11話 第三王女、リサーナの秘密
「あぁ! まさかすぐに会えるとは! アスカ!」
「えぇ、そうね。昨日ぶりね、リサーナ」
抱き合う2人を見て娘さんもオジサンも奥から出てきた店主さんも驚いて口をぽっかりと開けていた。
「リサーナ様! そんな格好ではしたないですよ!」
お婆さん店主が我に返ってリサーナを注意する。
よく見るとリサーナは下着姿に1枚軽く羽織っただけの格好だ。
オジサンの方は娘さんがいつの間にか目潰しに成功していて、目を抑えて「うおー! 目が、目がぁ!」って転げ回ってる。
「ご、ごめんなさい。今すぐ着替えてきますね」
恥ずかしそうに体を隠してリサーナは奥の試着室に入っていった。
店主のお婆さんも申し訳なさそうに頭を下げてリサーナに着いて行った。
「それにしてもよ、嬢ちゃんリサーナ様と知り合いだったのか?」
いつの間にか復活したオジサンが聞いてきた。まぁ、気になるわな。第三王女様を呼び捨てで呼び合う仲とか気にならないわけないもんね。
オジサンの隣で娘さんも知りたそうにコクコクと頷いていた。
「えっと、昨日―――」
昨日の出来事について軽くだけど話した。
「なるほどなぁ、嬢ちゃん初日から大変だったみたいだな! でも、怪我が無くて良かったぜ」
「そうですね、危なかったですよ」
2人して心配してくれるなんて......
なんで昨日今日会ったばかりの私にこんなに優しくしてくれるのだろう。まぁ、一期一会とも言うしね。そこら辺は好意を受け取っておこうかな。
そんなことを話していたらリサーナとお婆さん店主が戻ってきた。
「さ、先程は失礼しました。次はコロンの番ね。貴女ならどんなドレスでも似合うと思うわ」
リサーナと娘さんの雰囲気を見ていると仲良さそうなんだよね。この2人は友達みたいな感じなのかな。
「わ、私はこれで失礼します。――アスカ、ちょっといいかしら」
後半は私だけに小声で言ってきたので私以外には聞かれてない。軽く頷いて一緒に外に出る。
オジサンと娘さんはしばらくかかるそうだ。
「ねぇ、アリサ? 2人だけの時くらいフード取ってくれないかしら?」
今は2人きりで服屋の近くにあったカフェの個室を借りている。
「別にそれくらいならいいけど」
最近フードを被っているのが邪魔になってきたので誰もいない場所などではちょくちょく取っていたりしている。
「綺麗......」
「そう? リサーナも可愛いわよ?」
この世界に来てから同じ年頃の女性はまだ娘さんとリサーナくらいしか出会ってないのでこの世界の標準がわからないのだが、私の前世では確実に美人や可愛いと言われるレベルだ。
どこが醜女なのかわからない。
「か、可愛いだなんて......お世辞でも嬉しいわ......」
耳まで真っ赤に染めてボソボソと言っていた。
うむ、可愛いじゃないか。
「そう言えば、どうしてあそこにいたの?」
これが聞きたかった。オジサンが言うにはあそこの服屋は貴族、ましてや王族が来るほどの場所ではないらしい。
「......」
俯いたまま黙ってしまった。聞いちゃまずいことだったかな?
「ごめんなさい。言いたくなかったら言わなくていいわ」
「違うの! ただ、私のことを聞いたらアスカまで......」
「私は別にどんなリサーナでも大丈夫だけど......?」
何か深い理由でもあるのだろうか。
私は前世では中学生の時にイジメられていた事があった。それが悔しくて高校生になってからはイジメられてる子を庇ったりしてた。まぁ、イジメっ子はそんなやつ気に食わないから私はまたイジメを受けたんだけどね。
そんなこともあったからか、私のメンタルは結構強い方なのだ。リサーナが本当は魔物だった! とかでも全然大丈夫だと思う。
「そう......。で、でも! もう見たからわかるでしょ......?」
なんだその上目遣いは......! なんか私が悪いことしちゃったみたいな罪悪感が湧いてくる。
そんなウルウルした目で見つめないでくれ!
可愛いのにそれはずるい!!
「見たって、何を?」
可愛さにノックアウトされそうになりながら答える。
実際リサーナが何を見られたのか私でもよくわかっていない。
「何をって......は、裸よ裸! さっき服屋で見たでしょう!? 私の裸を!」
「あぁ、大丈夫。私は見てないから安心していいよ」
うむ、見てないのだ。一枚だけ羽織っていた布に隠されて何も見えなかったのだ。
ただ、スラリとした痩せすぎなくらい細い体なのは抱きついた時にわかったが。
「そ、そうなの......? でも、また見てくれるかしら......?」
はて? この子は何を言い出すのだろうか?
裸を見てくれ? 私、女ですけど?
「べ、別に変な意味とかじゃないわよ! 私の秘密を知って欲しいって思って......」
「秘密?」
「私が、醜女と呼ばれる所以よ......」
そう言ってリサーナは服を脱ぎ始めた。
ここは個室で女が二人きりで片方が脱ぎだすと言う、なんとも危ない光景である。
しかし、目に入ってきた物に私は絶句した。
「これはっ......!?」
リサーナは先ほど服屋で会った時と同じく下着姿で私の前に立っている。
リサーナの体にはたくさんの痣や傷があった。
しかし、最も目を引いたのは下腹部に押された烙印。
「これは魔族を封印する魔法の烙印なの」
「魔族を? 封印?」
考えていた事がズバリ当たった事よりも斜め上を行きすぎて正直驚いた。
「私は、魔族の力を持っているの」
下着姿が恥ずかしくなったのか再び服を着始めた。
それからリサーナから少し話を聞いた。
リサーナは何故か魔族の力を持って生まれため。危険な存在として力を封印されたと言う。
しかし、幼少期はその力を完全に抑えることは出来ずに半人半魔として隔離されていたそうだ。
そして成長してようやく力を抑えられるようになり人間として生きれるようになったものの、リサーナが半人半魔と言うことは誰しもが知る事実となって広まっていた。
母親はリサーナを産んですぐに死んでしまい、腹違いであるが王族と言うことで城には住まわせてもらっている。
だけど、そこでは使用人や兄妹達からの過激なまでの暴力暴言で精神的に疲れ果てていたそうだ。
それでも元気を出して孤児院の子供達や街の一部の人々とは打ち解けている。それは一重にリサーナの努力の賜物と言っていいだろう。
そして昨日、初めての友と呼べるような不思議な存在、アスカ・ニシミヤ。私と会ったそうだ。
「こんな私でも、アスカは近くにいてくれるかしら......」
服を着直したリサーナは自身無さそうに聞いてきた。
きっと何度も何度も断られて、拒絶され続けたのだろう。
でも、そんな事私には何も関係ないからね。
「言ったでしょう? 私はどんなリサーナでも大丈夫だって。魔族が何よ、リサーナは人間じゃないの? そうでしょう?」
その言葉を聞いてリサーナはキョトンとした顔をした後、目から涙を零した。
「うっ、ぐす、わ、わたじはぁ、アズガの側にぃ、ぐすっ、いでもいいの?」
顔をグシャグシャにしながら聞いてくる。
側にいることが確定事項なのかはこの際、野暮だから置いておこう。
「可愛い顔が台無しよ? 何度も言わせないでちょうだい。私はどんなリサーナでも受け入れてあげるわ」
それを聞いたリサーナは泣きながら私の胸に飛び込んできた。
「ありがとう、ありがとう......!」
泣き止むまでしばらく頭を撫で続けてあげた。
「そろそろ離れてくれるかしら?」
「嫌よ! アスカからは離れたくないもの!」
即答で返された......
困ってしまった。泣き止んだのはいいのだけれど幼児退行のように私にとことん甘えてくるようになってしまったのだ。
リサーナは年齢の割にはものすごく細いし、王女なのに護衛の1人も付いていないと言うことでなんとなくリサーナの現状を察することは出来た。
「ねぇ、アリサ」
「何かしら? そろそろ離れる気になったかしら?」
言いたいことは大体わかっている。
助けてくれ、と言われたら助けるだろう。でもリサーナは今まで何度も誰かに助けを求めたが、助けられた事がないからどうすればいいのかわからない感じだ。それに部外者である私を巻き込んでいいのかと言う葛藤もあるそうだ。
そんな事気にせず、『助けて』と、そう一言言ってくれるだけでいいのだが......。
正直なところ、私自身リサーナを気に入っているからだ。
「今日も、お城へは来てくれないの?」
「残念ながら私はこれから滞在する場所を探さないといけないのよ」
「じゃあお城――」
「お城は嫌ね」
リサーナは可愛く頬をぷくーと膨らましているが、どうしてめんどくさい事が起きることが確定しているような所へ自ら足を運ばねばならないのだ......
そんな時、リサーナのお腹がきゅるるる〜と鳴る。
「お腹空いたの?」
リサーナはお腹を抑えて真っ赤になって答える
「あ、朝ごはんがまだだったのです!」
もうお昼の時間なんだけどなー。
「好きなの頼んでいいよ」
ずっとカフェにいるのに何も頼まないと言うのは邪魔なので何か頼むことにした。私は食べないけどね。
私は何故かお腹が空かないと言うか空腹感が無いのでなにか食べないと死んでしまう、とか無いから平気だけど流石にいつまでも食べないでいるというのは生きている感じがしないのだ。
食欲があるという事は生きていること、とか聞いたことあるから早く自分で作らないとなのだ。
リサーナは口いっぱいに入れて食べながら喋り出した。
「じゃあアスカはこれから宿屋探しなのね? 私も手伝ってあげるわ!」
どうしよう、すごいやる気だよこの子。
「大丈夫よ、1人で出来るもの。後、口に入れながら喋らないの」
そう断ったのだが、
「うっ、ぐすっ、ぐすっ」
えー、泣き出しちゃったよこの子ー!
しかも泣きながらこっちをチラチラ見てくるの、これ絶対嘘泣きだよね!?
「はぁ。しょうがないわね、じゃあ宿屋探し手伝ってもらえるかしら?」
「もちろんよー!」
うわ、一瞬で元気になっちゃったよ。
結構頼んだ食べ物がすごい勢いで無くなっていく。リサーナの細い体のどこに入っていくのか不思議な量だ。
でもまぁ、街の人と仲が良いらしいからすぐに見つかるといいな。




