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鬼と百合  作者: パラレル
1/3

其の壱:毛玉とポニテ

初一次創作です。まだまだ稚拙なところもありますが、何卒ご容赦ください。


 深夜のとある廃ビル。そこは持ち主が居なくなって何年も放置され、誰も居ないはずだった。そのビルの一室で、窓から覗く月の光が二つの影を照らしていた。

 片方は体つきや着ている学ランから察するに、中学生くらいの少年だった。しかし、その手には紅蓮の如く赤い刀が握られ、その切っ先はもう片方の影に向けられていた。

 刀を突き付けられている方の影は女のように見えたが、よく見ると人とは思えぬ姿をしていた。そいつは血のように紅い目を持ち、雪のように白い長髪を床に流していた。藍色の着物を見に纏うその頭には、禍禍しい二本の角が生えていた。――その姿はまさに「鬼」そのものだ。

「……本気で言ってるの?」

 「鬼」が少年に問う。その目は信じられないとばかりに大きく見開かれている。

「ああ……本気だ」

 少年が答える。その目には一切の迷いも無く、確固たる意思が宿っていた。

「俺のせいであいつはお前に喰われた。……これは、俺達が償うべき罪過なんだ」

「……こっちはいずれ消える身。好きにすれば」

 少年の決意を受け止めたのか、鬼は視線を落としてぶっきらぼうにそう言い放った。





 綾瀬(あやせ)優莉(ゆり)は大変不愉快な気分だった。

「え~、芥川龍之介という作家は――」

 高校二年生である彼女は、板書をしかめっ面でノートに写していた。

 彼女は別に勉強が嫌いだという訳ではない。三十路前の男性教師が黒板に書く文字の羅列を、惰性で書き連ねること自体もあまり苦痛ではないのだ。

 だが実際、彼女は非常に不愉快な思いをしている。その原因は彼女の左側にあった。

「むぐ……ぎりぎりぎりぎり――」

 彼女が不愉快な思いをしている原因、それは彼女の左隣の席で机の上に乗っている黒い毛玉から漏れる、「ぎりぎりぎりぎり」という非常に勘に触る音だった。

 その音は別段大きい訳ではない。二つ以上席が離れていれば聞こえはしないだろう。だが、生憎彼女は隣の席。左端二列の先頭にこの毛玉とともに席が配置された彼女にとって、この自分くらいにしか聞こえない音量の歯ぎしりは嫌がらせにしか思えない。

 毛玉の後ろの席の奴は、どんな状況でも寝れるほど神経の図太い奴で、現在も静かに夢の世界へ旅立っていた。おそらくこの毛玉はそれも分かった上でやっている。そうに違いない。

 三十分ほどは我慢していたのだが、彼女はもう限界だった。

「ああもう……うるさいっ!」

「ぎりぎりぎりぎり――」

 ポニーテールの黒髪を揺らしながら、優莉は叫んだ。その声で教室が一瞬静まり返るが、男性教師と大半のクラスメイトは「ああ、いつものことか」と再び黒板に目を向ける。残念ながら、優梨に怒鳴られた毛玉の方は聞こえていないのか、相変わらず歯ぎしりを続けていた。

 先程から毛玉、毛玉と言っていたが、当然ながらこれは実際は毛玉ではない。

 これ――いや、彼の名前は鬼塚(おにづか)幽斗(ゆうと)。ぼさぼさの黒髪がもっさりと頭を覆っている彼は、この学校の教師全員が「こいつは何しに学校に来ているのか本当に分からない」と真剣に頭を悩ませる少年だった。別に彼は素行が悪い訳ではない。いや、彼の場合は素行もへったくれも無いのだ。

 なぜなら彼は机と熱いキスをした状態で石像のように一日中固まっているからだ。この鬼怒樫(きぬかし)高校に入学してから、彼が動くのを見た者は皆無だと噂されているほどだった。体育の授業の時も、昼食の時間も、放課後も、誰も彼が一ミリでも動いたところを見たことが無いのだ。

「鬼塚、起きろ! ……って言っても無理だよなぁ」

 男性教師もさすがにマズイと何か手を打とうとするが、机の上の毛玉の微動だにしない姿に頭を抱える。少し思考してみた結果、男性教師は武力行使に出ることにした。

「鬼塚、起きろっつってんだろが!」

 幽斗のもっさりした頭に、男性教師は勢いをつけて教科書を振り下ろす。慈悲など一切込めていない一撃は、幽斗を覚醒へと誘う……はずだった。

「は……?」

 男性教師がそんな間抜けな声を漏らしたのも無理は無い。なぜなら、しっかと右手に握って振り下ろしたはずの教科書が、視界から一瞬のうちに完全に消えていたからだ。それはあまりに一瞬過ぎて、幽斗が相も変わらず微動だにしなかったことにも気づかないほどだった。

 数秒ほど呆けていたが、消えていた教科書があっさりと戻ってきたことで男性教師は我に帰る。

「あだっ……」

 ただ戻ってきたのは、男性教師の頭の上にだったのだが。

「出た。……もっさりカウンターだ」

 その一部始終を見ていた一人の生徒は思わず呟いた。

 ――もっさりカウンター。それは鬼塚幽斗が持つ能力で、あらゆる物理攻撃をその毛玉のようなもっさりヘアーで弾き返す技。一番最初に幽斗に鉄槌を下そうとした担任教師も、この技の前に散っていったという噂もあるとかないとか。

「『もっさりカウンター』って……あほらし」

 そんなクラスの風景を横目で見ながら、優梨は何かを諦めたかのように溜息を着くのだった。





 結局、幽斗が動くことも、いびきを止めることも無かった。つまり、優梨は昼食の時間まで騒音地獄に耐えるはめになったのだ。

「あ~もう、サイアク。絶対、あいつ本当は寝てない。完全な嫌がらせよ」

「ふふっ、相変わらず大変ね」

 腹が立っても、腹は減る。優梨は購買で買った菓子パンをちぎって口に入れては、友人の矢口珠美に幽斗への愚痴を漏らす。

「いや、大変とかそういうレベルじゃないのよ……」

「確かにね。……だって彼は、『集団記憶喪失』と並んで語られる二-A二大ミステリー、『不動の鬼塚』だもんね」

「ああ……そうね」

 再び愚痴り始めた優梨だったが、珠美の語る話に、フッと遠い目を幽斗に向ける。

「鬼塚君はともかく、何で私達のクラス全員の記憶が飛んだりするんだろうねぇ?」

「本当に何ででしょうねぇー……あ」

 再び視線を反らす優梨だったが、何かに気づいたのかぴたっと動きを止める。その視線は、珠美の背後に向けられていた。

「ん、どうしたの、優――」

「――珠美」

「ひゃっ、ひゃいっ!」

 突如動きを止めた優梨に声を掛けようとした珠美だったが、逆に背後から声を掛けられて驚いて変な声を上げる。いや、背後からある男子に声を掛けられて驚いたのだ。

「ったく……俺達付き合い始めたんだから、そんなにびくびくしなくても……」

「しっ、してないよ。びっ、びくびくなんかしてないよ」

 呆れる男子に珠美は慌てて釈明するが、その視線は定まっておらず、焦点が合っていない。顔も幾分か紅潮しているようにも見えた。

「そんなに驚かすつもりはなかったんだけどなぁ…………あ~あ、若干傷ついた」

 拗ねたように呟くのは、チョコレートブラウンの髪の美青年だった。整った顔立ちや均整の取れた体つきは、まさにモデルのそれだった。醸し出す人柄は、彼が人との間の中心にいるような人物だと認識させる。

「あ、ああ、秋人(あきと)君。ごめんね。そ、そんなつもりじゃ……」

加賀美(かがみ)、その辺にしなさい。珠美はもう限界よ」

 その仕種に珠美はさらに顔を赤くさせて両手を大きく振り、必死に否定する。優梨はその姿に呆れ、冷めた目で秋人にそう言った。

「分かったよ。珠美、冗談だから、なっ」

「冗談……? 良かったぁ、嫌われたらどうしようかと……」

 秋人が宥めたことで落ち着いた珠美だったが、大きく溜息を着く姿は彼女の動揺をよく現していた。

 先程秋人が口にした通り、珠美と秋人は付き合っているのだ。先日、珠美が意を決して口にした告白を秋人が了承し、二人は晴れてカップルとなったのだ。

 人の輪の中心にいる明るい秋人、輪の外周か外にいるような地味な珠美。

 反対の性質を持つ二人だったが、これも一つの青春の一ページなのだろう。

「じゃあ、邪魔者は退散するわ」

「なんか……ごめんね」

 そんな対称的カップルの近くに居ては気まずいと、優梨は席を引いて教室を出る。

「にしても……」

 ドアを閉めて、優梨は小さく呟く。

「……女の嫉妬って怖いわね」

 その視線の先には、楽しそうに話す珠美と秋人を遠巻きに見る何人かの女子の姿があった。





 ピンクのタイルに叩きつけられる雑巾。その数センチ右には、珠美の恐怖に歪んだ顔があった。

 ここは、東棟二階の端にある女子トイレ。今は五時限目と六時限目の間の休憩時間。

 珠美は数名の女子に囲まれ、壁際に追い詰められていた。

「調子乗ってんなよ」

 一人の女子が珠美を睨みつけ、ドスの利いた声で言い放つ。

「わ、私調子に乗ってなんか……」

「あんたが加賀美君と付き合ってること自体が、調子乗ってることなんだよ!」

 珠美は震える声で抗議するが、別の女子が暴論を振りかざしたことで、萎縮してしまう。

「あんたは加賀美君には不釣り合いなの。……あんたにはこれがお似合いよっ!」

「いやっ!」

 また別の女子がそう叫んで雑巾を投げつける。咄嗟に両手で顔を覆い顔面への直撃を避けるが、汚い飛沫を体中に浴びてしまった。

 それを合図に、他の女子も雑巾を珠美に投げつけはじめる。

 何度もべちゃっという嫌な音が辺りに響き、珠美の体を汚水が濡らしていく。

「いやっ、やめてっ!」

「あんたなんか――」

 一人の女子が振りかぶって、雑巾を投げようとしたときだった。

「――ちょっと邪魔なんだけど」

「あ?」

 けだるそうなその声に、今まさに雑巾を投げようとした女子が振り向く。珠美も怯えた目でその視線を追う。

「優梨……?」

 そこには、冷めた目でトイレの奥の女子達を見つめる優梨の姿があった。

「綾瀬、ちょっと黙っててくれない。今、調子乗りに制裁を与えてるとこだから」

「あ~、そう」

 そう言って睨み返す女子に、優梨はけだる気に応える。そして、その視線を怯えた目で助けを請う珠美に向けた。

「ふうん、これが制裁ね」

 その後、一旦床に視線を落としてゆっくりと顔を上げて口を開く。

「だから……邪魔だって言ってんでしょ」

「「……っ!」」

 淡々と放たれた言葉。しかし、その言葉には言外の圧力があった。それは、同年代の女子が発しているものとは到底思えなかった。いや、これまで自分達が会った人々とは桁違いの威圧感だった。

「くっ……失礼するわ」

 リーダーらしき女子がそう言って出るのに続いて、他の女子も次々とトイレから出はじめた。いずれの顔にも隠せない恐怖が張り付いていた。

「ったく……珠美、大丈夫……ではないよね」

「……うん」

 去りゆく女子達を見送り、優梨は珠美に問い掛ける。珠美はか細い声で答えることしか出来なかった。

「とりあえず着替える? 六時限目は休んだら」

「そうするわ。……ありがとう」

 出来るだけ優しく声を掛ける優梨に珠美は小さく答えた。

「ねえ……優梨」

 しばらく俯いていた珠美だったが、少し顔を上げて口を開く。

「私ってやっぱり秋人君には不釣り合いなのかな?」

 やはりどこか怯えた目で珠美は問い掛ける。

「……何それ」

 対して優梨は不快だと言わんばかりの雰囲気を醸し出し、逆に問い掛ける。

「だって私、地味だし。意見はっきりしないし…………秋人君みたいに明るく振る舞えないし」

 とめどなく溢れる言葉は隠していた本音。他の女子に言われるまでもなく、珠美は自分が秋人に相応しいのか悩んでいたのだ。

「何なの、それ」

 が、優梨は相変わらずの仏頂面でそう言った。

 そして、溜息を一つついて続ける。

「相応しいって、何よ。……加賀美は珠美だから、告白を受け取ったんじゃないの?」

「それは……」

 真っ正面から問い詰められ、珠美は口ごもる。秋人がどのように感じて自分の告白を受け入れたのかなど、本人では無いので分からない。しかし、今まで遠くから見つめていたときの情報から考えれば優梨の言う通りだと思えてくる。

「ま、あたしの知ったことじゃないけどね。……一度きりの青春、大事にしなさいよ~」

 困惑する珠美に、優梨はそう言った。





 鬼怒樫高校から出て何度か曲がった並木道。植えられている桜の花は全て散り、地面に落ちていたであろう花びらも、風にさらわれるなどしてこの辺りには一つも見当たらない。

 すっかり日が落ち、暗くなったその並木道を歩く一組の男女――珠美と秋人――の表情はとても明るく、会話の間は笑顔が絶えなかった。特に珠美には、数時間前に虐められていたとは思えないほどに晴れやかな表情だった。

 基本的に秋人が話を提供し珠美が相槌を打つというやり取りを、いろいろな内容でしていた。他人から見ればくだらないような話が大半だったが、話している本人達、特に珠美はそんな時間が愛おしくて仕方なかった。

 しかし、そんな時間も唐突に終わりを告げる。

「――でさあ、あいつなんて言ったと思う?」

「え、なんて言ったの?」

「あいつな――」

「――あれ、秋人じゃん。学校帰り?」

 二人の会話を遮ったソプラノボイス。心地好いその声に二人は振り向く。

「はぁ、高校生は気楽で良いわねぇ」

 そこに居たのは、ライトブラウンのボブヘアーの女性だった。大学生と思われるその女性からは、大人の気品と色香がたっぷりと感じられた。

 ――綺麗な人。

 珠美がそう思って、しばらく見とれてしまうほどだった。

「なんだ、千春(ちはる)かよ」

「千春で悪かったわねぇ」

 軽い嫌味を交えたこの会話はそれほど親交があるということ。実際、このやり取りを皮切りに語り合い始めた二人には自然な笑みが浮かんでいた。

(やっぱり私より、こんな綺麗な女性の方が良いに決まってる)

 楽しそうに語らう二人を見てしまっては、珠美がそう思ってしまっても無理はなかった。

(やっぱり私は不釣り合いなのよ)

 劣等感に押し潰されそうになる珠美。考える度に学校で他の女子に言われた言葉が脳内に反芻してしまい、彼女はもう限界だった。

「あ、私用事思い出したから先に帰るね」

「えっ、ちょっ……」

「千春さんも失礼しました。じゃあね!」

「えっ、ええ……」

 戸惑う二人に目もくれず、珠美は一心不乱に走り出した。この状況から逃げるように。

「な、何なのあの子……」

「俺の彼女」

「なるほ……へあっ!?」

 自らの問いに唐突かつあっさり答えた秋人に、千春は驚き思わず上ずった声を上げる。

「ちょっ……放っておいて良いの?」

「んなこと言われても……」

 尋常ではなかった珠美の様子を思い出して千春は言うが、秋人も戸惑っているのか曖昧な言葉しか出さない。

「……どうすりゃ良いと思う? 千春」

「あんたねぇ……」

 無駄に整った顔を掻いて問い返す秋人に千春は拳を強く握る。

「私はあんたのお姉さんなんだから、『姉様』を付けなさい、『姉様』を!」

「えっ……まずそこっ!?」

 ……千春の論点はどうやらズレていたようだ。





「はあ……私、何やってんだろ」

 思わず走って逃げてしまったが、これでは秋人に変な女だと思われてしまっても仕方ない。やっと掴んだ幸福が手の平からすり抜けていくような気がした。

「路地裏に入っちゃったみたいだし……」

 周囲を見回せば、灰色の壁が多方から圧迫するように見下ろしていた。何となく不気味で居心地の悪い場所だ。

「はぁ……早く帰ろ」

「――待って」

「えっ、誰っ!?」

 脳に響くその声に珠美は思わず振り返る。その声は、不気味なこの路地裏とは不釣り合いな心地好いものだった。

「え? あれ……」

 しかし、振り返った先には誰も存在せず、灰色の壁が見えるだけだった。

「気のせい……?」

「いいえ、違うわ」

「……気のせいじゃない!」

 首を傾げて立ち去ろうとする珠美の脳内に再び響くその声。その声は確実に自分に語りかけている。それは信じがたいが紛れも無い事実だった。

「誰っ、誰なのよっ!」

 恐怖に顔を歪め悲鳴のような叫び声を上げる珠美。

 しかし、次に返ってきたのは、全く話の噛み合っていない言葉だった。

「秋人って男を手放したくないんでしょ?」

「うあっ……」

 だが、それは珠美の心に確実に切り込む言葉でもあった。

「大丈夫、あなたは不釣り合いなんかじゃない。……私が手を貸してあげる」

「えっ……どうするの?」

 囁くような声は珠美の言葉に染み入り始める。珠美は既に自然とその声を許容してしまっていた。

「群がる阿呆みたいな女を退ければ良いのよ」

「そんな……」

 さらっと言い放つは悪魔の囁き。戸惑う珠美だったが、その心は傾き始めていた。

「秋人を奪われて良いの?」

「うっ……」

 揺れる心に楔を打つようなその問いに珠美は言葉に詰まる。

 不安定過ぎるその心に声は止めを刺す。

「大丈夫。私はあなたの味方だから」

「……うん」

 甘い囁きに思わず頷く珠美。声の主が妖しく笑みを漏らしたことなど知りはしなかった。

「んっ……」

「いきましょう、あなたの思い人を手に入れるために」

「……ええ」

 何かが自分の体に入ったような気味の悪い感覚に珠美は呻くが、その後に語りかけた声に小さく同意した。

「……秋人君は誰にも渡さない」

 そう呟く珠美の背後には、放射状に広がる何本かの細い枝のような脚が見えた。





 時刻は午前二時。丑三つ時とも呼ばれるこの時間、誰も居ないはずの鬼怒樫高校の校庭に一つの人影があった。

「ふわぁ~あ、さすがに眠い……」

 大きな欠伸をしたその人影は優梨だった。しかし、その姿は女子高生らしい私服でも、ましてや学校指定のブレザーでもなかった。

「これ着ると、なんか雰囲気出るわねぇ。……袴汚さないようにしないと」

 そう、優梨は袴姿だったのだ。詳しく記せば、両肩に太極印が描かれている白い着物を着用していたのだ。

 白い着物姿でポニーテールを揺らす優梨の姿はどこか凜としていてた。

「さて、仕事を始めますか。……幽斗」

「……ああ」

 優梨に呼ばれて背後からヌッと現れたのは、二-Aの生ける伝説「不動の鬼塚」こと鬼塚幽斗だった。

 意外と渋い声の幽斗は、昼間の学ラン姿で優梨の右隣に直立していた。昼間は常に寝ているあの「不動の鬼塚」が二本の足で立っていたのだ。

「じゃ、行くわよ」

「……駆逐する」

 ゆっくりと頭を上げた幽斗の両目は、血のように紅く、爛々と輝いていた。


〇主な登場人物


・綾瀬 優梨

県立鬼怒樫高校二年A組

黒髪ポニーテールの女子高生。若干さばさばした性格。基本親しみ易いが、怒ると背後に鬼のようなものが見えるらしい。陰で「鬼百合」と呼ばれている。


・鬼塚 幽斗

県立鬼怒樫高校二年A組

ぼさぼさの黒髪がもっさりと頭を覆っている、毛玉のような頭の男子高校生。

常に寝ていて、「不動の鬼塚」として2-Aの二大ミステリーとなっている。


・矢口 珠美

県立鬼怒樫高校2年A組

黒髪ロングで眼鏡を掛けた女子高生。

気が弱く、自己評価がかなり低い。秋人と晴れて付き合うことになったが、その裏で女子の妬みの対象になっている。


・加賀美 秋人

県立鬼怒樫高校2年A組

イケメン(ケッ……)。珠美と付き合うことになった。

大学生の姉、千春がいる。


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