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スカーレット・ゼロ  作者: ロマンスの馬
8/9

爆散の美学 1

香しい味噌汁の香りで目を覚ました

味噌汁のいい香りで目を覚ましたのは母さんと父さんが海外出張をしていないで家族全員で暮らして

た時以来だ

一人暮らしを始めてから常にリアル3分クッキングブレックファーストの生活が続いていたから

いや、その前にまともに料理すらしてない

それが原因で家庭料理に飢えていたし、実際昨日の親子丼は単純な料理の旨さとは別に

家庭料理の懐かしさでもいいスパイスとなっていた

だからこそいい気分で目を覚ました俺は見慣れていない天井にポカンとして思考停止した

え?マジでここどこ?何で頭がこんなに重くて痛いんだよ

状況が掴めずに本気でテンパって、あたふたしていると左手に柔らかくもあり、弾力とハリのある

感触が手に伝わって来た

明らかに布団とか違う感触に驚き横を向くと年より幼く見えるあどけない寝顔をしたリア先生がいた

目線を俺の左手のほうにずらすと、俺の左手がリア先生の大きな乳房をガッシリと掴んでいた

俺は顔を真っ赤にして手を離そうとしてが俺の意思に反して動いてくれなかった

いや指だけはまるで感触を楽しんでいるように動いていた、勿論これも俺の意思に反して

「ん、あン、んぅん」

指が埋まりグニュグニュと形を変える乳房から目を離す事が出来ないでいた

リア先生よ、頼むから艶めかしい声を出さんでくれ、俺のリトルボーイが元気になっちまうだろう

リア先生やっぱり顔立ち綺麗だな、鼻筋が綺麗に通っていてまつ毛も長いな

髪も嘘くさく染髪材で染めたような感じはなく自然な色合いをしていて俺を好きだな

リア先生を眺めていたら後ろから、カシャッとカメラのシャッター音のような音がした

その音にサーと血の気が引いて後ろを振り返るとそこには携帯を片手にニヤニヤ笑っている赤いエプロンをつけた禍月がいた

とっさにマズい奴にマズい現場を見られた、そう思った

「朝ご飯出来たから呼びに来ただけなんだけど、とんでもない大スクープに遭遇してしまったわね

リア本人にこのセクハラ行為がバレでもしたら軽蔑はされはしないでしょうけど

顔を真っ赤にして目を合わせてくれない事は確実ね」

冗談じゃない、そんなの気まずくなる未来しか見えない、これから当分顔を突きあわせる訳だし

それは絶対に避けたい

「さあ、交渉の時間よ向坂君

貴方がリアにセクハラ行為をしている決定的瞬間の写真、いくらで買ってくれる?」

「いい値でお願いします」

清々しいくらいの晴れやかな禍月の笑顔の前に、俺は頭を垂れるしかなかった


「「「いただきます」」」

俺と禍月と目を覚まし身支度を整えたリア先生、三人で手を合わせ朝食を頂く事にした

朝食のメニューは白ご飯に厚揚げとわかめの味噌汁、焼き鮭、ほうれん草の白和え、ぬか漬け

純日本的な朝食、俺の日本人のDNAが喜んでいる

まず味噌汁を飲んだ、化学調味料のような尖った味はせずに味噌の優しい風味の後に煮干し出汁の深い

旨味が口いっぱいに広がる

焼き鮭は焼き過ぎずパサパサにならずに、白和えは豆腐は綺麗に潰してあり醤油とゴマの風味が喧嘩せずに

調和していて、ぬか漬けはきゅうりでシャキシャキした小気味いい歯触りがいい

全てかなりの完成度だ、全部禍月が作ったっていうんだから本当に大したものだ

朝飯食って少し頭が冴えてきた、そういや昨日話が脱線してきた事と夜もそれなりにふけてきた事で

真面目な話をするような雰囲気じゃなくなったから、何かつまみながら楽しく雑談をしようとなったのだ

お菓子や禍月が作った珍味的なつまみを用意された

そこまでは良かった、そこまでは良かったんだが、禍月の奴が景気づけに秘蔵の酒を出してから

色々おかしくなってきた リア先生は少しの量で酔っ払って笑い上戸になって更に酒が入ったのち

泣き上戸へとシフトしていった

アルコールで判断力と意識が朦朧としたなかで俺は必死で介抱をさせていた

なにより腹立ったのは俺とリア先生を合わせた量の数倍は飲んでいるはずなのに少し顔を赤らめただけで

ほとんど酔った様子もなく俺達の様子を見ながらコップの中の液体を揺らしながら俯瞰していた

くそが、お前も手伝えや、そう恨み節を呟いた後の事は記憶がない

「天理、本当に美味しい」

「全く貴女って子は、私が引越してきてから貴女の全ての食事を用意しているけど

私がいなかった時はどうしていたのよ」

「えーと、お惣菜とかレトルト食品とかで繋いでいました、その後は天理が何とかしてくれると

信じていたから、調理器具すら用意してなくて」

「お馬鹿、これを機に自立するって言っていたのはどこの誰だったかしら」

禍月は手で顔を覆い本気で呆れ返っていた、いや呆れを通り越して怒りを覚えているようだった

だって手で覆っている隙間から青筋が立っているのが見えている

流石に俺もズボラだと思う、俺も料理はしないけど調理器具くらいは家にあるし

禍月がリア先生に対して説教をしている、リア先生は体を小さくしてシュンとして大人しく説教を

受け入れている。普通立場逆じゃねぇ、という意見を飲み込み黙って朝食を食べ続けた

「リア、自分が借りている部屋があるのだから、もっとそっちで暮らしなさい、貴女このまま私の

ところに居座るつもりでいるでしょう

言いたくはないけどお金の無駄よ」

「は?二人でここに住んでいるじゃないのか」

「違うわよ、リアは自分で借りている部屋があるの、ちなみにここよりいい部屋なのよ

部屋数、設備、セキュリティも上等なの、嫌味のつもりかしら

ブルーカラーとホワイトカラーの違いとでも言いたいの」

「もう、天理その話はこの前決着してちゃんと謝ったじゃない、それにあそこの御家賃は私がはらっているんだから、文句を言われる筋合いはないわ」

リア先生は怒っているようだけど、そんな怖くないな。ぷんぷんという擬音がつくような迫力しかない

見てみろよ、禍月は何もなかったように食事を続けてるよ、暖簾に腕押しとはこの事だ

「リア、興奮しているところ悪いけど、時間はいいの」

「え!?もうこんな時間、早くしないと」

時計の針が7時15分を示していた、リア先生は車での通勤だから移動のことを考えたらそろそろ

出ないと間に合わないな

時計を確認すると残ったご飯とおかずをハムスターのように頬を膨らませて口に中に詰め込み

味噌汁で口の中身を胃に流し込んだ

口元にご飯粒や涎のように味噌汁を垂らした保険医の姿がそこにはあった

うわーなんか色々と残念だ

「ご馳走様、天理、後はお願い、行ってきます」

リア先生は禍月が用意していたタオルで口元を拭いて茶碗や皿をそのままに荷物を肩に掛け立ち上がり

玄関に向かった

「いってらっしゃい、リア、遅れないようにね」

禍月は手を振って見送った

「さてと、向坂君、私達もそろそろ登校の準備をしないとね」

「ん?ああ、そうだな・・・俺もごっそうさん、悪いな禍月、二食分も奢って貰ってよ」

「これくらいは気にしなくてもいいわ、これからの協力、情報料だと思ってくれて」

禍月も食べ終わって机の上の皿と茶碗を片付いてお盆の上に乗せてキッチンに持っていった

皿を洗っている音が聞こえてくる

しばらくすると皿を洗う音が聞こえなくなって禍月がリビングに戻ってきた

「さあ、学校に行きましょうか」

そう言うと禍月はエプロンを引っ張るようにとった


キーンコーンカーンコーン

昼休みに入り、いつものメンバーに禍月を加えた面々で昼飯を食うことになった

実は今日の昼飯はなんと禍月大先生がおつくりになられた弁当だ

禍月の部屋を出る時に俺に持たせてくれたのだ

『二人分作るのも、三人分作るのもそんなに苦労は変わらないから』そう言った

まぁ、断る理由もなかったし禍月の作った飯も旨いし

いつも通りのメンバーで昼飯を食べようと机を付けて各々自分の昼食を出して机に並べた

「あれ、真紅郎がお弁当を持ってくるなんて珍しいね」

「前持ってきたのはレッドのマミーが帰ってきた時じゃなかったかにゃ」

ツイン幼なじみが目敏く俺の目の前にあるターゲットをロックオンした

岬と雫は妙に鋭いところがあるからな、この弁当を禍月から貰った事がばれたら色々波紋を生む

拗ねられたり、からかわれてたりする事は決まっている

何が悲しくて争いの種を提供しなきゃいけないんだ

「あれ?向坂と禍月ちゃんの弁当箱、色違いなだけで同じじゃないか」

そう言われて確認すると本当に同じデザインだった

色気の欠片も無駄な装飾ない簡素なデザインをしていた、禍月は赤色、俺は黒色、

チッ、袴田の馬鹿野郎余計なことを気がつきやがって、今その事に気がついた俺が悪態をついても仕方ない

「それは当たり前よ、向坂君の弁当を用意したのは私なのだから、弁当箱が似通っているのは何もおかしい

事はないわ」

おい、禍月、余計なアシスト寄越すな

「向坂、どういう意味か説明して貰えるんだろうな、姫の弁当なんていうこの世最高の馳走を振る舞って

貰えるようになった経緯とどういう仲かをの」

ほら、お前が余計なアシストのせいでロリコンの変態が釣れちまったじゃねぇか

憤怒に歪んだ顔をこっちに向けんな、マジで笑えないどんだけ必死なんだよ

もし昨日禍月と一緒に茶して、家に招待されて夜飯朝飯ご馳走になって、一晩泊めて貰った事を知られたら

怒りが頂点を限界突破して得体の知れない何かに変身しそうで怖い

「お、落ち着けよ権藤、お願いすれば作ってくれるさ、なぁ禍月?」

「そうね、毎日は無理だけど偶になら作れるわよ」

「本当に?僕達の分も作ってくれるの」

「全員分となれば大きな重箱を用意しないといけないわね」

禍月は微笑を浮かべた それを肯定と受け取った皆はそれぞれの喜びの反応を示した

権藤も怒りを納めて、それどころかさっきまでの態度が嘘のように狂喜乱舞していた


『二年A組、向坂真紅郎君、義城岬君、禍月天理さん、生徒指導室に来てください』


突然の呼び出しに俺は昼飯のお預けをくらった、あー腹減ったぜ、生徒指導の呼び出しなんて冗談じゃない

余程不機嫌だったんだろう、俺は不機嫌な顔をしただけではなく思った事を口にしていたようだ

岬に目で諫められた

それくらいの愚痴は許してくれてもいいだろう

だって今の俺は腹が減り過ぎてお腹と背中くっ付きそうなんだから


俺は岬と禍月は生徒指導室に向かうためにクソ長ぇ廊下を歩いていた

我が鳳陽学園は大きく分けて三つの校舎で構成されている

一つ目は俺達生徒が普段過ごしているクラス棟、二つ目は数多くの部室が集まっている部室棟

三つ目は職員室や生徒会などの学園運営に関わる物が集まっている管理棟である

クラス棟、部活棟、管理棟の順番に並んでいて渡り廊下で繋がっている

そして生徒指導室は管理棟の一番端っこにある

「一体何の理由で呼び出されたんだか、俺は悪い事をした覚えはないんだがな」

「多分、先日の体育の授業の件じゃないかな」

実際それしかないよな、よくよく考えたら大問題だよな

例え相手があの腹立つクソ教師とはいえ禍月は投げ飛ばした上に顔を蹴りつけ意識を奪ったんだ

法律に照らし合わせたら傷害罪で捕まえる、正当防衛が認められても明らかに過剰防衛だろう

最悪、停学自宅謹慎なんて沙汰も充分あり得る

「なるようになるでしょう、運を天に任せる、それしかないわね」

「おいおい頼り無さすぎだろ」

「僕は最悪でも停学は避けたいなぁ、大学に行きたいから内申書が傷つくのは嫌だな」

「義城君は大学に進学するの?もう志望校は決めているの?」

「いくつか候補があるけど、まだ決めかねている状態なんだよね」

「岬は偏差値高ェーからな、選択肢は結構多いんだぜ、凄いだろう」

自慢の幼なじみだからな、鼻が高々とはこの事だ

俺は今のところ大学に行くつもりはないから卒業出来ればいいと思っているし、禍月は

元々仕事でこの街に来ている訳だしここでどういう評価を受けようと気にはしない

だが岬はそうもいかないだろう、将来の夢は教師って言っていたから大学に行かない訳にはいかない

何があろうとも停学だけは避けたいだろう

「真紅郎の偏差値は入学ギリギリだったんだから、僕の自慢している暇が合ったらもう少し頑張ろうよ」

「向坂君の成績はそんなに酷いの?」

「何度見捨てようと本気で思った事か、僕あの頃頑張ったな」

あの頃の苦悩の日々を思い出して岬は目尻に涙を浮かべていた

「苦労したのね義城君、お馬鹿の思考回路は理解し難いものがあるものね」

岬に同情した禍月が貰い泣きしながら慰めていた

二人ともほぼネタで言っているとはいえ人を馬鹿扱いしておちょくりやがって、実際馬鹿なんだけど

話しているうちに目的地に着いたようだ

「覚悟を決めるしかないか」

「そんな事最初から分かっていたでしょうに」

「悪い事にならないように神様に祈るしかないかな」

禍月が代表して生徒指導室の扉をノックした

「二年A組の禍月、向坂、義城です。入室しても宜しいですか」

「入りなさい」

「失礼します」

禍月が扉を開けて先に部屋に入って行き、俺達も後に続いて生徒指導室に入室した

中には仕事をしている林原先生がいた

縁無しのフレーム眼鏡にスッとツリ目をした美人、規律を守る厳しさと状況や事情に応じて温情判決を

する優しさを兼ね備えており、締め上げてやるのだけではなく自由で自分で考えて正しい行動出来る

生徒を育てるこそが何よりも大切

外見とその教育方針で袴田のように尊敬している奴が多い、それが生徒指導部顧問、林原清美先生だ

「座りなさい、貴方達」

そう言われて俺達はソファーに座った、このソファー中々座り心地がいい

「さて、三人とも今日呼ばれた事にある程度は予想ついているでしょう」

「はい、先日の体育の授業の事ですね」

ええ、その通りよと言うと林原先生は頷いた後、机の上に置いてあるペットボトルの紅茶を飲んだ

「やっぱりそれしかないよな、もうヤダな」

「俺だってヤダよ、今すぐ帰りてぇよ」

禍月と林原先生に聞こえないように岬とヒソヒソ話した

林原先生は本当に聞こえていないようで書類に目を通し続けていたが、禍月は聞こえてたみたいで

苦笑いを浮かべていた

林原先生は書類を置いてこちらを見据えた

「私が聞いた報告では義城君に不当な体罰を行った曽山先生に対して、そこの転校生の禍月さんだったわね」

「初めましてでしたね、先日二年A組に転校して来た禍月天理です、見識も狭く未熟で至らぬこの身

ご鞭撻の程よろしくお願いします」

「え、ええ、よ、よろしく」

林原先生は禍月の丁寧な対応にたじろいていた

転校早々、教師を投げ飛ばしたなんて報告を受けていたんだ、普通は常識知らずで自分勝手な粗暴な性格

所謂世間一般で不良、ヤンキーの類だと思うだろう

俺はそう思うし、林原先生の反応を見るにそう思っていたんだろうな

「禍月さん、私が聞いた報告通り貴女が投げ飛ばして気絶させたの?」

林原先生は表情を普段通りの凛した顔に戻した

「大体は合っています、訂正させて頂けるなら、私が曽山先生を気絶させる要因になった行動は

投げ飛ばした事ではなく、投げ飛ばして地面に叩きつけた後に頭を蹴りつけて事です

状況報告は正確に、大切な事ですよね」

禍月の発言に林原先生は目元と口元をひくつかせた、さっき表情が戻ったばかりなのに

「そ、そう、確かに、正確なのは大事な事ね

えーと、向坂君に義城君、禍月さんの言っている事は本当?」

「大丈夫っす、禍月の言う通りです」

「あの、先生、何とかならないですか、せめて禍月さんはお咎めなしになりませんか

元々僕が原因で起きた事で、彼女は僕を助けてくれただけで、だから巻き込まれただけなので」

岬は処罰は嫌とか言っていたのに、いざ事が始まると庇うとか本当に人がいいんだ

岬の言う通り禍月は巻き込まれただけだ、正しく言えば巻き込まれにいった、なんだが

それで禍月が処罰されたら、ちとバツが悪い

「俺からもお願いします、俺が代わりに受けるんで」

「あら、向坂君格好いいわね、口説いているつもり?惚れちゃってもいいのかしら」

「うっせいやい、アホ禍月」

「口説いたと思ったら、次はそういう態度?好きな子を苛めたい小学生みたいね貴方は」

誰のためにやってんだと思ってんだ、つまらん茶々入れんな

その様子を岬が心配そうに見ている、多分禍月が自分に心配させないように気丈に振る舞っていると

思っているんだろう、それは大きな勘違いもいいところだぞ

アイツはマジで楽しんでいる

「二人とも夫婦漫才がやりたいなら余所でやりなさい。それで三人の処遇についてだけど」

俺と岬が林原先生の言葉を固唾を飲んで待っていた

嫌な緊張で背中につぅーと流れ喉が渇く、横に座っている岬は生唾を飲んでいた

禍月は優雅に紙パックのジュースを飲んでいた

何でお前はそう余裕なんだよ、腹立つわ、つーかそのジュースどっから出した

「二年A組向坂真紅郎、義城岬、禍月天理以下三名は反省文と一週間の奉仕活動とします

反省文は400字詰め原稿用紙2枚以上、提出期限は一週間後の奉仕活動終了時まで

奉仕活動の場所と内容は担任の宇佐美先生に連絡をしておくから後で聞きなさい」

予想以上に処遇が軽いものだった事に唖然とした

「え、え、それだけですか」

岬も俺と同じでもっと重い処分を下されると思っていたから動揺していた

「それだけだけど、それとも重い処分にした方が良かった?」

「いえ、そんな事ないです。寛大な処置ありがとうございます」

岬は慌てて顔の近くで両手を振って否定した

俺も処分が軽くなって良かったが、やっぱり引っかかるな、変に処分が軽くなるんて絶対に怪しい

「林原先生何かあったのですか、例えば曽山先生が処分されたとか」

その言葉に俺と岬は意表を突かれて禍月に振り向いた

禍月は口角を上げ笑みを作った、まさか本当に曽山が処分されたのか

確認の意味合いで林原先生の方を見ると『何で知ってるのよ』という表情をして目元と口元を

ひくつかせて禍月の事を軽く睨んでいた

うわー、マジかよ

「禍月さんの予想通り、曽山先生は今回の一件が引き金になって今月付けで懲戒免職になるわ」

「「懲戒免職!」」

俺達と比べて余りにも重い処分に驚いて俺と岬は叫ばずにはいられなかった 

禍月は『やっぱりね』と呟いた、マジで予想がついていたのかよ

「曽山先生は以前から強引な教育方針は問題になっていたのだけど、学園長の面倒かつ厄介な上司の

対応や付き合い方を学び、強靭で柔軟な社会を生き抜いていく人材を育てるという方針である程度の

行動は見逃されてきたの

それでも曽山先生は学園長から許された範囲から既に超えていたの

だから度重なる越権行為が原因でとうとう学園長も許容出来る範疇を超えてきていた

そんな時に今回の事件が起きたので懲戒免職が決まったの

それにね、ここだけの話なのだけど保護者からクレームと教育委員会からの注意警告が無視できない

レベルで何度も来ていたの

遅くても今年度一杯で一身上の都合で自主退職という形で免職が決まっていたの」

おいおい既にそこまで事態が悪化つーか進んでいたのか

休職とか停職で済まないくらいだから相当酷かったんだな

「という訳だから納得はいかないでしょうけど、貴方達の処遇はこれは決まり

けど貴方達としては結果オーライみたいなものでしょう」

「いや、まぁ、その通りなんすけど」

裏を返せば曽山じゃなかったらアウトって事だろ

相手が曽山じゃなかったら冷や冷や物だ、笑えねぇ

「話は終わったようですし、もう帰っていいですか」

そう言うと禍月は席を立って踵を返し退室しようとしていた、許可が出てからから動けよ

「禍月さん」

「なんでしょうか」

呼び止められた禍月は振り向きもせずに返事をした

「今回はほぼ不問になったけど、貴女のやった事は本来なら責められて然るべき事よ

投げ飛ばして蹴りを入れて気絶させる、立派な傷害罪よ

そこ分かってる?それに必要最低限は先生には敬意をはらいなさい」

ズーンと重い雰囲気が部屋に立ち込めている、息苦しい

「私は悪い事をしたつもりはないわ

世の中には殴られなければ分からない子はいるものよ

それは子供だけとは限らない、大人だって、いやむしろ大人こそ必要なものよ

大人は悪い事をしていないから怒られないのではなく、怒るのは面倒だから怒られないのよ」

禍月が言っているのはどういう意味だ

「子供に言い聞かせるのは楽だもの

素直で物を受け入れ易い、まだ何も描かれていない真っ新なキャンパスにはどんな絵だった描く事が出来る

大人はそうはいかない、これまで積み重ねてきた経験、人生観、拘りその他諸々

ヘドロのようにこべりついた様々の色の中に新たな色が入り込む余地はない

年月を重ねれば重ねる程よりね、まるで樹齢を重ねた大樹のように、重ねるならミルクレープの方がいいのに」

短い髪とスカートをはためかせて、こちらに振り向いた

「殴って壊して新たなキャンパスを用意するそれくらいの荒療治が必要なの

でもそんな面倒な事はやりたがらない、だって諍いを犯し痛い目をみるのが分かっている

別に得する訳じゃない、そんなの割に合わない事やってもしょうがない、関わらない見ない聞かない

なんて合理的な考えを持つようになる 仕方がない事だけど

そういう考えが間違った色を持った者が増長する、そして曽山のような人間が平気な顔で闊歩する

だからこそ誰かが痛みを覚悟して殴りつけなければならない」

「それはそうかもしれないけど」

正論をつかれて林原先生は口ごもってしまった

禍月の言っている事は理解出来るけど

「理想なのは理解している、けど理想を目指さないのは嘘じゃない」

そう言うと禍月は呆気に取られている俺達を置き去りにして生徒指導室から出ていった



           


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