「僕の名前はイマイチです。」
僕の名前はイマイチです。
名前がかっこ悪いとか、オシャレじゃないとか、そういう意味のイマイチではありません。
漢字で書くと「今一」。つまり名前の読み方そのものが「イマイチ」なんです。
これを聞いてどう感じましたか?
「変な名前」「おかしな名前」そう感じた方も多いのではないでしょうか。
実際に、自己紹介をするたびに笑われたり聞き返されたりといった反応をされてきました。
正直いって嫌いでしたね、自分の名前が。
この名前が原因でいじめられたこともありました。
小学生の時は、「イマイチと一緒にいると俺たちまでイマイチになる(笑)」と言われ、仲間はずれにされたこともありました。
周りからからかわれ続けた僕は、自分で自分を「僕はイマイチな人間なんだ」と思うようになってしまったんです。
そして中学生になると、反抗期ということもあり、こんな名前を付けた親を憎むようになりました。
学校に行かず引きこもったり、学校に行ったふりをして時間を潰していたこともありましたね。
ある時、不満が爆発して母親にこんなメールを送ってしまいました。
「こんなふざけた名前なんで付けたんだよ。ふざけんじゃねえぇぞババア!」と。
ひどいですよね。
今思い返しても本当に最低のことを言ってしまったと思います。
でも、母親から返ってきたメールを見て僕はハッとしたんです。
「名前のせいでそんなに苦しい思いさせて、本当にごめん。でもこれだけは伝えておくから。
今一っていう名前は、生まれた瞬間の今一を見て浮かんだんだよ。
今一が生まれた瞬間、今が一番幸せだって感じたから。」
”今一が生まれた瞬間、今が一番幸せだって感じたから。”
この言葉を見た瞬間、心臓のあたりが締め付けられる感じがしたんです。
今まで自分の名前の意味を聞いたことがなく、まさかそんな意味があったなんて思いもしませんでした。
すぐには反抗期は収まりませんでしたが、このメールを受け取ってから考え方が徐々に変わっていきました。
イマイチという名前はこれからもずっと変わらないし、笑われることもあるかもしれない。
それなら、自分自身を変える努力をしようと。
イマイチと言われからかわれるなら、イマイチと言われない人間になればいい。
僕は中学二年生から勉強に励むようになり、それなりの高校に進学しました。
高校のクラスでの自己紹介でも、やっぱりクスクスと笑い声が聞こえましたね。
でも、その時僕は自己紹介にこう付け足しました。
「名前はイマイチって言いますが、中身もイマイチって言われないように頑張ります(笑)」と。
この自己紹介がハマったのか、わりとすぐクラスメイトと仲良くなれたし、初対面の人にもすぐ名前を覚えてもらえるようになりました。
変わった名前って、悪いことばかりじゃないんですよね。
高校では、名前に負けないように一生懸命勉強をしました。
もちろん勉強だけじゃなく、青春も楽しみましたよ。
そして現在23歳、アメリカの大学に留学中です。
アメリカでは、名前を伝えて笑われることはありません。
ただ、イマイチという名前は発音しづらいようで、こちらではイマーチと呼ばれていますが(笑)
アメリカの大学にはいろんな人が集まります。
アジアやヨーロッパ、南米など、世界各国、様々な人と同じ大学で学んでいくのです。
小さいころ貧しくて学校に行けなかった人、生みの両親を知らない人、同性愛を差別され家族にも受け入れてもらえなかった人、本当にいろんな人がいます。
彼らに出会って、名前一つで親を憎んでいた自分が、いかに小さい人間がわかりました。
もっとも衝撃だったのはインドの留学生で、彼は生みの親に捨てられ、路上生活をしていたことがあるそうです。
そのあと保護され施設で育ったそうですが、生みの親から付けられた名前はわからないのだそう。
施設で新しい名前をつけてもらい、その名前で生活しているそうです。
彼いわく「僕は保護されたから恵まれている方。保護されず死んでしまったり、人身売買されてしまうこともある」そうです。
インドには厳しいカースト制度があって、彼のように施設育ちで海外に留学する人は、ほんとうに稀なのだそう。
アメリカに来て、自分の本当の名前を知らない人に出会い、考え方や価値観が大きく変わりました。
たしかにイマイチという名前は変わっていますが、両親が意味を込めて付けてくれた、愛のある名前です。
そして今になって思うのは、この名前で本当に良かったということ。
いじめられたこともあるし、不登校になったこともある。
でも、もし有り触れた名前だったら、今の僕は存在するだろうか?と。
イマイチという名前だったからこそ、努力して勉強をしてアメリカに来て、いろんな人と出会うことができた。
名前のせいにするのは簡単です。
今はキラキラネームがブームということもあり、名前に悩んでいる方も多いでしょう。
いろんな人がいますから、意味もなく雰囲気だけで名付けたり、適当に名付けたりする親も少なからずいます。
本心から名前が憎い、そう感じたら名前を変えるというのも一つの方法です。
実際に今は、簡単ではありませんが名前を変えることもできるようです。
でも、一度でいいから自分の名前の意味を親に聞いてみて下さい。
もしそこで少しでも愛を感じたら、名前ではなく自分自身を変えてみると、周りも変わってくるかもしれません。
最後に、僕はいま、今一という名前にもう一つの意味を見出しました。
それは「今を一生懸命に生きること」。
アメリカに来ていろんな人と出会い、今この瞬間を生きるという大切さを学びました。
もう一度言います。
僕の名前は今一です。
僕が生まれた、今この瞬間が一番幸せだと感じてくれた両親。
この名前を付けてくれたことを感謝しています。
そして僕自身、今が一番幸せだと思えるように、今を一生懸命生きていくつもりです。