45話 ヒーローは遅れてくるもの
いつの間にかPV数が17000を超えていました......嬉しすぎて歓喜の舞を踊りました。
ありがとうございます!
少し遅れました! すみません!
「今日もコカトリスは美味なのだ!」
「美味しいのです!」
「うん、美味い!」
時刻は夜。空には無数の星と大きく輝く月が地上を照らしている。この世界にも月があって良かった。まぁ、本当に月と同じなのかどうかは知らないけど。
私達はドライアドのライアさんと別れた後、のんびりと歩いてウィルガルムを目指していた。
夜になりご飯時と言う事もあって、パンデミアさんも一緒に食事をしている。
「うんうん、美味しいねー」
棒読みになってしまうのも仕方ない。
だって、この世界に来てからというもの、美味しいと思えた食事がコカトリスしかないんだもの! それをずっと食べていると言うのも飽きるのだ。
あ、アルテナ商会のおじさんの奥さんの手料理は普通に美味しかったな。
「アスカはもうお腹いっぱいなのですか?」
「たくさん食べないと倒れてしまうぞ?」
リサーナとレヴィが両手にコカトリスの肉を持って話す。レヴィはナイフやフォークを使うのがまどろっこしい様で、ほとんど手掴みで食べている。ザ・野生という感じでとても似合う。
幼女だからか、そこら辺は何も気にしないのだ。
リサーナもレヴィの食べ方に影響を受けたのか、マンガ肉のような部位を見つけてそれに齧り付くようにして食べている。一口が小さいので、ハムスターの食事シーンを見ているようでとても和むのだ。
本音を言うと、プレゼントした箸を少しでいいから使って欲しかった。
「ハッハッハ! そうだぞアスカよ。食べなければ生きていけぬぞ!」
パンデミアさんもすっかり馴染んでいる。こう見えても一応本物の魔王様なんだよね......
それに食事の仕方としてはパンデミアさんが一番綺麗なのが何処と無くムカつく。
コカトリスをムッシャムッシャと咀嚼しているパンデミアを見ていると、何か違和感に気付く。
「あれ? パンデミアさん、なんか魔力減った?」
「む? そんな事は無いぞ?」
初めて見た時の、何というか、こう、おどろおどろしい感じが無くなって、ほとんどレヴィと変わらない感じなのだ。
「まぁ、今の我は魔力を抑えておるからな。それにひきかえ、お主は常にダダ漏れだな。そんなんでは折角偽装した意味がなくなるではないか。すぐにバレてしまうぞ?」
「え? 嘘、マジで?」
「マジじゃ、マジじゃ。大マジじゃ」
リサーナとレヴィを見ても、パンデミアさんと同じように頷く。
「そんな......せっかく面倒事から逃げられると思ったのに......」
「そんな理由で我の全力魔法を片手間に相殺されたのか......」
なんかパンデミアさんも落ち込んでいるけど知らぬ。問題は溢れる魔力をどうやって止めるか、だね。
「どうすれば止まるかな。魔力操作?」
「そうだな。我のようにやってみるがいい!」
「いや、わからんて......」
パンデミアさんに聞いた私が馬鹿だったね。もうパンデミアさんは馬鹿扱いしても問題無さそう。
魔力操作に慣れていそうなレヴィに聞いてみる。
「魔力を抑える方法、か......こう、体から溢れる魔力を体内にギュッ! てする感じだな」
「ぎゅっ?」
「そう、ギュッ! だ」
うん。わかんない。
その時、遠方にて魔力感知が働く。かなり遠方だ。
これは......私の魔力障壁だ。その位置まで魔力感知が働くわけが無いから、特例の事象だね。
どうやらクラリスとローブの少女が戦っているみたい。あ、片方の魔力障壁が消えた。今のはクラリスの方かな? この感じだとローブの少女の方もすぐ消えるだろう。
それにしてもすっごい長い時間消えないで持つもんだ。マーキングはしていないので大まかな位置しかわからないが、恐らく無事だろう。クラリス、結構強かったしな。
「どうしたのですか?」
「ん? あぁ、なんでもないよ。魔力を抑えるのって難しいんだよね」
リサーナが私の一瞬の思考に問いかけてくる。
この一瞬の私の変化に気付くリサーナの察知能力の高さ......主に私にしか働かないけどさ。
「んー、こう? ギュってこんな感じかな?」
体内を循環する魔力を中心に抑え込むようにすると、若干だが溢れていた魔力が体内に戻ってくる気がする。
「なんと! 本当に出来るとは......! これ習得するのに我は数十年かかったぞ......」
「アスカ、本当に凄いぞ......溢れる魔力が少し減ったな」
お、出来てたみたい。良かった良かった。
「でも、減ったにしても感じる魔力量は全然多いですよ?」
「うむ、そうだな。抑えてこの量とは本当に訳の分からない存在だな」
「まだ多いの? どうしよう......」
「街に行けば封印用のアイテムとか買えると思いますよ! それでも......この量は抑えられないと思いますね......それこそ伝説級のアイテムとかじゃないと」
こんなに魔力溢れさせて街に入ったら、しかもウィルガルムって相当デカい街だと思うんだよね。絶対トラブルに巻き込まれるって......
「む? お主なら持っておるのではないか? 伝説級の封印アイテム」
「あー! その手があったか! そうだよね、あるよ。うん、多分あるよ」
アイテムボックスを開く。
無造作に手を突っ込み、アイテムを探す。アイテムボックスには私が転生した場所、死の草原とか言う鬼畜難易度のモンスターエンカウントのある草原のど真ん中。正直間違えて召喚したって言うレベルじゃない間違いをシュバルはしやがった。
まぁ、それはその後の対応に免じて許すことにしよう。
その時に手に入れた、もといその死の草原のモンスターからの贈り物が大量に入っているのだ。
封印用アイテムを頭の中で念じると、幾つかの候補が上がる。
「んー、これかなぁ?」
RPGで良くありそうな『封印の仮面V』と言う物を取り出す。
「わー! 仮面! かっこいい!」
「仮面ですか? アスカの顔が見れないのです......」
「伝説級ってレベルじゃない物を取り出すとは......最早神話級のアイテムだぞそれは......」
レヴィは仮面を見て興奮をし、リサーナは私の顔が見えなくなるというよく分からない点を指摘し、パンデミアさんに至っては深い溜息を吐かれた。
まさしく三者三様の反応だね。
「こんなので本当に魔力抑えられるのかな?」
「その仮面で無理ならばどんなアイテムでも無理だろうて......」
仮面は、目の部分だけがくり抜かれて出来ている。真っ白で何の特徴もない仮面なのだ。
それを適当に顔に付ける。
すると、
「これが神話級か......! ほとんど感じないな。神話級をもってしても微かに漏れる魔力とはな。いやはや、アスカは本当に面白いヤツよ!」
「う、うぅ、アスカが、アスカがぁ......! 早く魔力抑え込むのをマスターして仮面を取ってくださいぃ......」
「か、かっこいい......! アスカ、かっこいい!」
どうやら完璧に抑え込めることに成功したみたいだ。レヴィがとてつもなく目をキラキラさせているので今度普通の仮面をプレゼントしようかと思う。
リサーナは私に抱きついて無理矢理仮面を剥がそうとしている。
「すぐにマスターするよ。いつまでも仮面付けっぱなしなんて、私も嫌だからね」
「そうですそうです! 早くマスターしないと私と一緒に寝てもらいます! マスターできた御褒美にも私と一緒に寝ましょう!」
「あっ! ズルいぞリサーナ! 私もアスカと一緒に寝るぞ!」
リサーナ......転んでもタダでは起きないようになってきたぞ。
そんな約束しなくても、いつの間にか隣に寝ているのはなんなんだろうか。
因みに、私は寝なくても行動するには問題無いのだが、睡眠の気持ち良さはどんなに強くなっても変わらないので私もリサーナ達と同じ生活リズムを取っている。
仮面を付けてても声が篭らないのが不思議だ。食事になると結構困りそうだがその時はその時だ。
早く魔力を抑え込めるように常に練習しておこう。
「ふむ、神話級のアイテムの入っているアイテムボックス......いつか覗いてみたいのう」
この神話級とか言うランク付けは、結構常識のようだ。下から、一般級、貴族級、特異級、伝説級、神話級と、アイテムや武器等にランク分けされるそうだ。
基本的に一般級と貴族級が世に出回っているアイテムらしい。特異級以上の物は、迷宮の宝箱や王家に代々伝わる物等らしい。
この事をパンデミアさんに聞いたら、「やはり常識を知らなさすぎではないか? 学校で存分に学ぶと良いぞ! ハッハッハ! 頭脳の面では我の勝ちだな!」と言われた。ついカッとなって手加減せずにデコピンをしてやったら額を押さえてゴロゴロ転げ回っていたのでスカッとした。
「あ、そう言えば。パンデミアさんはなんで学校があるって事知ってるの? ずっと封印の神殿にいたんでしょ?」
「そ、その事か? なんでって、我が活動していた頃からあるからだぞ?」
額を押さえて、やりやがったなコイツと言う目で睨んでいるが、当の私は何処吹く風だ。
それにしても三百年前の常識を堂々と言ってくれるね。無くなっていたらどうしてやろうか。
「私も、ウィルガルムには学校が一番の目的でしたよ」
「あ、そうなの?」
思わぬ所から助け舟が来たね。ちっ、パンデミアさん、命拾いしたな。パンデミアさんは食後の紅茶を寛ぎながら嗜んでいた。
「ウィルガルムには神聖帝都と呼ばれるだけあって、ガルム神を信仰するガルム教と言うのがあるのです。それを学びたいなって思って......」
宗教か。私の前世日本は多神教だったし、私は信仰心とか欠片も無かったしなぁ。無神論者では無いね。だって神様が、シュバルに会ったし。
と、そんな話をしていたら、
「ふぁ〜......」
可愛い欠伸だ。幼女レヴィはご飯を食べた後だとすぐ眠くなるそう。
「もう夜も遅いもんね。そろそろ寝ようか」
「あ〜い!」
「はい! ふぁ......」
「ハッハッハ! 我も就寝するとしようぞ! 昔は睡眠など取っていなかったが、それは今は昔。睡眠の気持ち良さに勝るものなど無いのだ〜!」
パンデミアさんは自ら異界に飛び込んでいった。なんかもう......ヒモ魔王とでも呼ぼうかしら。絶賛ニート中だな。ほとんど引き篭もりだし。
「アスカ、おやすみなさいです」
「おやひゅみ......むにぃ......」
「リサーナ、レヴィ、おやすみなさい」
レヴィは挨拶の前に寝落ちたようだ。三枚の毛布を取り出し、寝る体勢に入る。
そしてリサーナとレヴィが寝息を立てたのを確認して私も寝ようとしたその時、三度目の魔力感知が働く。実は仮面を探す時にも魔力障壁が消えるのを感じていた。
しかし、今度は私の魔力感知の範囲ギリギリだが感じる。それも、片方は既に死にかけ、片方は極大魔法の様子。
「はい、パンデミアさん。起きて」
「ぬぅっ! 何をするか! む? この気配。こちらまで被害が飛んできそうだな」
異界を開きパンデミアさんを引っ張り出す。怒っていたが、すぐに異変に気付いたようだ。
「ちょっと見てくるよ。だから、二人を頼むね」
「あいわかった。せっかくの仮面を傷付けるでないぞ」
「ありがとう。行ってきます」
リサーナとレヴィの気持ち良さそうな寝顔を見てから、音も立てずに駆け出す。
遠目にだが見えた。一人の悪魔と小さな少女だ。少女の方は、魔力がほとんど底を突いている。後は魔法で消えるだけだろう。見捨てるのもいいけど、一応顔見知りだから助けようかな。ローブの少女ちゃんだし。
元ローブの少女ちゃんか。ローブはもう着てないからね。
あっという間に二人の間に到着する。
まずは目の前の極大魔法を同じ極大魔法を発動させて相殺する。衝撃を漏らさないように簡易結界で衝撃を抑え込む。
あ、この感じで魔力も抑えたらいいんじゃないかな? 後で試してみよっと。
そして驚いて見ている元ローブの少女ちゃんに回復魔法を施す。
「完治っと」
三回目ともなればイメージを構築するのも一瞬だ。元ローブの少女ちゃんの傷が塞がっていく。欠損部位等は治らないが、これで放置してたら死ぬと言う事態には陥らないだろう。
それにしても、左腕と右目を失い、横腹を抉られた状態で良く生きているものだ。普通なら死んでるよねこれ。後でどんなスキルかちょっと確認させてもらおう。
とりあえず反応があるか確認しよう。
「大丈夫? 元ローブの少女ちゃん。ローブの下は可愛い顔してるじゃん。隠すなんて勿体ないよ」
なんかチャラい人みたい。ナンパの誘い文句だよねこれ。でも、ローブの下の顔はリサーナやレヴィにも負けないくらい可愛らしい顔をしている。
碧色の肩まで伸びる髪に、左目の星のように光を放つ金色の瞳。
声をかけると、我に戻ったのか目から涙を、鼻からは鼻水を垂らしながら私に飛びかかってきた。
「魔王っ! ま、魔王、ぐすっ、まお〜!」
「わっ、ちょ、急に動くと危ないよ?」
左腕の無い状態で器用に抱きついてくる。だが、今聞き逃せない単語が三回聞こえたぞ?
んん? 魔王? 私が魔王だと?
そんな事言った覚えは......あるな。リサーナを誘拐(笑)しようとした時に出任せに言ったのだ。
即ち、この子はあの場にいた人物か......
誰だ? ほとんどの人は私の魔法で幻覚見せたし、あの場で動けたのは、名前も忘れた私と同じ転生者の人と、七人の強そうな人達だな。
多分七人の中だろう。よく喋るオッサンでは無いから、女の子女の子ね......うーん? あの中に女性は二人しかいなかった記憶がある。
片方は......よく思い出せないけど凄く殴りたいヤツだ。だから、この子はもう片方の子だね。
「うっ、ぐすっ、ひぐっ......ごわがっだ!」
「うんうん、頑張った頑張った」
こうなるまでの経緯はよく分からないけど、今の状態を見れば頑張った事ぐらいはわかる。
この子の正体の前にまずは泣き止ませて話を聞かないとだね。
「ちょ、ちょっとアンタ何者よ!? 急に出てきたと思ったら......ふざけないでちょうだい! 私の魔法をどうしたの! 答えなさいよ!」
あ、元ローブの少女ちゃんに気を取られて悪魔の方を忘れていた。
とりあえず、この場の収束をしないと......今夜は寝れるかなぁ? 絶対パンデミアさんあそこで寝てるよね。とりあえず寝てたら叩き起してやる。
私は、あの場でしっかりと起きて見張りをしているパンデミアさんに、無い恨みを持って悪魔ちゃんの相手をする事にした。




