26話 ステラの幸運
ステラ視点です。
これからも細かくステラ視点を書いていくと思います。
私は解放されてすぐに、ウィルガルム行きの馬車を探す。
どんな街にでもある、アルテナ商会に頼んでみたけど、昼間の馬車しか今日は出ないそうだ。
仕方がない、それにしよう。
「......一人、乗れる?」
「申し訳ございませんが、満席の状態で......」
嘘......。
魔王に近付くための第一歩だったのに。
諦めきれずに粘ってみたものの、また明日の便もある、とのことで追い返されてしまった。
どうしよう。その晩は野宿をする事にした。
近くの大きな家でパーティでもしているのだろうか? 賑やかな声が聞こえてくる。
......楽しそう。
その夜は野宿だったがよく眠れた。
翌朝。
私は朝一番にアルテナ商会へ向かった。
その時、ちょうどアルテナ商会の店長さんに会ったのだ。
「ん? 今日はどう言ったご要件でぃ?」
「......ウィルガルム行きの、馬車」
今日もまた昼に一便しか出ないらしい。
魔王の影響で制限がかかっているそうだ。メルガスでは今、魔王と攫われたリサーナ姫と言う話で、噂でいっぱいだ。
しかし、店長さんは優しかった。
「ちょうど俺の知り合いがウィルガルム行きの馬車に乗るって話だからな、お前さんの分のチケットも取ってきてやるよ! お代は少し割り増しになるけど大丈夫かい?」
豪快な人だった。少し高かったけど、ちゃんとチケットを貰えた。しっかりとお礼を言って受け取る。
その、知り合いの人達にも感謝をしないとだ。
馬車が来るのを待っている。
どうも貴族達やお金持ちの者達がたくさん乗るようで、なんだか場違いな気がする。でも、私は魔王に会うんだ。
ん? 二人だけあんまり貴族のように見えない人達も乗ってるみたい。私だけが違うんじゃなくて良かった。
無事乗れて、馬車にほんの少し揺られ検問に引っかかる。
小汚い男が馬車に上がってくる。衛兵のようだけど気持ち悪い。
私を見るなりこいつが声を張り上げて言った。
「おい貴様! 怪しいやつめ! その汚らしいローブを脱げ! お前みたいなやつが貴族の乗る定期便に乗れるわけがない! 無賃乗車とし、こちらで身を引き取らせてもらうぞ!」
私は初めての出来事に頭が追いつかなかった。力尽くで私の腕を引っ張ろうとする男。
つい、抵抗しようと、
「......嫌っ、離してっ」
と、その時、後方からカツカツと歩いてくる人がいた。女性だ。危ない。そう言おうとした瞬間、私を掴んでいる男の腕を軽く握っただけで砕いたのだ。
そして、私を見て、
「大丈夫? アナタはお金払ったのよね?」
と言った。私は答えようと思ったけど、言葉が出てこなかったため、首を縦に振るので精いっぱいだった。
「そう、ならいいじゃない。御者さんもチケット見たでしょう?」
「あ、あぁ、そうだったね、済まなかったよ」
御者さんにも証拠確認を取って私の無実は完全に証明された。しかし、私はそんな事はもうどうでもよかった。
私の前に立つ女性。それこそ、私の探していた人物。魔王だったから。
どうしてこんな所に? なんて思ってしまうほど不自然なまでに、強さを感じさせる雰囲気、佇まい。
ほんの数日で会えた事の喜びで、周囲で起こったことなどすでに些細な事。
気付いた時には、既に衛兵はいなくなっており、魔王も自席に戻ろうとしているところだった。
私は咄嗟に洋服の裾を引っ張り、止まらせる。
ん? と言ったようにこちらを振り向いてくれる魔王。それだけで何故か、頭が沸騰しそうになる。それでも、小さな声だが、しっかりと声を出す。
「......あ、ありがとう。まお......っ」
危ない危ない。こんな所で魔王なんて言ってしまったら、魔王に迷惑をかけることになってしまう。
恥ずかしくなって私はそそくさと自席に戻る。魔王もそのまますぐに席に戻ったみたい。
そのまま検問を抜け、ガタゴトと静かに揺れる車内。
私の頭の中は魔王でいっぱいだ。
気になって魔王の方を見ると、隣の女性と楽しそうに話をしていた! う、羨ましい......!
はっ! 私は何を!? 思わず目を逸らしてしまう。
いやいや、何も羨ましいとかそんな事思ってなんか......。顔が熱い。それに何だろうか。心の奥底に激しく燃える小さな火種があるような気がする。
そう言えば、どうして魔王に会いたかったのだろうか。
......わからない。第四星に何がしたいと聞かれた時に、一番に出てきた答えが魔王に会うこと。魔王に完膚無きまでに圧勝され捕まったのだが、魔王によって助けられた。あのまま捕まっていたら、きっと、クソ王子は七星傭兵団を処刑していただろう。
そんな事を分かるくらいには人を見る目はあると自負しているつもりだ。
そうか、私は魔王に会って、感謝をしたいのかもしれない。いや、そうだ。そうしよう。そうすることにしよう。
それでは魔王が一人になる時を狙って出ていくことにしよう。ん? どうして待つかって? 二人きりじゃないと恥ずかしいからに決まっている。
そうと決まれば魔王が一人になるまで監視しよう。
そう思い、再び魔王の方へ視線を向けると、再度目を疑うような光景を目撃してしまう。
「なっ......!」
「どうされました?」
獣人の案内人に心配されてしまうほど取り乱してしまったようだ。お、落ち着こう、私。深呼吸だ。
ふー、すー。ふー、すー。
よし、落ち着いたぞ。少し状況を整理しよう。
魔王は、目を閉じて寝ている......? みたいだった。しかし、しかしだ。問題はさっきまで元気そうに話をしていた女性だ。
魔王に膝枕をされているじゃないか!? うらやまけしからん......。
私だって......! 私だって......?
うーん? なんだか最近変な感じだ。自分が自分じゃないような? 胸が苦しいのだ。病でも貰ってしまっただろうか。それは困る。
そうではない。魔王は時々目を開けて困ったような顔をして膝枕している女性の口元を拭っている。
顔を上気させ見つめていたら、獣人の案内人に少し引かれてしまった。
しかし、そんな事はどうでもいいのだ! もうそろそろ夕暮れ。それはつまり村に着くのだ。
そこで魔王が一人になったところで、伝えるのだ。一言、『ありがとう』と。




