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最強魔女さんの混沌とした日常  作者: クリオネ
第三章
100/108

第93話 追い詰められたその先に

実はこれ、通算100部目だったりします。

そして5/9で一年目だったりします。

......全然進んでないですね!


「あぁそれな、マナロス症候群、もしくは魔力拒絶状態と呼ばれるものだな。ラ・ビールよ、おかわりを頼む」

「あ、はい」


 簡単に今の状態を説明した後、この状態について何か知っていないかと聞いたところ、「飯が先だ」の一点張りで話は平行線になってしまったためラ・ビール達が待つ隣室へと向かった。

 食べながら、途切れ途切れに語るパンデミアさんの話を纏めると、急激な魔力の消耗と過度な肉体的、精神的疲労が重なるとよく見られる症状らしい。


「アスカなら問題ないと言わんでいたが、やはりアスカも人間だったようだな」

「その言い分だと、人間以外は問題ないように聞こえるけど?」

「そうだぞ? 人間以外はならん。その証拠にほれ、ラ・ビールもレヴィもピンピンしておるではないか」


 確かに、マナロス? になっているステラは、私の隣で気が抜けたように、溶けたスライムのようにテーブルに顔だけを乗せている。それに比べて、ラ・ビールやレヴィはこれと言った疲労も無いようで、いつもと変わらぬ様子であった。

 仕事終わりのOLのような態度でお茶を嗜むアルテリアさんがテーブルの反対から疑問を唱えた。


「ステラちゃんは分かるとしても、アスカちゃんは全然マナロスに見えないけど......?」

「確かに、ステラはマナロスにしては大袈裟にも思えるよな」

「......いや、まじ。大マジ。本気と書いてマジって読むくらい......」


 もう一つの事情を知るだけに、辛そうなステラを膝枕して甘やかしてしまう。あんまり皆の辛そうな表情は見たくないんだ。


「う、うむ、そうか......。お大事にな。

 その点、アスカは問題ないようだが、本当にマナロスなのか?」

「それは私だって知りたい事だよ......でも、自分のステータス見たけど魔力は昨日からほんとに少ししか回復してなかったよ。お陰で魔法も何にも使えなくってさ」


 数値にして60弱しか回復していない。一晩使ってその程度。本当に雀の涙だ。

 ただ、同じ症状なはずのステラと比べても私は身体にそんなに重さを感じていない。この違いはなんなのだろうか?

 そんな事を考えていると、この長話に飽きたレヴィが私の身体をよじ登ってきた。


「それで、その『まなろす』とやらはどうやって治すんだ?」

「我が知る限り、マナロスに効く薬は無い。時間がどうにかしてくれるのを待つしかないだろうな」

「時間って、どれくらいなの!? 一日? 二日?」

「さてな、それは人それぞれよ。一日や二日で治る者もいれば、一ヶ月や半年、最悪は一生治らぬ者も見た」


 即効性の解決方法は無い、と言い張るパンデミアさん。そしてマナロスを治すには時間が大量に必要とまで。

 だが、私達にそんな時間は無い。最悪、一日や二日は療養に捧げられたとしても、一週間かそれ以上は論外である。


 だって、リサーナが待っているから。


「そんな時間無いよっ!」

「しかしだな、マナロスの状態でお主に何が出来る? 力技だけでどうこうできる問題では無いのだぞ!?」

「病魔なんだからマナロスもなんとか出来ないの!」

「マナロスは病では無いから不可能だ!」


 言葉に熱が入り、口論に発展してしまうが、パンデミアさんは何も悪くない。これは、私のただの八つ当たりだ。

 魔法が無ければ後を追うのは不可能なのだ。いや、不可能では無いが、地道に聞き込みをしたり、噂だけを頼りにしていけばいつかは辿り着けるのだろう。それは何年後になるか。それまでにマナロスが治るのかも分からない。手遅れではダメなのだ。


 実は、誰にも言っていないリサーナの行方の手掛かりが一つだけあった。それも、魔法が使えない今ではなんの役にも立たないし追うことも出来ない。それがあるから大丈夫、とまたも後回しにしたのが運の尽きか、翌日にはこのザマだ。

 あの失態から私は何一つ成長できてないじゃないか、と私自身に対する怒りが募る。

 そして私の口が勝手に動いたような、はたまた自分の意思で動かしたのか分からないまま、勢いのまま言葉が零れ落ちそうになった瞬間、遮るように目の前にラ・ビールが割り込んできた。


「私の気持ちも知らないで、このッ......!」

「アスカ様っ!! 落ち着いて下さい」

「パンデミアさんも、ほら、落ち着いて」

「む、うむ......」


 ラ・ビールとアルテリアさんの仲裁によって、一方的に上がった熱は一気に冷めていった。


「ごめんなさい、八つ当たりしちゃって」

「い、いや、構わん......」


 謝罪の言葉を告げた後、レヴィを下ろしてその場から立ち去る。パンデミアさんの返事も耳には入ってこなかった。

 幸か不幸か、誰も後をついてくることは無かった。





 外からは壁を隔てでも響いてくる賑わいや歓声が聞こえてくるが、興味など一切ない。今は一人になりたい気分だったためか、自然と人気から遠ざかるように室内を進んでいく。

 魔力が無いだけで、筋力──ステータスでのSTRの値──は問題無いようだった。


 気の向くままに歩みを進めていると、何に惹かれたか、一つの部屋の前で立ち止まった。


「......文字は相変わらず読めない、か」


 扉の上に書かれた文字らしき物は、英語でも日本語でもない、前世では見かけたことすら無い文字であった。

 人の気配は感じないが、念の為にフードを深く被る。

 静かに扉を開くと、扉の向こうには無数の本棚とそこに並べられた何冊もの本があった。

 活版印刷もまともに発展していないこの世界で、これだけの本が集まっていることに息を呑んだ。


 入ってすぐの所にはカウンターがあり、前世で学生時代何度もお世話になった図書館と似ているためか、はたまた八方塞がりの状態の私にはもう何も怖いものがないのか、その部屋の水を打ったような静寂が包む部屋の空気に呑まれる事は無かった。


 誰もいないカウンターを横切り、適当に陳列された本の背表紙を眺めて回る。もちろん、字は読めないのでただ眺めているだけだ。

 文字が読めなくても絵本ならば、と思い、子供向けに低い位置に並べられた絵本を探す。


 私は直感を信じ、黒い表紙に角の生えた人らしきモノが描かれた横に長い本を手に取り入り口から死角になる隅っこの方に乱雑に置かれた椅子に座り、その本を開いた。


「読めない、けど、何となく分かるかも......」


 文字は各ページに二行程しか書かれておらず、絵が中心であった。そのため字の読めない私でも内容は掴めた。

 角の生えた人らしきモノが、魔法を使って世界を旅する絵本だった。魔法のひとつひとつがキラキラと輝いていて、子供はこれに心踊らせるのだろうな、レヴィにも見せてあげたい、なんて思いながらページを捲っていった。








「───てよ! 本を濡らさないで!」

「ん、あぁ、ごめんね......」


 いつの間に眠っていたのか、誰かに注意される声で目が覚める。濡らさないでの言葉に身体を起こし、涎を垂らしていないかと口元を拭うが何も拭えなかった。


「涙よ、な・み・だ! すぐに修復できるくらいだから許すわよ。それにしても、急に嗚咽が聞こえてきてびっくりして飛んできたんだから」


 言われて、袖で目元を拭うと若干湿っていた。夢でも見ていたのだろうか。その肝心の夢の内容は綺麗さっぱり忘れて閉まっているのだが......。

 目の前には、サイドに纏められたオレンジイエローの髪をユラユラと揺らしながら、小さな二枚の羽が動く度に光の粒子が撒かれる。それは地に落ちる前に目に見えなくなり消え去る。その羽を忙しなく動かしながらフワフワと浮かぶ少女は、少女と同じかそれ以上の大きさのハンカチで絵本を丁寧に滴を取っていた。


 ──ん? フワフワと浮かんで......?


「え゛っ!?」

「書庫では静かに! まぁ、今はアナタとあたししか居ないんだけどね」

「あ、ごめんなさい」


 世界が変わっても図書館では静かに、がルールなのだ。こっちでは書庫のようだけど。

 辺りを見回してみると、随分と長い時間眠っていたようで窓から見える景色は既に朱と黒が混ざった世界。

 悪いのは全部私なのだが、それでも喧嘩別れのようになっている今の状況では帰りにくい。みんなが寝静まった後にこっそり帰ろう、なんて事を考えるくらいには少し元気を取り戻せたみたいだ。


「何ぼーっとしてんのよ、変なの」


 思考加速が働いているが、それもいつもより弱いため、考える時間は時の流れより少し長い程度だ。

 愛想笑いで誤魔化し、目の前の小さな少女に何者なのかを訊ねた。


「あたし? あたしはこの書庫を預かっている本妖精(ブックス・フェアリー)のニーガ・エナヴィヴィオ・サキア。サキアって呼んでね。それに、アナタが入ってくる時、目が合ったのだけれどね」


 サキアと名乗った少女は、その小さな身体でやれやれと肩を竦めた。恐らく目深にフードをしていたせいで私の方も良く見えていなかったのだろう。それか、小さくて気付かなかったか。


 それにしても妖精か。ライアさんやイアちゃんも妖精だけれど、羽妖精は初めて見た。手の平サイズで、ちっちゃくて、かわいい生き物だ!


「さっきから目付きがヤらしいもの。それに、何か失礼なこと考えてそうね」

「サキアさんはかわいいですね。ところで、本妖精って言うのはどう言う種族なんですか?」

「か、かわいい? あたしが? えへへ......。

 あ、普通に接してくれて構わないの。あたしも別に偉い立場って訳じゃないしね〜」


 手に持ったハンカチで身を隠して目の前でくるくると回るサキア。光の粒子が輝きを増したように思えた。

 充分回ったからか、満足げな表情をしながら私の質問に答えてくれた。


「本妖精って言うのはね、その名の通り、本の妖精なのよ! 本を保管したり、傷付いた本を修復したりね。あと、本が大好きね」


 なるほど、司書と修復の仕事を任されているのか。先程、サキアは偉くなんかない、と言っていたが、この世界で貴重な本の管理を任されているくらいだからきっと私が想像するよりもずっと上の存在なのだろう。

 後、本が大好きと言うのは見ているだけで良く分かる。本に対する愛情が溢れていると言うか、そういったものがこちらにまで伝わってくるようだ。

 サキアは黒い絵本を眺めながら、表情に影を落として話し出した。


「でも、この本、『捻れた角』を読んで泣いちゃうのは分かるわよ。この本は悲しいからね......」

「そんなに悲しいお話なの? 旅をして楽しそうだったけど......」


「そうね、最初の頃はそうなのだけれど、とある国で主人公は恋をするの。角を見ても怖がらない女性と。でもね、角を恐れた他の人は違った。角を恐れない女も同類か、と、主人公が少しの間離れた隙にその女性を吊し上げて殺したの。主人公が帰ってきて出迎えたのは、血塗れになって捨てられた女性の姿......。主人公は三日三晩泣き通したけれど、その悔いは拭えなかった。そして復讐を誓うの。愛した人を弔うために暴れ、泣いた時間と同じ時間をかけてその国を滅ぼした。そして、それに触発された異種族を纏める長達が暴れたのが、三百年前の魔王大戦ってわけ。捻れた角はいわゆる原初の魔王ってことなのかしらね」


 瓢箪から駒だ。意外なところで思わぬ情報を手に入れられた。原初の魔王、か。この絵本にはそんな事が書いてあったんだね。

 それにしても、サキアは絵本に一切目を向けずに語ってくれたけど、内容全てを覚えているのだろうか。


「もしかして、ここにある本全部暗記してたりするの?」

「もっちろん。どこに何があるかだって分かるわよ。あ、何か捜し物してた?」


 ほぇー、すっごい。

 これがプロの仕事か、とつい熱い吐息が漏れてしまう。その感嘆に震えるように、サキアはふふん、と小さな胸を反らしながらしたり顔を見せた。


 そうだ、パンデミアさんが知らないだけで、もしかしたらマナロスを治す方法があるのかもしれない。これだけ書物があるならばきっと見つかるかもしれない、と言う捨てきれなかった一縷の望みを抱いた。


「少し、探し物をね。マナロスを治す、元に戻れる方法って、知らないかな......?」

「マナロス......」


 呟いて、何か思い出すような素振りを見せた後、緩慢な動きで奥の方へと飛んでいった。何か思い出したのだろうか?

 少し気になり後を追いかけようと席を立つと、小さなイヤリングが床に落ち、微かな音が鳴った。それを拾い上げ僅かな光に翳して眺める。


「これは確か、ステラの......」

「ちょっ、と、たすけて〜!」


 思考はサキアの叫び声によって掻き消され、声のする方へと向かうと、フラフラと重さに振り回されながらも慎重に飛んでくるサキアが見えた。その手にはサキアの数倍はあるであろう分厚い書物がぶら下がっていた。


 イヤリングをポケットに仕舞い、即座に動き本を受け取る。表面を薄らと埃が張っているため、息を吹きかけて埃を払う。

 その分厚い本は、緑色の表紙に金色の刺繍が施されているいかにも高価なものだと分かるものだった。


「マナロスを治す方法は確かこれに載ってるはず。でも、あたしってば回復魔法使えないから流し読みしちゃったのよね〜。だ、だからさ、一緒に読み進めよっ? ね?」

「え、でもさっき全部暗記してるって......」


 そう訊ねると、サキアは顔だけでなく全身を真っ赤にして口を早く動かした。

 落ちる粒子も金から赤に変わっているように見えた。


「〜っ、しょ、しょうがないじゃないっ! 使えない魔法なんて知ってても無駄なだけだし! そ、それに人の記憶って言うのは必要ないものを消すのよ、だから、使わない魔法なんて必要無いの。だから、だから......。──えぇそうよっ! 見栄をね、つい見栄を張っちゃったのよ! 悪い!? 全部暗記してるのかって聞かれて、暗記してないなんて答えたら恥ずかしいじゃない! それに! それに、久しぶりに誰かと本を読めると思ったから別に覚えてても持ってきただろうし......ごにょごにょ......」


 照れ隠しのためか、捲し立てるサキアのセリフに苦笑いしてしまう私。最後の方は小声で何を言っているのかあまり聞き取れなかったが、きっと微笑ましい理由なのだろう。


「あー! 笑ったわね! やっぱりからかってたのね!!」

「違うよ違う、違うってば。

 一緒に読むんでしょ? でも私、文字読めないから読んでくれると助かるな」

「あぁ、だから絵本だったのね。気にしなくていいの、全部読んであげるわ! でもその前に、少し暗くなるからランプを持ってくるわね」


 そう言って、ピュー、と言う擬音が似合うような勢いで飛んでいくサキア。

 誰かと喋っていると、それだけで沈んだ気分も元通りになるような気がする。サキアには、今度お礼をしないと。

 私は少し、元気になったような気がした。


 ウィルガルムが夜に飲まれていく。本当ならばみんなの元へと戻った方がいいのかもしれないが、私はただ黙って待っているなんて性にあわないからね。少しでも可能性があるなら、それを試さないわけにはいかないのだ。



 ──待っててね、リサーナ。



「ん、何か言った? それより、アナタの名前、聞いてなかったわね」

「んー、アスカって呼んでくれるといいな」

「アスカね! さぁアスカ、夜は長いの! 全部読んじゃうわよ!」


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