40話 ドライアドのライアさん
刺激的なシーンがあります。苦手な方はご注意ください。
「リサーナ......やらかしたのね......」
「し、知らなかったんですよ〜!」
リサーナから私と離れた後の里でのやり取りなどを教えてもらった。リサーナが何かしらやらかすと思って喋らないようにって忠告したんだけど、喋らなくてもやらかすとはね......リサーナ、本当に侮れない子っ。
「さ、さあ!」
リサーナが何かを期待するように待機している。
頭を撫でて欲しいのだろう。頑張ったからね、ご褒美だね。
「まぁ、被害が無いのならそれでいいよ。よく頑張ったね」
「え、えへへ、えへへへ〜」
くぅっ! 反応が一々可愛すぎるっ!
「ところで、レヴィはどうしてそんなに縮こまっているの?」
「は、はひぃ!」
少し離れた場所で跪くようにしていたレヴィに声をかける。私が声をかけると体がビクッと跳ね上がる。
なんか、私が怖いみたいな反応されると少し傷付くんだけど......。
「わ、わた、私は......その......」
「レヴィは私の正体を知ってからずっとこうなのです。別に、今まで通りでいいって、何度も言っているんですけどね」
「そ、そんな恐れ多い......!」
なーるほど。幼女なレヴィが私とリサーナを見て、恐怖か緊張かわからないが、体を震わせていると私達が悪者みたいですごく罪悪感が湧いてくる。
まあ、黙っていたのも悪いとは思うけど、聞いてこなかったのもレヴィだもんね。
よし、私達は悪くない! 別に、何も悪いことしてないからね!!
「それじゃあ、私からのお願いを一つ聞いてくれる?」
「な、なんなりとお申し付け下さい!」
前のレヴィを知っているだけに、かなりの違和感を覚えるな。それも幼女だし。私が苛めているみたい。
「これまでと同じように接する事。これだけ」
「わ、わかりまし......わかった」
「ふふ、アスカが幼女を苛めているみたいでしたよ」
「うるさい」
やっと元の口調に戻ってくれた。こうじゃないとレヴィがレヴィだと思えないのだ。
しかし、まだ何か悩んでいるようで、いつもの元気なレヴィとはかけ離れている。ちゃんと解決出来るといいのだけれど。
さて、次の問題は......
「ねぇ、そろそろいいかしら?」
私が結界を破る時のスタート位置に戻ると、そこは隕石でも落ちたのかと思うくらい、凄まじい破壊の跡があった。それを、「うわー、やべー。ちょっとやりすぎたよねー」とか思っていたら、空間に魔力の歪みを感じたのでそちらを見ると、緑色の女の子とリサーナにレヴィ、それと知らないお爺さんが現れたのだ。
その緑色の女の子が、苛立ちを隠せないように足をトントンさせながら問うてくる。
「えっと、何か用? リサーナを呼んできてくれたのはありがとう。用がないなら、私達は先を急ぐので」
何かものすごく嫌な予感がするのでさっさと逃げようとするが、周囲の木々が行く手を阻む。
「木が生きているみたいです! あ、あの人はドライアドさんですよ。アスカのやった事で怒ってた人です」
まじか......やっぱり怒ってるんか......。
それに森の中じゃ、ドライアドに勝てる気がしない。森ごと焼き払えば問題無いんだけど、その後が怖い。折角小細工までしたんだから、これ以上は目立たないようにしないとね。
「用がない? あるに決まってるじゃない! あるわよ、あるわ。たっくさん、たっっっくさんあるわよ!!」
「あぁ、はい。何の用ですか......」
今にでも噛み付いて来そうなほど敵意を剥き出しにして私に迫るドライアド。すぐにでもキス出来そうなくらいに顔が近づく。
「樹人族達と私の結界を壊したでしょ! 普通有り得ないのに! しかもアンタ達が空から降ってきた時も壊されたし! どうしてくれんのさ! 折角張り直したって言うのにさ!」
「え、えっと、どうしようも何も」
「ドライアド様、落ち着いて下され......」
あ、誰かわからないお爺さんが止めに入ってきてくれた。よく見ると腕などに鱗が見える。きっと竜鱗族なんだろう。
「何さ。結界が無くなったらアンタ達竜鱗族も困るんだろう? どうにかしないといけないから、私がコイツをとっちめてやるんだよ!」
「あのあの、張り直すって出来ないんですか? 張り直せば問題無しですよね?」
「そうだね。結界なんてもう一回張り直せばいいじゃん。よし、それでいいよね。もう行きますね」
再び逃げようと思ったのだが、同じように木々に通せんぼをされてしまう。
「あのねぇ、そんなポンポン張り直せるほど簡単な問題じゃないからアンタをとっちめに来たんでしょうが!」
「じゃあ何? どんな問題があるって言うの? 魔物?」
「魔物なんて問題じゃないわね。問題は魔力。樹人族が長年貯蓄してた魔力で数年に一度張り替えるんだけど、それをついこの前使って張り替えたばっかりなの! だから、魔力が足りないの!」
その問題って、私をとっちめたところで解決するのだろうか......?
でもまぁ、魔力だけなら私でなんとかなるだろうか。
「私の魔力で良ければ、あげるけど......どう?」
「え? いいの? とっちめてから奪おうと思ってたんだけど、アンタ、いいやつね!」
いいやつの基準が低いドライアドさん。それにしてもとっちめるなんて言葉久しぶりに聞いたな。
「それじゃあ好きなだけどうぞ」
「死んじゃっても怒らないでね? 結界張るのに魔力は沢山必要だから!」
そりゃあまぁ、森と里を覆うほどの結界なんてそれなりの魔力を必要とするだろうし、死にそうになったら突き飛ばして回避することにしよう。
あ、そう言えばどうやって魔力をあげればいいんだろう。
「ねぇ、どうやって魔力をあげればいいの?」
「ん? そんなの簡単なのよ」
私が良くわかってないのをいい事に、ドライアドは徐に私に近付いてきて......
唇を重ねた。
「んむっ!?」
「あっ、アスカ!?」
「アスカ!」
「お、おぉ......」
ちょまっ! 魔力吸われているのがわかる! わかりたくない! わかりたくないけどわかっちゃう!
リサーナは顔を真っ赤にして怒って、何か言いながらドライアドを引き離そうとするが一向に離れる気配はない。レヴィも顔を真っ赤にして、手で目を隠している。いや、指の隙間から見ているのバレバレだよ。
それとお爺さん、そんな気持ち悪い反応しないで下さい。気持ち悪いです。
更ににゅるっとした何かが口に入ってくる。
うわっ、ドライアドさん舌入れてきた!
まるで舌が別の生き物のように私の口の中を蠢く。蠢く。蠢きまくってる。
「んっ、んむっ、ぁむっ」
「んー! んー!」
私からもなんとか引き剥がそうと抵抗をしてみるが、元からそうであったかのようにビクともしない。
時間にして一分ほど。しかし、私にはもっと長く感じた。
「んあっ、はぁ、はぁ」
「はっ、はぁ、はぁ」
私とドライアドさんの口を繋ぐように銀色に艷めく橋がかかる。ドライアドさんはどこか紅潮した表情で舌舐めずりをする。先程まで少女のような大きさだったのに、いまではすっかり大人な女性の身体になっている。
「あ、ああああ、アスカああああああ!!」
「す、すごい......これが、大人......!」
「ふおぉおお!」
「了承貰ってから吸ってるんだから、引き剥がすことなんて出来ないのよ! それにしてもアンタ、どんだけ魔力持ってるのよ......うん、ごちそうさま! すっごい美味しかったわよ」
魔力供給という名のディープなキッスから解放されてから少し、私は呆けてしまった。別に、気持ち良かったとかじゃなくて、魔力が一度に急激に減少したせいって言うのが主な原因。七割ほど魔力を持っていかれたのだ。それくらいなら一時間くらいで元に戻るからいいんだけどさ。
お爺さんの事は考えないようにしよう。とりあえず気持ち悪いから。
レヴィはなんか違う意味で感心してしまっている。リサーナに至っては私の肩を掴んで前に後ろにと揺さぶる。ドライアドさんの感想らしきものを聞いて更に激しくするのはやめておくれ。
「あ、アスカ! わ、私ともしましょう! そうですね、しましょう! あんな女狐に奪われてばかりでは許せないのです! さあ、さあ!」
「するわけ、無いでしょうに......い、今のは、ただの魔力供給だし? 何か意味があったわけじゃないんだよ? だから、ほら、リサーナもレヴィも落ち着いて。ね?」
前世でも私はこれといってキスなんてした事はない。友達とふざけて、遊びでキスとかならした事はあるがここまで情熱的な......やつはした事無かった。
「じゃ、じゃあ私にも魔力供給をしてください! あぁ、魔力がー、足りないですー!」
どんだけしたいんだこの子は......。それに、同性だからノーカンでしょ? ドライアドさんに性別があるのかなんてわからないけど。
多分リサーナは何かしら理由を付けてキスするまで動かないと思う。
リサーナは結構頑固な所があるからねぇ。
「はいはい、それじゃあこれで我慢してくださいね」
額に軽く唇を触れる。これで満足してくれなければ私はもう何もしないぞ。
すると、リサーナは恥ずかしかったのか、先程の怒っていた時よりもずっと真っ赤に顔を染めて照れている。
「わ、わわ......あ、ありがとう、です......」
「う、うん」
そんなに照れられると、こちらまで照れてしまう。
「いやー、まさか大人になれるまで魔力を貰えるなんて思ってもなかったよ! これでしばらくはこの森も安泰だね!」
「まさか、生きているうちに成体のドライアド様にお目にかかれるとは......」
あ、本命を忘れていたよ。結界をどうにかしてこの森を出るのが目的だったんだから。
「あの、結界張るのに魔力足りましたか?」
「うんうんー! もうバリバリに足りちゃってるよ! それじゃ、さっさと張り直しちゃうよ〜!」
そう言ってご機嫌なドライアドさんは魔法を構築していく。初めて見る形の魔法陣だ。
私も簡易結界程度なら張れるけど、封印とか大規模結界とかは根本から違うようで、ちゃんと勉強しないと出来なさそうだ。
ウィルガルムの学校を目指すと言うのは私にもリサーナにもいい目的かもしれない。リサーナはああ見えても頭良いからね。
でも、なんでパンデミアさんはウィルガルムに学校があるって事知ってるんだろう? ずっと封印されてたんじゃ? 後で聞いてみよっと。
そんな事を考えていると、準備が完了したようだ。
「よーし、いっくよ〜! 森鏡結界!」
ドライアドさんが魔法を発動すると、魔法陣が足元に大きく広がっていく。恐らく、竜鱗族の里を中心として描かれたのだろう。ものすごく大きな魔法陣だ。
その魔法陣が地面に吸い込まれるように消えていくと、私が破ったのよりも耐久力が上がったように見える膜が張られる。
「ふっふーん! どうよこの森鏡結界は! ドライアドさん特有の魔法なのよーん!」
成長して大きくなった胸を強調するかのように張る。ブルンと揺れる胸を見て、お爺さんが興奮しているのが視界の端に映る。うん、あの人には関わらない方が良さそうだ。関わる気なんて更々無いけどね。
「私達はもう行ってもいいですかね」
色々終わったみたいなので、私の出番はもう無さそうだしいいかなと思い、聞く。
「あっ、ごめんごめーん。いいよー! 森の外まで案内するよ! 竜鱗族の二人、もう帰っていいよー。ほいっ!」
「畏まりました」
「えっ、あっ、待っ」
レヴィが何か言おうとしたみたいだけど、ドライアドさんの魔法で強制送還される。空間魔法の一種だろうか?
「んふふ〜! 今のもね、ドライアドさん特有の魔法なの! 便利でしょー、いいでしょー! でもね、私森の中でしか動けないんだよねー」
「便利なのか不便なのかよく分からないですね」
「レヴィにお別れ言えなかったのです」
「え、あの女の子の方? 呼び戻そうか?」
「何か言いたそうにしてたし、あっちから出向くと思うから少し待っていようか」
と言った直後、魔力の歪みと共にレヴィが現れる。
早いなおい。ドライアドさんの分身みたいなのが向こう側にもいて、その人に頼んだらしい。
「はぁ、はぁ。あ、アスカ、リサーナ!」
先程とは打って変わって、なんだかスッキリとした表情になっている。悩み事、解決したのかな?
「何?」
「どう、しましたか?」
「わ、私も......つ、連れて行ってくれ! じゃなかった、下さい!」
小さい体で頭を下げてくるレヴィ。初めて会った時もこんな感じの事あったよね。
と思っていると、再び魔力の歪みと共にさっきのお爺さんが現れる。
「ふふ、アスカ殿にリサーナ様。どうか、レヴィの事を、よろしくお願い申し上げます......」
レヴィよりも深く頭を下げてくる。
「レヴィも、これからも一緒なんですね!」
「付いて来るのは構わないよ。でも、里の方はいいの?」
「は、はい!」
「此度の件、竜鱗族を代表して感謝の念とお詫び申し上げる。誰にも疑われぬよう、里にはレヴィは追放と言う形になってしまったがな......」
「レヴはそれでいいの?」
「はい! 私は、アスカとリサーナに付いて行ければ何でも構わない!」
そ、それはそれで問題あると思うんだけどね......
ニカッと満面の笑みで笑うレヴィを見て、本人が満足そうならそれでいいか、と言う事で纏める。
リサーナも嬉しそうだしね。一人増えたところで問題無いね。......そう言えばパンデミアさんもいたな。
「早く元の大きさに戻れるといいですね!」
「う、うん。そうだな!」
「一ヶ月くらいだっけ? しばらくはそのままだね」
「一ヶ月? アスカ殿、何を仰っておるのですか?」
お爺さんが私達の会話に疑問を感じたのか、聞いてきた。
「え、レヴィの体が戻るのが後一ヶ月ほどだって」
「む? 竜鱗族は魔力の使いすぎで身体が縮む性質なのですが、体が縮んでしまうと戦闘に大きな支障が出るため、極力そうならないようにしていたのです。しかし、激しい戦闘の後などでは良くあること。そうなると最低でも三ヶ月はそのままですぞ?」
「「え?」」
お爺さんの言葉を聞いて、私とリサーナは視線をゆっくりとレヴィの方へ向ける。すると、レヴィは目を泳がせて慌てて言い訳をした。
「へ、へぇ〜。さ、三ヶ月かぁ。長いな〜」
うん、絶対知ってたよね。この子。
多分、強くないとわかったら置いていかれるとでも思ったのかな。別に、そんな事思わないんだけどね。
「さ、行こーかリサーナ」
「そうですね、アスカ行きましょう」
「はいはーい! 外までご案内〜!」
「わ! ま、待ってぇ〜!」
「仲の良い事ですな。レヴィの事、よろしくお願い致しますぞ」
リサーナと歩き出しながら、追いかけてくるレヴィを捕まえて擽ったりして軽くお仕置きをする。後ろから聞こえたお爺さん、最長老さんの言葉に軽く手を振って答える。
ドライアドさんが指を鳴らすと、私達三人はいつの間にか森の外に出てきていた。森の中限定ならドライアドさん、最強じゃないかこれ......?
「あ、そうだ。私の名前、教えてあげる!」
ドライアドさんともお別れしようとする際に、そう言われた。
「私の名前はね、ライアって言うの! 森はどこまでも繋がってるから、森の中でライアって呼んでくれればいつでも会えるからね!」
「いつでも会えるの?」
「そうよ〜! 森は繋がってるの! だけど、既に誰かの支配の森だとダメなの。それ以外の場所で呼んでくれればいつでも会えるよ!」
「はぁ、わかったよ。また会おうね」
「絶対、ぜ〜ったいまたね! 忘れちゃダメだかんね!」
なんか、すごい気に入られた......。魔力をあげただけなんだけどな。でも、魔力供給の事は忘れよう。リサーナからの嫉妬の波動が怖いのだ。大人な姿で無邪気にはしゃぐのは違和感があるけどこれはこれで可愛らしい。
「ドライアドさん、ライアさん! ありがとうございました。また、お会いしましょうね」
「ら、ライア様! 竜鱗族の事を、よろしくお願いします!」
「はいはーい! 任せてちょ〜だい! 後、アスカ? アスカが生きている事は内緒にしておくからね!」
「「「っ!?」」」
あー、うん、そうだよね。私の魔力を吸った上に、この森の支配者のライアさんだもんね。気付かない筈無いよね......
「そうしてくれると、嬉しいかな。じゃあ。私達はそろそろ行くよ」
「また会ってくれないと、言いふらしちゃうからね! 元気で〜!」
そうして、私達はトラブル続きのメルガス大森林を後にした。
もう、私こっちの世界に来てからトラブルにしか巻き込まれてないような気がしてきたよ......
とりあえず、次に目指すはウィルガルムだね。
「神聖帝都ウィルガルムまで......徒歩で三日ほどかな?」
「あれ、そんなに短いのか?」
「メルガスから馬車で十日なのに......?」
どうやらライアさんがウィルガルムに近い所まで転移させてくれたみたいだ。ライアさん優しいね。
それよりも驚くべきはメルガス大森林の大きさだろう。ウィルガルム付近まで続いているなんてね。
後から知ったのだが、森の中ほどからはウィルガルムの土地となっていて、地名も変わっているらしい。森の様子や出てくる魔物は何も変わらないんだけどね。
「とりあえず、日が暮れるまで歩こうか」
「そうですね!」
「そうだな!」
魔物を見かけ次第魔法の矢で殲滅していくので、旅路は安心して行けるのだ。
そんなこんなで私達はウィルガルムも目指して歩みを進めるのだった。




