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鬼ノ物語  作者: フ一三ソ
10/27

10話 王国

「……えっ……」


目を覚ますと、木製の一室に寝ていた。

ㅤ部屋には一つのベッドに花の置かれたテーブル。壁には絵画と鏡。


ㅤテーブルの上に何やら紙が置かれている。


『かなり酷い状態でしたので、治癒魔法を使いました。私達はフェリーニ王国の騎士団です。

ㅤ混乱しているようなので、事情を説明します。

ㅤ我々が勇者様の家に着いて、用が済み、帰ろうとした時に、帝国軍の暗殺者グループが攻めてきました。

ㅤ我々はほぼ全員を失い、あそこに住んでいた人も大勢が無くなりました。少しでも命を救おうと、馬車に貴方達を乗せて王国に連れてきました』


もう1枚紙があった。


『無力な我々をお許しください。

ㅤ現在、貴方達は王国騎士団によって保護されています。帝国軍に命を狙われている皆さんを救うには、この方法しかありませんでした。

ㅤ更に詳しい話は、部屋に来る召使いに聞いてください』


……どうやらここは王国らしい。何が起きているのか全く覚えていない。酷い状態? 治癒魔法? 俺は、暗殺者グループとやらに殺されかけたのだろうか。

ㅤ着ていた服はどこにもなく、綺麗な白い服が着せられている。


コンコン

「っ!?」


部屋の扉がノックされ、俺は肩を震わせた。


「失礼します」


入ってきたのは女性だった。


「体調はいかがでしょうか」

「…………」

「良さそうですね。何か聞きたいことがあればなんなりと……」


聞きたい事……そうだ、ユキさんやシュリさんはどうなったんだ……?


「その……ユキさん……は……」

「ユキ……勇者様ですね。かなりの重傷でしたので、部屋で休ませています。命に問題はありません」

「ほっ……」


今度こそ1人きりになったのかと思った……。


「ここは……?」

「ここはフェリーニ王国主城内の客室でございます。皆様方に用意する部屋が無く、緊急にここに運ばせて頂きました」


ってことは……安全? なのかな?


「あの……何人くらい……死んだんですか……?」

「この城に運ばれてきたのは30名確認しております」


30名……分からない。何人死んだのか、元々何人いたのかも分からない。


「ユキさんに……会わせてください……」

「では、こちらへ」


扉が開かれて、外へ出るようにと言われた。


「ひっ……」


外には男の人等が行き交っていた。

ㅤ俺は思わず後ずさりして、後ろの壁を背に座り込んでしまった。


ㅤ女性は何かを理解したのか、扉を閉めた。


「男性が苦手なのですか……?」


静かに頷いた。


「では……勇者様の様子が安定するまでは会えません」

「そんな…………早くしないと……アイツらが来る……」

「大丈夫です。城内には腕の立つ騎士が大勢いますので」

「ダメ…………怖い……」


心の中にある恐怖と不安が、一気に膨れ上がった。

ㅤ知らない場所、安心できない。一刻も早く誰かに会いたい。


「……」


女性は困ったような顔をしながら、部屋から出ていった。


ㅤ人々が歩く音が部屋の中まで聞こえる。もし誰かが入ってきたら……もしアイツらが居たら。そんな事を想像してしまい、ベッドの上にある毛布を手繰り寄せ、自らの体を守るように包み込んだ。

ㅤ体の震えが収まらない。いつか絶対、アイツらはやってくる。寝たくもない。寝ると皆が死んでしまう。


「死ん……だ……?」


あの建物に居た人達の何人かが、殺された。もしかすると俺も死んでいたのかもしれない。

ㅤ死の恐怖が、遅れてやってきた。


「助けてっ……誰か…………誰かぁ……ぁぁ〜……」


テーブルやクローゼットを倒して、ベッドの周りを囲むように配置する。

ㅤそしてベッドの下に隠れる。こうすれば守られる気がして、そうしないと死んでしまいそうで、暗いベッドの下でただただ震え続けた。


ーーーーー


「王女様。かなり重症な方がいます」

「重症?」

「あれはもう……精神的に狂っているとしか……。城に運んできた騎士によりますと、自分の耳をちぎり、自分で目を潰していたそうです」

「うわ……こ、こほん。今は何しているのかしら」

「部屋で何者かに怯えています」


……気になるな。行ってみるか。


「なぁ王女。俺がソイツを見てきてもいいか?」

「わ、分かんないけど、良いんじゃない?」

「それが……男性を見た時の表情が……尋常じゃない程怯えてるんです」


男が苦手……か。何か酷いことでもされたのか?

ㅤ召使いのミリスがこんな表情をするという事は……相当酷いのだろう。


「……場所は?」

「い、行かれるのですか?」

「俺が行った方が良いだろう」

「そ、それもそうですが……分かりました。着いてきてください」

「カケルさん、頑張ってね」

「ああ」


ㅤカケルと呼ばれる男は、召使いに連れられてニオの部屋へと向かった。


ーーーーー


「ここか?」

「……はい」


他と雰囲気が違うな。


「入りますか?」

「ああ」


召使いが小さくノックすると、部屋からガタンと音がした。


「失礼します」

「失礼する」

「嫌だぁぁっっ!!!! 来ないでっ! 嫌っ! 死にだくな゛い! やめてっっっ!!!」


家具に囲まれたベッドの下に、布団で姿を隠すようにして暴れている女性がいる。


「これは……酷いな」


こんなに酷い状態は初めて見たな。この娘が自分の目玉を潰したりしたのか……。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛っ゛っ゛!!!!」

「うっっ……」


なんて叫び声だ。もはやただの振動だ。鼓膜が音を立てて振動している。


「カケル様……お願いします」

「ああ……」


耳を抑えながら、今も叫びつづける娘の元に向かう。

ㅤ家具をどかそうとすると、とてつもない力で止められた。


「流石オーガだな……でも……」


少し力を入れて、家具をその手から引き剥がした。

ㅤ家具には指がめり込んだ跡がある。


「あ゛がっ゛……がはっ……」


口から血を吐いている。それに、自らの爪で自分の顔を切り刻んでいる。


ㅤその娘の肩に触れようとすると、ほぼ誰にも見えないような速度で拳が飛んできた。

ㅤ骨が折れたな……。


ㅤすぐに治癒魔法を使い、肩に触れる。


「あ゛あ゛…………あ…………え……?」


不思議な顔を見せた少女は、目を丸くしながら俺の目を見た。


「なんだ。可愛い顔してるじゃないか」

「え…………何……誰……? いっ……痛い……」

「今治してやる」


肩に触れながら、治癒魔法で傷を癒す。


「俺はカケル。お前は?」

「っ…………ニオ……」

「ニオか、良い名前だな」

「…………」


まだ混乱しているようだ。


「な、なんで……男……俺……大丈……ぶ……」

「ふぅ……少しは楽になったか?」


肩から手を離しそう尋ねると、静かに頷いた。

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