーツを購入した。本当に大量に選んできたのでフルーツが山のように積み重なっていた光景は他の人から見たら驚愕だろう。
「次は武器屋さんかな」
「......ん」
大体の物は購入出来たのでアルテナ商会を後にする。次はステラが行きたがっている武器屋さんで槍を見ることにしよう。
アルテナ商会の女性にオススメの武器屋さんを聞いたのでそこへ向かうことにする。宿からも近いので夕食前には帰れるだろう。
「アスカ! お腹すいた!」
「私もです!」
「......昼食を要求する」
「私は大丈夫ですけど......ここは乗るべきだと考えましたよ! お腹がすきました!」
レヴィを皮切りに昼食の要望が全員一致で上がる。気が付いたら既にお昼の時間をとっくに過ぎていた。
「そうだね、お昼にしよっか」
「ウィルガルムは常に露店が多く出ているので露店だと手早く簡単に食べられると思いますよ」
ラ・ビールがそう提案してくれたので今日のお昼は露店で簡単に済ませる事にした。夜はちょっと私が作ってみたい。
宿は一応五泊分は取ってあるので、まだのんびり出来るだろう。
ウィルガルムの人達は私が仮面を被っていても、特に奇怪な視線を向けられたりはしない。冒険者が多い街だとこの程度当たり前なのかな。
その後は露店でのんびりとおやつの時間くらいまでお昼を楽しんだ。




