52話 ウィルガルム到着?
お待たせしました!
「ウィルガルム着いたら、先ず何しましょう」
ウィルガルムの検問の列に並んでいる時、リサーナ改めアイリスが落ち着き無く聞いてくる。
偽名のアイリスで呼ぶより、真名のリサーナって呼んであげる方が心做しか元気そうなのだ。
「そうだね、一番最初は宿取らないといけないね」
「や、宿......ですか......」
宿にはメルガスで嫌な思い出しかない。リサーナの案内してくれた宿は尽く満室で、アルテナ商会のおじさんが泊めてくれなかったらどうなってたことやら......
「その後はアルテナ商会で足りなくなってきた物を補充しに買い物でもしようか。学校は、明日からでも大丈夫でしょ」
「お買い物ですね! 楽しみですね! レヴィとステラはウィルガルム来たことあるんですか?」
「ふぁ〜、ん?」
「......私は、メルガスから出たことなかった」
レヴィは待っているのが暇そうに欠伸をしていた。ステラはメルガス住みらしい。家放ったらかしで大丈夫なのだろうか?
「私は森から出たことないからわからないぞ。だから、こんなに人いっぱいだと少し気持ち悪い......」
「......同意。人混みに飲まれるのは嫌い」
竜鱗族は主にメルガス大森林の奥から出てくる事は殆ど無いらしく、メルガスの街に時々薬などを買いに来るが用が終わったらすぐに帰ってしまうらしい。
「そう言えば、悪い奴らに捕まると奴隷にされるって言ってたな。街に向かったのが帰ってこない時もあったな」
「悪い奴らって、奴隷商人とか? 竜鱗族も奴隷にされるの?」
「そうですよ。竜鱗族も亜人の一種と言われています。基本的に何処に行っても亜人は奴隷としか見られ無いことが多いです」
この世界は人族至上主義なのか。竜鱗族も獣人も人となんら変わりないのに......況してや優れている点の方が多い気がする。きっとそこに妬みを感じた過去の人達がそんな制度のような常識を擦り込んだのかな。
少なくともレヴィはいい子だからね。
「奴隷ね......ウィルガルムはどうなの?」
「あー、ウィルガルムは奴隷制度に大賛成の都市ですからね......レヴィの鱗は隠しておいた方がいいかもしれません。竜鱗族は高値で売買されると聞いたことがありますから」
前世、私の世界でも奴隷制度はあった。けどそれも昔で、私が生きている時代には全て撤廃されていた。まぁ、社畜と言う会社の奴隷のような存在がいたのは仕方が無いのかね......
「なっ、嫌だぞそんなの! 私はアスカとリサーナに付いて行くって決めたんだから!」
「あ、アイリスです! 落ち着いてください! それに、何があってもアスカが守ってくれますから問題無いですよ」
正直レヴィ一人捕まえるなんて一般の奴隷狩りじゃ不可能だと思うけどね......でも、今の幼女の状態だとどれくらい戦闘能力があるんだろうか。
気になったから聞いてみよう。
「レヴィ、今の状態だと何が出来る?」
「大体七割減ってところだろうか? Cランクの魔物は狩れないだろうな」
ふむ、コカトリスさんならギリギリ狩れるって感じなのか。コカトリスさんはDランクの魔物だからね。
レヴィ曰く、幼女の状態でもレベルを上げれば普通にステータスが伸びるそうだ。学校行きながら冒険者稼業でもすれば、お金も稼げてレベルも上がって勉強も出来て。一石二鳥どころか一石三鳥だね。
そんな事を考えていると、後ろから聞いていて嫌になるような声が掛けられた。
「そこのお嬢さん、ソレは竜鱗族ですかな? よろしければ私、買取りますよ? それとも、他の奴隷と交換などどうでしょう?」
全身黒スーツのような嫌味な格好をした糸目の気味の悪い男が、レヴィを指差してそう言った。
「うっ......」
対するレヴィは、本当に気持ち悪かったのか縮こまって私の背中に隠れてしまった。
「おやおや、随分と懐かれているご様子。そうですねぇ、十五ゴールド。金貨十五枚でどうでしょう?」
手でちょこんと整えられた顎鬚を擦りながら勝手に値段を決めていく。相場なんて知らないし、そもそもレヴィは商品などではない。
仮面に隠れて見えないが、私は今怒っている。
「そうですね......えぇ、とってもいい子でしょ? とっても可愛いんだから。私の、大事な子なの」
「なるほどなるほど、であれば三十ゴールド出しましょう! 貴女もなかなかやりますね。これ以上は厳しいですよ?」
目の前の気味の悪い男を今すぐにでも殴り殺したいが、それは我慢だ。リサーナ達に精神衛生上、教育に良くないからね。
であれば相手が恐怖するほどの魔力を浴びせるか、この場から退かせるか......前者は仮面のせいで不可能だ。よって後者しかないが、どうしようかと悩んでいるとふと思い出した。
「うるさいな......黙れよ」
「!?!?」
以前やったように言葉に怒気を乗せて話す。すると奴隷商人の男は冷汗が次々と出てきて、明らかにビビっているのが分かる。このまま畳み掛けるとしようか。
「次は、無いですよ?」
「ひ、ひぃぃ! わかった、悪かった! だ、だから命だけはぁ......!」
最後にとびっきりの笑顔で締めくくる。隣でリサーナが「アスカ、かっこいいです......!」とか言って目を輝かせているけど放置しておこう。
《条件を満たしました。恐喝スキルを獲得します》
あ、スキル取れた。恐喝スキルなんだ。威圧スキルが欲しかったんだけどな。パンデミアさんと初めて会った時に威圧っぽい事出来たけどまだまだ足りないみたい。
奴隷商人は血相を変えて列の後ろに一目散に逃げて行った。居なくなったのを確認して、後ろでぷるぷると震えているレヴィを優しく抱き上げる。
「もう大丈夫だよ。怖かった?」
「ひ、人と話すのは初めてで......しかも気持ち悪くて......つい隠れてしまった......」
レヴィは人見知りのようだ。以外と内気なんだね。
「言った通りでしょう? アスカは、絶対守ってくれますからね」
「......ん、まおー、最強」
「そうです! アスカ様は絶対無敵です!」
いつの間にかラ・ビールが私の影から出てきていた。自分で見つかったらヤバいような事言ってたのは気のせいだろうか?
「認識阻害を私自身にかければ、レヴィさん並の実力じゃないと絶対わかりませんからね。私だけ一人は寂しいですし」
「これで、全員揃いましたね! 後は検問待ちだけですねー」
それから、五人でウィルガルムに着いて宿を取って買い物をした後は何がしたいかを決めた。
「次!」
「はいはい、今行きますよっと」
仰々しい鉄の門......の右下の通常時通行門に呼ばれる。この巨大な鉄の門は、一年に一度だけ王の誕生日に凱旋する時だけ開かれるそうだ。普段は通常時通行門と言う木枠で作られた少し大きい門が使われている。
そこに検問が設置され、警備兵が何人もいて目を光らせている。各自持ち物のチェックや身分証明をしないと入れないようになっているようだ。
さっさと抜けて宿で少し休憩したいもんだ。長時間並んでリサーナ達も飽きてきて......うん、普通に元気そうだわ。
「仮面を取ってローブを外して素顔を見せろ。さもなければここは通れないぞ」
「ごめんなさい。仮面とローブは呪いの道具でね。子供の頃間違えて着けたら外れ無くなっちゃったの」
もちろん、大嘘である。
「そうか、早く呪いが解けるといいな。教会にでも行ってはどうだ? 達者でな。通っていいぞ」
チョロいわぁ! 後はリサーナ達を待つだけだね。
「......ん、一番乗りじゃなかった」
「私は手荷物無いからねぇ」
ステラはローブを外して身分証明書代わりにギルドカードを提出したそうだ。
「私はアスカ様より早くいましたけどね」
「ラ・ビールは検問とか関係無いでしょう......」
本当に認識阻害が働いているようで、次々と検問を通ってくる人達は私の後ろでフワフワと飛んでいるラ・ビールなど目にもくれず通り過ぎていく。
「通れたぞー! なんか、身分証明が出来ないからアスカのペットとしてなら通っていいぞって言われたから通れた。ちょっと失礼だよな。私はアスカのペットじゃなくて愛人? と言うヤツだぞ」
「「っ!?」」
レヴィは検問を通り抜けるなり早速爆弾を落としてきた。それに愛人なんてどこで覚えたのやら......
「アスカ様!? これは一体!?」
「......まおー、どーゆー事?」
ラ・ビールとステラが二人揃って問い詰めるように近付いてくる。二人はあんまり仲良くは無さそうだけどこういう時は息ぴったりだね。殺し合いした仲ってのは複雑だ。
ひとまず躱すために他の話題を出そうと頭をフル回転させる。
「あ、リサーナはまだかな?」
「......むぅ、まだ揉めてる」
ステラが指差す先で、茶髪のリサーナが検問の警備兵と揉めているのが見えた。
やれやれと肩を竦ませて呼びに行くとしようか。
「でーすーかーらー! 私は街娘さんなんですよ!」
「何を言っているかわからん! 街娘は職業じゃなかろうが! どこで働いてると聞いている! 冒険者じゃないんだろう?」
「アスカの元でお嫁さんをしています!」
「誰だよそれは! アイリスさんさ、同行者とかいないの? ちょっともう俺はアンタの対応は無理だわ」
そうだった。リサーナには身分証明書なる物が無かったっけ。後でギルド行って冒険者登録済ませないとだね。
とりあえず助けてあげないといつまで経ってもここから動けなさそう。
「すみません。ご迷惑をお掛けしました」
「アスカ!」
「おう、アンタがアスカさんかい? アイリスさんの身分証明書とかは無いか?」
この警備兵さんはいかにも強そうだ。筋肉が制服の上からでも盛り上がっている。
「無いんです。どうすれば通れますかね」
「そうか、困ったな......なら、これから冒険者登録してまた戻ってギルドカード見せてくれりゃ、構わんのだが戻ってくるか?」
「人員は裂け無さそうですもんね。お忙しそうです。必ず戻ってくるとお約束しましょう」
「ふむ、信じてもいいか。なら通って良し。戻ったらゴウセンと呼んでくれればすぐに出てくるぞ」
ゴウセンさんと言うのか。いかにも厳つい感じの名前だ。
必ず戻ると約束をし、リサーナを連れて全員検問を通ることができた。
「ステラと私で宿を取りに行くよ。レヴィとリサーナはギルド行って冒険者登録して来て。ラ・ビールはそれくらいならわかる?」
「なっ!?」
「えっ!?」
「もちろんです。一応私も冒険者登録はしていて、ギルドカードも持ってますしね」
そう言って空間収納から取り出したギルドカードを見せてもらうと、私と同じFランクの冒険者だった。
「なら安心だね。任せるよ」
「はい!」
ラ・ビールって結構優秀。どこぞのヒモ魔王様とは違うね。
「宿取り終わったらギルドで待ってますよ! すぐに来てください!」
「うむ! 待っているぞ! ところでギルドはどっちだ!」
「この大通りを真っ直ぐ行けばあるよ。目立つからすぐ分かると思う」
「「はいっ!」」
リサーナとレヴィが二人でいい返事をしてくれる。返事だけじゃなくてしっかりと登録までしてくれると嬉しいんだけどねぇ......
「ラ・ビール、宜しくね......」
「は、はぁ」
初めての街でソワソワしている二人はギルドの場所を聞くと一目散に走っていってしまった。ラ・ビールはその後をフワフワと飛んで追いかける。
因みに既に神聖帝都ウィルガルムの地図は確認した。魔法の目を飛ばして常に位置把握しているのでリサーナ達は心配無いだろう。
「私達も行こっか」
「ん!」
元気良く大通りを駆けていく二人を見送り、私とステラは今晩泊まる宿を探しに行く。まぁ、既に目星は幾らか付いてるんだけどね。
一先ず何事も問題が起こらずにウィルガルムに入れたのは良かったかな。リサーナはまだ入れたと言えるのか分かんないけどさ......
このまま何事も無く、順調に行けるといいな。




