14話 明日香の昔話
ブクマ&評価ありがとうございます!
読み飛ばしても大丈夫です。
これは、私だけが知っている。私の話。
少し昔の話だ。
「お前さぁ、見ててウザイんだよ。そんなに体に傷を作って私かわいそうでしょアピールしてんじゃねぇよ! 気に食わねぇんだよ!」
「ね、ねぇ、ちょっとやりすぎじゃないかな......」
「......は? 何言ってんの? 私達はただ西宮さんと遊んでるだけなんだけど? ねぇ、西宮さん?」
「う、うん。私は、大丈夫だから......」
―――もう、嫌だった。
とある学校の教室で私は今日もイジメられている。
私がイジメられている理由は体の至るところにある痣や、傷のせいだ。この傷跡のせいで先生が無駄に気にかけたり、体育を休みがちになったりしていたらこうなった。
この傷は父親に付けられたもの。
私の父は所謂クズ人間である。
働かずに昼間からお酒を飲んで、母がパートで稼いだお金を奪ってはパチンコに費やして家計を苦しめている。
私が中学生に上がった頃、母はこの人の事を「新しいお父さんよ」と紹介してきた。始めはいい人だと思っていたのだが、ある日パチンコに負けて帰ってきた父は、私を力いっぱいに殴った。
初めて殴られた時は驚きと痛みでたくさん泣いた。 でもその日から毎日のように母と私に暴力、暴言を吐いてきた。
そして私が中学生2年生の時、母に手をあげようとした父を止めようとした所、父の手に持っていた一升瓶で頭を殴られた。血がいっぱい出たが、全然痛みを感じなかった。この時既に私は感覚が麻痺していた。
イジメは私の傷や痣を見た女子グループのリーダー小山 里奈さんが気まぐれで、遊び感覚で始めたものだ。
学校側では私の虐待の事もイジメの事も取り合ってくれなかった。大人は学校での不祥事が外部に漏れる事をとにかく嫌がって、私の話など全く聞いてくれなかった。
家に帰れば父の暴力、暴言が待っていて、学校に来ても玩具のように遊ばれてイジメられる。
こんな生きているのが苦しいだけな私の人生はもう嫌だった。
反抗なんてできるわけが無いのだ。反抗すればさらに強い力でねじ伏せられる。私には逃げることしか残された道が無かった。
逃げる。そう、自殺だ。
どうやって死のうかと考えていたある日、私はいつも通り帰り道を歩いていた。
私はいつも夜遅くになるまで家の近所の公園で時間を潰している。私がいつもと同じように時間が流れるのを公園のブランコに揺られて待っていたら、どこからか声をかけられた。
「君は、何をしているの?」
私がその声の主を見つけるのに時間はかからなかった。しかし、ソレが私に声をかけたと言う事実を認めることが出来なかった。
「そんなに不思議そうな顔をしないでよ。僕は君とお話がしたいだけなのだから」
私の前には1匹の白い猫。
どこにでもいそうな野良猫だ。
それが、今、私に向かって話しかけている。
そんな非常識なことを信じるなんて出来なかった。
「んー、そっか。この姿じゃやっぱり無理かな?」
よく分からないことを言った猫は次の瞬間、猫が消えてそこには一人の少年が立っていた。
「これなら大丈夫でしょ!」
「大丈夫なわけ、ないでしょ......」
「あ! やっと喋ってくれたね」
頭がオーバーヒートしそうな勢いで現状の処理をしているが全くついていけてない。
突然猫に声をかけられたと思ったら次の瞬間、そこには少年が立っていたなんて理解出来るはずもなかった。
「僕の名前はシュバルツ・フォン・アルデヒド。気軽にシュバルって呼んでね!」
「外国人......?」
変な名前にしては日本人顔でよく分からない。
「僕はねぇ、神様だから」
「は?」
こちらの反応を見てニヤニヤしている。
ものすごくウザい。
「ウザいなんて心外だなぁ。せっかくアドバイスをしようと思ったのに」
「アドバイス......?」
ん? ちょっと待って、ウザいなんて言ったっけ!?
心の中で思っただけなのに......口に出てたとか?
「あはは、そんなに警戒しなくていいよ? 僕は君を殺しに来たんじゃないしね。さっきも言った通りアドバイスをしてあげるだけさ。別に君が助けて欲しいなら助けてあげるけども」
「殺してくれるの......?」
「いやいや、殺しに来たんじゃないからね? でも、そうまでして君が死にたいのなら、僕は止めないさ。でもね、君は若くして死んでしまう事が決まっている。だから、今死ぬか後で死ぬか、結局は同じ。死ぬんだよ」
なんとなくわかった気がした。
私はきっとこのまま自殺なんてしなくても死んでしまうのだろう。死因はきっと父からの暴力だろうか、イジメの末に殺されたりするのだろうか。
「あー、全然違うよ? 君はこれから逆転しなきゃいけない。逆転出来るんだから。死因はまぁ、何通りかはあるけどね?」
そんな事を言って私の隣のブランコに腰かけた。
「君が守りたい物はなんだい?」
「私が......守りたい物......?」
私には何も無かった。お金も、趣味と呼べる物も何も無かった。
「本当に何も無いのかい? あるはずさ、ちゃんと考えてみなよ。でも、続きはまた明日だね。そろそろ時間だし」
そう言ってシュバルと言う人物は虚空に溶けるように消えていった。話していた時間は10分ほどに感じたのだが、実際には既に夜になっていた。私はしばらく呆けていたが、家に帰ることにした。
次の日。
再び暴力やイジメを耐えて、私は昨日と同じ公園にいた。しばらくすると昨日と同じように隣のブランコにシュバルが現れた。
「ふふっ、どうかな? 見つかったかい?」
昨日1日、しっかりと考えた。考えた結果、答えは出た。
「私の、守りたい人は......お母さん。お母さんを、助けてあげたい」
たった1人の大切な人。
私に愛情を注いでくれる唯一の人。私を守ろうとしてくれるたった1人の優しい存在。
でも最近は疲れ果てた顔で、昨日までの私と同じ顔をしていた。自殺を考えている顔だった。
「そうだね。君が守るべき人は母親さ。それに気付く事ができた君に、僕は少しだけ手を貸してあげよう」
そう言ってシュバルは光る玉のようなものをどこからか取り出して私に渡す。
それは受け取ると体に吸い込まれるようにして消えていった。
「これ、は......?」
なんだか心の奥から何かが湧き上がる感じがする。
「それはね、勇気さ。君の本当の強さはまた次に会えたら渡す事にするさ。今の君にはそれだけで十分なのさ」
そう言ってまた消えていく。しかし、昨日とは違ってもう2度と会えなくなるような、そんな感じがした。
「また、会える?」
「ふふふ、また会えるさ。次に会う時まで僕の事を覚えていてくれてたら嬉しいんだけどね」
こんな非人間的な事をする人を忘れられるだろうか。
一生忘れられないと思う。
「またね、西宮明日香さん」
そう言って消えていった。
私は立ち上がって、走り出した。お母さんの元へ。
お母さんはこの時間ならパートが終わる頃だ。働くスーパーに向かう。
スーパーの前で、これから帰るお母さんを見つけた。
「お母さん!」
私はギュッと母に抱きつく。傍から見れば中学生がお母さんに抱きつくなんてマザコンかと思われそうだがそんな事、知ったことではない。
お母さんは私が来たことに驚いたようにこちらを見た後、優しく抱きしめてくれた。
「どうしたの? 今日のご飯は、何がいいかしら?」
いつものように優しいお母さんだ。
しかし、今日はある人に文字通り『勇気』を貰ったのだ。あれ? 誰だっけ。まぁ、いいかな。
「もう、2人で暮らそう! 私も、頑張るから!」
お母さんはしばらく呆けていたが、私をさらに強く抱きしめて、泣きながら答えてくれた。
「ごめんなさい、ごめんなさい。明日香も、苦しかったよね......。本当は私から言わなきゃいけなかったんだけど、明日香は、いつの間にか大きくなったのね......」
「うん......」
「明日香、ありがとう。おかげでお母さんは勇気出たわ。もう、変なこと考えたりしないわ。これからは2人で頑張りましょう」
その日のご飯は生まれてから1番美味しく感じた。
この時食べたお母さんの得意料理、親子丼は今後ともお世話になるのだ。大好物になった。
次の日から、2人で新しく家を借りて過ごした。
問題の父は、お母さんが虐待で訴えたのだ。
その事はすぐに認められて、父は私とお母さんに近付く事が出来なくなった。
学校ではイジメは相変わらず続いていた。
それでも、私は負けなかった。
そして、高校生になった。私の体の傷は、完全とまではいかないけど気にならない程度にまで無くなった。
お母さんも、私と2人暮らしをするようになってから、すっかり元気になって今では楽しく暮らしている。
高校は中学の人達とは離れたところへ進学した。
そこでは、私ではなく他の人がイジメられていた。
何故だろうか? いてもたってもいられなかったのだ。ただ見ているだけなんて、共犯だ。
「やめなさいよ」
それからは私も一緒にイジメを受けることになったが、苦しくなかった。助けることが出来た。ただそれだけで勇気を出して良かったなと思えたんだから。
時は流れて28歳。私は死んだ。
その時、またシュバルに会えたのだが私は彼を覚えていなかった。思い出したのはまだまだ先の話......。
「アスカ......じゃあ、アスカは違う世界の人なんですか?」
「まぁ、そう言うことになるかな。それにしても異世界出身だなんてよく信じられるね......」
「信じますよ。アスカですから」
そんなニコッと微笑まれても......
「では、アスカはそのオヤコドンを作りたいのですね!」
「えぇ、そのためにはコカトリス狩りに行かないといけないのよ」
コカトリスの依頼等はギルドにあるそうなのでそこで受けに行こうかと思う。
「私も、ついて行ってもいいですか......?」
「え? あ、危ないよ?」
それなりに危険って、娘さんも言ってたし普通は連れて行くことはできないのだけれど、追われている身では1人にすることなんて出来ない。
それに、恐らくだけど私の近くにいるのが1番安全だと思う。
「だ、大丈夫です! アスカの邪魔にならないようにしますから!」
うーん、どうしようか。
お城にさっさと帰して1人で行こうと思ってたんだけどな......。今のこの状況じゃあね......
こうなったら仕方ないかな。いざとなったら私が全力出せばいいだけだろうし。
「無理しないでね? 本当に危なくなったら私を置いて逃げること。後は......これを」
そう言って私は魔法を発動する。
この魔法は一種のマーキングタイプで、この魔法を相手に使うことでその人の居場所がどこにいようともわかると言う迷子対策用だ。
リサーナには黄色のマーキング魔法を使う。
「べ、別に迷子になったりしませんよ!」
おや、この魔法は魔法の放つ波のようなものをキャッチしてどこにいるのか分かるようになっているのかな。超音波みたいな感覚がする。
「念のためだよ」
夜も更けてきて、リサーナが欠伸をする。
リサーナはどこでも寝れそうで、椅子に座ったままスヤスヤと寝息を立てはじめた。
リサーナをベッドに寝かせながら私は変装をどうするか悩みながらコカトリスを狩ることにワクワクしながら朝が来るのを待った。
コカトリスを......狩るっ!




