49話 詰んだ詰んだ
早く2章を終わらせたい作者です......
我が名はサタン。大魔王サタンであるぞ。
今、娘を始末すると言う至極簡単な目的のため、大魔王自らが足を運んだのだが......
「なんだ......なんなんだこれはっ!?」
地獄門を潜りそこで目にした光景。
出てきたところは至って普通の草原だ。しかし、ここのどこが至って普通の草原なのだろうか?
ふと天を見上げてみると、地獄門の出現により天候は荒れている。それよりも注目すべきはもっと手前だ。
黄金色に輝く結界。そう、それは神絶結界と呼ばれる神のみが使うことの出来る全てを封じ、如何なるものも通さない最強の結界が張られているのだから。
「何故神絶結界が!? ノルンか? シュバルか? 有り得ない。俺の邪魔をする意味はなんだ?」
腐っても大魔王。その所業を邪魔する事は敵対を意味する。つまり、何処ぞの神がラ・ビール如きに肩入れしたという事か。
「ふん、気に食わんな。ならばその神諸共滅ぼせ! 行けっ、悪魔達!」
その直後、更に俺は意味のわからない光景を見せられる事になる。
「ま、魔王様! 申し上げます。謎の強大な敵の出現を確認しました! え、笑顔で我らの軍を相手にしております!」
俺の軍は上級悪魔が大半を占めている。ましてや軍を相手に出来るようなヤツがこの世界にいる筈がない。
「相手の軍は何人ほどだ?」
「は、はい......それが......」
報告に来た悪魔兵士が報告を渋る。焦れったいな、と思い眼光を鋭く光らせると、慌てて報告を続ける。
「ひ、一人でございます......」
「は......?」
何を馬鹿な事を抜かすのかと思ったら、冗談とも取れない話だ。馬鹿げている。
さっさと娘を、ラ・ビールを見つけ、俺の手で葬ってやらないといけないのに、そんな遊びに付き合っている暇など無いのだ。
「冗談はよせ。数万ほどか?」
「一人でございます......」
「冗談はやめろと言っただろう! 馬鹿にしているのか!」
「ひぃっ......!」
どんなに余裕であろうとも、そんな冗談に踊らされるほど俺は馬鹿じゃないのだ。即刻この者を殺してやりたくなったその時、軍の先で何やら騒ぎが起きているのを確認する。
「なっ、なんだ......あれは......?」
軍の悪魔が、次々と殺されていくのだ。我が軍の悪魔達は上級悪魔が殆どなので、破滅魔法以外では消えることは無い。だが、HPが尽きれば他と同じく死ぬのだ。数年、数十年もすれば自然と復活するがな。
しかし、だからと言ってどんどん死んでいいという事では無い。出来れば誰一人欠けることなく帰るのが理想だ。
「で、ですから......たった一人で我ら悪魔軍を蹴散らす者が......」
「な、何者なのだ!? 状況を確認しろ! ラ・ビールのヤツめ、このような切り札を持っていたとはな......大方、アイツでジャグウェルも殺したのだろう。条件次第では、俺が出るぞ」
「ま、魔王様がっ!? い、いえ......なんでもございません......過ぎた真似を致しました......」
一先ずは相手の戦力を解析するのが優先だろう。恐らくアソコで暴れているのは神だろうか。神絶結界を張ったのもアイツに違いないだろう。
「状況確認しました! 既に四分の一が存在Xにより消された模様。速やかに対処しなければ危険と判断します!」
「存在X、か......。俺が出よう。恐らくヤツも大将だろうしな。力の差というものを思い知らさねばならんな」
大魔王サタンの名の下に、我らが同胞のため、存在Xを滅するのみ。
そう、意気込んで存在Xの元へ飛ぶ。
「む? 大将のお出ましか? ハッハッハ! サタンよ、久しいのお。三百年と言う月日は流れたようだが、お主はさほど変わっておらんようだ」
「ふん、どこの誰か知らんが同胞の敵は俺が取らせてもらおう」
存在Xは、竜鱗族のような鱗を持っているが、体躯は大きい。成人男性サイズの俺と比べても大きいと感じるほど。
赤い髪に赤い瞳。竜鱗族のようで竜鱗族ではない謎の人物。しかし、誰であろうと邪魔するヤツは俺がぶっ殺すだけだな。
そして、地獄門の発動も間もなくだ。ラ・ビールのマーキングが神絶結界の中では働かなくなったのか、何処にいるのかがわからない。まずは部下に頼んで探すところからだ。
「ハッハッハ! サタンよ。我は、強いぞ?」
「抜かせ。だが、大魔王を動かせるだけの力はあると言うことは認めてやろう。遊びは終わりだ。行くぞっ!」
サタンは気付かぬまま、魔王対大魔王の戦いが始まったのだった。
パンデミアさんが大量に出てきた悪魔達を蹴散らしている頃、私はラ・ビールと地面に座って向かい合っていた。
「それで、洗脳されていた時の記憶はあるの?」
「あぁ、やりたくない事を無理矢理やらされているのに拒めないという事が何度もあった」
「じゃあ、貴女はこれからどうしたい?」
「どうしたいか? はっ、ふざけた事を......私はこれから殺されるだけだ。後は再び目覚めるのを待ってから父様を殺す。今は仕方なく、殺されるだけだ......」
殺されることを容認しているラ・ビール。その姿は死ぬと分かっていても何も出来ない自分の無力さに悔しそうにしているようにも見える。
「一つだけ、聞かせて」
「な、なんだ......」
「貴女は、洗脳されていたからクラリスを殺したの? それとも、自分の意思で?」
「違う! 私は......自分の意思で人を殺したことなど無いんだ......。可笑しいだろう? 悪魔なのに、力はあるのに、人を殺せない悪魔なんだよ......。でも! 父様は必ずこの手で、私が母様の仇を取る。その覚悟はあるつもりだ」
優しい悪魔......ね。恐らくラ・ビールは悪魔としては上級以上の存在なのだろう。そして、悪魔としては欠点の『優しい』ところをジャグウェルが漬け込んだのだろう。
「ふふ、ふふふ」
「急に笑い出してどうした? 壊れたのか......?」
「ラ・ビール、私は貴女を気に入った。私と契約しましょう」
「契約っ!? 待て待て待て待て! 今の話からどうやってそこに繋がる!?」
「理由なら言ったでしょ? 気に入った、って」
何がお気に召さないのだろうか? 悪魔って契約とか出来るんじゃないのかな。前世のオタク知識が正しければ出来るはず!
「もしかして既に契約主がいるとか?」
「いや、私は母様から生まれた悪魔だから、契約主はいない。それに契約をした事すらないからな」
「あ、やり方が分からないのね」
「それくらい知ってるわ! バカにするなよ!」
ラ・ビールは視線を離し、ある方向へ向く。
そこには、パンデミアさんと戦っている悪魔がいた。
「あれが、父様だ。お前の申し出は、その......凄く、凄く嬉しい。私を認めてくれたのは、母様とお前だけだから......」
幸せそうに、だがどこか悲しげに呟く。
私は黙ってパンデミアさんと激しい戦闘を繰り広げる大魔王サタンの姿を見る。
確かに、大魔王の名に恥じない戦いだ。パンデミアさんの方が若干押されているようだ。
「父様に勝てるヤツなど、この世界に存在しない。勇者でも勝てないだろう。それくらい父様は強いのだ。だから私はいつか、何年、何百年、何千年かかろうとも父様を殺してみせる。お前は、このまま逃げてくれ」
振り返り、涙を流しながらそう答えたラ・ビール。
悪魔は涙を流しちゃいけないだろう?
「逃げる? 貴女を置いて? はっ、それこそリサーナに怒られちゃうよ。......私もね、父親に殺されそうになったことは何度もあるんだ」
「お前もか......」
「その度に、母が私を守ってくれた。私が今生きているのも、母のお陰なんだよね」
まぁ、一回死んじゃってるんだけどね。
「母様......」
「だから、私は貴女を守るよ。私が、貴女の第二のお母さんになってあげるから」
「っ!」
契約の関係って親と子みたいな関係って昔読んだ本に書いてあったんだよね。
それに、なんでかこの子を置いて逃げるのがたまらなく嫌だ。私とは憎む理由が違うけど、父親が殺したいほどに嫌いというのがどこか昔の私と重なる気がしたのだ。
私も、誰かに助けられた記憶があるような無いような......?
「か、母様......ひぐっ、私は、生きていてもいいのでしょうか......? ぐすっ」
予想以上に号泣されてしまっている。
「なんでダメなの? 殺されても生きかえるから死んでもいいなんて間違っているでしょ? だから、精一杯生きなさい! 貴女のお母さんは、貴女が死ぬために産んだんじゃないと思うけど? 生きてほしいから、産んでくれたんでしょ」
「母様が......。そう、そうだ......だから、私はお前と――」
ラ・ビールが何か言ったが、最後まで聞き取ることは出来なかった。
戦場に再び響いた声によって掻き消されたからだ。
『見つけたぞ、ラ・ビールよ! どんなに足掻いても無駄だ。これで終わりにする。開け、死の門よ! 地獄門、開門!』
「むぅ、すまんのアスカよ。サタンは我では対処しきれなかった。まさか大将が直々に来るとは思わなんだ」
体のあちこちに傷を作って満身創痍になりながらもしっかりと地に足を付けているパンデミアさんが、いつの間にか隣にいた。
流れるような動作で回復魔法を叩きつけてやる。
「いやいや、サタン相手に結構持った方じゃない? それで、地獄門ってどんな魔法なの? 私知らないんだけど」
「地獄門は空間魔法と暗黒魔法の合体魔法だ。集団転送しつつ、周囲に破滅を齎す魔神を解き放つ禁忌の魔法だ。悪魔を司る魔王のみが使える魔法で、地獄門から現れる魔神は一つだけ願いを叶えるのだ。恐らく、ラ・ビールを殺すためだけにその願いを使ったのだろうな。大魔王は、本気で娘を殺すようだぞ?」
「クズだね」
「いつの間にか代替わりしておってな。我の知るサタンでは無かったのだ。クズだな。多分、成り上がりのような存在だろうて。我が本気になれば余裕なんだがな......」
分かりにくいけれど、私は今、腸が煮えくり返りそうなくらい怒っている。
親が簡単に我が子を殺す事が当たり前のこの世界に対して、そしてそれを目の前で行おうとしている大魔王に対して。
「アスカ......と言うのか。アスカ、本当にありがとう。私は――」
「皆まで言わないの。ここで待っていて。パンデミアさん、守るくらいなら出来るでしょ?」
「我を誰だと思っておるのだ? ちとキツイがそれくらいなら任せよ」
不安しか無いけど、任せよと言うなら任せる。神絶結界も、そろそろ切れると思う。即興で張ったにしてはなかなか頑張ってくれたと思う。
外で待っているリサーナ達を見る。
心配そうにこちらを見ているので、大丈夫だと念話を送ってみる。魔力を特定の相手に送る感じで......
こうかな?
《条件を満たしました。念話スキルを獲得します》
おっ、出来た出来た。
『そんなに心配しないでいいよ。私は、大丈夫だからさ』
『『アスカ!』』
『まおー!』
なるほど、大魔王のあれも念話の応用だったのね。面白いじゃん。
『あ、あの門から出てくるのは危険な気がします!』
『アスカ、私も戦おうか?』
『まおー、あれは、危険』
矢継ぎ早に三人がそれぞれ話すので上手く聞き取れない。
『心配しないで大丈夫だから。万が一もあるから、外でも防御体制を取っておいてね』
そう言って一方的に念話を切る。魔神が姿を表したからだ。
パンデミアさんの後ろでラ・ビールが何か叫んでいるが、無視だ無視。パンデミアさんが止めてくれるだろうし。
「はぁ、私ってば強敵としか戦ってなくないかなぁ......? ほんと、スローライフが夢だよ......」
この世界に来てからの事を思い出し、憂鬱になる。
死の草原で頭のおかしい化け物達を殲滅し、軍を相手に逃げ、なんか偉そうな悪魔を殺し、そして今や魔神だよ魔神。
もうね、意味わかんないよね。
転生ってもっとぐうたら出来るものかと思ってたけど、こんなにこの世界でも最強かもしれない相手らと連続で戦うことになるなんて誰が思ったか。
......シュバルか?
この際誰でもいいからこのストレスを発散したい。
と、言うわけで目の前の魔神さんを力いっぱい殴ろう。多分、本気出さないと倒せなさそうだしな。
ダウナーな気分になりながら仮面を外す。
ダウナーだし、怒ってるし、複雑な感情だよ。まったくもう?
『クククククク、そんな脆弱な女など魔神の前では無いに等しいぞ! 死ね! ラ・ビールよ!』
パンデミアさんと戦って、サタンも疲弊しているのかその場からほとんど動けていない。
念話を飛ばすので精一杯の様子。パンデミアさん、なかなかやるじゃん?
「ぐおおおおおぁぁぁぁ!!」
巨大な咆哮を上げ、ラ・ビールをロックオンする魔神。
大きな一つ目、紫色の肌、溢れんばかりの筋肉。
魔神とは名ばかりの、サイクロプスだった。
「ちょっと強いだけの魔物じゃん......」
とりあえず、こっちを向けと挨拶がわりに魔法を放つ。魔物には光魔法って相場が決まってる!
「光球小爆撃っと!」
私の周囲に光球が浮かび上がり、次々と紫サイクロプスに飛ぶ。
この魔法は光球を当てるだけではなく、その光球の当たった箇所が大爆発を起こす――筈だった。
光球が紫サイクロプスに当たった直後、消えていくのだ。
「うっそ!?」
紫サイクロプスが何かしたような動きはない。
魔法無効なのか? じゃあ殴るまで!
そう思い、身体強化を右足に集中させ、風魔法の空飛を使い空中へ向かう。
そしてそのまま体を翻し......
「魔女っ子キーーーーック!」
某仮面なライダーの決め技の如く流れる彗星のように紫サイクロプスの肩を狙う。
そしてそのまま突き抜ける。
「どう? ってうわっ!」
突き抜けた直後、空飛の魔法が解けたのか、そのまま重力に従って地に落ちる。
落ちたところに影が刺す。頭上から何か紫色の物体が落ちてくる。
「げっ......」
蹴り抜いた紫サイクロプスの腕が落ちてきたのだ。
一瞬でそこを退き、紫サイクロプスの様子を見ると......全く痛がってなどいない紫サイクロプスの姿があった。それどころか、落ちた腕を拾い上げ自分の肩にくっつけたかと思うと、忽ち傷が修復され腕がくっ付いたのだった。
「嘘でしょ......」
「おぉ、アスカよ。魔神は魔法無効と急速自動回復が備わっておるぞ。伝えるの忘れていたわ」
丁度近くに来たパンデミアさんが情報を教えてくれた。教えてくれるならもっと早く教えて欲しかったんだけどね。
相変わらず大事なところが抜けているパンデミアさんだな。
「魔法無効に急速自動回復か......」
あれ? ちょっと待ってね。これ、詰んだんじゃない?
私、紫サイクロプスを倒せないじゃん。
私が守るよ。とか豪語した割には詰むの早すぎでしょこれ......
そんな事を考えていると、紫サイクロプスがラ・ビールの元へ近付く。
ラ・ビールはただ震えるだけで動けずにいる。
「そうだった。倒す倒せないじゃなくて......守るって約束したんだもんねっ」
紫サイクロプスのラ・ビールを狙って振り降ろされた拳を受け止める。
「あ、母さ......アスカ......」
「私が、守るからね」
倒す方法は守りながら考えればいい。そう結論を出し、防御に徹する事にした。
さて......この状況、どうやって乗り切るかな?




