25話 殺人
……なんだ? 何か臭いな……まるで血の匂い……血?
異変に気づいて、すぐに起き上がりニオとユキを確認する。
「……は……?」
ユキは寝ていた。スースーと寝息を立てて気持ちよさそうに。
ニオも……寝てるんだよな? 喉に穴が開いてるが……寝てるだけだよな?
「おいニオ……起きろ」
ニオの身体を揺さぶるが、何の反応もない。冷たい。
横には俺がプレゼントした刀が置かれてある。
「…………」
それを手に取り、鞘に収めた。
「ユキ、起きろ」
「ん……あ、おはよぉ……」
「早く起きろ」
「朝からどうしたの〜……って……ニオちゃん!? え!? どうしたの!?」
「ふざけるな」
「え……? わ、私を疑ってるの……? ど、どうして……?」
俺は……触れた物の過去を見ることが出来る。
ニオに触れた時、何者かに刀で刺される姿が見えた。
そして刀に触れた時、ユキが刀をニオに刺している姿が見えた。
「ち、違う! 私寝てたんだよ!? どうして疑うの!?」
「少し黙ってろ」
「っっ!? ん〜っっ! ん〜っ!!!!」
俺はユキの動きを封じて、ニオの喉に触れる。
「……ニオ、今助ける」
昔、1度だけ本で読んだ事がある。1人の人間の魂を生贄に、死んだ生き物を組成する禁術。
「ユキ。お前がこんな事をする奴だとは思わなかった。お前の考え方は異常だ……」
この禁術を使うと、一人の命以外に何か大きな問題があるらしいが……今はそんなこと考えてる暇はない。
人を愛しすぎるあまりに人を殺してしまうような人間。幼馴染みのユキを殺すのは辛い……それでも、こんな危険な人間を側に置いておくわけにはいかない。
「恨むなら俺を恨め。俺は……邪神なんだ」
「んぐっっ…………」
ユキは白目を向いて倒れた。
後は……ニオの治癒だな。
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「けほっ……けほっ…………」
あれっ……俺は生きてるのか……? いや、そうか。さっきのはきっと……怖い夢を見ただけなのだろう。
「ニオ、おはよう」
「あ、カケル様。おはようございま…………」
カケル様の声がする方向を向いて挨拶をした……時に見てしまった。
死んだユキさんの姿を。
「すまない。お前を助ける為だ」
「助ける……」
つまり、さっきのは夢じゃなく現実だった……のか?
確かにワンピースに血が付いている。
「ユキさんは……私を殺すような人じゃありません……」
「俺もそう思った……でも、ユキは昔から愛に狂っていたんだ。それに気づけなかった俺の責任だ。
俺はユキを犠牲に、ニオの命を助けた」
そんな簡単に……幼馴染みを殺せるのか。
「そんな目で見ないでくれ……」
はっ……何を考えてるんだ……。カケル様は俺を助けてくれた。犠牲を払ってまで、俺を大事にしてくれてるんだ。
俺は……愛されてるんだ……!
「カケル様……ありがとうございます」
「っ……全て受け入れてくれるのか……?」
「はい……私はもう……カケル様だけを信じて生きていきます」
もう誰も信じない。ユキさんも、裏切った。信じるのは馬鹿だったんだ。
「……ニオ……本当にすまない」
その言葉には、様々な意味が込められているのだろう。
俺とユキさん二人を救えなかった事。俺が殺されようとしてる時に寝ていた事。ユキさんを殺した事。
「カケル様の事は……全て受け入れます……」
ユキさんは死んでよかったんだ。
カケル様は間違っていないと信じて、俺はカケル様の膝を枕にして横になった。、
「カケル様なら……絶対に助けてくれると信じてました」
「……これ以上ニオが死なないように努力する。もう……ずっと二人だけでいよう」
カケル様が俺と一緒に居ることを選ぶ理由は、俺には分からない。何か計画があるのだとは思う。だから幼馴染みを殺してまで生き返らせて、俺を強くしようとしている。
そんなカケル様に必要とされている俺は、幸せ……なのだろうか。
まあ……カケル様と一緒に居られるのなら、俺も人殺しするだろう。それだけカケル様は魅力的なんだ。
もっと愛が欲しい。
カケル様の為なら、全世界を敵に回したって良い……。