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最強魔女さんの混沌とした日常  作者: クリオネ
第三章
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第96話 久しぶりにキレちまったぜ

屋上へ行こうぜ。



 一刻を争う状況のステラの声を聞き、静かな怒りは憤怒へと昇華し、思考が真っ黒に染まる。一刻も早くステラの元に行きたかった。だが目の前には大量の肉壁。


 それを割って入ってきたのは、血に濡れた拳......否、メリケンサックを指に嵌め下卑た笑いを浮かべた大きな男だ。


「けけけっ、あのゴミのご主人様かぁ? 一人でお迎えたぁ驚いた。まさか鋼鉄製の扉を打ち抜くなんて面白い"魔法"を使うもんだ。さぁてお前ぇら、侵入者をひっ捕らえろ! 雇われてんだからそんくらいはできんだろうよォ!? 生死は問わねぇ、首を取った奴にはボーナスをやろうじゃねぇか!」


 ───間違いない。こいつだ。


 そう確信した瞬間、私の身体は動き出していた。


 数人を下敷きにした鉄の扉に私の足の形に凹ませ、男の前に飛び出す。勢いそのままに、顔面を殴り付け地面に叩き付ける。


「がぁぁぁッ!」

「んぶげッ!?」


「ひっ、こっちへ来るなっ!」

「に、逃げろっ!」


 地面に叩き付けられただけでは勢いは死なず、男の身体は面白いように縦に回転し後方へ飛んで行く。

 簡単な武装しかしていない連中を巻き込み、雪玉を転がすかのように轢いていく。

 そして最後に武装もしていない、周りの連中よりも一回り細い身体の男を巻き込み、大きな木箱に激突して止まった。


 周りにいた連中は、地獄絵図を生み出した私に僅かに視線を向けると、様々な悲鳴をあげて一目散にその場から逃げ出した。

 その光景を見て、少し冷静になれたのだが、やはりステラのことが気がかりで冷静さなど即座に熱されてしまう。


「ステラっ! どこっ!?」


 再び名前を呼ぶが、先程聞こえた小さな声は微塵も聞こえない。弱々しかった声から察するに、非常に危険な状態なのだろうか。そう考えただけで身体の震えが止まらない。


「こっち、こっちよアスカ!」


 すると、いつの間に飛んだのか先行していたサキアが今まで以上に声を荒らげて手招きをしていた。

 サキアのいる奥へと進むと、そこにはカーテンのような落ちた垂れ幕と、数人の子供が入れられた檻。



 そして一番奥に、片腕を太い柱に括りつけられて傷だらけで倒れているステラの姿があった。

 私は檻の中の子供達などまるで見えていないかのように真っ直ぐ、ゆっくりとステラに近付いた。


「ステラ......?」


 手を伸ばせば届く距離に来ていると言うのに、反応は無い。嫌な予感は止まらない。心臓の音がうるさい。


 涙の跡と吐血の跡が残る顔、紫の痣だけでなく変に凹んだ部位も見える痛々しい身体。

 最悪の想像が脳裏を過ぎるが見て見ぬ振りをする。


 手首に巻かれた太いロープを、ダガーで切り裂くと重力にしたがってステラの身体が地面に崩れ落ちる。


 だが落ちる前に優しく受け止め、弱った身体を抱き締める。


「目を、覚まして......お願い、だから......」


 魔力が無いため、治療魔法どころか回復魔法も使えない。回復魔法が使えない人のための、回復薬(ポーション)がこの世界にはある。が、強さへの驕り故、今の私はそんな物を持ってはいなかった。

 サキアは回復魔法は使えないと言っていたし......。


 そんな時、つい最近どころか、先程耳にした言葉を思い出した。



 ──魔力の代わりに生命力を使って魔法を使うことくらいしか書かれてないわ



「サキアっ! さっきの、さっき書庫で言ってた生命力を使う魔法って言うの、教えて! 今すぐ!」

「教えたら使う気でしょ!? そんなの使ったら、すぐ死んじゃうわよ! それに、その必要性はもう無わよ!」


 必死の形相で頼んでみたものの、サキアは決して教えてくれはしなかった。

 その上、「必要性は無い」とまで。もう手遅れだとでも言うのか? そんな馬鹿な。有り得ない。信じたくない。

 だけど、その可能性を少しでも信じてしまったが故か、それはどんどんと私の中で大きくなっていく。

 信じたくないのに、信じるしかなくなってしまう。


「うっ、うっ......ステラ、起きてよ......。なんでも、なんでも好きなことしてあげるから、ずっと一緒だから、目を覚ましてよ......お願い......!」


 溢れる涙を抑えきれなくなり、涙が流れる。そしてステラの手を握り胸に顔を埋める。

 今にも果ててしまいそうな冷たい身体を抱き締めてただ祈る。感じるのはステラの低い体温と静かな鼓動。


 ......鼓動?


「あー、その、ね。すごく言いづらかったんだけど、その子、眠ってるだけだよ? それに、今から回復薬(ポーション)取りに行っても間に合うくらいには安全だし......」

「え? あ......え?」


 鼓動に気付き顔を上げると、そこには申し訳なさそうにしながらそう告げるサキアの姿。

 それに、よく見るとステラは良い夢でも見ているのか口元が緩んでいる。


 だが、この外傷の数だ。痛みが酷くて眠ってなんていられるはずない。あれだけ揺さぶったりしたと言うのに......。


「私もね、最初は焦ったのよ。本当に危険かもって。でもね、よく見ると大雑把ながらも高度な回復魔法で痛み止めまでしている状態だったのだから」


 じゃあ、本当に......ほんとのほんとに、無事だってことなの?

 今度は、先とは違う意味の涙が溢れる。溢れ出したら止まらない。


「よかった......よかった......!」


 抱き寄せて耳をすませば、静かな寝息も聞こえる。

 そんな大事なことを見逃してしまう程追い込まれていた事に、今になって気付く。

 もし、手遅れになっていたら。もし、二度とステラと話すことが出来なくなっていたら。私はどうなっていただろう。私は私を責め続け、いつか自分を殺してしまっていたかもしれない。

 ステラだけじゃない。レヴィも、ラ・ビールも......リサーナも同じだ。


 絶対に、失くしたりなんてしない。もう二度と。


 ステラが無事だったと言う事実に安堵し、緊張感が緩み切っていたその瞬間、背後から魔法の発動を意味する言葉が大きな声で放たれた。



「───燃やせ、ファイアウェーブ!」



「アスカっ、危ないっ!!」

「きゃぁぁっ!!」


 猛烈な炎の波がこちらを呑み込まんと襲い来る中、揺れる炎の向こうに見えたのは私が殴り飛ばした男に肩を貸している細い男。咄嗟に首だけを動かして見えたのは、そいつがこちらに手を伸ばしている姿。

 直後、サキアが小さな身体で私と炎の波の間に入り込み両手を前に翳した。


 魔力の使用が困難な今の状態ではサキアが何をやっているのか全く分からない。だが恐らくは魔力障壁を構築している最中なのだと思われる。

 だが間に合わない。私とステラだけを範囲に入れるだけならば容易だろうが、そうすれば檻の中の子どもたちは業火に焼かれ灰となるだろう。サキアは幼い子どもたちを簡単に見捨てる程クズではないはずだし。それにそれだけ範囲を広げれば障壁なんて紙同然だ。一瞬で破られるだろう。


 私なら何とか出来たのだろうが、今の私は正に魔力総量が多いだけのウドの大木。いや、総量が多いだけで今は絞りカス程度しかない。


 なら、どうするか? 恐らくこのファイアウェーブと言う魔法はかなり高ランクなのだろう。威力が私の使うファイアボールに近い。それが分かった所で、何も出来ない。今の私にはこの状況を打破する手段は何一つないのだ。



 そう、「私」にはね。



「ラ・ビール!!」


「ふふ、呼んでくれるのを待っていましたよ」


 炎のオレンジ色の光に照らされて出来た影からニュっと飛び出してきたのは、片方が短く片方が長いと言うアンバランスな角と腰から伸びる蝙蝠の様な二対の羽根。


 言わずもがな、私の大好きなラ・ビールだ。


 ラ・ビールはサキアの前に華麗に躍り出ながら、前もって詠唱でもしていたのか、魔法を発動した。


闇の顎(グェナ・テネブラ)


 聞き取れない発音をしたかと思うと、私達と子どもたちに向かってきていた炎の波の部分だけが噛みちぎられたかのように消失し、部屋の側部だけが燃え盛っていた。


「えっ? あ、悪魔っ!?」

「うふふ」


 サキアが悪魔形態のラ・ビールに驚愕しているが、ラ・ビールはすぐに人間の姿になる。その事にも驚いていたが、今はそれよりも優先する事がある。

 主犯の確保だ。


 既に魔法を放った男はその場にはおらず、逃げ去ったものと思われる。が、ラ・ビールがここにいるという事はつまり......。


「アスカ〜、こいつらでいいのかー?」

「まだ寝起きなのだがな。この働き分は色をつけてもらわねばな」


「レヴィ!」


 私がこじ開けた入口だった場所に二つの影。片方は、小さな身体に見合わない大男を担ぐレヴィと、もう片方は細い男を引き摺るパンデミアさん。

 なんかパンデミアさんが「え? 我は? 我のことを呼んではくれぬのか?」とか言ってるけどスルーしておこう。


「もぉ〜、私が話付けてる間に勝手に行かないでよね! うっわ〜、また派手にやったわねアスカちゃん......。はい、これ回復薬(ポーション)。とりあえず使っておきなさい」


 かっ、かぁちゃん......。じゃなかった。


「アルテリアさん......ありがとう」

「これで貸し一つね、なーにしてもらおうかしら〜」


 受け取った回復薬をステラの身体に振りかける。これで外傷はとりあえずは一安心だろう。

 折角のフード付きだったのに目立つ髪の毛を隠せなかったローブをステラに着せる。これで中身は半裸でも平気だろう。


 だが髪の毛を隠すだけならば他の物でも代用できる。髪の毛を纏めてから帽子を被る簡易な方法だが無いよりはマシだろう。

 恐らく今頃外では「銀魔王」出現だと騒いでいる頃だろうしね。


 と、そこへアルテリアさんが連れてきたであろう兵士達がぞろぞろと入ってきた。その中でも他の兵士よりも整った装備をしたリーダーらしき人物がアルテリアさんに近付いてきてそして......


 跪いた。


「え゛っ」


「カイゼル様、あちらにいる伸びてる連中はどうやら雇われているようで、主犯はそちらの二名のみのようです。かなり周到に作戦を練ったようですね。先日の騒ぎや昨日の人混みに紛れて人攫いを繰り返したと思われます」

「そうね、そう考えるのが妥当よね。そうでなければかなり人員がいてもおかしくないわ」


 いつもとは違う、違いすぎるまさに異様な光景を目にしてつい変な声が漏れてしまう。


 檻の中の子ども達も、無事兵士達によって解放されている。


「ねぇ、サキア?」

「な、何かしら?」


 レヴィとラ・ビールに弄ばれていたサキアに今まで疑問に思っていたことを訊ねようとすると、サキアは疲れた表情でこちらに向かってフラフラと飛行してきた。


「悪魔に竜燐族の親子......あなたの周りって混沌としてるわね......」

「そんな褒めてもなんも出ないよ。それにレヴィとパンデミアさんは親子じゃないしね」


 親子に間違えられたパンデミアさんは大爆笑している。レヴィは何やらムッとしている様子。反抗期かな?


「そんな事より、ステラに回復魔法をかけてくれた子って、あの子達の中にいるよね?」

「まぁ、アスカなら分かってると思うけど、あの状況から考えてもあの子ね」


 兵士によって抱き上げられ檻から出される少女。その瞼は閉ざされており、眠っている様子。だが彼女を見た兵士の一人が慌てた様子でその子を抱えた状態でこちらへ駆けてきた。


「た、隊長っ! この子は......!?」


 その兵士は、腕の中にいる少女を見やすいように腕を差し出すと、隊長よりも先にアルテリアさんが声を上げた。


「ユングちゃん......まじか......」


 あぁそうだ、思い出した。この前誘拐されてた子だ。

 ......ん? この数日で二回? この子誘拐されすぎじゃない? 王族のくせに護衛は役に立たないな。


 アルテリアさんは頭を抱えて困った様子で唸っている。

 それもそうか。国賓とも言うべき外国のお姫様が二回も誘拐に合うなんてね、外交問題にもなりかねない。と言うか国交断絶すら危ういよ。

 ストレスで胃に穴があくであろうアルテリアさんには今回の感謝も込めて、今度胃薬を渡しておこう。効くか分からないけど。


 アルテリアさんと兵士達が何やら話し込み始めた所で、レヴィが口を開いた。


「なぁなぁ、なんでラ・ビールがいるって、私達がいるって気付いたんだ? まなろすじゃなかったのか?」


 ステラを抱いたままの状態が羨ましかったのか、レヴィは後ろから首元に抱きついてきた。


 確かに、言われてみればそうだな。でも、あの時はなんだかいるだろうな、って確信が持てたんだよね。こう、存在感と言うか、そんなものを感じたのだ。

 どう説明したらいいのか悩んでいると、パンデミアさんが間に入ってきた。


「考えうるはまた、UNKNOWNのやつだろうな。お主、どこかで自我を失くしたりしなかったか? 恐らくそこで、やつが無駄なものを全て喰らい尽くしてくれたのだろうよ」

「はぁ、そんなことって有り得るの?」

「さぁな。それこそ誰も知らず。UNKNOWNと言うものであろう? それで? 今の調子はどうなのだ?」

「どうもこうも、怪我も治ってきてるし、魔力も感じてきたし、なんか拍子抜けって感じかな」



 やる事も終わったので、ステラをお姫様抱っこで持ち上げみんなで帰ることにした。

 もちろん、アルテリアさんは帰れない。お姫様の事で急な仕事が出来てしまったからだ。


 まだ明朝のはずが、銀魔王とやらのせいで騒がしくなっているウィルガルムの街中を目立たないように通り、部屋へと帰った。



 今日だけで感謝したい人がたくさん増えた。サキアにアルテリアさんにレヴィにラ・ビールにパンデミアさん。それにお姫様と、UNKNOWNにもだね。

 でもその前に、私は凄く眠たい。


 一旦帰って寝よう......。



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