55話 パンデミアさんだって活躍したい
いつも感想ありがとうございます。
最近シリアス(?)続きで申し訳ないです! そろそろ楽しいことしたいですよね!
「アスカ! レヴィ!」
「......まおー」
「アスカ様! レヴィさん!」
宿の三人部屋へ転移すると、三人が落ち着かない様子で私達に近付いて来た。
腕の中で気持ち良さそうに眠っているレヴィをベッドに寝かせる。
「レヴィは、アスカは怪我無いですか?」
「うん、大丈夫だよ。レヴィはさっき目を覚ましたんだけど、またすぐに寝ちゃったから。リサーナはどこも怪我してない?」
「はい! 私は大丈夫ですよ! ラ・ビールが真っ先に隠してくれましたから」
「いえ、全ては私の責任ですから......本当に申し訳ございませんでした......」
リサーナは私達が無傷だと分かると安堵したのか、緊張から解き放たれ表情が緩む。
ラ・ビールは全ての責任は自分にあると言い、自分を責め続けているようだ。
「ラ・ビール、ちょっとこっち来て」
「え? あ、はい......」
私はラ・ビールを連れて隣の二人部屋へ移動する。その際、リサーナが心配そうに見つめてきた。
「アスカ......」
「大丈夫。怒ったりなんてしないよ。何があったのか話を聞くだけだから」
この時、恐らくリサーナはラ・ビールではなく私の状態を心配していたのだと思う。仮面を付けているのによく分かるものだ。私はそれとなく誤魔化してラ・ビールと二人きりになる。
「アスカ様、私は......」
「そんなに畏まらなくていいよ。ギルドに入ってから何が起こったのか教えてくれるだけでいいから。ギルドカードは受け取れたみたいだけど、その後に何があったの?」
リサーナの首元にギルドカードがかかっていたので、冒険者登録までは無事に出来たのだと思う。その後に何かあったのだと思われる。
「はい、実は――」
ラ・ビール曰く......
奴隷と言う言葉に傷付いたレヴィを慰めるために、竜鱗族について話をしたりしていたそうだ。その際、ギルド内で小さな声で話していたつもりだったが聞き耳を立てた冒険者には筒抜けだったようで、竜鱗族と言う言葉に反応したあのギリー兄弟が気配遮断を使用して、いきなり背後からレヴィを殴りつけたそうだ。
その勢いのままレヴィは気を失った。その時に、咄嗟の判断でラ・ビールはリサーナをその場からギルド内の隅の方へ押し出したそうだ。そこでリサーナはどうにか身を隠せた。
「リサーナを守ってくれたのはありがとう。本当に助かったよ」
「いえ......しかしレヴィさんを......」
「でも、ラ・ビールならあんな奴ら簡単に倒せるんじゃないの?」
一番謎なのがそこだ。ラ・ビールであれば、ステラよりも弱い冒険者なんて苦もなく倒せる筈だっただろうに。
「我々悪魔達は、ギルドや協会、王城などの結界の張ってある場所では力が出せないんですよ」
ギルドなどには、対魔聖結界と言う結界が張られている。それは万が一、街に魔物等が攻め入った時の避難所としての役割を持っているらしい。本当に危険な場合は王城すらも開くそうだ。太っ腹だね。
特に王城の結界は優秀で、魔王級の者でも通さないと言われている。
「その結界のせいで、人族に化けて入る事になった上に、力も満足に出せない状況だったのです......精一杯の力で取り返そうと挑んだのですが、逆に殴られてしまいましたね......少し、冒険者達を侮っていました。本当に、申し訳ないのです......」
今は悪魔の状態で何度も謝罪を繰り返すラ・ビール。悪魔の状態でいるときは認識阻害をかけているので、傍から見れば私は一人で語っている様なものなのだろうか? 残念な人じゃないか。
でも、その結界を私が知っていればこんな事にはならなかったのだろう。ギルドからすぐに出て、外で待っているよう言ったと思うから。
だが、三人とも特に目立った怪我もなく、無事に済ませる事が出来たので本当に良かった。ラ・ビールの殴られた傷は悪魔に戻ると自然治癒するそうだ。
次に、私が転移した後のギルド内の様子だ。念のために幻視を放っておいたのだがどうなっただろうか。
「レヴィもリサーナもラ・ビールも無事だったからもう気にしなくていいんだよ。それで、その後のギルド内の様子はどうだった?」
「は、はい! 一階にいた人達は虚ろな表情で、皆止まっていました。あれはアスカ様の魔法なのですか? 二階や奥にいた人達は確認出来ませんでしたので分かりませんが、多分大丈夫だと思いますよ」
マジか。冒険者ギルドなんだから一人や二人かかれば少しは話がややこしくなって分からなくなるだろうなって思って放った魔法だけど、まさか全員にかかるとはね......
「ありがとう。それだけ教えて貰えれば十分だよ」
「えっ......わ、私への罰は......?」
「ば、罰?」
「はい、契約とはそう言うものです。使い魔がミスを犯せば、それを罰するのがご主人様の役目です」
急に何を言い出すのかと思いきや罰だと? いや、今回は大元のミスをしたのは私だし、ラ・ビールを罰するなんてなんか嫌味な上司みたいになりそうで......
「こ、今回は保留って事でさ......ね?」
「だ、ダメですよ! 罰はその時にしなければいけないのです! また同じミスをするかもしれませんし! まぁ、私はそんな事はもう二度としませんけどね」
「もうミスしないなら罰なんて無くても大丈夫じゃん......」
「い、いえ! あ、あー、同じミスを犯しそうですねぇ! こ、これは罰を......」
とても態とらしい演技を行うラ・ビール。これはもしかしなくともラ・ビールはドMなのでは無いか? 罰が欲しいなんて......上に立つ者はドM体質だってよく聞くけどさ、ラ・ビールもそう言うタイプだったのね......。
どうしようか、これ。
「罰を......私に罰をください〜!」
ラ・ビールはそう言って私に引っ付いてくる。
これは罰を与えないと一生離れなさそうだ......。どうしてこうも私の周りは残念系美少女、美幼女が集まったのだろうか。
とりあえずラ・ビールにはお仕置きと称してデコピンで済ませよう。
「はうぅっ!!」
どこか恍惚とした表情で額を抑えて床を転げ回るラ・ビール。大丈夫なのかこのマゾ悪魔は......
「って言うか、罰って嫌な事をさせるから罰なんじゃないの? これじゃご褒美と言うかなんと言うか......」
それ以上先は考えたくなかった。荒い吐息を漏らすラ・ビールを放置して一人部屋を出る。
すると扉の真横にはステラが静かに立っていて、正直物凄くびっした。
「ステラ、驚かさないでよもう......」
「まおー、仮面外さないの?」
「え? あ、うーん、あはは......」
私は夜やご飯時、そして周りに皆しかいないときは仮面を外して魔力制御の練習をしたりしている。宿の室内は私達しかいないため、いつもなら外している筈......だが、今の私の状態は頗る良くない。
余計な心配をかける必要は無いので、後でこっそりと外そうと思っていたがそれよりも先にステラが聞いてきたのだ。なんかして誤魔化さないと......
「なんで?」
「ま、まだ外出する予定があるからさ。夕暮れ前には出ないといけないから......」
「......」
ステラは無言で私を見つめてくる。その黄金色の瞳に見つめられると、全てを見透かされそうで怖い。
私は咄嗟に顔を背けてしまったが、
「そう、気を付けて行ってね......」
不満気な表情で未だラ・ビールののたうち回る二人部屋の方へ入っていった。
ステラも、私の異変に気付いているようだ。ダメになる前に打ち明けた方がいいのだろうか? リサーナを連れて行くついでに少し相談しようかな......
「アイリス。ギルドカード貰ったんでしょ? 見せに行こっか」
「あ、はい!」
「私も付いてくぞー」
約束は絶対に守る主義と言うか、ステラと約束を交わした時にそう心に決めた。
レヴィが付いて来るとなると、UNKNOWNについてはまた今度リサーナと話すことにしよう。
「ご飯前には帰らないといけないから、早く行こっか」
その後、私達三人は警備兵であるゴイセンさんを呼び、リサーナもといアイリスのウィルガルムへの通行を認められた。これでやっと全員が入国出来たね。
その晩、夕食は宿の食事を頼んだ。五人分で銅貨二十五枚だった。
「コカトリスさんが食べたいですね」
「あんまり美味しくないな......」
「......同意」
「み、皆さんが贅沢な事を......」
など、味はメルガスとそこまで大差なかった。この時、未だに仮面を外さない私をステラが訝しむように見ていたが、なんとか誤魔化した。
「ねぇ、パンデミアさん。これから、どうしようか」
「唐突に来たと思ったら......また変な事を聞いてくるものだな......」
皆を寝かせた後、私は異界を開いてパンデミアさんに会いに来ていた。
「お主の為したいように為せばいいだろう」
「為したいように、かぁ......」
曖昧な答えを出してくるパンデミアさん。為したいように為せって、遠回しに「我に聞くな」って言ってるみたいだよね。
私はローブと仮面をそっと外す。
「パンデミアさんには、今の私はどう見えてる?」
「どう、とは?」
「質問の通り。レヴィやステラにもバレるのは時間の問題になってきてるからさ。リサーナも、仮面で隠してるのに分かっちゃうし......」
ラ・ビールも今の所探ってくるような仕草は無いが、あれだけの力を持っているのだ。分からない筈はない。
「それに、レヴィに危害を加えられた時に、加害者を殺したくなったんだよね。朝の奴隷商人然り、昼間の兄弟も......本当に、このまま私が私じゃ無くなるような気がして、怖いんだよね......」
「ふむ......。そうだな、我が今言える事は、まだアスカはアスカだ。と言うことぐらいだな。多少疲れただけだろう。そのスキル、精神が弱まれば弱まるほど表に出てくると見た。然すれば、今夜はしっかりと休むがいい......」
「そっか......。ありがとう、パンデミアさん。少し気が楽になったよ。今日はもう寝る事にしよう。おやすみなさい」
異界から出ていく私にパンデミアさんは静かに手を振るだけだった。
「......」
せっかく三人部屋と二人部屋を取ったのに、全員で三人部屋で寝ている。リサーナがレヴィを抱き枕のように抱いて眠っている。ステラは寝相が良く、微動だにしない。ラ・ビールに至っては天井を床のようにして眠っている。なんでもありかこの子は。
やっぱり、可愛らしい寝顔を眺めるだけでも少しは癒されるね。
月夜に照らされる窓際で、メルガスで購入したワインを少し嗜む。仄かに香る果実の匂い。それをくいッと飲み干し、私は静かに眠りについた。
「これからどうするか、か......」
アスカの去った後の異界。ここはアスカの思っている以上にアスカの心情が反映されやすい世界。
「昼間の乱れがレヴィに関してのものか。あのアスカをここまで苦しめることの出来るスキルなど一つしか知らんの......」
今は凪のように静か。きっと四人娘の寝顔でも見て癒されたのだろう。アスカはわかりやすいからな。
その後に襲った仄かな揺れ。もしや酒でも飲んでいるのだろうか?
そしてUNKNOWNと言う名のスキル。あれは過去に勇者に傷を負わせた魔王が自身を破滅させるほどの暴走を起こしたスキルと似ている。
「破滅の願い、時を経てアスカに取り憑くとはな......」
過去の魔王はスキルに呑まれて暴走し、その際に勇者に討たれた。しかしアスカの様子を見る限りだと今は無理矢理押さえ込んでいる様子。
「我が元の力を取り戻せれば、どうにか出来るのだがなぁ......」
とりあえず、元の力を取り戻す事を最優先事項として行う事にしよう。アスカの為に、我の為にも......な。
一先ずこの穏やかな時は睡眠を取るに限る!
「という訳で我も寝よう! おやすみなのだ!」
次に起きる時はアスカに無理矢理叩き起されるとも知らず、パンデミアさんはそれまで心地よく眠るのだった。




