16話 魔女さんは物理の方が強い
久しぶりの戦闘だったのに一瞬で終わっちゃいました......
「私、迷宮の方には来たことが無かったのでワクワクしてます!」
私達は迷宮前に降りるために階段を降りている。
うん、私もね、何故かわからないけどすっごいワクワクしてる自分がいるの。
迷宮と言ったらゲームでは強い魔物と激闘を繰り広げて、たくさんレベル上げてボスと戦って、超激レアなお宝ゲットー! とかそう言う展開あるじゃん。
......でもさ、この賑わいは何なのさ。
私とリサーナは迷宮前に着いた。しかしそこに広がっている光景は2人の反応は正反対だ。
リサーナは目をキラキラ輝かせてキョロキョロと辺りを見ているが、私は目頭を押さえてこの光景が嘘ではないかと再び確認して落ち込んでいる。
「うん、そりゃあそうだよね。迷宮なんて冒険者達がたくさん来るんだから観光名所みたいになっちゃうよね......」
「アスカどうしたのですか?」
そうなのだ。人がたくさん来る所に商人が食いつかないわけがないのだ。
私達の目の前にはお肉を串に刺して焼いているお店や、回復薬などを売っているお店、迷宮の地図を売っている人や、荷物の運び人など様々なお店が軒を連ねている少し入ったら魔物がいるような光景では無かった。
「さっさと依頼終わらせてご飯食べよっか」
「えっ? あ、はい!」
リサーナがお肉を焼いているところを見て涎を垂らしていたがよく見ると魔物のお肉らしくて流石に食べようとは思わなかった。
冒険者が買って食べている所を見るととても美味しそうに見えるが、あれは魔物あれは魔物と自分に言い聞かせてなんとか理性を保つ。お腹は空かないけど食欲はあるのだ。
うーん、自分で言ってて意味がわからん。
あれ? よく考えるとコカトリスも魔物......。
うん! 何も考えないようにしようか!
早速依頼をこなすためにと言う言い訳を使いコカトリスを確保するために迷宮へ入る。
「確か三つ目の入り口らしいけどどこから数えて3つ目なのか......ってなるほど、三だね」
そこには巨大な口を開けた入り口が八つ並んでいたが、それぞれの入り口の上に左から1、2、3、4、5、6、7、8と番号が書いてあるのだ。私達は3と書かれている入り口に入ると、そこにはまた受付があった。
完全に観光名所となっている気がする。
「おや? 初めてのお方ですな。迷宮について御説明はいりますかな?」
めちゃくちゃ紳士な男受付さんだ。珍しいな。
「はい、初めてです。少し説明してもらっても?」
「かしこまりました。迷宮3では深層まで確認されておりませんのでこちらでギルドカードをご提示していただきます。これは万が一予定日以内に帰ってこれなかった場合、探索隊が探しに向かうためでございます。パーティの場合はリーダー様のご提示だけでも結構です。後、迷宮で手に入れました魔法石や素材などはこちらでも買い取りいたしますよ。高額買取の素材などはギルドへ持って行って買い取ってもらった方が高値で売れますけどね」
なるほど、ここで予定日等を決めるのかな。
「リサーナはどれくらい迷宮にいられる?」
「私はアスカと一緒ならいつまでも! ですよ!」
うーん、人前でこんなこと言われるとこっちが恥ずかしいんだけどなぁ。それに、私はノンケなんだ。すまないリサーナ。
「お母様の方にはしばらく出かけるとしか言ってないから三日くらいにしようか」
「かしこまりました。三日でございますね。ただいま地下にはガルス様率いる『黒の風切羽』様方が深層を目指して探索しておられます。ちょうど予定日ではあなた様方と同じく残り三日でございますね。くれぐれもご注意ください」
ガルス達? あぁ、アルマさん達だね。それにしても二つ名みたいなやつまで持ってるなんてやっぱり凄いんだねあの人達。
そう言って迷宮の方へと通された。
ちなみに迷宮では階層が深くなる毎に出てくる魔物が強くなってくる。
レベル二十程あれば三十階層くらいまで行けるらしい。確かアルマさんは四十幾らかだったから五十階層くらいまで余裕で行けるのではないだろうか。
私は......百五十階層? うん、黙っておこう。
リサーナが少し興奮していて危ない気がするけど入ったばかりなので特に気にしていない。
「見てください! 広いですよ! ここが迷宮なんですね!」
リサーナの言う通り迷宮はかなり広い。通路だけでも横幅が五十mくらいあって縦幅は天井が見えないくらい高い。ただ暗いだけでそこまで高くないかもしれないけど。
迷宮は道の横の方に等間隔で光魔法を施したランプの様な物が置かれていてそれなりに明るくなっている。
暗くて何も見えない! なんて事にならなくて少しホッとした。
低層付近には結構冒険者がいて、雑談や傷の手当などしている。深めの魔物と戦って傷ついたら魔物の弱い低層付近で回復すると言った感じがテンプレなのだろうか。
しばらくリサーナと雑談を交わしながら歩いているが一向に魔物など現れない。
今は十五階層に来た。この階層まで魔物一匹とも当たらないと言うのは流石におかしいと思う。
道は私が最初に作った魔法の目で数十発を先に投げているので道は完璧に把握している。魔物や人物は確認出来ないので確実に安全と言うわけではないのだ。
「そろそろ依頼のコカトリスと言う魔物が出てもおかしくないのですが魔物一匹も見えませんね。変ですか? アスカ?」
「うーん、私はこっちの常識とかわからないからこれが普通なのかもしれないし、情報がズレているって事もあるかもしれないね」
迷宮初心者二人で潜るのは結構危ないかもしれないね。まぁ、何が来ようともリサーナは守るけど。
そんな事を考えていた時、前方で人の叫び声が聞こえた。
「リサーナは隠れてて」
「わかりました!」
念のためリサーナの周りに魔法で作った結界を張る。
次の瞬間、先にあった部屋から大きな爆発音が響いてきた。こんな密閉された空間でそんなことしたら落盤でもするんじゃないかと危惧していたが、予想以上に迷宮は頑丈そうで少し揺れただけで済んだ。
様子を見に行ってみると、そこは今までよりもずっと広い空間になっていた。先ほどの爆発で広くなったわけでもなさそうなので元からこの大きさなのだろう。
部屋の中心では巨大なキメラが私と反対の方向を向いてたっていた。
そのキメラが見つめる先には三人組が倒れていた。うち一人はどうやら瀕死のようだ。
「冒険者か!? ここは危ない! 逃げるんだ!」
私を見つけた一人が大きな声で忠告をする。
そんな事言われても既にキメラがこちらをロックオンしてるんだよね。
今すぐにでも倒せるけどその前にあの人達の傷を治して誰にも見えないように倒さないとね。
「ごがぁぁぁぁぁあ!!!」
そんな事を思っていたらこちらにものすごい速さで突っ込んできた。ものすごい速さとは客観的で、実際に私から見ると結構スローに見えている。
「危ない!」
キメラが回復の邪魔をしてくるので少し大人しくしていてもらおうかと思う。
「そりゃ」
軽く地面に叩きつける。
「がぁっ!?」
不思議そうな悲鳴を上げて地面にめり込んで気絶した。これで心置き無く回復させられるね。
一瞬で彼らの元へたどり着き、回復魔法をかけてあげる。
「大丈夫ですか? そちらの方を優先して回復させますね」
「え? あ、はい......えーと? あれ? キメラは......?」
おいおい、見てなかったのかこの人たちは。
「ちょっと気絶してるだけですから早くしないと起きてきますよ」
「いやいやいやいやいや! キメラだよ!? この僕達が苦戦してたのにそれを一発で!? そんなに弱ってるようには思えなかったし君は一体!?」
はー、めんどくさいなぁ。この人たちも気絶させて地上に送り返してやろうか。でも引っ張っていくの疲れそうだしリサーナと一緒に行けなくなるのは嫌だ。
いや、まぁ、私は全く疲れたりしないんだけどね。
「回復したら早く帰ってくださいね。邪魔なので」
「あの、助けてくれたのはありがたいんですけどその言い方はちょっと無いんじゃないですか?」
さっきから質問ばかりしてきた戦士っぽい男の人の後ろにいた魔法使いっぽい女性が文句を言ってきた。
うーん、言い方がまずかったかなぁ。
「ごめんなさい。私は早くこの先に行きたいので、キメラを倒す時に巻き添え食らったら大変だなぁと思っただけです」
「はぁ? キメラを倒す? さっきのもまぐれでしょ? キメラは普通三十五階層以降にたまに見かけるけど絶対に手出しはしない敵よ!? 私達『黒の風切羽』の後衛三人でも無理なのよ! アナタ一人なんかじゃ無理に決まってる!」
黒の風切羽と言ったらアルマさん達じゃないか。
まさかこんな所で出会うとは。でもアルマさんとガルスと言う男の人はいないけどな。
「アルマさんとガルスさんは私達を逃がすために残ったわよ。異変が起きていることを地上に知らせるために、私達を逃がすために!」
聞いてもないのに答えるなんてなぁ。
ふむ、なにがあったのか知らないけど私はコカトリスが狩りたいのだ。
「コカトリスは何階にいるのかしら?」
「は? え、今の話聞いてなかったの? 『黒の風切羽』でも逃げることしか、逃げることもままならない状況で下に潜ろうとするなんてバカのやることよ?」
とその時瀕死状態だった男が完全に回復して起き上がって言った。
「そいつは死にたがりなんだろう? いいから俺達をさっさと助けろ......」
なんだコイツら。碌な連中じゃないな。ガルスとアルマさんのおこぼれって感じだ。
「出口はあちらですよ」
そう指を指して教える。倒れていた男の一言で私に興味を失くしたのか、残りの二人はそれ以上聞いてこなかった。
「すまない。助かった。この恩はいつか返す」
倒れていた男はなかなか律儀なやつだ。二人は黙って行ったのにコイツだけ感謝していた。ふむ、悪くないけどもう二度と助けたりするのはやめるか。
三人が出口に向かおうとした瞬間、キメラが低い唸り声を上げながら気絶から起き上がった。
その直後、キメラは真っ先に三人に向かって襲いかかった!
倒れていた男がその攻撃を剣でガードするが、力で言えば圧倒的にキメラの方が強く、だんだん押されている。しかし耐えている間に女が魔法の詠唱を終わらせて魔法を発動する。
聞き耳を立ててみたけど詠唱は何て発音しているのかわからない。全くわからないのだ。
「エクスプロージョン!」
魔法の発動とキメラと拮抗していた男をもう1人の男が後ろに引っ張るのはほぼ同時だった。
次の瞬間、キメラの上空に魔法陣が浮かび上がり、強烈な爆発がキメラを襲う。
しかしその衝撃波を利用して出口へ向かって吹き飛んでいく。なかなかに頭脳派ではないか。
無事に三人組は大部屋を脱出することに成功した。
キメラの方は......まだピンピンしている。
それにしてもさっきのエクスプロージョンと言う魔法は火魔法らしいね。あれなら私でも使えそうだけど威力の調節がよくわからないんだよね。
爆裂魔法とかじゃなくて良かったや。
とその時、入り口、こちらから見ると出口の方に1人の人影が見えた。それはこちらに手を振りながら向かってくる!
「アスカー!」
リサーナだ。多分二回目の爆発音と知らない誰かがリサーナの前を通ったことで既に何かしら終わったのかと勘違いして来たみたいだ。
リサーナは土煙で隠れているキメラに気付いていない。キメラはその優れた五感でリサーナが近付いていることは既に把握しただろう。
「リサーナ! まだ」
「ごあぁぁぁぁあ!!!」
言い切る前にリサーナに襲いかかるキメラ。
私は何も考えずに一瞬でキメラの横っ腹を蹴る。思いっきりだ。
「きゃっ!」
リサーナが少し遅れて驚くがそこには返り血で真っ赤になった私とお腹の辺りから2つにちぎれたキメラの死体があった。
「いやぁ、やりすぎちゃった」
本当にここまで強いと魔法なんかよりも物理で殴った方が早い気がしてきた。魔法使いはレベルを上げて物理で殴るのが一番って誰か言ってたしね。
そんな事を言いながら水魔法と火魔法の組み合わせで汚れを落として一瞬で乾かす。少し熱いのが改善点である。
「びっくりしたです! アスカ、大丈夫なの? どこも怪我してない?」
驚きすぎて言葉を失った状態から私の声で引き戻されたリサーナは真っ先に私の心配をした。リサーナの足元を見ると、ゴロりと大きな石のような物が転がっていた。
「これは......魔法石かな?」
「これが魔法石なんですか? 大きくて綺麗です!」
キメラって強いとか言ってたけどワンパンだったね。
あの強さでこの大きさなのか。レベル148ってどこまで行けるんだろう......
「さて、コカトリス探しに戻ろうか」
「はい!」
無事に脱出した三人組が地下での異変を報告する時に私の事を事実を湾曲して伝えたと言うことがわかるにはもう少しあとの話である。




