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鬼ノ物語  作者: フ一三ソ
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1話 プロローグ-前編

ㅤ毎日が楽しい。

ㅤ本当にそう思っていなくても、無理矢理自分に思い込ませて生活していた。

ㅤ毎日毎日、同じ事の繰り返しで何の新鮮味も無い日常に、何か新しい刺激が無いか毎日追い求めている。


ㅤ今日は、珍しく深夜に散歩する事にした。

ㅤ夜の涼しい風、虫の声、少ない灯りの大切さ。それらが新鮮で楽しい。本当は楽しくなくても、そう思わなくちゃいけない。


ㅤ深夜になると交通量が少なくなる交差点。俺はいつも通り信号を渡った。


ㅤでも、深夜だからいつも通りじゃなかった。

ㅤ確実にスピード違反をしている黒い車が、深夜の暗い闇の中から突然現れ、俺の身体を壊した。

ㅤいつもと違う衝撃、いつもと違う興奮が俺を襲った。


「……楽しい」


身体が冷たくなり、段々と失われていく感覚。それが俺にとって楽しかった。いや、そう思わないと辛い世の中は生きていけない。


ーーーーー


目を覚ませば、"ピッ、ピッ、ピッ" という電子音が、俺の心臓の音に連動して動いている。

ㅤフワフワした感覚で目を開けると、俺の知らない人が心配そうにこちらを見ていた。


「ーー大丈夫!?」

「意識はあるか!? ーー」


何故だろう。言葉が聞き取れない。


「誰?」


俺が2人にそう尋ねると、2人は酷く悲しい顔をした。

ㅤもう1人、白い服を着た人が悲しそうな顔で2人に何か言っている。


ㅤ俺には何も聞き取れなかった。

"ピーーーーーーーー" という電子音だけが、俺の最後の刺激だった。


ーーーーー


ーーーーー


ーーーーー


「……」


今日は不思議な事が良く起きるな。

ㅤ俺の視界は緑で埋め尽くされていた。緑の隙間から眩しい光が漏れて、風で揺れる度に光も揺れる。


ㅤ壊れたはずの自分の体を確認する。

ㅤ知らない右手、左手。頭を触ると、とんがった物があった。角のような……何かの破片でも刺さってるのだろうか。


ㅤ服は何も着ていなかった。裸。

ㅤ小さな胸があって、下半身には毛の生えた割れ目がある。俺は女の子になったのだろう。

ㅤ髪は黒髪ショート。これだけは変わらなかった。


ㅤ1度に様々な刺激が俺を襲って、頭痛がし始めた。それでも楽しいと思わなければ辛いだけだ。


「寒いから温かいところにーー」

「おい! あそこに女がいるぞ!」


立ち上がろうとすると、横から男の声が聞こえた。


「オーガだな。親にでも捨てられたか」


横を見ると、2人の男性が草を掻き分けながらこちらへとやってきている。


「服を……貸していただけないでしょうか」

「ああ」


1人の男が笑顔でそう言うと、俺は急な眠気に襲われた。

ㅤ後ろに倒れようとした時に、もう1人の男性に支えられた。


「眠ってていいんだよ」

「……はい」


人は眠気に逆らう事は出来ない。


ーーーーー


次に目を覚ました時。そこには汚い布の服を着た女性達が沢山いた。

ㅤ手は手錠のような物で拘束されており。足は重りが付けてある。


ㅤそして俺も、周りの女性達と同じような格好で、鉄格子の中に入っていた。


「アンタ……捕まったのかい……」


1人、長い黒髪の女性が話しかけてきた。


「ここは何処ですか?」

「盗賊団の拠点だよ」

「俺は盗賊団じゃありません」

「……アンタは盗賊団に捕まって、奴隷にされたんだ。周りの奴らも皆一緒。

ㅤここでアイツらに酷い事をされるんだ」


何をされるのだろうか。


「楽しみですね」

「アンタ馬鹿なのかい!?」

「……すみません」


怒られてしまった。ここは楽しんではいけない場所なのだろう。

ㅤ俺は静かに、その場に横たわった。


「見たところアンタ、鬼人族だね。鬼人族の角は高く売れるし、1日ですぐに生える。

ㅤその角も、アイツらに切り取られるんだよ」


頭に触れると確かに角がある。破片ではなかったようだ。

ㅤにしても、ここは随分と温かい場所だな。もしかすると地下にあるのかもしれない。


「アンタ、名前はなんて言うんだい」

「名前……思い出せません」


俺の頭の中から、俺が何者なのか分かる為に必要な情報が全て消えていた。

ㅤどうせなら全て消えていた方が、人生楽しめるのかもしれないのに、勿体ない。


「っ!?」

「……?」


突然、優しく話しかけてくれた女性が怯えたような表情を見せた。

ㅤそして俺の背後からは足音がする。誰か来たのだろう。


「おう、お前が新人か」


俺の顔を覗き込む男性。臭いが強烈で、鼻が痛くなるほどの刺激だ。

ㅤその男性は、足の重りを外してくれた。


「立て。今から楽しいことをしような」

「楽しいんですか?」

「ああ、楽しいぞ」


それにしては、周りの女性達は悲しそうな顔で俺を見つめていた。


「……楽しみです」


これから何が始まるのか、楽しみに待たないと生きていけない。


ーーーーー


俺は1つの部屋に案内された。

ㅤベッドの上に倒されて、両手両足を拘束された。


「しばらく待ってろ」

「は、はい」


身動きが取れないまま、言われたとおりしばらく待っていると、3人の男が入ってきた。


「よぉ〜かわい子ちゃん」

「へへっ、こりゃ良い身体してんなぁ」

「俺が先だぞ」

「わぁってるって」


3人はニヤニヤと俺を見て笑いながら服を脱ぎ始めた。


「楽しいんですか?」


笑う理由を聞くと。


「ああ、楽しみだ」


どうやら、今は俺も楽しんで大丈夫なようだ。

ㅤ今からどんな事が始まるのか、予想はつくし恐怖心だってある。それでも、精神的に余裕が欲しいから "楽しい" と思い込む


ーーーーー

ーーーーー


「あ…………っっ……ぁ……」


3人に体を弄ばれた後、俺は全身の力を抜いた。


「楽しかったか?」

「は……はい……」


楽しいはずがない。臭くて気持ち悪くて、死にたいくらいだ。


「もう1回してやろうか」

「おい、追加するなら金貨1枚だぞ」

「ちっ……」


3人が部屋から出ていくと、どこからか1人の男性が現れた。


「お疲れさん」


体の拘束を解いて、女性達がいる場所に戻された。足には重りを付けられ、いつもの場所に座り込んだ。

ㅤ全身に力が入らない。


「アンタ……大丈夫かい……」

「はっ……はい……」

「血が……残念だったね……」


長い黒髪の女性が、優しく話しかけてくれた。

ㅤその人だけが今の俺の救いだ。

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