44話 鬼ごっこ終結
この前ユニーク2500突破したと泣いていたのに気付いたら3500手前に......!
本当に嬉しいです! 評価&ブクマもありがとうございます!
オルトロスが乱入してきた事によって、半日ほど時間が取れて隠れていたのだが、それも束の間。すぐに見つかってしまった。
私は逃げる。一心不乱に、ただひたすらに逃げる。
「逃がさないよっ!」
後方から放たれる攻撃を魔力感知で把握し、避ける。
魔力感知で対処できると言うことは、ラ・ビールの放つ攻撃は魔法の一種だ。その攻撃の当たった地面は切り裂かれたように抉れる。
「ちっ! いい加減諦めろよ!」
今までの余裕を見せていた表情は既に消え、鬼気迫る表情で私を追いかける。
林の中を私とラ・ビールが駆け回る。いや、駆け回るなんて生易しいものではなく、木々を避けつつ全速力で逃げる私に対して、ラ・ビールは悪魔特有の翼を使い滑空するように、木々を縫うように飛翔し私の後を追っている。
先程のように、攻撃を織り交ぜながら追いかけてくるのだから一瞬の油断が命取りになる。もちろん、そんな油断などしないのだが。
オルトロスの乱入によりあの場から逃走する事に成功した私は、既に半日以上林の中を逃げ続けている。
陽が昇っているお陰で、ラ・ビールは全力を出すことが出来ずにいる。それでも、力を抑えられた状態で私と同じ速度なのだ。夜になったら捕まるのは目に見えている。
「夜になる前に決着を付けてやる! はぁっ!」
再び私に迫る魔力の衝撃波。右に迫るのを感じ、左へ避ける。次々と放たれる攻撃を右に、左にと躱しながらも逃げ続ける。
「......?」
しかし、避けている時に何か違和感を感じた。確かに、ラ・ビールの放つ攻撃は当たれば怪我をするだろう。そう、怪我をするだけなのだ。先程の言葉以前の攻撃には当たれば致命傷は免れないほどの威力があった。だが、今までの一撃一撃は怯む程度の威力だ。
ラ・ビールも魔力切れなのか......? そんな考えが浮かんだ時、前方に人影が見えた。
「アッハハハハ! まんまと釣られたな! 殺れ、人形」
操られたクラリスが私の道を塞ぐように立っている。その目は今まで通り意思のない色をしている。
「くっ......」
攻撃をわざと避けさせ、誘導されている事に気付いたが既に遅かったと言うわけだ。しかし、ほとんど魔力の切れているクラリス相手ならば余裕で抜くことが出来る。
現にクラリスはほとんど動けない状態なのだ。 その横を抜けようと行動を取った瞬間、ラ・ビールからの攻撃が飛んでくる。誘導させる時とは違い、確実に殺しに来ている威力だ。即座に回避行動へ移ろうとした時、クラリスが私の腕を捕まえる。
捕まえられた反動でなんとかラ・ビールの攻撃を避ける事が出来た。しかし、余波までも躱す事が出来ず、右足を薄く切り裂かれてしまった。逃げることに支障は無いが、クラリスの腕を振り解けずにいる。
「終わりだよっ!」
ラ・ビールはいつの間にか追いついて、クラリスの背後、クラリスを挟んで私の反対側に現れる。その手は貫手の形を取って、魔力を纏っている。
まさか! クラリスごと殺すつもりなのか!?
「まだ、なのっ!」
逃げる事に注いでいた力を腕に集中させ、無理矢理解こうと試みるが、全く解けない。
「アッハハ! 共に逝け!」
「むぅっ......!」
クラリスの胸から生える腕、飛び散る鮮血。そして私は横腹を抉り取られた。
「ちぇっ、外れたか。もう鬼ごっこもお終い。後は私が直々に殺してやるよ」
クラリスの胸から腕を引き抜くラ・ビール。
クラリスが死んだのがわかる。力なくその場に倒れ、腕が離れたからだ。結局、最後まで元に戻ることは無かった。
私は私で横腹からの出血が止まらない。痛い、熱い、苦しい。
地獄の様に長かった鬼ごっこも終わった。既に陽は沈んでいる。この状況ではラ・ビールから逃げる事など不可能だ。
「散々してくれたもんだね。私をここまで怒らせたのは貴女が初めて。だから、名乗ってあげる。私の名前はラ・ビール。大魔王サタンの娘にして悪魔令嬢。そして、大魔王を殺す者よ。貴女は良くやった方よ。でもね、私から逃げる事なんて不可能なんだもの」
段々と余裕が戻ってきたのか、口元が緩んできているのがわかる。
逃げる事が不可能? 笑わせてくれる。不可能なんて無い。私は元から限りなくゼロに近い可能性を求めて逃げていたんだ。限りなくゼロに近い。それ即ちゼロではないのだから。
でも、その望みも叶うことは難しそうだ。死ぬのは怖い。まだやりたい事だってたくさんある。
魔王とお話がしてみたいし、魔王とご飯を食べてみたい。魔王と戦ってみたい。魔王と、魔王と......魔王......
「そろそろ心が折れるかな? アハ、私ね残酷な死を迎えるのが最高のフィナーレだと思うの。だから、父様の前に貴女を無様に、滑稽に、見るも無残な姿にして殺してやる!」
「......るさい」
「ん? なんだって? 聞こえないよ?」
「......うるさいって言ってるの。少しは黙れないの? 私はまだ、諦めてないんだから。勝手に終わらせないでくれる?」
不可能だからって最後まで足掻いちゃいけないなんて、誰も決めていない。可能性が限りなくゼロに近くても行動を起こしちゃいけないなんて、誰も決めていない。
だから、私は最後まで足掻く。
胸に風穴を開けられ、静かに目を閉じるクラリスを見る。こんな所で諦めたら、魔王にも、クラリスにだって笑われる。だから、私は諦めない。
「はっ、図に乗るなよ? そんな傷だらけでこれ以上私から逃げられるとでも思っているの?」
横腹の出血は依然、止まらない。折られた肋骨もまだ痛む。足からも血が出ている。
だからなんだと言うのだ。
「......殺せるものなら、殺してみて」
「あぁ......あぁ、そうかい......なら、ならお望み通りぶっ殺してやる。目ん玉打ち抜いてやるよ!」
最後まで泥臭く足掻いて、華々しく散ろう。
そう決意し、最後になるであろう逃走劇が始まる。
後ろ方向へ地を踏みしめ、駆ける。一歩踏み出す度に横腹から血が吹き出し、全身に尋常ではないほどの痛みが走る。それでも、私は止まらない。最後の一撃をラ・ビールに食らわせるまでは......
「死ね、死ね、死ね、死ねえええええ!」
無造作に放たれる攻撃。それら全てをギリギリで躱す。しかし、避ける度に余波で体に傷が付く。
このままでは次の朝が来る前に力尽きるだろう。と、更に一歩踏みしめた時、私の体が前に吹き飛んだ。
「げほっ、がはっ」
衝撃で吐血してしまったが、なんとか体制を整え振り向くと、蹴りを入れた姿で立っているラ・ビールの姿があった。
一瞬で追いつき蹴りを入れる。普段の私なら余裕で躱せた筈だ。だが、今の一撃でほとんどの体力を持っていかれた。立ち上がるのも辛いのだ。
「アッハハハハ! これで、終わりだよ!」
そう言って腕を振るラ・ビール。今までの衝撃波は魔力を爪に纏わせ、それを衝撃波として飛ばしていたようだ。それが私に迫る。食らえば体は真っ二つになるだろう。
「ぐっ、うぅぅ!」
死力を尽くし、体を動かす。自分の体では無いかのように重い。迫る衝撃波を避けようと体を動かすが、少し動かすので精一杯なのだ。動く度に横腹が悲鳴をあげる。そして、衝撃波が私を襲った。
「アッハハハハ!! やっと終わったね! 手こずらせやがってだよもう。オルトロスの方、は......?」
「がぁっ、うっ、ああぁ!」
私を殺した事を確認するまでもなく立ち去ろうとしたラ・ビールだが、私の苦痛による喘ぎが聞こえたのか踵を返し近づいてくる。
「まさか、ここまでしぶといとはね......あ、そうだ。約束通り、目ん玉くり抜いてやるよ。その気に食わない目をねぇ!」
左腕を吹き飛ばされた私は、歯を食いしばる。それを見たラ・ビールは忌々しげに私の目を覗き込み、私の右目にそっと爪を這わせる。
「アハハ! 抵抗出来ないだろう? そぉれ、アハ、アハハ、楽しいねぇこれ!」
「ぐぅぅっ!」
くり抜いた目玉を手で弄ぶ。
もういっそのこと死んでしまった方が楽なのかと考えられるくらいの地獄だ。
だが、死ぬのはまだ、ラ・ビールに一撃すらも与えてないのだから。右目を失った場所から血が大量に流れ落ちる。
このままでは放っておいても私は死んでしまうだろう。
と、ラ・ビールはもう片方の目、左目を奪おうと近付いてきた。反撃するならば......今しかない!
「あああああぁぁぁっ!!」
「なっ!? ぐっ、離せぇ!」
完全に勝利の愉悦に浸り油断して近付いてきたラ・ビールの、悪魔特有の捻じれている角へ噛み付いたのだ。それをそのまま噛み砕く。
「......ふっ、ざ、ざまぁない......」
「あ、ああ、ああぁ......よくも、よくも私の角をぉぉ......! 死ねぇぇ!」
角の片方を噛み砕かれたラ・ビールは怒りのままに私に拳を叩きつけた。
その衝撃は既に折れていた肋骨を粉々にする勢いで。
「―――っ!」
声にならない叫びをあげ、左腕があった場所と横腹、そして右目のあった場所から更に血が溢れる。
まだ生きているのが不思議なくらいの出血量だ。
「これで、終わりだ......死ね、死ね、死ねぇ! 愚かなクズに、破壊と破滅を齎せ! 暗黒魔神槍!」
ラ・ビールの前に巨大な魔法陣が現れる。そこから、邪悪な魔力が溢れ出る。これは......極大魔法よりも危険だと魔力感知が反応している。
「本当は父様を殺すために使うつもりだったんだけどね......特別だよ。死よりも深い恐怖を味わえ!」
魔力の消耗による低位活動状態に入ったラ・ビールは、肩で息をしながらも地に足を付けて私の止めを確認するするようだ。
「食らえぇ!」
魔法陣から、この世の全ての闇を集めたようなものが射出される。私はこのまま消えるのだろう。
ゆっくりと感じる世界で、走馬灯のように思いが駆け巡る。しかし、それは先日出会った魔王と言う存在の事ばかり。
「......また、会いたかったなぁ」
涙の代わりに血を流してそう呟く。そして、私は闇に全てを飲み込まれた。
――はずだった。
だって、今私の目の前にいるのは、謎の仮面を付けた何処かで見た事のある人物。しかし、感じる魔力はほとんどゼロに近い。
だが、ほんの少し感じる魔力。それは、ラ・ビールから逃げ延びる時に度々感じたあの魔力。魔法障壁、異界を破壊するほどの魔力、それらと同じ魔力を目の前に立つ人物から感じる。
その人物は迫る魔法に片手を翳す。
すると、その魔法は元々無かったかのように消え去る。
「完治っと」
振り向いて回復魔法をかけてくれる。無くなった部位や血液は再生出来ないが、傷がみるみるうちに治っていく。止血もされ、このまま気絶出来そうなくらいまでに回復する。
「大丈夫? 元ローブの少女ちゃん。ローブの下は可愛い顔してるじゃん。隠すなんて勿体ないよ」
極大魔法よりも強力な魔法を簡単に打ち消す事も、無詠唱で高等回復魔法を発動させる事が出来る人なんて、私は一人しか知らない。私は、賭けに勝ったのだ。
「魔王っ! ま、魔王、ぐすっ、まお〜!」
「わっ、ちょ、急に動くと危ないよ?」
私は先程まで出なかった涙と鼻水で、血塗れだった顔よりもさらにぐちゃぐちゃにして魔王に抱きついた。左腕が無い状態だと抱きつきにくいが、そんな事は些細な事。今は生きている事と魔王が来た事をただひたすらに喜ぶのが最優先なのだ。
そう、私の目の前に現れた人こそが、私が敬愛する魔王様なのだから。




