眼帯と刀の転校生 3
禍月が転校してきたその日の夜、いつも通りの夜とは言いづらい状況になっていた
俺の家に、岬と雫が遊びに来ていた
夕方の6時頃に突然やって来た 『理由は特にない、遊ぶに来た遊んでレッド』『僕は雫に引っ張られて来たんだ、でも三人で遊ぶのは久しぶりだしいいよね、』となどと言って家に入って来た
確かに三人だけで遊ぶのは中学に上がってから、めっきりと減ってしまった
袴田と権藤が俺らのグループに入ってから、5人で遊ぶのが当たり前になっていた
まぁ、だからあいつらの言うと通りに、久しぶりに幼なじみ水入らず、友好を温める事にするか
「あまちゃん、本当に面白い子が転校してきたね、これから楽しくなりそうだにゃ」
雫はベットに寝転んで、足をバタバタさせながらスナック菓子を口に放り込んだ
マジでやめろよ雫、スカートが捲れてパンツ見えそうなんだよ、そうじゃなくても、ここ最近のお前の体、
年を追う度にドンドンエロくなっていくんだよ
幼なじみをそういう対象で見れない、と言ってる奴がいるが絶対に嘘だ
俺は何度、雫をエロい目で見たことがあるか 走れば胸がぶるんぶるん揺れるし、尻から太もものラインも実に艶めかしい 本当っに、目に毒だ
もし雫本人に、この事がバレようものなら多分死ぬまで、この事でからかわれ続ける
絶対にバレないように気を付けなければならない、最重要事項だ
「うん、そうだね、悪い人じゃなさそうだしね」
岬は、座布団の上で体育座りをして、雑誌を読んでいる
岬も、最近妙な色気が出てきた 昔から可愛かったが、最近どういうことか、こう、何というか、ドキドキする。服の間から見える白い肌、色っぽい吐息、男とは思えないいい匂い
変に勘違いさせてくれる困った幼なじみだ
昔から岬のことを男だと自己暗示のようなものをしてきたが、最近は自己暗示を掛ける頻度が多くなった
座っている岬と目が合った。俺と目が合うとニコっと笑った
可愛いな畜生、・・・・・いやいや、男だ、男だ、俺よ気を確かに持て
「岬の言う通り、禍月は悪い奴じゃないし、面白いところもあるし退屈はしないだろうよ」
「もうレッドったら、そんなこと言っちゃってさぁ、素直に楽しくなる、て言えばいいんじゃん」
「そうだね、真紅郎は昔から変なところで、あまのじゃくなんだから」
本当にこの幼なじみ達は、やり辛い上に勝てる気がしない
気がつくと、雫がベッドの下に頭を突っ込んで、何かゴソゴソとやっていた
大体予想もつくし、嫌な予感もする。だが一応聞いてみるか
「・・・・おい、雫何をやっていやがる」
「お宝の探索」
「なるほど、お前の探してるお宝とは、いったい何のことだ」
雫はニヤー、と笑うと
「レッドの持っているエロ本だにゃん」
「だにゃん、じゃねぇーー!!、この出歯亀エロ猫が」
俺は怒鳴ると、ベッドに敷いてあるシーツを思いっきり引っ張った
すると、シーツの上に座っていた雫は、思いっきりずっこけて、頭を床にぶつけた
ゴチーン、ビターン、と実に痛そうな音がした ああ、すっきりした
「ぐへッ!! 痛ぁ~~!何すんのさ・・・あ、たんこぶ出来てる」
雫は恨めしそうな顔をして、頭をさすっていた
「何すんだは、こっちのセリフだ このド阿呆、お前がやろうとしている事は、男友達が男友達の家に遊びに来たときにやるイベントだ、決してお前がやっていい事じゃない
つーか、俺のエロ本を見て何が楽しいんだよ」
「超楽しい、レッドがどんなアブノーマルな性癖を持っているのか知れるのかが」
「ノーマルだ、ノーマルだ、俺はアブノーマルじゃねぇよ!」
俺は握り拳をつくって、自らの潔白を証明するために叫んだ
「どうかにゃ、人類皆変態と言うし、自分が普通だと思ってる奴に限ってとんでもない変態だというのが
テンプレだし、レッドもそれに外れているとは思わないしー」
「人類皆変態?そりゃ誰の言葉だ」
「あたしの言葉だ、ちなみにあたしは、男だろうと女だろうと好きになったら全力で愛してやろうという気概を持っている つまりあたしはレズビアンでもある
どうだ参ったかにゃ、ニャハハハハハハ」
「威張って言う事か!お前はもう少し恥じらい持てや、
それとそんなデカい声で笑うんじゃねぇよ、近所迷惑だろうが、お隣さんから文句言われるのは俺なんだぞ
分かってんのか」
畜生このままじゃ、あらぬ疑いをかけられちまう、冗談じゃない俺は普通だ・・・・普通だよな?
ん?そういや岬の奴、雫と言い合いしている最中一度も話に入ってこなかったな
岬の方を見ると、岬は顔を赤くしていた、何で?
「し、真紅郎は、や、やっぱり、そういうエッチな本を、も、持ってるのかな?」
依然として顔を赤くしている岬が、おずおずと聞いてきた
「そりゃあ、俺も健康的な一般高校生男子だ、エロ本の一つや二つは持ってるわな」
「ふーん、そういうもの、なんだ」
「そういうもの、そういうもの当たり前のことだにゃ、サキサキ」
照れながらこちらをチラチラと、見てきた
「そ、そっか、ちなみに真紅郎はさ、どういうのが、好みなのか」
「岬、お前もか]
[ち、ち、違うよ、た、唯単純に、き、興味があるだけだよ?
真紅郎がどういった系統のジャンルに傾倒しているか、友達として知っておかないといけないかなと、
思うし、いやいや、義務だよ義務だよ、人の道を外れたような特殊な性癖を持っていてはいけないし
もし持っていたら正しい道に戻してあげるのが、真の友達の役目だと思うのだよ
だから、ほら、早くおしえてよ、真紅郎、ねぇ、ねぇ、ねぇ」
テンパりながら、目を泳がせながら言い訳したかと思ったら、まくし立てるような早口で、俺に詰め寄った
大丈夫か、岬の奴、目が完全に血走っていやがる
「おーい、自分が何言ってんのか分かってんのか、正気を取り戻せ、いつものお前ならこんな訳の分からないことを言わないだろ、頼りになる俺の岬に戻ってくれ」
そう言うと、岬は、ボッ、という音がなるじゃないかと、思うくらいに顔が赤くなる
「お、俺のなんて、真紅郎は、僕の事を真紅郎のものだと、思ってくれているって事だよね
もう、恥ずかしいよ、真紅郎のバカ」
岬は両手を顔に当てて、イヤンイヤンと、体をクネクネさせた
たまに思う、岬には男色の気があるじゃないかと アーッとみたいな展開に、いつかなるじゃないかという
考えが頭によぎる時がある
そうならない事を心の底から願っている
「レッドのエロ本だけを暴くのは、不公平だし、今度サキサキの部屋のエロ本を探索しよう」
「おっしゃー!、賛成だぜ」
俺だけ探られるのは、確かに不公平だしやり返してやるぜ
岬のコレクションが、どんなものが揃っているのか興味がある
もし俺の気に入った逸品があったら、雫には秘密で借りよう
というか、俺のコレクションをが見つからなくて良かったな、中学生のとき,母さんに探し当てられた時に、ジャンル別にそしてあいうえお順に、本棚の一番見えやすいところに並べるという、悪魔の所業をやってくれやがった さらに追い討ちをかけるが如く、こう言い放った
『もう、真紅郎く~んたら、お若いのに、お盛んなんだから、もし良かったらお母さんが好きそう御本を
見繕ってあげるね、ちょうど真紅郎の好きなジャンルは、完全に把握してるから任せて』
最悪だ、思い出すだけで死にたくなる
その後マジでエロ本を買ってきたんだよ、何考えてるんだよ母さん
しかも買ってきたエロ本、完全にドストライクだった orzの態勢でしばらく動くことが出来なかった
「僕の家には、そんな厭らしい本なんて置いてないよ だから漁りに来ても意味がないから」
「いやいや、それは問屋が許さないよ 逃げられると思ってるのかにゃ?サキサキ
通過儀礼だと諦めて大人しく観念するべし、にゃふふふふふ」
岬の肩を、ガシッ、と掴むと悪い笑みを浮かべていた その不吉は笑顔に直接向けられている岬は勿論もこと、その対象じゃない俺までも、冷や汗が止まらない
「本はなくてもハードディスクの中身は、どうか分からないよね~」
確かに、ハードディスクの中なら、いくらでも隠すことが出来るわな
岬がハッとしたかと思うと、あり得ないくらいに、冷や汗と脂汗がダラダラと流し始めた
若干、目が泳がせて、動悸も荒くなっている こりゃ図星、黒だな
やっぱり、岬もそういう事にちゃんと興味があったか、コレクションを借りようと思ったけど、持ってなかったら借りられんからな
良かった、ちゃんと男の子やってるんだ、ていう事が分かったし
「アハハハ、そ、そ、そんな、こ、事、ないん、だ、だよ? ほ、本当だよ」
「サキサキ、今度の休み、楽しみだね」
岬の顔が絶望の色に染まった
ま、雫がこのチャンスを見逃す訳がない
悪魔のような雫の笑顔と、声にならない叫び声を上げ、突っ伏している岬の姿があった
ご愁傷さまに、もうそれしか言えない
その後、ゲームのしたり、飯を食ったりして三人の時間を楽しんだ
楽しい時間速く過ぎるというが、全くその通りだった
何故なら既に、時計の針が11時を指していた 全然気がつかなかった
「もう、こんな時間か、岬、雫、もう夜遅いしどうする?泊まっていくか」
「ううん、今日は帰るよ、おじいちゃんもおばちゃんにも、泊まる事は言ってないから」
「あたしも帰るにゃ、明日日直だから早いし」
二人が帰る準備をしていた
岬の方はあまり荷物が多くなかったから、すぐに終わっていたが、雫の方は荷物が多かったから、準備に
時間がかかっていた
ファッション誌、ホビー雑誌、化粧品、食べきっていないお菓子、携帯ゲーム機、テレビゲーム機
どれだけ持ってきたんだよ
「二人とも送っていくよ」
俺がそう言うと、二人はキョトンとしてお互いに見合うと、目を輝かせて俺の方を見た
「もうもうもうもう、どうしちゃったのさ、レッドお前がこんなに解りやすく女扱いしてくれるなんてさ
嬉しくなっちゃうね」
「うんうん、そうだね、僕もこんな顔だから怖い人に絡まれるし、真紅郎がいてくれれば安心出来る」
何だこいつら、人をちゃかすように纏わりついて、ニヤニヤ笑いやがって
少々、勘違いしてるようだから説明しておくか
「最近、この街で連続失踪事件が続いているだろう、俺の家から帰っている途中で行方不明になったら、
目覚めが悪いからな」
「そっか、そうだよね。僕たちの知り合いの人が被害に合っていないから、少し遠いところの事だと思っていたけど、実際に、この街に起こっている出来事だもんね」
「うーん、確かに危ないにゃね、ここは素直に送られてあげますか。じゃあ、エスコートお願いにゃ」
なら、可愛い幼なじみ達をエスコートしてやるか。中世の騎士のようにな
岬と雫を家に送り届けた後、真っ暗な帰り道を一人で、トボトボ帰っていた
手には岬の婆ちゃんから、岬を送り届けたくれたお礼として貰ったコーヒーが握られていた
コーヒーをチビチビ飲みながら、寒さに体を震わせた もう4月も半ばを過ぎたとはいえ、夜はまだかなり冷える 油断すれば風邪を引きかねないくらいに寒くなる
携帯で時間を確認すると、12時を過ぎ日を跨ごうとしていた
「速く帰らないとマズいな」
明日も学校があるし、岬や雫を無事に送り届けたのに、俺が行方不明になりました、なんて事になったら笑い話にもならん
こうなったら仕方がない 手段は選んではいられないか
普段は絶対に使わない道で帰るか 使わないというか、使いたくないという方が正しいか
昼間でも薄暗く陰気な印象を受ける薄汚い路地裏だ
あまりいい噂は聞かない 例えば暴力団の取引や抗争が行われているとか、違法薬物の売買が行われているとか、最近では行方不明者がこの路地裏に消えていった、なんていう噂が流れている
所詮噂とはいえ,火のないところに煙は立たないとも言うし、きっと何かしらの噂のネタがあるんだろうな
君子危うきに近寄らず、少しでもヤバそうな事には関わらない、何事も平和が一番
だからこそ普段は通らない けどいつもの道を通るのと、この路地裏を通るのとは20分近く時間を短縮することが出来る
かなり速足で路地裏を駆け抜けるように歩いていく
「たく、やけに静かだな、なんか出そうだな、畜生」
そう呟いて俺は、ハッとしてある事に気がついた
静かだと思ったが、異常なくらい静か過ぎた 自分の息の上がった吐息以外、ほぼ何も聞こえない
こんな事はありえないと思い、立ち止まり周りを見渡した
「ねぇ、坊や、一人?」
後ろから声を掛けられて、驚いて飛びのくように距離を取り、後ろを振り向いた
そこには20代後半くらいの垂れ目の女性が立っていた
綺麗に纏められた髪に、派手目な化粧に、扇情的な服装をしていた 察するに多分ホステスだろう
緊張で相当に気を張っていたのに、全く気配を感じなかった
「そうだが、悪いけど俺みたいなガキじゃ、あんたを満足させられないぜ」
今すぐ逃げ出したい薄気味の悪さを感じながらも、目に前の彼女と向き合った
逃げ出さなかったのは、今逃げ出した方が危険だと思ったからだ
「あら、私は年下の男の子の方が好きなの、お姉さんと一緒に一夜の火遊びをしない?」
「火遊び所か、全身火だるまにされそうで怖いから遠慮しておくよ
それに女にはそれほど困ってないんだ あんたに負けないくらいエロい体つきしてる幼なじみがいるんだ」
クソが、元々の寒さとは別に、冷水をぶっかけられたように寒感が走り、冷や汗が体中の水分が無くなるじゃないかと思うくらい溢れている
これ以上は無理だ、どうやって逃げ出すか、考えてないとな
「随分酷い子だね、女の誘いを断った挙句、他の女の話をするなんて 恥をかかさせれた上にコケにされた気分だわ ええ、許せない、許せない、絶対許せない、わああぁ!!」
突然、女性が奇声を上げて襲い掛かって来た 突然のことで反応出来ずにビルの壁に叩きつけられた
「がはぁ、ハァッッ」
正確に言えば、反応出来なかったからだけではなく、襲い掛かって来た女の動きが、単純に速かったのだ
一瞬にして距離を縮められてのだ、10m以上離れていたのに1秒もかからない時間でだ
オリンピック選手かよ、この女どんな足してるんだ
壁に叩きつけられて、俺は逃げようと抵抗しようとしてが逃げる事が出来なかった
両手首をがっしり掴まれて、ビクともしない
ありえない、体の線は細く筋肉は付いていない、ボンキュッボンという事以外は一般的な女性の体型だ
どこからこんな力を出してるんだよ
叩きつけられた衝撃と激しい痛みでで、肺の中の空気が強制的に吐き出され、大きく咳こまされてしまった 体が弾け飛んだと錯覚したかと思うくらい痛い
当たり前か、約時速40kmの物体に突進されたのだ
掴まれて手首が万力のように締め付けられて、ギチギチ音が鳴って骨が悲鳴を上げた
あまりの痛みに俺自身も、小さく悲鳴を上げた
「外見が好みだったから、本当は優しくしてあげるつもりだったけど気が変ったわ、
少しはしたないけど、貪らせて貰うわ 最近煩くなってきたから、満足に食事に出来てなかったから」
貪る?食事?どういうことだ、何言っているんだ
駄目だ、痛みで考えが纏まらない
女性が口を大きく開いて、顔を首元を狙いをつけたように近づいてきた
人のものとは思えない鋭く尖った牙、犬歯とは言い訳出来るような代物ではない
獣、いや吸血鬼と言った方がしっくりくる
何考えいるんだ、俺、死ぬかもしれないって時に
痛みと死の恐怖と諦めで、頭が朦朧として現実離れの考えが思い浮かんだのか
あー最後の思い浮かんだ考えがコレかよ くだらねぇし、勿体無い
『喰われる』直感的にそう思い、目を閉じて訪れるであろう終わりを待った
ああ、畜生、やり残した事やりたい事まだたくさんあったのに
俺が死んだら、岬は大泣きするだろうな、雫は悲しいのを隠して無理に明るく振る舞うだろうな、
袴田と権藤は悲しんでくれるだろうか
父さんと母さんには申し訳なく思う、だってまだ何一つ親孝行が出来ていない
・・・・・・・・・・・・あれ?来ない、終わると思った最後がない
恐る恐る目を開けると、俺に迫っていた顔が目の前には無かった
代わりにあったのは、血を噴水のように吹き出している首無しの女性が立っていた
足元に視線を移すと。大きく口を開いて俺に襲い掛かって来た女性の首が転がっていた
し、死んだのか、一体誰が
俺がまだ状況を掴めずに動揺していると、両手首を掴んでいた手から力が抜け体が崩れるように倒れた
女性が倒れた先に人影が見えた
そこに立っていたのは、見慣れた鳳陽学園の女子制服を着て、深紅のコートを羽織っており、右目を眼帯で覆っている背の小さな少女がいた
転校生の禍月天理がいた
右手に刀を持っていて、刀からは血が滴っていた まさか禍月が首を斬り落としたのか
禍月ゆっくりとした歩みで俺に近付くと微笑を浮かべた
「こんばんわ向坂君、いい夜ね、と言うのがテンプレ何でしょうけど、残念だけど、そうだとは言い辛い状況ねに巻き込まれたみたいね」
「ま、禍月・・・これは、一体?」
そう絞り出すのが精一杯だった
「色々気になるのは分かるのだけど、とりあえず私の指示に従って貰える?拒否は認められないわよ
まだ危険が過ぎ去った訳じゃないの」
禍月の指を指した方向を見ると、多くの人影がぞろぞろ近づいて来ているのが見えた
近づいて来る人影の姿をよく観察すると、見た目普通の成人男性の後ろに、複数の人間達を引き連れていた引き連れていた人達は、服が所々破れ薄汚れて、体もあちこち腐食しており、筋肉や骨や内臓が爛れむき出しになっている 動きも緩慢で自我があるようには見えなかった
創作物のゾンビ、そのままだ
「向坂君、ただ一つ、死にたくないなら、そこから絶対に動かないでちょうだい」
目の前のゾンビ達を見据えたまま、こちらを振り向かずに聞いてきた
俺は了解の意思を示し、無言で首を縦に振った
禍月は、それを確認すると、聞こえるか聞こえない声で『そう、いい子ね』と呟いた
「そんな大勢でどうしたの?パーティーにでも招待されたのかしら、けど後ろの方達はドレスコートも着ていないじゃない、礼儀作法がなっていないという理由で、パーティー会場から叩き出されるのではなくて」
「ハッ!そりゃあ失礼したな、お嬢ちゃん 連れも俺もお上品な育ちをしてねぇーからよ
礼儀作法なんて知らんのよ、自己流で良けりゃあしてやるぜ」
「いいえ結構よ、礼儀作法を作り積み上げたきた故人に対して、失礼に当たるもの」
「そうかい、ところで一つ聞きたいんだが」
さっきまで、和やかに話をしていたのとは一転、相手の男からプレッシャーのようなものが出てきた
息苦しいというか、心臓を直接握られてるようだった
「そこに首と胴がチョパンして転がっている女、一応俺の連れなんだよ やったのお嬢さんかい」
男が転がっている死体を視線で指したのち、禍月を睨みつけた
禍月はそんな睨みなど何処吹く風だった
「ええそうよ、けど悪いのは彼女よ 私の友達においたをしたよ
悪いことをしたら何かしらの罰を受けるのは子供でも知っていることよ」
「にしてもやり過ぎだろう、首を落とすなんてよ、それが血の通った人間のやる事かよ」
「血の通った人間ね?貴方に言われたくないわよ、気狂いのブラッドサッカー」
そう禍月が言うと、男は忌々しそうに歯軋りをした
「舐めるなよ人間が!血袋の分際で!てめぇ等やっちまえ」
男が絶叫するように、そう言うと後ろにいたゾンビ達が禍月に襲い掛かって来た
右手に持った刀を大きく振りかぶって、先頭のゾンビを袈裟斬りにした
断面に沿ってスローモーションのように上半身が滑り落ちた
半分に斬れた上半身がガサガサ動いていた、マジかよあんな状態になっても生きているんだよ
間髪入れずにゾンビの脳天を刀で串刺しにし、動かなくなったのを確認すると刀を引き抜いた
一体目を仕留めた後、直ぐに強く踏み込んでゾンビ達の中に突進していった
二体目のゾンビの横を通り過ぎ、進行方向にいるゾンビに向かっていった
素通りした何でだ? 普通一番近くの相手から斬って方が効率がいいんじゃないか
「無双天顕流・交り鋏『まじりばさみ』」
二体目のゾンビが血を噴き出し袈裟斬りと逆袈裟りで、バッテン状に斬られ四散した
二体目の脇を通り過ぎた一瞬の瞬間に斬っていたのか 全く気がつかなかった
そのまま進行方向にいた三体目の懐に入り、柄を両手で握り右肩越しに構えた
「無双天顕流・襲柱参の段」
踏み込みと共に、ゾンビに強烈な突きを見舞い、刀を引き抜き回し蹴りで蹴り飛ばした
吹き飛ばされゾンビには脳天、首、心臓の三か所に突きの後があった
すげー!三段突きだ 新選組の沖田総司が使ったと云われる伝説の技だ
存在そのものが疑われていたが、ちゃんと存在していたんだ マジ感動だって男のロマンだろう
近づいて来た4体目が両手を伸ばし、禍月を掴み取ろうとしていたが、バックステップで躱して斬り上げる
ように、刀を振り上げ両腕を斬り落とした
その後、両腕を喪失してバランスを崩したゾンビを、上段から刀を振り上げ脳天から真っ二つにした 所謂唐竹割り、てやつだ
余程綺麗に斬れたんだろう がたつき一つない断面でぶっ倒れた
断面からどろって内臓と血液が出てきた うわぁグロい
禍月が4体目を倒したと同時に、三方向から5,6,7体目のゾンビが襲い掛かった
「無双天顕流・円雲」
刀を持った右手を精一杯伸ばし、高速回転しながら切り刻んだ
一回転目でアキレス腱を斬り、二回転目で膝を斬り、三回転目で胴体を斬り、四回転目で肩を斬り、五回転目で脳天を斬り飛ばした
ドサドサッとバラバラになった人だった物の三体分の肉片が落ち、血が雨のように地面に降り注いだ
禍月は全てのゾンビを倒したのを確認すると、刀を振って刀についた血を飛ばした
「あ、ありえない、いくら戦闘力が低いグールとはいえ、手も足も出ないなんて」
男が酷く狼狽していた
そりゃそうだ、傍から見ても圧倒的だった 少女一人に全滅させられてしまったのだ
相手も軽くひねられると思っていたのだろう だが結果はこれだ
得体の知れない恐怖に、男は脂汗をかき、後ずさりをした
「グール程度で私を止めれると思っていたなら、考えが甘かったわね」
禍月は一度目を伏せたのち、男を軽く睨んだ
「次は貴方がダンスの相手をしてくれるのかしら?」
男がさっきよりも酷い歯軋りをした 歯削れるか、砕けるかしそうなくらいギシギシいっている
「舐めるな!舐めるな!舐めるな!舐めるな!なあああぁぁぁめええぇぇるううぅぅぅなあああ!!!
血袋の分際で、劣等種の分際で、上位種の俺に逆らってんじゃねえええええええええ!!!」
自分を奮い立たせるかのように、絶叫して禍月に襲い掛かって来た
禍月は迎え撃つために、男に飛び込んでいった
男は頭を狙ったハイキックを放ったが、禍月は体勢を低くして回避してハイキックの体勢で無防備な右足を
斬り落とした
男は痛みに顔を歪めながらも、残った左足で逃げようし、後方に飛び退いた
勝てないと咄嗟に判断して逃げる事を選択したようだが、禍月は男の背後に廻り左肩から下を斬り飛ばす
更に方向転換をして別方向に飛んだ男の背後を再び取り、残る右腕も斬り落とした
左足一本になった男がそれでも逃走を図ろうとしたが、禍月がそれを許す訳がない
禍月が男の懐に入り、残った左足を斬り落とし、垂直蹴りで顎を撃ち抜き、空高くに蹴り上げた
3mくらい上がり、自由落下しているところで、牙突の構えを取った
「無双天顕流・影雷」
禍月は、雷のような速く力強い突進をし、丁度禍月と同じ高さに降りてきた男に肉薄し高速の突きを繰り出し、男の心臓を貫き突進の勢いを残したまま壁際まで移動し、刀を壁に突き刺し男を磔にした
男の姿は両腕両足がない達磨のような姿になり、刀で磔になり咳き込み口から大量の血を吐き出した
「どんな気分?格下と、劣等と見下した者に追い詰められた気分は」
「ク、クソがぁ、舐めやがって、俺にこんな事してどうなるか、ぐがああああ!!」
男の言葉は遮られて痛みに悲鳴を上げた 禍月が刀をグリグリ回して痛みを与えていた
「余計な事を話さないでくれる?貴方の恨み節なんて興味ないから、黙って私の質問に答えなさい
貴方の親はあの美術家気取りの爆弾魔かしら?」
更に痛みを与えて、『答えないと分かっているの?』という意味を込めているんだろう
やっている事完全に拷問だぞ
「あ、ああ、、、そ、そう、だ、
だ、だから、て、めぇは、あの人に、木っ端、微塵に、され、ろや」
口元から血を流してながら、男はケタケタ笑った
「そう、けど残念ね木っ端微塵になるのは、貴方の親の方よ
先に地獄に行って彼のために棺桶でもつくっておきなさいな」
そう言うと、禍月は刀を引き抜いた
断末魔の代わりに男の狂ったような笑い声が木霊しながら、男の体が塵のように霧散すると共に笑い声も
闇の中に消えていった
同時に周りに転がっていた女性とゾンビの遺体も、塵のように崩れてしまった
俺は未だに混乱していた それはそうだろう
人間離れした奴やゾンビに襲われ、転校生の禍月天理がそれらを刀でバッタバッタ斬り捨てて
遺体が跡形もなく消えてしまった
異常にリアルティ―のある夢を見たって言われた方が、まだ説得力があるものだ
状況が掴めずにあたふたしていた俺を傍目に、禍月は刀を鞘に仕舞い、コートの埃を払っていた
その後俺にゆっくりとして歩みで近づいてきた
俺は無意識に尻餅をついたまま後ずさりをした
禍月は俺に笑みを浮かべると、手を差し伸べてきた
「向坂君、大丈夫?手、貸しましょうか」
「あ、ああ、悪い」
俺は禍月の手を取り、引き上げてもらった
「ま、禍月、教えてくれ!あれは一体何だったんだ、化け物みたいなあいつ等も、お前」
俺は不安を取り除きがために、禍月に詰め寄り捲し立てようとしたが、
禍月が俺の唇に人差し指に当ててきた その行動に驚き閉口してしまった
「落ち着きなさい向坂君、色々言いたい事があるでしょうが、今日はとりあえず帰りなさい
そして良く考えなさい 全てを忘れていつもの日常に帰るか、二度と戻れない血生臭い争いの世界に足を
踏み入るか、好きな方を選びなさい
明日の放課後、落浦町にある『シャンバラ・カッツェ』という喫茶店に来なさい。夜の7時まで待っているから
では、向坂君おやすみなさい、また明日学校で」
そう言うと踵を返すと大通りに向かって歩いて行った
・・・・・・・何というか、もう、誰か説明してくれ
真夜中のなか、俺の心の中の懇願を聞いてくれ人などいる訳がなった