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獅戦士の後継

 銀世界。雪に包まれた大地と、灰色の空。

 吹きつける風は凍てついて、熱と命とを見る間に奪おうとする、極寒の地。

 濃い霧で視界が遮られ、遠くを眺めようとしても、ものの輪郭をとらえるのがやっとの白の世界。そんな過酷な環境の中を、二人の少年が走っていた。

「なあ、ガタ!」

「なに、うまる」

「聞いたか? あのシロエさんの仲間が、アキバの街ン中でレイドしたって。いいよなー。市街戦とか熱いよなーやってみてーなー」

「東湖先生がそれ話してくれたとき、僕も隣にいたよね!」

 軽口を叩きあう声は、どちらもまだ幼い。声変わりをしてしさほどすぎていないのだろう。学校の教室で、あるいは夕暮れの通学路で交されてもおかしくない、他愛のない会話だった。

 『ガタ』、と呼ばれる少年は、身長160cm前後の小柄な少年だった。色白の丸顔にぐりっと大きなどんぐりまなこで、若いというよりも幼い顔立ち。短く刈り揃えられた黒髪はその顔つきとあいまって、ザシキワラシを連想させた。緋色の和装の上から、戦国時代の足軽を思わせる胴鎧を身にまとった姿は、育ちのよい若武者、といった印象も与える。

 対して、『ガタ』少年の隣を走る『うまる』は、対して170cm強のがっしりとした体格。筋骨隆々とした引き締まった体躯を誇示するような軽装と浅黒い肌、背に下げた巨大な刃厚の太刀が、野性的な雰囲気を放つ。硬質な赤毛を頭頂で一つにまとめ、眼帯で片目を隠した時代劇で言うならば無頼の徒といった風体だ。

 『ガタ』の手には、翼を象った意匠の身長ほどもある長弓。『うまる』が構えるのは、大人の腕よりもなおも太い、厚手の大太刀。どう見ても、会話の内容とは裏腹の、物騒な得物だった。

「んだっけかー? ほら、おまえ気配薄いし。サンキューザシキワラシ。名前は河童なのになー」

「河童じゃないよ! 河太郎だよ! あと気配薄いとか言わないで。気にしてるんだから!」

「んだよォーグッバイ豆腐メンタルー」

「いちいち英語はさまないでってば。わけわかんないよ英検5級落第生」

「オーケー、これ終わったら決闘な。奥歯ガタガタ言わせてやんかんなァ」

「そっちこそ、埋まる覚悟はできてる?」

 二人は、そんな武装とは不似合な雑談を、凄まじい速度で移動しながら息も切らさずに続けている。膝まで沈むほど深い雪すら、全く意に介する様子もなかった。

「まあ、まずは」

「うん。助けるよ」

「当然。こっちの俺らはヒーローだかんな!」

 少年二人の眼前には、数台の馬車と、中年の男性たち。彼らは足場の悪い中を、必死で移動している。形相は必死。叫び声をあげている者もいる。おそらくはエッゾ島内の村落を巡る商人たちだろう。

 商人たちのさらに後ろから、4mほどの人型の化物が数体迫ってくる。〈氷の巨人(アイスジャイアント)〉。このエッゾの地では一般的な、人を喰らう怪物(モンスター)だ。商人たちは、その脅威から逃げようと、雪の街道を走っているのである。

 ここ、エッゾの島はヤマト列島の中でも巨人の脅威が高い土地だ。だが、行商人が使うような主要街道にまで出没することは、異例だった。

(いや、やっぱりこれが東湖さんの言っていた「異常」なのかな?)

 色白の少年、『ガタ』は、馬車に追いつくと、手近な男性に声をかけた。

「被害は? ほかに逃げ遅れた人は?」

 商人は一瞬だけ怪訝な顔をしたが、すぐに首を振ると、足を止めぬまま、『ガタ』少年へと叫び返した。

「いない! これで全員だ! アンタ、〈冒険者〉だな!?」

 機転の利く商人だ、と『ガタ』少年は内心で相手の中年商人を評価した。

 この状況で巨人に追われている彼らに対して、悠長に話しかけるような若者、しかも、武装しているような人間は、〈大地人〉ではまずありえない。

「僕は中居河太郎(なかいかわたろう)。〈冒険者〉です。こっちは、仲間の羅睺丸(らごうまる)

「ってわけでヘローおっさん、ヒーローが来たぜ。あのデカ公はオレっちらに任せなァ!」

「その名前……〈シルバーソード〉か! 助かった! おい、お前ら! もう少し気張れ! ”獅戦士の後継”が来てくれたぞっ!」

 髭の中年商人の言葉に、商隊から歓声があがる。

 恥ずかしくなるほど劇的な反応に照れながら、『ガタ』こと色白の少年、河太郎は商人たちに逃げるべき方向を指し示した。

「向こうから僕の仲間が二人、やってきます。恰幅のいい白ローブの男と、栗毛の小柄な女の子。彼らに合流してこの場から離れてっ!」

 商人たちはそれを受け、速やかに馬車を動かした。遅々とした動きではあるが、少しずつでも遠ざかればいい。河太郎は改めて巨人たちへと向き直った。褐色の少年『うまる』……一足先に飛び出した羅睺丸が、すでに巨人との戦闘を開始している。

 足下を覆う白。飛沫の赤。巨人の肌の黒。森の緑。吹き荒ぶ風。鎧と刃の擦過音。剣戟。

 五感がめまぐるしく、戦闘の刺激を河太郎の脳へと伝達する。

 いつになっても慣れることがない、「生身の戦闘」に向けて意識を切り替えようとしたその瞬間、河太郎の視界の端に、妙なものが映り込んだ。

(……女の、子?)

 巨人と羅睺丸が戦っている、その向こう。街道の奥の森で、女の子が一人、走っていたのだ。

 わざわざ街道ではなく、走りにくい上にエネミーの危険もある森を移動しているのが異常だ。だが、それよりも奇妙だったのは、森の木々に輝く紋様が浮かび上がったかと思うと、まるで、その女の子に道を譲るかのように、ぐにゃりと歪んだように見えたことだ。

 河太郎は〈木工職人〉に備わった能力、〈緑の瞳〉で森を凝視する。森の木々は何の特徴もない、ただの植物だった。召喚された従者や、植物型の怪物のたぐいではない。

 女の子が駆け抜けた後の木は、まるで何もなかったかのように元の静けさを取り戻した。

「おいガタ! 何ぼーっとしてんだよー! サポート頼むぜっ!」

 羅睺丸の叫びに、河太郎は我に返った。

 そうだ、目の前では友人と巨人が戦っている。商人達を守るためにも、目の前の敵を倒さねばならないのだ。河太郎は深呼吸を一つして、冷たい外気で気持ちを落ち着けた。

 羅睺丸が相手をしているのは3体の〈氷の巨人〉。岩のような隆起の筋肉が、棍棒を振るうたびに脈動している。

 だが、そんな屈強な巨人が次々と打ち付ける棍棒を、羅睺丸は太刀でいなし、受け止め、一歩も引く様子を見せなかった。それどころか、隙を見て巨大な大太刀を縦横に振るい、敵の脚の腱や筋肉を切り刻んでいる。

 一見して戦況は互角。河太郎は空中に投影されたステータスウィンドウを見て、羅睺丸のHPの残量……負傷の蓄積を確認した。能力や状態の可視化は、河太郎たち〈冒険者〉に共通する能力だ。まだ羅喉丸には余裕があるが、打ち所の悪い一撃(クリティカルヒット)が決まれば、均衡が崩れる可能性もある。

「ガタ! ヘルプ!」

 羅睺丸の呼びかけに答え、河太郎は弓を持たない右手を友人の方へと突き出した。

詠唱(キャスト)、〈禊の障壁〉!」

 大気の明滅。空間の歪曲。甲高い振動が何も存在しないはずの空間を中心に響き渡る。

 虚空に生まれる、水面に石を投げ込んだような波紋。そこから生まれたのは、「遮」の一字が刻まれた、半透明の光の壁。

 河太郎が作り出した光の障壁は、盾となって羅喉丸を襲う巨人の棍棒を阻む。

 それを見て、巨人たちが一斉に河太郎へと視線を向けた。自分たちの攻撃を無効化する術の使用者、河太郎へと警戒対象を移したのだ。

 最前線で戦い抜ける〈武士〉の羅睺丸と違い、後衛から術で味方を支援する〈神祇官〉である河太郎は防御力に劣る。これだけの巨人が押し寄せれば危険だ。

 巨人たちが河太郎……そして、商人たちの馬車が去っていった方へ踏み出そうとしたそのとき、羅睺丸が大太刀の柄頭を逆手の掌で叩いた。

「そいつぁノンだ! こっち向いてホイホイだぜィ! ――〈武士の挑戦〉!」

 金属同士を打ち付けあうような音が響き、大太刀が鈍い輝きを放つ。その光に吸い寄せられるように、巨人たちが不自然な挙動で褐色の少年に向き直った。

 〈武士〉である羅睺丸の得意とする、挑発(タウント)

 敵を自身へと引き付けて、自ら囮となる、戦線維持のための能力だった。ただ殴り、立ち続けるだけがこの世界の戦士の役目ではない。いかに敵を引き寄せ、仲間に有利な陣形を維持することが重要なのだ。羅睺丸は向う見ずな鉄砲玉ではあるが、味方の危機へのリカバリーについては直感じみて頭が回る少年だった。

 脚が止まった巨人の懐に真正面から踏み込むと、羅睺丸は眼前の巨木ほどもある胴を横薙ぎに両断した。残る2体の巨人が咆哮するが、大太刀の少年はそれを不敵な笑みでやりすごす。河太郎が展開した輝く障壁はまだその効力を発揮している。残る巨人も深手を負い、羅睺丸の勝利は揺るがないだろう。

 と、そのとき。

 河太郎の目の前に、半透明の文字盤が浮かび上がった。ホログラフィのようなそこに浮かび上がるのは「念話着信:ビアニシッシモ 受信/拒否」の表示。

 空いた逆手で受信の字に触れると、河太郎の耳元に少女の声が響いた。

「河太郎くん! こっちからも巨人1だよ! しばらくなんとかなるけど、 羅睺丸くんまだ?」

「まだかかる。商人さんたちは?」

「細雪さんが守ってくれてる!」

「……すぐ向かう。待ってて」

「え? 河太郎くんっ!?」

 河太郎は、まだ巨人2体と戦っている羅睺丸に背中を向け、商人たちの向かった先へと走り出した。

 悪い視界の中でも、すぐに商人達の姿は確認できた。視界の先にはよろめきながら進む馬車。雪に邪魔され、思いのほか進めていないようだ。

 商人たちの馬車の脇にでは、いつの間にか一人の少女が弓を構えていた。

 河太郎によりもさらに小柄な姿。長い髪を邪魔にならぬよう、編み込んでさらに後頭部をぐるりと渡している。草色のシンプルな革鎧と、竪琴をかたどった複数の弦を持つ長弓。彼女の名前はピアニシッシモ。河太郎の仲間の一人だった。

 ピアニシッシモが矢を放っている先には、2つの巨体の影があった。1つは〈氷の巨人〉を一回り巨大にした、変異体。もう1つは、輪郭こそ違うが、巨大な岩めいた人間型。羅睺丸が相手にしているのとは別の方角から現れたのだろう。まったく間の悪い話だった。

「も、もう! 河太郎くんっ。来る前にお話聞いてよう……」

 ピアニシッシモが琴弓をつま弾くと、輝く音符が周囲を舞う。瞬間、河太郎の動きが加速した。彼の足元で、一歩一歩地を踏みしめるたびに、きらめく音符が弾けた。

 羅睺丸が敵を引き付け立ち続ける「囮」の力、河太郎が、術によって味方を支える「守り」の力を持つならば、ピアニシッシモが使うのは音楽による「鼓舞」の力だ。最も原始的な魔術である音楽によって味方を応援し、敵を怯ませるのが、彼女の役目。今はその旋律が、河太郎の走る速度を後押ししていた。

「警戒、20秒後、広域攻撃、氷属性」

 霞む霧の向こうから、男の声が聞こえた。低いがよく通る響き。19、18、17とカウントダウンが始まる。

 河太郎はその脚をさらに早める。15、14、13。

 勢い込んだ拍子にわずかに態勢を崩しながらも、転がるように河太郎は馬車の傍へと立った。12、11。

 ピアニシッシモは商隊に張り付いてきっちりと護衛をしてくれていたようだった。手はず通り。一点誤算があったとすれば、こちらにも巨人が現れたということ。

「河太郎くん、あっちは?」

「うまるが耐えられる。それより……」

「10、9」

 河太郎は記憶の底から、この巨人たちの特性を思い出す。攻撃範囲内に一定以上の人数がいたときに使ってくる、多人数を巻き込む特殊な攻撃のことを。

 高い身体能力を誇る〈冒険者〉、河太郎とピアニシッシモは耐えられるだろう。けれど、ここにいる商人たちは違う。ならば、自分がなんとかしなければ。

 河太郎は、この世界で与えられた役割、〈神祇官〉の能力を片端から思い浮かべ、最も適当なものを選び出す。

 〈神祇官〉の能力は癒しと遮断。傷を回復し、また、傷を負わぬように攻撃を阻む障壁を展開することが、〈神祇官〉の術の中核をなす。その中でも今必要なのは、術者の周囲にいる味方全員に同時に守りの障壁を展開する術。

 河太郎は弓を足元の雪に刺し、両手で次々と複雑な印を組んだ。8、7、6。巨人の方から聞こえてくる声に急き立てられるように、都合九の印を完成させ、屈んで左の掌を地に打ち付ける。

詠唱(キャスト)、〈四方拝・襲〉!」

 術がその効果を表すと同時に、それを見た栗毛の少女がありったけの声で叫ぶのを、河太郎は聞いた。

「羅睺丸くん! 河太郎くん「跳ね」ちゃう!」

 跳ねる? 何が? 決まっている。この状況。自分の敵からの敵愾心(ヘイト)だ。

 そこで、河太郎は、己のミスを理解した。けれど、止められない。その余裕はない。

 霧の向こうから響くカウントダウンが、0になる。

 視界を濃い白が覆い尽くした。雪風が吹き荒れ、冷気が熱を奪う。常人ならば確実に命を失う吹雪が過ぎ去ったその後、しかし、商人たちは誰一人として傷ついてはいなかった。

 商人たちを守ったのは、中空に展開されたたくさんの障壁。それは、ひびが入り、半ば朽ちながらも、彼ら全員を冷気から守り切ったのである。

 しかし。

「河太郎くん! 危ない!」

 ピアニシッシモの声と、河太郎の背中を衝撃が襲ったのは同時だった。

 空中のステータス画面に表示されたHPゲージが大きく削られる。

 攻撃してきたのは、ピアニシッシモが相手をしていた巨人ではない。そちらからの攻撃は警戒していた。だったら、どこから? 答えはすぐに出た。

 二度目の攻撃。背後……商人たちを守るために置いてきた羅睺丸の方から、河太郎めがけて巨大な棍棒が飛んできたのだ。

 命中。再びの衝撃。雪原に、大地を踏みしめたまま引きずられた2本の跡が刻まれる。数メートルほど押し出されたところで、河太郎は踏みとどまった。

 全身を鈍い痛みが苛む。河太郎はその傷を確かめる間もなく、倒れ込むように横へ身を投げ出した。片手で印を組んで、大気を斬るように振り下ろす。

詠唱(キャスト)、〈鈴音の障壁〉!」

 飛来した3本目の棍棒は小ぶりな障壁によって軌道がそれて、脚をかすめるだけにとどまった。河太郎は呻き声を上げながら、馬車から離れるように体を引きずった。

 商人達を守った〈四方拝・襲〉は、多くの味方を同時に守ることのできる強力な術だ。だが、その代償として、敵の注目を引き付け、集中攻撃を受けてしまうのだ。

(まず……っ。修理代けちって防具のランクを下げたのが……!)

 HPが半分を割り込む。想定外に強力な敵の出現と、特技選択の判断ミス。「死」が河太郎の頭をよぎる。この世界に来てから、もう何度も経験した、あのまとわりつくような感覚を思い出して、自然と体が震えた。

 羅睺丸は敵の攻撃の標的を自分へと切り替えるために、挑発を繰り返しているのだろう。けれど、あと十秒ほどは河太郎が狙われ続けるはずだ。それくらい、〈四方拝・襲〉は敵の目を引いてしまう術なのである。

 どしん、どしん、と足音が迫る。

 霧の向こうから近づく、岩めいた岩めいた巨大な人間型の影。

 河太郎の背中に嫌な汗が流れる。傷を癒す術を使って真正面から戦うか。引き付けて、馬車から注意をそらすか。思考を回転させていたところで、霧の奥から顔を覗かせたのは、見慣れた仲間の顔だった。

「落ち着け。それは俺のゴーレムだ」

 2m近い巨体の男だった。眉間に刻まれた皺と無造作に伸ばした銀髪、鋭い目つきが近寄りがたい気配を漂わせている。低くよく通る声は、先ほどカウントダウンをしていたのと、同じものだ。白のローブをまとい、背後には岩でできた人型のモンスターを連れている。

「……細雪(ささめゆき)、さん」

 〈氷の巨人〉が河太郎へと投げつける石つぶてを、岩の巨体がかばうようにその身で受け止める。馬車の近くで戦っていた2つの巨体のうち片方は、〈巨石兵士(ゴーレム)〉……つまり、河太郎の仲間、細雪が使役する〈従者(ミニオン)〉で、敵ではなかったのだ。さまざまな〈従者〉を使い分けて使役することが、河太郎の4人目の仲間、細雪の能力だった。

 巨大な体で味方を守ることこそ、〈巨石兵士〉の真骨頂だ。細雪の呼び出した〈従者〉は身を削られながらも、河太郎への集中攻撃を肩代わりしていく。

「深呼吸だ、河太郎」

 細雪の声は冷静だった。責める様子も、宥める様子もない。普段はぶっきらぼうにも聞こえるその口調が今の河太郎にはありがたかった。意識して大きく息を吐き、そして吸う。

「すみません。細雪さん、次の吐息は」

「42秒」

 ステータス画面からフレンド一覧を展開、念話機能を起動。対象は、羅睺丸。

「うまる!  40秒耐えられる!?」

「楽勝だぜ! ロケンロー!」

 調子外れの音程で洋楽の歌詞を叫びながら、相棒の少年は大太刀を振り回し、木の幹のような巨人の脚を切り裂く。

 身長ほどもある得物を振り回す羅睺丸の姿は、勢いよく回転するコマのようだ。敵の注意を一身に引き受けた後の、肉を切らせて骨を断つ大立ち回りは、彼の独壇場だった。

「羅睺丸くんの歌は自動翻訳機能に引っかからないんですね。〈大地人〉さんの言葉だって翻訳されるのに、ふしぎ」

「本人が意味を知らないからだろう。この世界の翻訳は意図を伝えてる節があるからな。伝える気持ちがなければ翻訳されないこともあるし、そもそも意味を本人がわからなければ伝わらん」

「羅睺丸くん英語苦手なんだ。洋楽好きなのに」

「それより、東湖の言う通りだったな。「巨人の行動範囲の変化」、か」

「ただでさえアトマムの失踪事件で人手が足りないのに……困っちゃいますねえ」

「名探偵プロメシュースの早期解決に期待するしかないな」

 緊張感のない会話をしながら、ピアニシッシモは弓を構え、細雪は傍らの〈火蜥蜴(サラマンダー)〉に命じて火球の砲撃をはじめた。自分のミスを引きずらない2人に感謝しながら、河太郎もまた、羅喉丸の支援をすべく障壁の印を結ぶ。

 人類の天敵である巨人を次々に打ち倒していく4人を、商人たちは呆然と眺めた。

「……これが、”獅戦士の後継”……」

 誰ともない呟きに、河太郎は矢を射かけながら答える。

「少しかっこ悪いとこを見せましたけど。僕らはギルド〈シルバーソード〉、〈冒険者〉です。安心して。無事に街までお送りします!」

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