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最強魔女さんの混沌とした日常  作者: クリオネ
第三章
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第97話 罪と罰

お待たせしました! かれこれ1ヶ月ぶりだなんて嘘ですよね?


 あれから、二日経った。

 あの後、アルテリアさんから事後処理の関係で様々な手続きがあるとの事で、「先に帰ってていいよ〜」と言われたので校長室 ──アルテリアさんの自室── に帰ることにした。精神的疲労が大きく、私自身も休みたかったため帰りは寄り道せずに帰った。寄り道出来るような状況じゃなかったってのが本当だけどね。

 アルテリアさんの顔には「私も帰りたい」とでかでかと書いてあったが、見なかったことにした。王族側の説得は骨が折れるだろうね。


 帰ってからは、ステラをベッドに寝かせてそのまま私も倒れるように眠りについた、らしい。らしいと言うのは、ラ・ビールから教えてもらったからだ。ステラを寝かせてからの記憶が無かったので訊ねてみると、微笑みながら「かわいらしい寝顔でしたよ」と言われた。


 そしてその問題のステラなのだが......。


「まおー」

「ん? どうしたの?」

「......なんでもない。呼んでみただけ」


 私の右手をギュッと握り、トロンとした目でこちらを見つめるステラがいる。





 私が目を覚ましたのは、また昼過ぎだった。横で眠るステラを起こさないように起き上がり、隣の部屋にいるラ・ビールとレヴィに欠伸混じりの挨拶をした。


「おはよ、もうお昼?」

「おはようございます、今は昼を少し回った時間ですよ。こちらをどうぞ」

「ん、ありがと」


 この時間に起きると知っていたと示し合わせたかのように出されたマグカップ。そこには薄らと湯気が立ち上る白湯が入っていた。

 いつもなら一番に飛び付いてくるレヴィだが、今日は部屋の隅で正座をしていた。何か悪いことを仕出かした罰でも受けているのだろうか?


「レヴィは、何やってるの?」

「ふふーん、聞いて驚け! これはパンデミアから貰った......えーと、えっと......」

「魔力制御潤滑陣、だ」


 何やら一汗かいてきた様子のパンデミアさんが窓から入ってくる。何してんのこの人。


「そう! それだ! なんとな、この中にいるだけで元に戻れるという画期的なモノなんだよ!」

「へぇ、凄いじゃん。どのくらいで元に戻れるの?」

「さぁな、何しろお試し品だ。実験段階に他ならんよ。アスカが少し手を加えてくれれば完成に近付くかもしれんがな」


 レヴィが魔力制御潤滑陣と言う名の魔法陣の真ん中に座ると、描かれた術式が発動し実際にレヴィの詰まっている魔力の流れが少しずつ良くなっているのが分かる。

 元に戻る、という事はロリレヴィを見れなくなるという事なので私的には少し寂しい。でも本人が元に戻りたがっているんだから出来ることならいくらでも手を貸す所存だ。


「うん、後で見てみるよ。ところで、ステラなんだけど......」

「傷という傷は全て癒しましたよ。内臓の方も問題ありません」

「ほんと? いつもありがとうね、ラ・ビール」

「いっ、いえ! 従者として契約した身、アスカ様に喜んでもらう事が一番の幸せですから! その、あ、頭を、撫でてもらえませんか......」


 珍しくラ・ビールの方からおねだり。これでもかって言うくらいの勢いでラ・ビールを撫で回していると、レヴィが突っ込んできた。この子は長時間同じ場所でジッとしているなんて一番の苦手分野だもの、やっぱり元に戻るにはもう暫し時間がかかるだろうね。レヴィも同じように撫で回した。


 撫でから擽りへとシフトチェンジしてレヴィが悶えていると、ラ・ビールが深刻そうに話し出した。


「ただ......ステラさん、時々泣いてたり、夢にうなされてたりするんです。それが心配で......」

「知らなかった......」

「そりゃそうだろう。泣く時はいつも、お主が眠りについた後や嘘を吐いてその場を離れた後だからな。うなされるようになったのはここ最近だがな」

「そうだったんだ......」


 パンデミアさんは誰よりも人のことを見て、気を遣ってる。そこら辺も、魔王、民を率いる者君臨者として備わった素質なのだろう。


 それに引き換え、私は目の前の一つの事しか目に入らない。ダメだな。こんなんじゃ、みんなを守れやしない。リサーナだって、ステラだって......守れない──

 私はその場で自分の顔を思いっ切り両手で叩く。


 マイナスな事を考えている場合じゃない。素質なんか関係ない。私は私に出来る事を精一杯、与えられた力を最大限に活かして出来ることを一つずつやるだけだ!


「よしっ!」

「ふん、少しばかり遅いぞ?」

「いーの、私ってば人間やめた訳じゃないですから。ただの魔女ですから」

「その冗談は流石に無理があるぞ......」

「魔女は普通、戦闘能力ありませんし、通称薬師ですからね......」


 なんか、みんなの顔に「有り得ない」って書かれてる気がするけど事実なんだからしょうがない。


 まず最初にやる事は、サキアに頼み事をしてこなければ。その後も必要なものを購入して───









 見るからに不審者のような格好をしながら、アルテナ商会で買い物をしてきた。こんな状況でも物資を大量に用意してあるアルテナ商会の規模の巨大さを思い知らされた。復興の作業に瓦礫の撤去があるが、それは人ではないゴーレムのような機械兵らしきものが行っていた。あれはなんだったのだろう......。


 帰宅してステラの様子を見に行くと、扉を開けた瞬間にステラが飛び付いてきた。

 何事か、と思い顔を覗くと、目からは大粒の涙が零れていた。涙を流しながら「ごめんなさい、ごめんなさい」と何度も何度も謝り続けていた。

 ステラは何も悪くない。悪いのは犯人と、ステラが自暴自棄になるまで追い詰められていた事に気付けなかった私が悪いのだ。

 ベッドに移動して、ステラが落ち着くまで思う存分抱き締めた。


 暫くすると、泣き疲れたのか膝の上に頭を置いて心地よい寝息を立て始めた。扉の向こうに二人、聞き耳を立てていたが、誰かが二人を捕まえて連れて行ってくれたみたいだ。後でさっき購入したお酒を振る舞ってあげなくちゃね。

 この日はそのまま眠りについた。ステラが服の裾を握り締めてて動けなかったからね。




 次の日、ステラが笑顔になった。一人足りないが、みんなが元気に笑ってくれているだけで私は嬉しい。だがしかし、私は現状に満足していないのだ。何故かって?


「お風呂に、入りたい!」


 三者三様と言う言葉があるが、私の言葉に対しては三人がみな同じ反応を示した。


「「「 ? 」」」


 ステラは知ってるはずだろうけれど、おそらく「なぜ?」の意味だろう。


「蒸気風呂とは違うものか? 確か古い文献で読んだが、水を沸かしたものに入るのだろう? 手間もかかるし何より効率的では無いではないか。それに先日も同じようなものに入ったではないか」

「プールは風呂じゃない......」


 パンデミアさんの言う蒸気風呂とは、蒸し風呂と同じようなもので、火魔法の魔法陣が付与され熱々に熱された大きな石に水をぶっかけ、その蒸気で浮かぶ汗を布で丹念に拭き取ると言ったこの世界での一般的な風呂だ。

 一般的、とは言っても、そもそも魔法効果を付与(エンチャント)された道具と言うのが高価で、それなりに稼いでいる限られた人物しか持っていない。この前の水遊場のように、蒸気風呂を提供する風呂屋は帝都内に数店舗あり、冒険者達に大人気だ。



 だが私の中で風呂と言ったら「温浴」なのだ。





 という訳で、やって来たのは異界(アナザーワールド)。目の前には速急に作ったため大雑把であるが十数人は余裕で入れそうな大きさの浴槽が!


「全く話が読めないんだけど......?」

「な、何よこれ......」

「まぁまぁ、まずは身体を流してね」


 パンデミアさんをお酒で釣り、激務に追われるアルテリアさんを無理やり拉致......もとい癒してあげるために呼び出し、ついでにサキアも連れ出してきた。


「泡! もこもこ!! なんだこれ!?」

「ほらジッとして、洗ってあげるから」

「......私はまおーを」

「あっ、私も洗いたいです」


 この世界にも石鹸はあるようで、しっかりと泡立たせて今にでも飛び込まんとしているレヴィの全身をくまなく洗う。特に鱗の部分なんかはしっかりと磨いておいた。古い鱗は生え変わると言っても、やはり綺麗にしておきたいものだ。

 レヴィの身体を洗っていると、背中に二つの感触が。ステラとラ・ビールだ。


「はいはい、順番順番」

「む」


 レヴィは泡を流した瞬間、大きな浴槽に飛び込んだ。今は楽しそうに泳ぎ回っている。

 次にステラを私の前に置き、優しく泡で包み込むように洗う。


「んぅ......」

「変な声出さないの」


 それにしても、出会った当初よりも少しだけ、ステラの胸が大きくなった気がする。微笑ましい成長というものだ。私? 少しも大きくなる気配は無いよ? アルテリアさんが憎い......!


「へぶひょぃっ!!」

「ぬおっ!? 折角の酒が台無しになるところだった......」


 おっと、憎しみの波動でパンデミアさんと呑んでるアルテリアさんがクシャミをしてしまった。


 ステラの泡を流すと、浴槽の縁に腰をかけて湯の温度を確かめている。そして、いつの間にか自分の身体が泡まみれなのに気付く。ラ・ビールが洗ってくれたのだ。ついでに自分の身体もお湯で流す。

 お返しにと、ラ・ビールの身体も洗ってあげる。尻尾に羽の付け根とかね。


「どう? ステラの様子は」

「特に無理をしてる様子は無さそうですね。泣いて、全部スッキリしたんじゃないでしょうか」

「うん、それなら良かったよ」


 尻尾や羽根 の付け根が弱い、なんてことは無かった。でもその代わりか、角を撫でると脱力したように弛緩させていた。

 ラ・ビールは羽をパタパタと動かして、レヴィ対ステラの水掛け合戦に横入りを決めた。

 その戦闘の波が、端っこで水掛け合戦を肴に楽しく酒を飲んでいた二人にまで届き、水掛け合戦は更なる激しい戦いへと発展した。


 私? 私は日本人だからね、風呂では静かに肩まで浸かっている。こちらに飛来する弾丸の如き水球は全て弾き落としているので問題ない。

 と、そこへ桶にお湯を入れて自分専用の浴槽を作って荒れ狂う戦場の中を漂うサキアが助けを求めるように手を伸ばしていたので、そっと引き寄せる。


「はぁ、助かったわ......それにしても、アナタの言うふろってのはこんなにも危険だったのね......」

「そんな訳ないから、本当はもっとわびさびのある風情に満ちた命の洗濯だから」

「わびさび? ふぜい? ちょっと何言ってるか分からないけど、心休まるってのは確かね」


 「もっと静かならね」と最後に付け足したが、私は賑やかな方が好きだからこっちでも気にならない。


 サキアが何も無い空に向かってふぅ、と息を吐き口を開いた。


「行き先を見つけるのは、まだもう少し時間かかりそうよ。少なくとも七日以上はかかりそう、ってところ。もちろん、最善は尽くすわよ」

「そっか、ありがとね。手伝えることがあったら何でもするから」

「これは私の専門分野よ? 私一人で手は足りてるの。アナタはアナタのやるべき事を優先しなさい。あるんでしょ? 山ほど」


 うぐ、言い返せない。

 口元を水に埋めてぷくぷくと泡を立てる。これまで後回しにしていたこと全てを、サキアが見つけるまでに終わらせることを目指して。


「......なんの話?」

「ん? サキアに頼み事、リサーナの行き先をね」

「......私を見つけてくれたのも、それ?」

「そうだね。イヤリング、落としてったでしょ?」


 あの後、イヤリングをステラに返そうとすると、「片耳ずつで、お揃い」と言われプレゼントされることに。


「......アナタのお陰で助かった、ありがとう」

「へ? あぁえっと、えへへ、どういたしまして。か、感謝されるって、なんだかむず痒いもんね......」


 そりゃあ、あんな所に引きこもってばかりじゃ、会話することすら久しぶりだっただろうに。

 と、どうやらステラは一足早くあの大乱戦から逃れてきたみたいだ。


 どうやらまもなく決着がつきそうな予感。立っているのはラ・ビールとアルテリアさん。レヴィは仰向けで湯の上をぷかぷかと漂っている。パンデミアさんは......なんか、隅っこの方で股間を抑えて「ぬおぉぉぉ......! つ、潰れっ......!」とかなんとか叫んでる。誰かが油断したパンデミアさんの股間に強烈な一撃を決めたのだろう。恐らくは......いや、間違いなく、十中八九アルテリアさんだろう。


「ふふふ、最後は華々しく大技一発で決めましょうよ」

「乗ったわ! 私に勝てると思わない事ね!」


 そう言ってお互いに長い詠唱を始める。


「水よ、万物の祖たる水よ、我が声に従い仇敵を討たん。鉄をも貫く最強の矛となるか、全てを防ぐ最強の盾となるか、それは我のみぞ知る! 

 ───貫け! ウォーターランス!」

「水は全ての始まりにして終末を生むものなり。人を呑み、草木を呑み、全てを呑み、歌え。最後に残るは始まりにして終わりのもの!

 ───呑み込め! 竜咆哮(ドラゴノイズド)・瀑!」


 ラ・ビールの魔法は、初期魔法だ。だが、詠唱の組み合わせと込めた魔力は上位魔法以上極大魔法未満と言ったところだ。

 対するアルテリアさんの魔法は、浴槽にあったお湯がアルテリアさんの頭上に集まっていくかのように収束し、巨大な竜の形を取る。


 いや、これはアカンでしょ。下手したら怪我人が出るっちゅうのに。アルテリアさん、酔ってるのかな?


「あっははははは! ラ・ビールちゃん、私に勝とうなんざ百年早いよ! 勝つ気なら、殺す気で来ないとねぇ!!」


 あ、酔ってるわこの人。


「ふふふ、そんな水トカゲなんかに負けませんよ! 闇の顎(グェナ・テネブラ)!!」


 水の竜と水の槍が放たれた直後、ラ・ビールは予め用意していたのか、以前見た謎言語の暗黒魔法を放った......。っと、いけない。あれがぶつかると少し危険なのでそこはすかさず私が仲裁する。

 そして、私の風呂の時間を邪魔した二人にはお仕置きもしなきゃね。これは流石に、やり過ぎです。


「はい、そこまで」


 ドパァン! と言う爆音が鳴り響き、大量のお湯と黒い波動が辺りに撒かれる。


 突然極大魔法にも引けを取らないような魔法同士の接点となるはずの場所にタオル一枚巻いた私が現れた上に、自慢の魔法が簡単に消された二人は唖然としていた。

 いや、まぁ、簡単ではないんだけれど......結構、手が痛い。ヒリヒリしてる。


「遊ぶくらいならね、全然許せるんだけど......やっていいことと、悪いことの判別くらい、大人なんだから出来るよね......?」

「ひぃっ!?」

「あ、アスカちゃん? わ、私はほら、お、お酒が......」


「酒は飲んでも、呑まれるなって、知らない?」

「ごめんなさいっ!」


「許しません」


 この時の私の笑顔は、サキア曰く、「見たことないくらい満面の笑みだったわよ......」だそうだ。


 翌日、「仕事が溜まるぅ......」と泣きながら正座させられるアルテリアさんの姿と、どこか恍惚とした表情のラ・ビールの二人が正座して首から「私は悪いことをしました」と言う札をぶら下げている姿が目撃されたとか......されてないとか......。




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