第3話 シンクロを解け!
ボーイズラブとなっておりますので、苦手な方はご注意を〜☆
クイーンのその言葉に、全員が顔をこわばらせる。
「どういう・・・ことですか?」
しん、とする中で、マスターがそう切り出す。
「シンクロをかけた者にしか、シンクロは解けない」
クイーンは短くそう告げた。
「え?じゃあ、解けるやん」
そのクイーンの言葉に、能天気にアリスは答える。
だって、シンクロをかけたのが誰かわかってて、しかも、ここにその本人がいるんだから。何の問題もなくね?
正味な話。アリスにとってはそんな話なわけで。
「そーや。そーや」
「解けるやないか」
そのアリスの発言に、ホワイトとブラックも口をそろえて何が問題あるんや。とつなげる。
その2人の台詞に。
眉間にしわを寄せながら。
クイーンは。盛大にため息をついた。
「ホワイト・・・ブラック・・・。アリスはいいとしても。お前たちはバニーがなぜシンクロをかけたのかわからないのか?」
心底。いいかげんにしろよ。というオーラ全開なクイーン様。
もちろん。
双子がそんなことを意に介すはずもないが。
「クイーン、しわが増えるぞ」
横からちゃちゃを入れるガーデンをちらりと見たあと、すぐにホワイトとブラックに向き直る。
「え?何でて。アリスに会いたいからやろ?」
そんなんあたりまえやん。知っとるわぁ。と双子。
そこまでわかっていて、何でこの話の流れがわかんないかね〜・・・と、人知れずリアンがぼやく。
とりあえず、そんなリアンは置いといて。
「俺に?」
アリスはクイーンを向く。
「そうだ」
「ようするに〜・・・」
クイーンとリアンは。口をそろえて、続きを話した。
『ベタボレ』
ここにいると心臓に悪い。何回、倒れそうになったことか。つか、いつか心臓止まるね。
「だから、アリスに会いたくてシンクロしたのに、わざわざアリスを帰すようなこと、すると思う〜?」
「まず、しないな」
ガーデンがきっぱり言ってのける。
ここにきて、ようやくつながった話。
「じゃ・・・じゃあ、シンクロは元に戻らないのかよ!?」
ようやく、ことを理解できたアリスは。
身を乗り出してあたりを見渡す。
「・・・バニーがシンクロを解くまではな」
はぁ、とため息つきのお言葉。
「そ、そんな・・・」
一難去ってまた一難。そんなことわざを脳裏に浮かべつつ。ていうか。お前、親だろ!どうにかしやがれ!!と、いっそのこと暴れてみようかと思ってみたり。でもちょっと。それって何の解決にもなんない上に、諸悪の根源が喜びそうだからやめとくか。と、ちょっと頭をフル回転させるアリス君。
「どーにかならへんの?」
「アリス、可哀想やん」
あせあせしているホワイトとブラックに。
ちょっと、遠くを見ている感じのアリスに。
シンクロが解けなければ、アリス同様、自分たちの世界へ帰ることのできないクイーンたち。
そして。
のんきに紅茶をすするバニー・・・。
いいかげん、マジでその耳むしるぞ。このガキ・・・。と、誰が思ったのかは追求しないこととして。
重い沈黙をやぶったのは、クイーンだった。
「シンクロを・・・解けなくもない・・・」
あいかわらず、表情は硬いが。
「成功するかわからんが、やってみるか?」
「何?どんな方法なん?ていうか、失敗したらどうなるん?」
「さぁ?」
肩をすくめてクイーンは言う。
「・・・どんな方法か知らないけど。このままじゃ、帰れそうにないしねぇ。この際、何でもいいからやってみる?」
親身なのか何なのか。判断しかねるリアンの言葉。
「・・・方法にもよるけどさぁ・・・俺もこのままじゃ困るしなぁ・・・」
実際問題、そこだよな。
「で?その方法ってのは?」
ガーデンがクイーンを見る。
「・・・もし無事にシンクロが解けたとしても、だ。またバニーがシンクロをかけるともかぎらない」
クイーンはそう前置きすると、その美しくも澄んだ瞳をアリスに向けた。
「そこでだ、アリス。無理を承知で頼みたいのだが・・・」
のわりには無表情で淡々としてますな。
「・・・シンクロが解けるなら・・・」
あぁ。何か。嫌な予感。最近どうも当たるんだよね。
そんなことを、冷静に思いながら。
「バニーの、婚約者になってくれないか?」
リンゴ――――ン♪
今、一瞬。天使が飛ばなかった?あ、何?俺、幻視?うっわ、やべ〜。鐘の音まで聞こえちゃったよ。あはは。
・・・そう思ったのは、どうやらアリスだけではないようで。
全員がぽかーんとしている。
まぁ、約1名、お茶に飽きて廊下の端でぴょんぴょこしているのもいるが。
「言っておくが、形だけでいいのだからな?」
「・・・・」
「ア、アリス〜?」
「・・・」
「あかんわ。放心しとるで?」
アリスの目の前で手を振りながら、ブラック。
「しっ、してない!!」
ようやく、現実へおもどりなさい、なアリス。
「は〜?どういうこと?クイーン」
みんなの心の代弁を、リアンがする。
「だから、アリスを婚約者に迎える、という形でシンクロを解いて俺たちの世界へ帰ることにする。まずは、だ。もちろん、アリスも」
「お、俺も!?」
帰りたいとは言ったけど、アリスの帰りたい世界はそっちじゃない。
「表向きだ。アイツはまだ一人前じゃない」
ちらりと見ると、どこからか入ってきたチョウチョと戯れている。
「時空の歪みを見つけて向こうの世界へ戻す」
「それって、かなり危なくない?」
さすがのリアンも真面目に返す。
「それにや。それやったら、またバニーがシンクロしてまうんやない?」
「せやせや」
「だからだ。“腕の未熟なお前では、アリスに嫌われる”とでも何とでも言えばいい。アリスは死んだことにしてもいいしな」
勝手に殺さないでくれ。
ただでさえ、雲行き的にその方向も近そうなんだからさ!
「じゃあ、何か?アイツが一人前になったら・・・俺はウサギの結婚相手になるのか〜〜!!?」
うん、まぁ、何ていうか・・・。問題はそこか?
「バニーが一人前になるには、平均してあと60年はかかるから大丈夫だ。そっちとこっちの時間の流れは違うからな」
「一人前になったころには、思い人はよぼよぼのじーさんってか!」
そら、傑作やな〜と、あくまで人事な双子。
嬉しくない発言をどうもな!
「ちょ・・・ちょっと待ってください!本気でそんな方法をとる気ですか!?無茶ですよ!危険すぎます!!」
それまで黙って聞いていたマスターだったが、本当にその方法をとるような雰囲気を察し、意義を唱えた。
「それは成功したら、の話でしょう?空間の歪みからアリスさんを戻すなんて・・・!そんな不確かな方法・・・!」
マスターは本気でアリスの心配をしている。
何だかアリスは、それだけでとても嬉しくなる。マスターがいるおかげで、俺、こいつらの中でも何とかやっていけてます!みたいな。
「じゃあ、一生ここにいるって言うのか?いつ戻れるかもわからないまま」
ガーデンが冷たく突き放す。
「・・・それは・・・。でも!何か他に方法が・・・!」
「方法って言っても、バニーをどうだますかが変わるだけで、やることは大して変わらないと思うがな」
「ガーデンさん!」
無神経なガーデンを、マスターはたしなめる。
が、ガーデンがそんなことに懲りるはずもなく。
「俺・・・それでいいよ」
どうせ、方法がないのなら。
どれにかけても同じようなら。
「シンクロを解こう・・・!」
かけてみるしかないだろう?
人生、早まった・・・?
バニーは、大好きなアリスが婚約者となり、しかも、自分の世界へ来てくれると聞いて大喜びである。さっそくシンクロを解く気になったらしい。
その喜びようとは裏腹に、他のメンツは沈黙である。
成功するか、否か。
もちろん、一番不安なのはアリスである。
そこへ、リアンがぽんっと肩を叩く。
「大丈夫だよ〜ん。俺のダンナがヘマするわけないっしょ?」
アリスの緊張を解こうとしてくれる、リアンの心が、とても嬉しくて。
「・・・大丈夫です。絶対・・・!」
そう言って、抱きしめてくれるマスターに。
「・・・うん!」
にっこりと、微笑む。
アリスの金色の髪と、青いスカートがたなびき始める。
バニーがシンクロを解き始めた。
誰もが無事を祈る。
一瞬、目の前が真っ白になって。
消えゆく意識の中で・・・。
アリスは、声を聞いた・・・。
“ア・リ・ス”
その直後。
ドスン、という音と、お尻を地面にぶつけた感触。
「いってぇ・・・」
まぶしい光に、しばらくしてようやく目が慣れる。
五感が、戻る。
「・・・ここ・・は?」
そこは、見たことのない場所だった。
次にアリスが聞いたのは・・・。
「アリス・・・?」
クイーンの間の抜けた声だった。
「どうしてここに!?時空の歪みから元の世界に戻したはずだぞ!?」
いつもはのほほんとしているリアンも、血相を変えて。
「アリス!?・・・まさか、自分でこっちの世界に来たのか?もう戻れないよ!?」
いきなり知らない場所に落ちてきて。
別れたはずのクイーンとリアンが目の前にいて。
大きな声で、何か言ってる。
もう、戻れない・・・・?
「・・・・え?」
今度は、アリスが目を見開く番である。
「戻る必要はないよ」
凛とした声が、あたりに響く。
この、声は。
「だって、アリスは僕の妻だもの」
アリスは、声の方を向く。
そこに立っていたのは、どこかクイーンに似た顔の。どこまでも人を引き付けるような顔立ちの18歳くらいの少年・・・。やわな感じはなく、すらりと伸びた手足はほどよく筋肉がついている。身長はクイーンと同じくらいか。アリスより頭1つ分大きい。
金色の髪の、透き通るような目をした、彼。
「つ・・・妻ぁ!?」
妻!?何!!?俺は!いつ、誰の妻になったんだ・・・!?
アリスは動転して、口をぱくぱくさせている。
「・・・!お前!・・・バニーか!?」
そこで。気付いたようにクイーンが声を出す。
「・・・そうだけど?」
ちらりとクイーンを見やり、そう、言う。
「や〜・・・ちょっと見ない間におっきくなったねぇ・・・」
リアンもちょっと、頭の回転が付いていってないかな?
「それよりも、僕の一人前になったことだし。アリスとの結婚式の日取りでも決めようか?」
口元を弧に描き、微笑する、その少年。
「あと・・・60年先じゃなかったのか〜!?」
そう叫ぶアリスを、誰も責められないわけで。
「・・・!お前が、アリスを・・・!」
「何のこと?」
クイーンの言葉を軽く流しながら。
アリスを見つめ、笑うその少年。そう、バニーがアリスをこの世界に引き込んだのだ。
「何てこと・・・」
リアンも、次の言葉が出ない。
アリスは呆然としたまま、その場に立ち尽くしていた。
これから一体どうなるのか・・・。
アリスはただ、目の前の少年を、見つめるだけだった・・・・。
〜続く〜
あっちの世界へご到着〜♪しかも、おっきくなりました。バニーくん。あんまりマゾっぽくないご様子。これからどうなっていくのでしょうか。お楽しみに!
ぴーえす。更新が遅くてすみません;