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鬼ノ物語  作者: フ一三ソ
14/27

14話 感情

風呂上りに体を拭かれた後、浴衣のような簡単に着れる服を着せられた。身体を覆う布を、紐で固定するだけの服。紐が解けると前は丸見えだ。

ㅤそんな服を着て、カケルさんの部屋に連れてこられた。


「あ……の…………痛くはしないでください……」

「何言ってるんだ。飯食ったら寝るぞ」


そういうと、どこからかサラダを取り出した。薄黄色い液体がかかっている。ドレッシングだろうか。

ㅤ俺はつい、奴隷の時にされる事が当たり前だと思って、つい変な事をされるのかと思ってしまった。恥ずかしい。

ㅤこの世界にもそういう調味料はあるんだな。

ㅤそんな事を思いながら渡されたフォークを使って食べる。


ㅤ食べ終わると、お皿はまたどこかへとしまわれた。まるで空間の中に消えていくように。


「寝るぞ〜」

「えっと……では部屋に戻ります……」

「ん? ここで寝るんだぞ」

「いいんですか?」


まさか折角用意して貰った部屋は使わなくて良いのか。


「その方が良いだろう?」

「では、喜んで……」


良い匂いのするベッドに横になり、フワフワの布団の中に潜り込む。

ㅤこうして幸せを感じながら眠れる、という事がどれだけ幸せな事なのか。今の俺には感動する程分かる。


ㅤカケルさんも隣で横になり、両手を頭の下にやって天井を見つめる。


「何かしたい事とかあるか?」

「したい事……ですか……」


突然そんな事を言われて、何かしたい事を見つけなきゃいけない……と思った。


「……ずっとカケルさんと一緒に居たいです」


これさえ叶えば、何もかも幸せに終わる。


「そうだな、俺はニオを1人にしない」

「っ……ありがとうございます」


その言葉が嬉しくて、ついカケルさんの手に触れてしまった。俺は抱きしめたかったのだろうか……自分でも分からない。

ㅤ俺はこのまま……男を好きになってしまうのだろうか。


「さ、ゆっくり休もう」

「あっ……」


カケルさんが俺とは逆方向を向いてしまった。

ㅤ顔が見えなくて少しだけ悲しくなったが、俺も寝ないといけない。


「おやすみなさい……カケルさん」

「おやすみ」


前世なら当たり前の生活も、今の俺には全てが特別な事だった。

ㅤ1つ1つの幸せを全身で感じながら、眠りについた。


ーーーーー


「…………っ! カケルさんっっ!!」

「なんだ?」

「よ、良かった……」


起きたらカケルさんがいなくなってるんじゃないか、と心配になってつい名前を呼んでしまった。

ㅤしかし、カケルさんは俺の横でボーッとしている。


「俺はいなくならない。安心しろ」

「っ……はい……」


カケルさんに優しく抱きしめられた。とてつもない恥ずかしさに顔が熱くなった。


「そうだ。ニオにはこの剣をプレゼントしよう」

「え?」


そういって取り出したのは、黒くて綺麗な刀だった。

ㅤ持ち手の部分には赤くて丸い物が埋め込まれている。


「こ、これは……?」

「ニオ専用の黒刀だ。今日はその刀の扱い方を覚えてもらおう」

「分かりました……頑張ります!」

「まだゆっくりしてていいからな。俺のやる気が出たら行こう」


随分とマイペースだな。

ㅤそれにしてもこの刀、カケルさんと同じような雰囲気を感じる。まるでもう1人いるみたいだ。

ㅤ今はこの刀を抱きしめて我慢しよう……。


ㅤ横にいるカケルさんの息が聞こえる度に、脳が気持ちよくなる。まるで前世にあったヒーリング動画の音声のようだ。

ㅤまた、角を触りたくなった。


「……っっ……っ〜〜!」


本当に、この感覚が癖になる。


「お、おい……あまりそれは人前でしない方が良い」

「ふぇ……?」

「その……なんだ。女の子なんだ。イヤらしい声を出すな」


珍しくカケルさんが動揺している。


「イヤらしい……ですか?」

「ああ。俺も鬼人族についてはよく知らないんだが、人前で角はあまり触るなよ」

「わ、分かりました……でもカケルさんがいないと何もできません……」

「…………そこはタイミングを考えろ」

「はい」


この行為はいけない事なのだろう。とても気持ち良いのだが……別にダメな事はしてないと思う。

ㅤ角を触りたくなる衝動を抑えつつ、カケルさんの体に密着して温もりを感じる。


「……」

「……」


しばしの間、沈黙が続いた。

ㅤ何もおかしい事ではないのに、この沈黙は何か特別な事に感じた。


「……カケルさん……」

「なんだ」

「……好きです……」


言ってしまった……! このタイミングしかないと思って、ついに言ってしまった……! 恥ずかしい……!!

ㅤ俺はホモなのか!? それとも女の子だから正常なのか!? 分からない……でも、俺はカケルが好きだ……。


「そうか……」

「……?」


あっけない返事に、俺はカケルさんの顔を見上げた。しかし、別方向を向いていて見ることができなかった。

ㅤ今の返事にも、何か距離を感じたような気がして、嫌われたのかと思い胸が痛くなった。


「カ、カケル……さんっ……!」

「……!? な、なんで泣いてるんだ!?」

「うぅっ…………嫌いにならないで……っ……」

「き、嫌いなんかじゃないからっっ! だ、だから泣くのをやめろっ!!」

「うっ……ん…………良かった……」


最近、というよりこの体になってから泣く事が増えた気がする。

ㅤ困惑するカケルさんをみて、少しだけ嬉しくなった。俺の涙に、こんな反応をしてくれるのか……と。


「す、すまなかった……いきなり好きだと言われて……どう反応したら良いか迷ったんだ。……悪い」

「うん……」


まさか13歳の子供にこんなに照れるのか。

ㅤ俺の心の中に、悪戯心が芽生え始めた気がする。カケルさんに嫌われない範囲で、何か愛を感じたいな。


ㅤまた、部屋に特別な沈黙が訪れた。

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