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最強魔女さんの混沌とした日常  作者: クリオネ
第二章
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35話 クリルの暗躍


 時はアスカとリサーナがレヴィに出会う頃に戻る。



「くそっ、やっぱりまだ力が......」


 俺は今、ヘイルを背負って里へ戻ってきた。

 そして、治療所と呼ばれる所で体力の回復と、傷の治癒をしてもらっていた。


「もう少し安静にしていてくださいね。ヘイルさんは特に命に別条は無いのでしばらくすれば目を覚ますと思いますよ。ヘイルさんが目覚めたら長老達に今回の件を話してください。呼んでいましたから」

「あ、あぁ、わかった、感謝するぜ」


 治療所の所長は、竜鱗族の中で一番の回復魔法の使い手である。

 長老達からの伝言を伝えると、所長は伝染病の患者の元へ行った。


 伝染病。


 その本当の正体を知っているのは竜鱗族の中でも俺だけだ。

 その正体は、初代族長にかけられた呪い。それが封印の神殿から毒として溢れてきているだけだ。


 封印の神殿の封印を解いたのは紛れもなくこの俺だ。ヘイルとの決闘でわざと負けて一人でいた時、今まで見た事もない竜鱗族の一人が俺に近付いてきたんだ。


「力が欲しいのですか?」

「あ? 欲しいね。お前がくれるのか? はっ、笑わせるな。お前なんぞに頼らずとも今回は少し手を抜いていただけだ」


 負けたせいで苛ついていて、つい八つ当たり紛いの事をしてしまった。


「いいえ、手を抜いていたのはヘイルさんの方です。そんな事も気付けない貴方ではヘイルさんには一生勝てないでしょう。レヴィさんもヘイルさんの物になってしまいますよ?」

「っ!? クソがっ! 黙れよ! 分かってたんだよ、俺はヘイルには勝てねぇってことくらいよ......」


 ヘイルとは子供の頃からの古い仲だ。ヘイルは昔からずっと天才だった。俺が勝てるものなんて何一つ無い。金魚の糞、そう言われたこともあった。

 だが、俺はヘイルよりも強くなって、レヴィを――


「ふふふ、だから私が貴方に力を与えるのです。いや、正確には知恵ですね。力を欲するならば、教えてあげましょう」


 それから俺は、妙なヤツから封印の神殿の真実、封印の解き方、誰にも負けない力の手に入れ方を教わった。

 それは、竜鱗族に敵対する事に繋がる。敵対と言うより、裏切りか。そして竜鱗族への一方的な殺戮と言った方が正しい。


「俺が、神殿の封印を解けば、俺が強くなるんだな?」

「ふふふ、そうですよ。貴方にはそれが出来るのですから。いいえ、貴方にしか出来ないのですよ!」

「わかった。俺は全てを手に入れてみせる。力も、レヴィも、全てだ!」


 そして、数日前に封印の神殿へ近付き、一つ目の封印を解いた。その時、ドロっとした何かが体の内側へ入ってきた。これは溢れ出た魔力......?


 それからまもなくして、伝染病と言う原因不明の病が流行った。もちろん俺には効かない。妙なヤツが言うには、


「呪いを解いた者が主人となるのです。そのため、呪いを解いた張本人であれば、その呪いを無効化することが出来るのですよ」


 との事。本当かどうか怪しかったが、実際俺はまだなんともない。


 そんな時だ。樹人族(エント)達を纏める上位精霊、ドライアドがやって来て、天から人が落ちてきたなどと言ったのだ。

 伝染病が蔓延し始め、遂にはヘイルの家族にまで呪いの魔の手が伸びる。

 不治の病に苦しむヘイルの母と妹。その二人を見て、何も出来ないヘイルは伝承に縋る。

 ドライアドの話を信じた長老達の命により、俺、ヘイル、レヴィがその二人の捜索をする事になった。


 途中、ヘイルとレヴィが喧嘩し、俺とヘイルになった所に、完全に気配を消して近付いてきた俺らの探していた人物。


 俺も少しは伝承を信じていたのだろう。俺の計画を邪魔されると思い、始末しようとした。

 しかし、結果は今の俺とヘイルを見ればわかるだろう。相手は一切敵意を見せずに、俺達を無力化した。


 そして、今に至るのだが......


「長老様方! ヤツらはかなり危険な人物の模様。不甲斐ないながらも、我ら二人では手も足も出なかったのであります.....部隊を編成しヤツらを始末しなければ竜鱗族の未来は無いと思われます!」


 ヘイルが目を覚ましたので、長老達の元へ二人で報告へ行く。

 尤も、竜鱗族の未来など俺の前では俺以外が滅ぶ事は確定なのだがな。


「天の使いなどでは無かったか......となると、魔族かなにかか? しかし已むを得まい、我ら竜鱗族の底力を見せてやろうぞ。ヘイル、クリル。お前達に討伐隊の編成は任せる。我々長老達は引き続き、伝染病について調べることにする」

「はっ! かしこまりました。竜鱗族に二度目の敗北はありませぬ。確実に始末してきます」


 ヘイルが覚悟を決めたように長老達に頭を垂らす。

 と、そこへ、門番が駆け込んできた。


「ヘイルさん、クリルさんっ! ここにいる聞きまして......お取り込み中でしたか?」

「いや、今終わったところだ。何か用か?」

「はい、レヴィさんがお帰りになられました!」


 その言葉を聞いて、俺は門へ走る。ヘイルも走り出したそうにしていたが、怪我のせいで歩くこともままならないため、女に支えてもらいながらも急いで付いてくる。門番は他にもなにか言いたそうにしていたがそんな事は知らない。


 到着した頃には丁度レヴィが入ってくるところだった。


「おい、レヴィ! 遅かったじゃないか。どこに行って......来た、ん......だ?」


 レヴィの後ろには二度と出会いたくなかったヤツら。


「お久しぶりですね。お体は大丈夫ですか?」


 悪魔のような微笑みでそんなことを言う。


「なっ、なっ、なっ」


 驚愕で口が開いたまま閉じなくなってしまった。その時、封印を解いた時に流れてきた魔力が漏れていることに気付く。

 危なかった、ヤツらは気付いた様子は無さそうだ。


 それから、ヘイルが追いついて一悶着あったのだが、その後に来た長老達によりヤツらを竜鱗族自慢の牢獄へ放り込むことが決まった。だがレヴィまで入れることは無いと思う。

 ヤツらも我ら竜鱗族の数に恐れをなしたのか、抵抗せずに牢獄へ入った。


「だが、ちょうど良かったな......今夜が勝負だ......」


 ヤツらへの対応や、これからの事を相談するために長老達は集まり会議を始めた。と言うことは、神殿の守りは薄くなっているのだ。

 今夜、二つ目即ち最後の封印を解いて、初代族長を解放するのだ。そして俺自身が最強となるのだ!


「へ、へへへ......これで、俺が最強だ......へへ......」



 夜も更け、皆が寝静まった頃、俺は神殿へ向け慎重に進む。このチャンスを逃したら次は難しくなると思うからな。俺は策士なのだよ。

 里の方では何やら万能薬が効かなくて焦っているようだが当たり前だ。万能薬が効くのは病や、毒に対してのみ。今回の伝染病は呪いの一種なのだからな!

 急ぎながらも落ち着いて、慎重にかつ迅速に封印を解くため神殿へ向かう。

 ようやく神殿も見えてきた。


「守りは......四人か。新しい力も使ってみたいしな、殺るか」


 神殿へ向かっていたクリル。それは既に明らかに竜鱗族とは違うモノになっていた。

 クリル自身は己の変化に気付くことなく四人を始末しに近付く。


「な、何者っ!?」

「ぐわっ、やめっ!」

「ここは死守する!いざ尋常に――」

「長老様にお伝えせねば!」


 闇に紛れ、暗殺を行う。鱗の無い部位を狙い、確実に仕留めていくクリル。

 手に持った剣で、鋭く伸びた爪で、怪しく光る牙で無慈悲に殺す。逃げようとした者にも容赦なく追い付き殺す。

 クリルは同族だから致命傷を与えるだけ、などと考えてなどいない。ただ邪魔だから殺した、としか思っていなかった。


「ククク、力の欠片だけのはずがここまで強くなるとはな。今の俺ならばヘイルなど余裕だな」


 そう言いながら最後の封印を解いていく。

 しかし、後少しと言うところで邪魔が入った。


「貴様! ここで何をしている! その姿は......魔族か!?」


 声の主は、牢獄にいるはずのレヴィと憎きヤツらだった。










 マーキングを追って封印の神殿へ向かっていたのだが、マーキングが突然黒く濁ったので何事かと思い、レヴィとリサーナを担いで駆けてきた。

 レヴィさんが一番に声をかけたのだが、私に担がれている恰好なので全然威厳が無い。


「あ、あの、そろそろ下ろしてくれ......」

「きゅう〜」


 恥ずかしくなったのか、レヴィが顔を真っ赤にしてそう言った。リサーナは目を回している。可愛いなちくしょう。


「ククク、誰かと思ったらレヴィじゃないか。横の二人は部外者だろう? 勝手にここまで入れたらレヴィは里から追放されるだろうな」

「な、なぜ私の名前を!? それに、追放されるとしても既に覚悟している。今は竜鱗族を救う方が先決なのだ」


 あ、レヴィはあの黒いヤツが誰かわかってないみたい。


「あの人ってクリルって人ですよね?」


 リサーナが私に聞いてくる。首を縦に振って返す。


「今は魔族になってるけど、クリルだね」

「ハハハ、アスカにリサーナは何を言っているのだ? クリルはもっと馬鹿面をしていて、自分の身の丈もわからないようなヤツだぞ?」

「ぐっ!?」


 レヴィさんって天然毒舌?

 多分、身の丈に合わないことをしてあんな風にになったんだと思うよ。


 でもクリルの面影なんてほとんど残っていない。アレを見てクリルと分かるのは、余程魔力感知に優れているか、クリルを魔族化させた張本人くらいだろう。それくらい、面影なんて残っていないのだ。まして竜鱗族特有の体表にある鱗が無くなってしまっている。

そして、額から小さいが角が一本生えていて、肌は浅黒くなっている。爪からは血が滴っている。恐らく守衛していた者達のだろう。


 その旨をレヴィさんに伝えると、


「あの馬鹿が......と言うことは犯人と言うのはクリルの事だったのか......!」

「レヴィさん、戦える?」


 既に魔族化したクリルだが、元々はレヴィさんと共に生きてきた旧知の仲なのだ。


「アスカ、私を見縊らないで貰いたい。ヤツがクリルだろうと私はヤツを殴る。殺すまで殴る。それが犯人に対する対処だ」


 ち、血腥い......!

 これはもう血気盛んとかそんなレベルじゃない。竜鱗族はとりあえず殺してからってのが定石なのかな......


「それにしても魔族化なんて珍しいですね。この森って魔族も入れるんですね?」


 リサーナがふと、そんな事を言った。


「いや、魔族は近付くことすら難しいだろう。余程高位の魔族でなければ、樹人族(エント)の結界によって消滅させられるだろうからな。それにそんな高位の魔族が入ってきたとしたら、すぐにドライアドが知らせに来てくれるはずだからな」

「魔族化ってのも珍しいの?」

「魔族化なんて使う事が出来るのは魔王クラスの者くらいですよ。種族を超える方法なんて数少ないですし、失敗する確率が高い上に消費魔力も多いので滅多に見ませんよ。昔は吸血鬼種が主に使っていたんですけど、それも既に滅んだとされています」


 へぇ、魔王クラスの者、ねぇ。

 魔王クラス......魔王......?


「ってことは魔王が、あぁ、いたね」


 封印の神殿へ目を向けると、放置されたクリルが封印を解くのに集中していた。

 ごめん、話に集中しすぎて放置しちゃったのは謝るよ。だからそんな泣きそうな顔で頑張らないで。


「クリル! これ以上罪を重ねるのはやめろ!」

「はっ! 止められるものなら止めてみろよ! 俺は最強の力を手に入れるんだよっ!」

「そんな物紛い物だろう! 力とは、自身の努力と長い年月によって磨かれるものだ! 一朝一夕の力など......付け焼き刃にもなりはしない!」

「ちっ、うるせぇなあ! レヴィ、お前も殺してやるよ」


 封印の解除を中断してレヴィさんと対峙するクリル。初めて会った時よりかなり強くなっていると思う。

 レヴィの強さを知らないからなんとも言えないけど、レヴィさんにとってはかなり厳しい戦いになるんじゃないかな? 相手は武器ありで、レヴィさんは武器無し。


「リサーナ、少し離れようか」

「は、はい!」


 巻き込まれるのは勘弁だからね。危なくなったら助けに入ればいいかな。レヴィ、御手並み拝見といこうじゃないか。

 リサーナを抱え、少し離れる。封印の神殿の方はまだしばらくかかりそうだから、観戦していても問題は無さそう、かな。


「クリル、その腐った性根を叩き直してやろう」

「いつもいつもそうやって上から見てよぉ、その態度が気に食わねぇ。泣いて謝るまでぶん殴ってやるよ」


 下手な事言ったらここから撃ち抜こうかと思ったけど、レヴィに戦わせる方が面白そう。


「その言葉、そっくりそのまま返そう。だが、私は手加減出来ないからな? 今泣いて謝るのなら許してやらんこともない」

「黙れぇ! 俺は許してもらいたいわけじゃねぇんだよ。お前らをぶっ殺してやりたいだけなんだからな」


 私の方にガンを飛ばしてくるクリル。

 木の上での高みの見物。こちらに攻撃が飛んでくるならば即座にクリルの首を飛ばせるくらい余裕だ。


 お、始まるみたいだ。クリルが剣を抜き、構える。剣が魔力を吸い込んで薄ら赤く光っている。

 レヴィの方はと言うと、どうやら肉体派のようだ。拳法のような、見たことも無い構えをする。隙が全く無い。


「「いざ、勝負!」」


 クリル対レヴィ。強さのため、種族を捨てた者と、竜鱗族のため、命を懸けて種族を救いたい者の戦いが始まった。

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