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最強魔女さんの混沌とした日常  作者: クリオネ
第三章
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第101話 試行錯誤と鬼コーチそれと不死身の兄ちゃん

まだ平成...なんて思ってたら令和になっちゃいましたね。


 バチィッ! という激しい音を鳴らし、地面に焼け焦げた魔物の死骸が転がる。


「うーん、ここの配列が違う......のかな?」


 空中に浮かぶ魔法陣の一部を消して書き直す。

 私の目の前には、半径2メートル程の円の魔法陣を数えきれない程浮かばせ球体のようになりつつある異形と化した魔法陣が浮かんでいる。その中心には、迷宮(ダンジョン)から持ってきた瀕死の魔物。片腕と片眼を奪った状態で浮かせて......いた。今では無残にも暗黒料理のような姿になってしまっている。一体どこのどいつがこんな惨いことをするのか!!

 ......なんて、こんな茶番をしている暇はなく、あの宣言をしてから二日が経った。


「もお〜〜〜〜! 全っ然、出来ないんだけど! あんな事言った手前、パンデミアさんには頼れないし......でも簡単には諦められないし......」


 半分泣きながら再度挑戦してみるも、やはり黒焦げになって終わる。やはりゼロから作り出すと言うのは無謀な話だったのか、一向に成功への糸口が見つからない。このままでは私のせいでステラが......と思う度に焦燥感に煽られ思うような結果が出ないと自覚はしているものの、頭では分かっていても時間は待ってはくれない。


「下手な鉄砲数打ちゃ当たる、なんて言うけど、的の正反対を狙ってたらいつになっても当たる訳ないから、少し考え方を変えないと......」


 そんな時、異界に誰かが入ってくる感覚をキャッチする。


「お邪魔するわね〜」

「サキア? どうしたの、もしかしてもう......?」


 いつもは自分の部屋と称する書庫に引き篭もっているはずの妖精、サキアが気の抜けるような挨拶と疲れ切った様子の表情と共にフラフラと飛行しながら向かってくる。


「それはまだもう少しかかりそうだけど、なーんかテリアが面倒事に巻き込まれてたから伝えに来ただけよ。みんな出払ってるみたいだからね」

「そうなの、ふーん」

「だから今は外に出ない方がいいわよって言いに来ただけ。全く、私を伝書鳩代わりにしやがって......って、それにしてもまた何かやるつもりなの? うわっ、何このめちゃくちゃな魔法陣......」


 どうやら何かしらあったようだ。愚痴を零しながら帰ろうとしたサキアだったが、空中に浮かぶ魔法陣が目に映るとすぐさま側へ飛んで行き、まじまじと観察を始めた。すると、パッと見ただけで理解したようで、酷いものを見たような顰めっ面をした。


「そんなに変なの......?」

「当ったり前じゃない! 酷いったらありゃしないわよ!? まず、基礎の基礎がなってないわね。儀式とかに用いられる魔法陣は最初に必ず魔力がキチンと通るように道を作ってあげなきゃいけないの。それが出来てないと、効率良く魔力を対象物に流せないの。このままだと2割くらいしか届いてないわよ、この魔法陣だと」

「ほんとに?」

「マジで!」


 これは盲点だった。以前治療魔法に関してはからっきしだと言ってたため相談する相手から除外していたが、サキアは本の虫だし、長い年月をかけて培われた魔法技術全般を持っているんだった。そうだ、サキアに相談するべきだったんだ!


「......2割しか通らないくせになんでちゃんと効果発揮するのかしら。不思議だわ......」

「サキア、いいえ、サキア師匠!」

「は? 何よ急に改まって。そ、それに師匠だなんて......」


 私はその時、人生で最も綺麗な土下座をした気がする。


「お願いします、私に、魔法を教えて下さい!」

「え、えぇ!? ええええ!? と、とりあえず頭を上げて......」


 頭を勢い良く上げると、慌てている様子のサキアをじっと見つめる。とにかく今はなりふり構っていられる状況ではないのだ。ここで断られたらまた一からスタートすることになってしまい、到底間に合いそうにない。何がなんでもサキアの知識を分けてもらうしかないのだ。


「別にそんなに必死に頼まなくても教えてあげるわよ? それよりも、本で読んだことあったけどまさか本当に土下座なんてする人がいたことに驚いているわ......」

「サキアありがと〜!」


 よっしゃ! と心の中で盛大にガッツポーズを決めつつ、小さなサキアを両手で抱きしめながら頬擦りを繰り返す。


「ちょ、ちょっと離しなさい! ほら、時間無いんでしょ? 私は治療魔法は知識しかないから、魔法陣の基礎とかしか教えられないけどいいわね?」

「もちのろん! 今度必ずお礼するから!」


 「甘味がいいわ!」といいながら私の作った魔法陣の元まで飛んで行くと、指を一つ鳴らして魔法陣を全て消し去ってしまう。

 あぁ、私の血と汗と涙の結晶が......。主に魔物の血だけどさ。

 サキアはくるりとその場で一回転すると、まるで最初に見たアルテリアさんのような、女教師の格好をしてゆっくりと話し始めた。私は三角座りだ。


「そもそも、魔法は長い間積み重ねる程精度は上がるものなの。それは何事にも通ずるわね。魔力を素に、現象を引き起こす事が魔法。空気を取り込んで火を起こしたり、風を動かしたり、空気中の水分を集めたり凍らせたり......魔法には無限の可能性が秘められているの。でも、その可能性の根源は全て、誰が使おうが魔物が使おうが、等しく魔力である。そこで人は考えたわ。ヒト一人の力は微々たるものだが、それらが合わされば?」

「強大なものになる?」

「そう。だけどそう簡単に合わせられるものじゃあないの。魔法の発動するタイミングや、魔法に注ぐ魔力まで、全て合わせてくれるのが魔法陣ってわけ。そこからの進歩はあっという間ね、わずか数年で完成させちゃったのよ、信じらんないわ」


 サキアは呆れたように、やれやれ、と肩を竦める。

 数年ってそんなに早いものなのだろうか? 私の中でふとした疑問が浮かぶ。魔法陣と言う概念そのものが無い状態から、魔法陣を作り出すなんて、私なら数日あれば出来そうなものだが。


「それってそんなに早いの?」

「早いに決まってるじゃない。魔法陣は魔法業界における技術革新なの。技術革新なんて普通は百年近くかけて、それこそ人の一生をかけて生み出すものなのよ? それを数年って......冗談もいい所よ。

 どーせ、アスカの事だし、私なら数日あればできる! なんて考えてるんだろうけど、アスカの魔法陣、さっき見た限りだと独りよがりすぎて使い物にもならないわよ? まぁ、数日であそこまで複雑化させるのもある意味凄いんだけどね」


 考えていることを読まれていたようで、堪らなく恥ずかしい気持ちになる。


「とまぁ、話が逸れちゃったわね。じゃあ、まずは基礎の基礎から始めるわよ!」

「お、お願いします......」












 体感にして三日、実際には五時間。サキアによる『ドキッ! 魔法だらけのワクワク教室! ~魔法陣基礎編〜』が終わり、なんとか治療魔法に使える魔法陣が編成された。以前の私のような複雑かつ乱雑な巨大な魔法陣ではなく、スッキリとした、隙間に縦収納出来そうなくらいコンパクトに作られた三層構造の魔法陣が微かな光を放ち空間に浮かんでいた。


「これで、アスカのやりたかった事は出来ると思うわよ。でも、所詮こんなのはその場しのぎの急拵えに過ぎないわ。だから、アスカの言ってた事にしか使えないだろうけど、十分よく出来てると思うわ」


 そもそも、魔法陣に用途は一つしか組み込めないそうだ。私は二つのことを同時にやろうとしたため、あのように失敗したらしい。愚かな。

 それに、治療魔法に限らず魔法全てに通ずる事だが、無から何かを生み出すことは不可能であり、我々の魔法はすべて魔力を素に生み出されているもの。断じて「奇跡」などでは無い。

 そのため、目を作るには目の材料、腕には腕を、と適正な元となる材料を用意しなければならないと言う。

 そして魔法陣を扱う際に最も大切なのが、「触媒」と言われる魔力を交差させる重要なアイテムである。


「触媒は、これが一番適してると思うわ。彼女の魔力も一度通ったことがあるのでしょう?」


 サキアが腰をかけ、尻に敷いた物をポンポンと叩く。

 それは、いつぞやの魔力を通すと光を纏いながら回転する独楽であった。



 触媒として適しているのは、被験者(ここでは治療魔法の対象)と実験者(魔法陣に魔力を注ぐ側)の魔力が通った物が触媒に適している。普通は、触媒専用のクリスタルを使い一度全員の魔力を少し込めるのだが、今回はステラとアスカの二人のみなので、二人が魔力を込めた物で代用が効く。

 初めは、サキアも知っているイヤリングで済まそうとしたのだが、アスカ本人が断固拒否したため独楽になった。一度でも通してしまえば触媒として使えるのだが、何度か使うと耐え切れずに壊れることがあると聞いた瞬間、アスカは絶対に譲らなかった。


「後は、実際に必要な物を揃えるだけね。でーもー! これはあくまでも代用品。最低限のものしか治せない。それを肝に銘じて使いなさいな。無理をしたら対象物はまた黒焦げになるからね! 分かった!?」

「もう、何度も聞かされたよ。分かってるって、絶対に設定した以上のことはしないよ。サキアの顔に泥を塗るようなことしたくないもん」

「あっそ、分かればいいのよ。それじゃぁ実際に使ってみたら結果教えてね〜、ふぁ〜あ......」


 サキアは大きな欠伸をした後、眠そうに目をこすりながらフラフラと出て行こうとする。結果は見ていかないのだろうか? そう訊ねると、「無理、寝る」と簡潔に答えて帰ってしまった。

 後日聞いたところによると、本妖精の大きな括りである妖精と言う種族は、魔力総量はそこまで多くはない種族なんだそうだ。そりゃあ人間よりも体が小さい上に飛ぶために身軽でいなくちゃあならないからね。それは体力も同じで、長時間の魔法の行使と説明による披露の蓄積で眠くなるらしいのだ。中には一度疲れたら数週間寝続ける寝坊助がいるらしい。だがサキアは人間と同じくらいで5、6時間で目を覚ますらしい。


「さて、後は独楽が壊れないくらいの簡単な練習してから、本番だ......その前に素材調達しないとなーっと」

















 まともな明かりが無いが、微かな魔力光だけが揺れる不気味な研究室。その中の一つの培養層に手をついて中にいる少女に声をかける青年がいた。


「待ってろよ、必ず、兄ちゃんが助けてやるからな......」


 戦闘に特化した亜人種並の身体能力を持ち、血を得る事で無数の姿に成り代わる事が出来る古代の魔王。果てしない数の眷属を引き連れて顕現するその姿は正に、「夜の王」に相応しい姿である。

 しかし、それも昔の話で、ここにいるクレイスは人間と吸血鬼(ヴァンパイア)の血が混じり合った半端な存在のため、吸血鬼の劣化種、吸血種と呼ばれるものに当たる。それでも、そこら一端の魔物如き敵ではない強さを持っている。


「こんな力なんて無かったら、今は普通に過ごせていたのか? なぁ、誰か教えてくれよ......答えてくれよ、エレモス......」


 クレイスの問いに返答するように、ゴポッ、と音を立てて泡が浮かんでいく。虚しく消えた返答にクレイスは寂しそうな表情を顔に浮かべる。しかし、次の瞬間には険しい顔付きに豹変し、研究室の入り口を睨み付ける。


「何の用だ、変態野郎」

「あーらら、バレてーら。兄妹の感動の再会を邪魔しちゃって悪いねぇべネティック。おっとすまねぇな今はバルチックって名乗ってんだっけ? それに、俺に変態は褒め言葉だぜ?」

「今更偽名を使った所で意味は無い。まだ出発まで時間はあるはずだろ? それともなんだ、茶化すためだけに来たのか......アッガノーツ」


 そこにはイヤらしい笑みを浮かべた黒装束の男が立っていた。アッガノーツ・オペーク、その人である。


「ちょいと薬取りに来ただけだ。あんたら兄妹の邪魔をしに来た訳じゃあねぇ。ほれ、見てくれよこの右腕。真っ黒けっけだろ? 炭化してから全然良くなんなくて困ってんだわ」

「チッ、さっさと死ねばいいものを......」

「あれー? あれれー? なんか凄い悪口聞こえた気がするだけどなー? ......しょうがないだろ、なかなか死ねない身体なんだからよ。まぁ、でも今回ばかりは死んだかと思ったけどな」


 何を隠そう、この男アッガノーツ・オペークはパンデミアとの闘いで炭になるまで焼かれた男なのである。脅威の回復力と化け物じみた精神力で軽口を叩けるまで回復したのである。


 薬を適当に物色し乱雑に口に放り込んでボリボリとラムネを食べるかのように摂取するアッガノーツ。その彼が不意に、クレイスに訊ねた。


「なぁ、もしもお前は妹さんが元気になったらネイに復讐するのか? それとも、そのまま消えるのか?」

「なんだ藪から棒に。変な薬でも飲んだんじゃないのか?」

「まぁ、そうかもしれんが、ちょいと気になってな。俺はこう見えても義理と人情には厚い男なんだ。なんだかんだ言っても俺はお前を気に入ってるんでな」

「......」


 クレイスが思考に耽り、考えを纏めて口に出そうとした瞬間、アッガノーツはそれを遮るように口を開いた。


「ただの疑問だ、ギモン。俺はネイの考えに賛同して従ってるがお前は違ぇ。なら、他の道も色々と考えてもいいんじゃねぇか? そんな事言われなくても分かってるって顔してるけど、お前は、お前達は縛られて生きる存在じゃないだろうよ。まぁ、俺らより数倍長生きしてるんだ、自ずと答えは出てくるだろうよ」


 そう言ってクレイスの答えも聞かずに後ろ手を降って研究室を後にしたアッガノーツの背を見て、彼の言葉を頭の中で反芻させるクレイス。


「自由に生きてみる、か。時々アイツを羨ましく思う時があるんだよな......」


 先程の寂しそうな表情は影も見せずに、どこか晴れた様子で培養層の中で浮かぶ少女に話しかける。

 クレイスは深く呼吸を整え、入り口に立てかけておいた大きな両手剣を背に担ぎ研究室を後にした。






「世話を焼かせやがって、俺らより年上つってもまだまだガキじゃねぇか」


 その様子を気配を絶っていたアッガノーツが覗いていた。アッガノーツは誰もいなくなった研究室で一人ボヤいていた。


「復活早々激務が待ってるとか、俺ってば働き者だなぁ、涙出ちゃうぜ。それに加えてアイツらの鍛錬と......俺ちゃん死にそう! 死なねぇけど! ......努力の天才だなんて言われたら頑張りたくなっちゃうもんね。次こそは先輩ちゃんをギャフンとね、言わせてやらないと、なっ!」


 そう独り言を呟くと、どこか嬉しそうにして闇に消えた。












 そうして、ウィルガルムのあの一夜より七日が過ぎたある日、遂に明日香達に吉報が報せられた。


「やぁっと、見つけたわよ! リサーナちゃんの行き先!」


 

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