表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/44

第42話 秘密の花園・12

ようやく、完結しました。秘密の花園。オンもオフも立て込んで、まさかの170日以上の更新停滞ッ・・!すみません・・・!とにもかくにも、本編へどうぞ!

 愛なんて、一度語ってしまえば。

 あぁ、なんて、心が軽くなるのかしら。



 貴方の腕の中にいれる喜びを知ることが、こんなにも。


 心地いいことだなんて、思わなかった。



 二人きりになった部屋の中で。

 同じソファに腰掛けて。

 絡まる指先から感じるのは、むずがゆいほどの、温かさ。


「・・・あーーーーッ・・・!!!恥かしいッ!!!」

 そこに、突如大きな声を出したのは、祐馬。

「ゆ、祐馬さん?」

 それまで、会話も少なく穏やかな空気が流れていただけに。

 突然叫んで顔を覆う祐馬の挙動に、ソウは心配そうに祐馬を見やる。

 

「お、れは・・!今までこんなことしたことねーんだよ・・!自分がマジありえねぇ・・・!!」

 よくよく見ると、その大きな肢体を丸めて、顔を膝にうずめた祐馬の。

 その耳も。

 その首筋も。

 微かに見えるその頬も。

 見たことのないほどに赤くなっていた。


「こ、んな。家まで乗り込んで、母親相手に啖呵きるとか・・・う、わああああああッ・・・!」

 今までの自分の行動をようやく冷静に思い返し、祐馬は狂ったように叫びだす。

「・・・フフ、嬉しいなぁ、祐馬さん。僕のためにそこまでしてくれたんですよね?」

 見も知らない土地に。

 一人でやってきて。

 ただ一人、自分のために。


 愛を、語ってくれた。


 それだけで、もう、舞い上がってしまいそうなほどに、嬉しい。


「・・・そ、いうわけ、じゃあ・・・」

 モゴモゴと、心地悪そうに祐馬はどもった。

 ガラじゃねーんだよ、と、祐馬は言う。

 そんな祐馬の様子に、ソウはどこまでも上機嫌だ。

「・・・でも、よかったの、か?」

 ふと、それまで照れたような、困ったような表情だった祐馬がその瞳に影を落とした。

「え?何がですか?」


「・・・お前は・・・バニーの、妻になれるほどの・・・家柄の人間、なんだろ?あそこまで啖呵きっといてなんだけど、さ。おふくろさん、とか・・・どうすんだ?」

 自分の、エゴだと、思う。

 ソウの可能性を、自分は潰したことになるのではないだろうか。


 もっと、いい出会いがあったかもしれない。

 バニーでなくても、それなりの良家の人間と結婚し、この家を繁栄させていくことのほうが、もしかしたら最良の道だったのかもしれない。

 

 感情的になっていた自分。

 しかし、ふと我に返ると、そこに立ちはだかるものは、壁だ。


 大きな、大きな、壁。


「・・・僕は・・・貴方がいいんです」

 そんな祐馬の背を、そっとソウは撫でた。

「バニーさんでもなく、他のどんな人でもなく」


 その手は、祐馬の頬を、捕らえ。

 そして、自分のほうを向かせる。



「貴方が、いいんです」



 その瞳は。


 優しく、祐馬を捉えた。



 だれでもなく、私の身を焦がすほどに捕らえたのは、貴方。

 何ものをも投げ捨ててでも、傍にいたいと思わせたのは、貴方。


 他のだれでもなく、貴方が。




 ただ。


 ただ。



 愛おしいんです。



「・・・お、れは・・・男、だぞ・・・」

 その、瞳からは、再び涙が溢れた。

「知ってます」

 きゅっと、祐馬の手が、ソウの手に重なる。

「俺は、お前より、ガタイもいいし・・・」

「そこが可愛いんです」

「・・・ここの、住人、でも、ないし・・・」

「今はここの住人です。・・・これからも、ずっと」

「・・・良家の、人間でも、ねぇ」

「名前だけで、好きでもない相手と一緒になるのなんて、ゴメンです」


「それに・・」


「生涯、一緒にいたいと、思った」


 まだ、何かを言おうとする祐馬を遮って。

 ソウは、言った。


「僕は、貴方が、いいんです。そう思ったのは、貴方が初めてです」

 ちゅっと、その唇に、キスを落す。



「祐馬さんじゃないと、嫌なんです。僕の、お嫁さんになってください」



 あぁ、もう、駄目だ。

 


 ボロボロと、涙が頬を伝って。

 祐馬は、ソウに抱きついた。


 その腕を、心地よいと感じながら、祐馬は眠りに落ちた。








「・・・その子を選ぶの?ソウ」

 どのくらい時間が経ったのか。

 静かに時の流れるその空間に、ヨウがいた。

 立ち入ることのできない、その再会の場面に一度は席をはずしていたヨウだったが、確認をすべきことを聞きに戻って来たのだ。

「はい」

 曇りのない表情で、ソウはヨウにそう言った。

 その膝の上では、小さく祐馬が寝息を立てている。

「・・・意思は、かわらなそうね・・・」

 ふぅっと、ため息をつきながらヨウは言った。

「変わりませんよ・・・ようやく、手に入ったんですから」

 嬉しそうな、ソウの姿。

 これが、さっきまでこの世のすべてを諦めたような表情をしていた人物と同一人物だというのか。

 それほどまでに、この子は。

「・・・まったく、この私に正面きってたてつく子なんて、初めてよ」

 苦笑交じりに、ヨウは祐馬を見下ろす。

「フフ、素敵でしょう?僕の祐馬さんは」

「そうね」

 ふっと、ヨウも笑む。


「これだけは知っていて?ソウ」


 ヨウは、ソウの額に、そっと口付けをした。



「私は、貴方が幸せであればそれでいいの。どこの誰と結婚しようと、どこで暮らそうと、そんなことはどうでもいいの」


 

 ただ、望むことは。

「幸せに、おなりなさい、ソウ」

 貴方の、幸せ。


「・・・母様・・・」


 思いがけない母の言葉。

 それに、力強くソウはうなづいた。

 その様子を見ると、ヨウは満足そうにその部屋を後にした。








「元気に、暮らすのよ?」

 翌日、ソウと祐馬は元の屋敷へ帰る事にした。

 きっと、みんなが心配しているだろうから。

 見送りに来たヨウは、ソウの手を取ると、そう告げた。

「えぇ、母様も」

 その横で、祐馬は一人青くなって今にも震えだしそうになっていた。

 感情に任せて、啖呵をきってしまった相手を目の前にして、うまく対処ができるほど祐馬は大人ではない。

 しかし、これから一緒に暮らしていくソウの、母親と何も会話を交わさないわけにはいかない。しかも、仲が悪い、などもってのほかだ。

 一人、どうしようかと俯いて考えていると。


「祐馬さん」

 ヨウは、祐馬へと向き直り声をかけた。

「は・・はい・・!」

 とりあえず、まずは昨日の非礼から詫びるべきだろうか、などと思考を巡らせていると。

「ソウを、よろしくお願いしますね」

「・・・え・・・?」

「ふふ・・・昨日は意地悪をしてごめんなさいね」

 ヨウは、その瞳を細めて、笑った。

「また、こちらにも遊びにいらしてね?ここは・・・貴方の戻るべき家でもあるのだから」

 

 その、言葉の。

 

 意味するものは。


「あ、りがとう・・・ございます・・・!」

 一瞬、その意味がわからず、祐馬はきょとん、とし。


 ついで。

 その言葉の意味を、理解すると。


 泣きすぎて、枯れ果てたはずの涙が。

 また、湧き上がる。


「もう、祐馬さんってば、泣くのはベッドの中でだけにしてください」

 ソウが、笑う。

「お、おま・・・!!」

「あらあら、いいわねぇ、若い人は」

 その場の空気が、たゆたゆと、揺れた。


「それじゃあ、母様、また!」

「えぇ、楽しみにしてるわ」

 二人は、馬車に乗り、その場をゆっくりと離れる。

 

 来る時は、あんなにも怖かった場所。

 来る時は、あんなにも遠かった、場所。


 祐馬は、窓の外を見やり、その風景を眺める。

「・・・いろいろ、あったなぁ・・・」

 しみじみと言う祐馬に。

「そうですね」

 ソウが、答える。


 静かに、馬車は揺れながら。

 二人を、運んだ。






「だから、追い出されたんだって!」

 そして、所変わって。

「・・・追い出されたぁ?」

 公館。

 その場にいるのは。

 優雅にお茶をすする、クイーン、リアン、バニー。

 そして。

 まさしく、難民状態、なアリス。

「そうだよ!何かよくわかんないけどさぁ、まだ早い!!ってあの二人に追い出されたんだよ・・・!」

 そして、なぜだか・・・。

「・・・しっかし・・・ぷぷ・・・あの、二人のおめがねには、適ったみたいだねぇ・・・?」

 そのアリスの額には。

「笑うなよッ!!」

 大きな、合格のスタンプが。

「あはははは!だって、笑うっしょ・・・!検品かっつーの!!」

 腹を抱えて笑い出すリアンに軽く殺意を覚えつつ。

 バニーが、こっちを向いて、アリス。と、汚れた顔を拭いてくれる。


 そう。一人花園に残されたアリスくん。

 たゆたゆと、お昼寝から目を覚ますと。

『ま、アンタはギリギリ合格ね』

 と、べにお様にペタン、とスタンプを顔に押され。意味がわからず、疑問符を頭上に飛ばすアリスをよそに。

 子供はまだ早い、だの、先に結婚だの、とおしろい様と何やら語り合った後、ぺいっと、花園から追い出されたのだ。


「わ、け、わ、か、ん、ねぇッ・・・!!」

 バニーに身なりを直してもらいながら、アリスは一人憤慨している。

「ハハ、いいんだよ。それで」

 ニヤニヤと、リアンは楽しそうだ。

「はぁ?」

「さて、そろそろ祐馬くんたちも帰って来るかねぇ・・・」

 リアンは、窓の外を見下ろしながらポツリと言った。

「・・・そういや、祐馬は?」

 一人で帰ってきちゃった、などと言うアリスに。


「・・・幸せだな、お前は」


 ボソリと、クイーンは暴言を吐くのだった。

「え!?何が?祐馬が、どうかしたの??」

 まったく、状況についていけず、アリスはおたおたと皆の顔を見渡す。

「・・・ゆっくり、説明してもらったらいいよ、アリス」

 整え終わったバニーはそう言うと、窓の外を指差した。


「え?」


「おーおー、いい顔しちゃってー」

 リアンが、おかえり!と、窓の外へと叫ぶ。

 それを受けて、アリスも窓の外を見やった。

 窓の下には。


 眩しいほどの笑顔の、二人がいた。





「ほんとにまぁ、久しぶりにいい暇潰しだったですわね。お姉様」

「本当だねぇ、おしろい」

「あ、そういえば、べにおお姉様、もう一通の手紙は誰からだったんです?」

 くるくると、その大きな瞳を動かしながら、おしろいはべにおに問うた。

「あぁ、リアンと、もう一通は・・・ヨウからだよ」

「・・・ヨウから?」

「祐馬の相手の子・・・ソウって言ったろう?その子の親なんだよ。ヨウは」

「アラ、そうだったんですの」

「息子が騙されていやしないか心配だったんだろうよ、ヨウも」

 ヒラヒラと、その手紙をひらつかせながらべにおは言った。

「良家になればなるほど、恋は厄介なものになるからねぇ」

「ですわね」


「まぁ・・・あの子たちなら問題はないよ」

「二人とも、合格ですの?」

 楽しそうに笑う、べにお。

「まだまだ、青いけどね。私が言うんだ。間違いはないよ」


 愛だとか、恋だとか。

 振り回して、振り回されて。


 それでも。


 それ、でも。


 誰かを心から愛して、愛されて。

 何て、素敵なこと。


「・・・これからが、楽しみだ」


 そこは、秘密の花園。

 

 秘密の、花園。



 愛に迷ったら、ここへおいで。





長かった、ソウと祐馬編はとりあえあず完結。この次は、いよいよバニーとアリスの話へと移ります!・・・頑張ります!!(本気でな)そうそう、この更新の滞っていた間に、企画を考えたりもしてみました。次作と同じくらいに、うまくいけば・・・と考えております。とりあえずは、新年にかからなくてよかった・・・!次はもう少し早く・・・!って、いっつも言ってる・・・!アリス完結に向け、もう少しお付き合い頂ければ幸いです・・・。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ