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最強魔女さんの混沌とした日常  作者: クリオネ
第二章
47/108

43話 鬼ごっこは死を招く

15000PVいつの間にか達成してました!本当に感謝感激雨霰です!


ブクマと評価も少しずつ増えていって......本当に嬉しくて鼻血が止まりません。


次話にはアスカ達出てこれそうです!


「......逃がしては、くれない?」

「私達を私を倒せたらいいのよ?」


 目の前にはクラリスを連れたラ・ビール。そして、後ろにはジャグウェルと呼ばれたラ・ビールに並ぶ強さの持ち主の悪魔と、大量の他の悪魔達。

 逃げ道は完全に無くなった。


「そうだ。勝ち抜き戦にしようよ! じゃあ、まずはお前な」

「了解だ」

「殺すなよ〜」

「それは、難しいな」


 なんか、勝手に勝ち抜き戦になった。そもそも私の場合は負けたら終わりだから一方的な勝ち抜き戦なのだが。しかし、纏めて相手することになったら手も足も出なかったからこれはこれで良かったのだろうか。

 ラ・ビールが指名したのは、いかにも屈強そうな悪魔。恐らく力技でねじ伏せるタイプだろう。

 私は空間収納から一本の槍を取り出す。私の得意武器だ。そしてその相棒。


 槍だけに、相棒......。


 名前は紫電の槍。その名の通り電撃を纏う槍だ。水魔法と合わせて使いやすいのだ。


「空間収納まで使えるの? もっと欲しくなっちゃった」


 私の空間収納を見てラ・ビールがそう言った。空中に浮いて完全に観戦モードに入っている。


「よそ見か? 舐められたものだな。確かにスピードはお前の方が上だったがパワーではどうだろうな」

「......来て」


 せめて時間を稼いでウィルガルムの軍が異変に気付いてくれるのを待つしかない、か。どれだけの時間をこの嫌になるほどの悪魔達に囲まれて過ごすのか......気を抜いたら殺される。

 そして、恐らく私の体力は長く持って一日と半日だろう。それを超えたら、死が待っている。


「ふんっ!」


 考えた結果、この一人目を倒さずに時間稼ぎに全て当てる。

 鋭い拳の一撃。考え事をしていたせいか、紙一重で躱す。

 その一撃だけで土が舞い上がる。


「避けるか。ならばこれで!」


 殴った後の体勢のまま、蹴りを放つ。

それを槍で受け流すように止める。

 やはり、ラ・ビールやジャグウェル程の悪魔はあの二人以外いないようだ。


「ラ・ビール様がお認めになっただけはある。ならばこちらも本気で行かせてもらうぞ。死ぬなよ? ラ・ビール様に怒られるのは嫌だからな」


 そう言うとその悪魔は姿を消した。


「後ろだっ!」

「っ!」


 背後から突然の衝撃。そのまま私は地を転がり、なんとか受身を取り立ち上がる。

 そこに佇むのは先ほどのように私と同程度の強さを持つ悪魔などではなく、全てを破壊し尽くすほどの力を持った悪魔がいた。

 このままでは本当に殺されかねない。今の一撃だけでかなりのダメージを貰ってしまったし、ローブが外れて顔を見られてしまった。


「へぇ、可愛いね。ますます人形にしたくなる!」


 ラ・ビールの声に少しイラッとしてしまった。普段なら私はそんなに感情に任せて行動するなんて事、しないのだけれど、緊張のせいでつい、口に出してしまった。


「......私は、魔王のもの。貴女なんかには負けない」

「魔王だと? 魔王、魔王ね......そうやって、みんな、父様、父様って......」


 父様? どうやら地雷を踏んでしまったようだ。他の悪魔も何だか焦っている。ジャグウェルだけは平然と呆れているようだが。

 まぁ、私は魔王と面と向かって話した事も無いんだけどね。予定だ。


「もう怒った。父様の手の者なら殺す。あんなの要らない。死ね、死ね、死ね! 人形(クラリス)! アイツを殺すよ!」


 これは、かなり不味い状況になってしまったか......? 既に陽は落ち、辺りは夜になっている。逃げる事でいっぱいでいつの間にか時間が経っていたようだ。

 しかし、夜になると悪魔の力は増幅する。クラリスは悪魔によって操られているから、夜になると更に強くなるだろう。逃げる時に使った幻視(ビジョン)はもう効果無いと思う。

 そして、クラリスが意思のない瞳で私を殺そうと襲いかかってくる。


「くっ、目を、覚まして......!」

「アハハハ! 私の人形使い(パペットマスター)のスキルは操られた者の意思を奪うスキル! どうやったってもうそいつは私の人形なのさ!」


 なるほど、人形使い(パペットマスター)と言うスキルなのか。初めて聞くスキルだ。こんな簡単にスキルを晒すと言うことは奥の手があるという事か? 恐らくあるのだろう。そして、私は人形使い(パペットマスター)を突破することは出来ない。つまり、私にはラ・ビールに勝ち目は無いという事だ。


 とでもラ・ビールは思っているのだろうか。別に、私はクラリスを殺す事に躊躇することはない。ただの馬車の従者と客。それだけの関係なのだから。

 殺さないのは、魔王が親身に接していたから。だが、私はこんな所で死ねないのだ。だから、最悪の場合はクラリスを殺してでも生き延びる。


「獣人は良いね。体も軽いし力も強い。便利な道具だよ、これ」


 クラリスと撃ち合いをしている時、ラ・ビールがそう挑発してくる。私は、獣人に対して思うことなどない。

 この世界では亜人、主に獣人は奴隷として扱われている。高い金を払って買えば、虐待も、強姦も何しても許されるのだ。それが、この世での獣人の身分。立ち位置なのだから。

 そんな相手を殺す事など、容易い事だ。

 獣人の攻撃を受け流し、出来た一瞬の隙を付く。

 雷を纏わせた槍の一撃を食らわせる。これで獣人など焼け焦げ、貫かれ死ぬだろう。


「......ごめんなさい」

「っ!」


 謝罪をし、槍を振り抜く。しかし、攻撃が直撃する瞬間、鈍い音が鳴り響いた。攻撃の余波により、土埃が巻き上がり結果は埃が晴れるまで分からなかった。


「アハハハ! すごいね、でも、人形(クラリス)の方が一枚上手だったみたいだよ」


 土埃が晴れ、そこに立っていたのは無傷の獣人。そして獣人の前に段々と薄れ消えていく魔法障壁が見えた。


「......魔王」

「ん? 何て? もしかしてもう勝てなさそう? アハハハ! 私もね、まさか獣人如きが魔法障壁張れるなんて驚いちゃったよ! 魔法が使えないはずなのにね」


 あれは獣人が使ったのではない。元々張ってあった、魔王の施しなのだ。魔法障壁が消えていくのを感じる。同時に、冷水を頭からかけられたように頭が冷静になる。


 私の目的はクラリスを殺す事でもラ・ビールを殺す事でもない。生きて逃げ延びる事だ。

 だから、隙を見て逃げる。これに徹しよう。

 ......しかし、クラリスと戦いながら大量の悪魔達の目を掻い潜り逃げるとなると何かしらのハプニングが起きてくれなければ逃げられない。


「飽きた。もう終わりにしよう」


 気まぐれで勝ち抜き戦などを始めるような相手だから、飽きられたら危ないと思っていたが予想以上に飽きっぽい相手だった。

 ラ・ビールを相手に時間稼ぎが出来るか。否、出来ない。ラ・ビールが出てきた時点で私の負けは決まるのだ。後はジャグウェルと呼ばれる相手も不味い。

 と考えていた所、ラ・ビールは動こうとはせずにクラリスに送る魔力の量が増える。

 なるほど、最後までクラリスで私を仕留めるつもりなのか。


「どう? これから仲間に殺される気分は! アハハハ! 愉快爽快! 父様の手の者など死ね!」


 先程から聞こえる父様って誰のことだろうか? 悪魔令嬢(デビルレディー)を娘に持つほどの実力の持ち主......現魔王? まぁ、気にしても意味無いか。今は逃げる事だけを考えよう。

 クラリスが再び身体強化を施す。これだけ連続で使用していればかなりの負担がかかっているはずだ。いくら獣人だとしてもこれ以上の使用は体が崩壊してしまうだろう。

 私は防御の姿勢をとって待ち構えようとした瞬間、クラリスの拳が目の前に迫る。


「くっ!」


 今までとは桁違いのスピードと火力。なんとか受け流す事に成功したが、一撃が重すぎて槍が悲鳴を上げている。まともに防御したら持っていかれる。

 流れる汗が目に落ち、視界に邪魔が入る。拭おうとした瞬間、もちろんクラリスがそんな隙を見逃さないはずはなく、初撃並の威力を伴う一撃が私の腹を抉る。


「ぐぅっ! がはっ!」

「アハハハ! そこだ、殺せぇ!」


 殴られた勢いのまま後ろへ転がされる。槍も手放してしまい、手ぶらの状態だ。そして今の攻撃で肋骨が数本折れている。内臓に刺さって無さそうだが、このままでは次の攻撃を躱す事は不可能だと思う。

 クラリスは悠々とこちらへ歩みを進めている。勝者の余裕と言うやつか。最後まで虚ろな目に光が宿ることは無かった。


 万事休すか......


「このまま殺すのも面白くないよね。嬲ろう。悪魔らしく、死ぬ方が幸せな嬲り方をしてやろう!」


 肋を抑え立ち上がる私を見てラ・ビールが満面の笑みでそう言い放つ。


「やれ」


 その一言でクラリスが私を殺さない程度まで手加減をして殴る。身体強化の影響で、指の先端部分は既に血塗れだ。そして、筋肉も千切れる寸前と言ったところか......


「うっ、くっ、あぁ! がっ、ぐぅ......」


 何度も、何度も殴られ、蹴られては立ち上がる。

嬲るなんて私にとってはいい時間稼ぎだ。既に私の魔力はあと一回の治療魔法だけ。それをどのタイミングで使うか......


「なんだよ、なんなんだよその目は!」


 目? なんか急にラ・ビールが怒りだした。

 とりあえず時間稼ぎのため、なんとか応えよう。まだ喋るくらいなら出来る。


「......まだ、諦めて、がはっ! 無いだけ。まだ、ね」

「あぁ、なるほど。時間稼ぎか何かしてるつもりなのかい? でもねぇ、アハハ! ここは、私が作った異界(アナザーワールド)なの! だからいくら待とうとも助けなんか来ないってぇの! アハハハ!!」

「っ!?」


 なるほど、だから悪魔達は人目も憚らずに殺戮が出来たという事か。あの最初に感じた膨大な魔力の正体はラ・ビールの使った空間魔法だったのね......

 つまり、私は最初から詰んでいたってわけか。


 そう、だよね。来るかもわからない救援を待って、無様に足掻くなんて、滑稽でしかなかったわけだ。

 魔王とお話がしたかった。感謝も伝えたかった。もう一度だけ、会いたかったなぁ......

 でも、もう、生き残る道は無いんだから。

 そう思うとつい、感情が爆発してしまった。


「や......」

「ん? や?」

「やだよぉ......ぐすっ。死にたく、無いよぉ......」

「アハ! アハハハ! そう、そうだよ! 最期はみっともなく泣き喚け! そして命乞いをしろ! 殺すけどね! アーッハハハ! 殺れ、人形(クラリス)。仲間に殺されるなんてね、無様! 情けないヤツだ!」


 涙が溢れて止まらない。これが、死の恐怖なのか。クラリスが迫っているのに体は全く動かない。あぁ、私は、もう死ぬのか......

 もう目の前に来た。振りかぶって一発。防御も取れない私はそれだけで体力が尽きるだろう。

 恐怖で目を瞑ってしまった。しかし、いつになっても死は私を連れていかない。衝撃が来ない。

 そう思って目を開くと、魔法障壁を破ろうと何度も殴りつけるクラリスの姿。


「な、な、なんだその魔法障壁は!? 命乞いをする、フリ? 舐めた真似を......しかし、その魔法障壁も直に消える! 今度こそがお前のおしまいだ!」


 ラ・ビールも魔法障壁を見て驚愕している。もちろん、当の本人、私も驚いている。


「......これ、は?」


 クラリスを守った魔法障壁と同じモノ。つまり、魔王の魔法障壁! 恐らく、命の危機を感知すると自動で発動されるタイプなのだろう。高性能すぎる。

 魔法障壁が消える時に感じる魔力。他の誰でもない、あの魔王のものだ。先程まで死の淵に立たされていたのを、魔王に引き戻されるのを感じる。そうだ、こんな所で諦められるわけがない。諦めていいわけがない。私は......まだ死ねないっ!


 最後に残った魔力を使い、体の深い傷を治療する。

 治療が終わると同時にクラリスが魔法障壁を破り、その勢いのまま私に止めを刺そうと迫る。

 魔王のおかげで冷静になった頭で確実に攻撃を躱す。


「なん......なんなんだよ! なんで、なんで父様は邪魔をする。いつも、いつもいつもいつもいつもいつも! 絶対に、こいつは殺す!」


 よく分からないけどラ・ビールが狂乱状態に陥った。


「これで止めを刺す。人形(クラリス)! 足止めをしていろ。お前もろとも壊してやる」


 そう言ってラ・ビールは魔法の構築に取り掛かる。複雑な詠唱だ。本気で殺す気なのだろう。

 クラリスの攻撃が更に過密になり、私を逃がそうとはしない。


 しかし、次の瞬間。世界が割れた。


 異界(アナザーワールド)をも崩壊させる魔力の流れが襲ってきたのだ。


「な、な、な......!? ジャグウェル! どうなっている!?」

「わかりません! しかし、しかしこれは! 魔王様並のお力です! 数は二つ! メルガス大森林の方向です! 極大魔法のぶつかり合いかと!」

「なんだと!? 私の異界(アナザーワールド)を余波だけで打ち破る程だぞ!? 父様なのか!?」

「いえ! これは他の魔王様のモノだと思われます! 異界(アナザーワールド)が解けてしまった以上、我々も不味いかと! 既に陽は昇り始めております!」


 魔力の尋常ならざる波に飲まれ、体調を崩す悪魔達。

 そして私は気付く。この二つのうちの片方、私の、命の恩人。魔王のものだ、と。


 異界(アナザーワールド)では、能力により常に夜になっていたようだ。先程まで常に月が真上にあったのに今はもう陽が昇り始めている。


「くっ......動ける者は動けない者達を村へ戻せ!」

「ラ・ビール様はどうなさるおつもりで?」

「父様の手の者は必ず殺すと言っただろう? だから、必ず殺す」


 魔力の激しい波に攫われ、クラリスの人形化は一時的だとは思うが解け、クラリスは無理をしすぎた体で目を覚ます。


「も、申し訳、ございません......私が、不甲斐ないばかりに......」

「......気にするな」


 喋るだけで体に激痛が走る事だろう。それくらい、クラリスの体はボロボロなのだから。目と鼻から血を流し、呼吸もほとんど出来ていない。いつ死んでもおかしくないのだ。

 そこへ、ラ・ビールが舞い降りる。


「ふん、人形(クラリス)はもうダメか。使えないな。まあ良い。動かなくなろうとも、私が無理矢理動かせばいいだけだからな。来い、クラリス・ラクーニア」

「お逃げ、下さっ」


 再び糸の切れた人形と化すクラリス。

 これ以上戦ったら本当にクラリスは死んでしまう。しかし、疑問が浮かぶ。何故ラ・ビールは自分で攻めてこないのだろうか? 既にほとんど動けないクラリスを使って私を殺そうとするのは何故か。

 そんな事を考えていると、遠くから地響きが聞こえる。犬のような鳴き声だが、どこか荒々しい。この世のものとは思えない鳴き声。


「オルトロスか......勝手に召喚しちゃって......」


 双頭の犬、オルトロス。村を蹂躙した後、追いかけてきたのだろう。しかし、あの程度の速さならばなんとか逃げれそうだが、スタミナの問題で追いつかれるだろう。

 しかし、そんな心配は一瞬で消えた。

 オルトロスはラ・ビールへ向かって攻撃をしたのだから。


「クソがっ! 手綱も握れてないのに召喚したのか!? ジャグウェル! 殺るぞ!」

「御意に」


 ラ・ビール&ジャグウェルVSオルトロスの対決が始まったのだ。私はあっという間に蚊帳の外。

 そう、つまり、私のやる事は一つ。私は全速力で反対方向へ駆け出す。逃げる事ただ一つ!


「次から次へと......ジャグウェル、ここは任せるぞ」

「これはこれは手厳しい。ですが、任されました」


 やはり、ジャグウェルに任せてラ・ビールが突っ込んでくると思った。出来る限り時間を稼ぐ。異界(アナザーワールド)の解けた現状、私が頼るのはあの人だけ。


 敬愛する魔王。


 ただひたすらに私は逃げるのだ。

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