29話 フラグは回収する物
段々と明日香が脳筋になってきました......
ブクマ&評価ありがとうございます!
評価100pt達成しました!本当にありがとうございます!今後ともよろしくお願いします!
クラリスから話を聞かせてもらった夜からしばらく経った。メルガスを出発してから5日目、ちょうど半分辺りまで来たところだ。
日は高く昇っており、今日も馬車の中でゆったりと、ガタゴトと揺れる心地よい揺れを堪能しながら夜になるのを待つ。
そんな時、御者さんと馬達の叫び声が聞こえたのと同時に、馬車を大きく揺らす程の衝撃が襲う。
「きゃっ!」
「大丈夫だよ、リサーナ」
その揺れによって、叫び声を聞いて立ち上がろうとしたリサーナがバランスを崩して私へ倒れ込む。
「あ、ありがとうございますアスカ。だけど今のは......?」
「嫌な予感がするね。リサーナ、離れないようにね」
首を縦に振り、私の背中にぴったりとくっ付くリサーナ。そこまでくっ付かれると逆に動きにくいのだけど......
御者台とこちらを繋ぐ戸が勢い良く開かれると、御者さんが飛び込んできた。
「ま、魔物です! どうかっ、お逃げ、下さっ」
血塗れで危険を教えてくれたのだが、最後まで言う事は出来なかった。御者さんを後ろから魔物が切り裂いたからだ。
「あれは......鬼人!?」
「鬼人だと? こんな所にいる訳がないだろう!?」
「あ、ああ......こ、殺さ、殺さないで......」
「うわあああ!」
貴族達が逃げ惑い、我先にと馬車から降りる。
鬼人と呼ばれる魔物。パッと見たところ、どこからどう見ても人と同じようなのだ。
「人......? じゃ、無いのかな」
いや、一つ違う点がある。角が生えている。額から禍々しい角が二本。
「アスカ、あの鬼人は危険です......」
リサーナが背中で震えているのがわかる。クラリスは......その場でへたり込んでいた。腰が抜けて動けなくなったみたいだ。
「私は、大丈夫だよ。クラリスの所へ行ってあげて」
「鬼人は、鬼人は本当にダメなのですっ......! オーガは時々小隊を組んでいたりするのですが、私達の目の前にいる鬼人は隊長クラスの者です! もし、アスカに何かあったりしたら、私は、私は......」
リサーナが、離さない! と言わんばかりに捕まえてくる。あの鬼人さんはかなり強いみたいだね。私でも勝てるのかな? やってみないとわからない。
確かに、私に何かあったりしたら、リサーナを一人にしてしまう。それは色んな意味で心配だ。危険だし。
後ろを向き、リサーナと目を合わせ、しっかりと話す。
「リサーナ、私を信じて。私が約束を破った事、あったかしら? すぐに戻るから、クラリスを助けてあげて」
私の言葉を聞いた瞬間、頷く。
「っ! そう、ですね......。私は、アスカを信じてます! だから、絶対いなくなっちゃダメですからね!」
リサーナはそう言って、クラリスの元へ駆けていく。
これは何が何でも戻って来ないといけないね。戻って来れなかったら何をされるやら......。
鬼人さんは律儀にも待っててくれている。
それと、外に逃げた貴族達がやけに静かなので魔法の目で確認してみると、貴族達は既に死体となっていた。
馬車の周りを十名ほどの鬼人が囲っている。
こりゃ、逃げ場無いや。馬車の中には、私と対峙する鬼人。そして隅にクラリスを守るように立っているリサーナ。ローブの少女はいつの間にか、槍を構えていた。どこから出したんだろうか。
と、鬼人さんが私を指さした。
「オマエ、強いな」
っ!? 鬼人さんが喋ったよ!
「アナタ喋れるのね。知性はあるってこと?」
「ふん、我ほどになれば容易い事よ。1つ聞こう。オマエがこの中で1番強いな?」
うーん? 何が知りたいのかな? て言うか私のステータスバレてる? 不味くない?
少し誤魔化してみよう。
「さぁね、ローブの少女も中々強いと思うわよ」
私に指をさされたローブの少女は、困惑した表情でこちらを見る。あれ? なんか悪いことしたかな。
「小娘など眼中に在らず。ステータスを隠しているオマエが強いのは、纏う魔力の質と量でわかる」
えっ、私そんなの見られているの? うわっ、なんか恥ずかしいなぁ。
でもそんな事聞くよりも実際に戦った方が早い。
「戦ってみれば分かるんじゃない? 私の旅路を邪魔した罪はちゃんと支払ってもらうからね?」
あと五日ほどで辿り着くはずなのに、馬を皆殺しにして、御者さんも殺しちゃってくれちゃって......
これじゃあ、あと五日でウィルガルムまで行けるわけない。
あんまりわからないと思うけど、私結構怒ってるんだよ? リサーナを怖がらせたしね。
「我は強者を求めし者よ。我の名はスォール。生きたくば我を――」
話が長いよ。私は名前を聞いた直後、音を置き去りにする速さでスォールに接近する。
その直後、数発死なない程度に殴る。
たったそれだけでスォールは後方へ吹き飛ばされる。
少しは抵抗されるかと思ったんだけど......。
「アスカ!」
スォールが吹き飛んだ事を確認したのか、リサーナが近付いてきた。
リサーナから見ると、私が消えた次の瞬間にはスォールのいた所に私が立っていて、スォールがいつの間にか吹き飛んだとしか確認出来なかったはずなんだけどな......?
「「「若!!」」」
周囲を囲っていた鬼人がスォールの吹き飛ばされた方向へ走って行く。若って何それ。凄くダサいな。
「あ、アスカさん......? アナタは、一体......?」
クラリスも正気に戻っていたのか、鬼人が現れた時よりも驚いているような気がする。
え、私ってもしかして鬼人より怖いの? ちょっと失礼じゃない?
「私はどこにでもいる魔女さんよ」
「へ、へぇ、魔女さんですか......って、そんな訳ないじゃないですか!? あの鬼人は紛れもなく隊長クラス、Bランクの冒険者でも手も足も出ない強敵ですよ!? それを......」
おうおう、ナイスノリツッコミ。
リサーナも言ってたけど、そんなにヤバい相手だったのかなぁ?
と、そんな事をしていると、遠方から何かが飛来して来るのを確認した。
「リサーナ、クラリスは私の後ろへ。ローブの少女ちゃん、気を付けて」
「......ん」
亜音速で飛行する物体......それは、斬撃だった。
私は片手でその斬撃を弾く。
次の瞬間、目の前に三つの巨大な魔法陣が現れる。
その後ろに、スォールの率いる鬼人達もいた。
「人族の分際で我に傷を付けたのは褒めてやろう。しかし、オマエはここで死ぬのだ! 出でよ! ベヒモス!」
召喚魔法!? 魔物が魔物を操るなんてね。
まさか魔物がここまで出来るやつとはね......
リサーナも知らなかったのか、驚愕に満ちた表情をしている。
しかし、魔法陣から現れたベヒモスと呼ばれる魔物は一頭。二本足で立つミノタウロスのような魔物だ。頭には二本の大きく湾曲した角。そして、筋肉に禍々しい赤い筋が一定のリズムで脈動している。
あの太い腕で攻撃されたらきっと、一溜りもないだろう。
久しぶりに鑑定してみようかな。
==========
ベヒモス
HP640/640
MP120/120
STR460
VIT120
《スキル》
剛腕、金剛、威圧、粉砕Lv.5(固有)
《称号》
召喚獣
==========
かなり強い魔物だ。アルマでも1人じゃ一体倒すのに精一杯、と言ったところか。
この粉砕と言うスキル。魔物は魔法を使えない代わりに固有スキルを持っている。
スピードは遅いが、生半可な攻撃ではあの鋼の筋肉の鎧を突破することなど不可能だろう。
でもまぁ、見るからに脳筋だよね。
「お"お"お"お"お"お"!!!」
耳を劈くような叫び声を上げるベヒモス達。
その時、馬車が揺れる。いや、正確には地面が揺れているのだ。
「きゃっ!」
「な、なんですか!?」
「......っ!」
「ベヒモスだ」
私がなんの反応も示さないのを面白く思わないようで、不機嫌にスォールがクラリスの質問に答えた。
ベヒモス。
「なるほどね、リサーナ!」
「アスカ!」
そう言って、リサーナの手をしっかりと掴み、抱き寄せる。クラリスとローブの少女には簡易の魔法結界を施すと、地面が爆発する直前のように隆起する。
――――――――――
『粉砕』
ベヒモスの持つ固有スキル。魔力を使い、使った分に応じて、その場で爆発を起こす。
――――――――――
私達の前に出てきたベヒモスは気を引くためだけの物で、恐らく残りの二体を私達の真下に召喚したのだろう。
そして、その二体の全魔力を使い、粉砕を発動させ、私達を粉々に吹き飛ばすと言う作戦なのだろうか。
作戦とも言えない作戦だな。この近距離で爆発を受ければ私達は無傷では済まされないだろう。それは近くにいるスォール達も同じこと。
普通なら跡形もなく消え去るだろう。
普通ならね。
私達の場合は簡易と言えども、流す魔力によって強度が変わる魔法障壁を張ってある。
ローブの少女とクラリスは無事だろう。私の場合は、そんな傷を負うことなど無い。リサーナを守るために己の体を盾にするだけだ。
しかし、傷を追うことは無いが、衝撃は私達を襲う。
その抗えないほどの衝撃で、その場から吹き飛ばされる私達。
「きゃああああ!」
「み、皆さっ......!」
「......くっ!」
私とリサーナは一緒なので離れることは無かったが、クラリスとローブの少女とは離れてしまった。
しかし、二人は二人でなんとか手を繋ぐ事が出来たようだ。
「フハハハハ! 無様だな! やはり人族は我等に勝る事などあってはならぬ! フハハハハハハ!」
衝撃で空中へ吹き飛ばされながらも聞こえたその高笑いにイラッとしたが、抗えない衝撃で殴りに行く事は出来ない。
となると、魔法だよね。
「くそっ!」
「あ、アスカ......!」
リサーナが苦しそうにしている。この衝撃のせいだろう。
決して私が力いっぱい抱き締めているからとかではない。
「魔法の矢!」
手加減無しに発動した魔法。空中に128本もの魔法の矢が浮かぶ。
それらを全て、ベヒモス自身を粉砕からの衝撃を守るための盾にし、その後ろで高笑いをしているスォールに向けて放つ。最大威力だ。
ベヒモスを貫き、スォールの足や腕を穿つ矢。
それを確認したと同時に、私とリサーナはウィルガルムへ進む方向とは逆へ吹き飛ばされる。
私とリサーナが次に地面を踏みしめる事が出来たのは、森の中だった。




