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第19話 愛を謳って・4

『愛を謳って』完結です〜。長かったなぁ・・・いろんな意味で(本当に申し訳ありません)。今回は頑張って(?)ちょっと長め。

 ぶち。


 今、何か切れた音が・・・思いっきりしましたが・・・。


「・・・え?」

 その音のほうを、バニーは見やる。

 そこには、無表情に怒りを湛えたクイーンがいた。クイーンは無言でまわりのものにあたり散らし始めた。その瞳には、すでにバニーの姿は映っていない。

 そして、その八つ当たりが止まったかと思うと、次は大きな音をたてて扉をあけ外へ出て行く。走っているわけではないのに、すごいスピードである。その無表情のうちから溢れる激情に、すれ違うトランプ兵たちは壁に張り付いて道をあける。その後ろから、バニーも追いかける。

「・・・・まずいな・・・完璧キレてんじゃんか・・・。早くアリスを・・・!」

 バニーは、どうやら本気でご立腹なクイーンの様子から巻き添えをくらってなるものかと近道をしてリアンのとアリスのいる離れへと急いだ。


「アリス!!急いで!早く帰るよ!!」

 クイーンより早く離れについたバニーは、それだけ言うと、きょとんとしているアリスを有無を言わせず担いで離れを出て行った。

 まさに、風のように・・・。

「・・・どうしたってのさ・・・」

 さすがのリアンも、息子の奇行にしばし呆然とした。

 まぁ、そこはリアンさん。ま、いっかと気を取り直すとアトリエにあった大きな、古いキャンパスの前に立った。真っ青に塗られた、キャンパス。そのキャンパスに、リアンは優しく手を這わせる。

「・・・いつか、このキャンパスを・・・渡せる日が来るんだろうか・・・」

 リアンは、ふっと、悲しそうに笑むと手に持っていたスケッチブックを両手に強く抱きかかえた。

「・・・やっぱ、ひねくれてんのかねぇ」

 

 それは、遠い昔に自分が決めたこと。

 

 人知れず、この思いを抱いたまま。


 伝えることは、ないだろう、と。


 リアンは、天井を仰ぎ一息つくとアトリエを出ようと振り返った。

 そして。そのまま動きを止めた。

「ずいぶん顔色が悪いな、リアン」

 そこには、無表情で立つ、クイーンがいた。感情なくリアンを見据えている。

「・・・クイーン?ここは立ち入り禁止のはずだけど?」

 いつもとはあきらかに違うクイーンの様子に圧倒されながらも、それを表に出さないようにしごく自然にリアンはそう言った。

「俺に見られたら困るものがあるからか?」

 クッとクイーンは乾いた笑いをこぼす。

「・・・まだモニターついてるわけ?ほんと、悪趣味なんだから」

 リアンは呆れたようにため息をつく。そして、さっさと部屋から出るため扉へ手をかけようとした。―――その手は、扉へ届くことはなかった。


 クイーンはリアンを壁にはりつけると、いきなり貪るようにキスをした。逃げられないように、壁にはりつけられて。リアンの爪が、壁をかく。

 酸欠になりそうなキスの中。

 リアンの瞳に、あの真っ青なキャンパスが映る。

 

 あれがあるから。

 俺の、心の支え・・・。

 あの、真っ青な・・・。

 俺の、大好きな・・・・。


 理由はよくわからないけれど。どうやら、モニターを見ていて何かが気に入らなかったようだ。

 アリスになれ初めを話したことか。

 クイーンに見せてないスケッチブックがあることか。

 それとももっと、他のことなのか。


 リアンは、クイーンの怒りを全身で痛いほど感じながら。

 “あの時”と同じように。

 クイーンの気がすむのを、ただただ、待っているのだった・・・。


 ようやく、噛み殺されそうなキスから解放される。

「は・・・は・・・」

 リアンは自由になった口で大きく息をする。

 くたっとしているリアンの様子を、クイーンは冷ややかに見下ろす。

 しばらく、そこには沈黙が続いた。

「・・・何も言うことはないのか?」

 冷たく、重たい声。

 その問いにリアンは答えない。

 ただ、息を整える音だけが、部屋に響く。

 そのリアンの様子に、クイーンは手近に合った小さなキャンパスをリアンの顔すれすれに投げつける。

「!!」

 リアンはさすがに恐怖を覚える。知らず、全身が小さく震えている。

「・・・・なぜ、お前はここに残った・・・!!」

 クイーンは、堰を切ったように叫びだす。

「なぜ!愛してもいない男と結婚をした・・・!!?」

 つまれた画材が、クイーンの腕によって地に落とされる。

 そして、クイーンはリアンの胸倉を掴み、その顔を歪めた。

「他に、愛している奴がいながら・・・なぜ、愛してもいない俺と結婚した・・・!!?」



「ねぇ!バニー!!」

 呼びかけてみるものの、バニーから返事はない。

「バニーってば!!」

 自分を担いで足早に歩く男の背を叩きながら名を呼ぶ。

「あ、あぁ」

 バニーはようやく気付いてアリスを下ろす。

「・・・いったい、どうしたんだ?」

 いつもと違うバニーの様子にアリスは心配そうに尋ねた。

「・・・クイーンが、キレたんだよ・・・」

 はぁ、と大きなため息とともに静かにバニーはそう言った。

「・・・・・え?」

 信じられない、といったふうなアリスの反応。

 クイーンが、キレた。

 いったい、何があったというのか。そして、クイーンがキレたことと、離れから担いで連れ出されたことと・・・いったいどんな関係が・・・?

 アリスは疑問いっぱいにバニーを見上げる。

「・・・実はね、悪いけどアリスたちの行動をモニターを通してクイーンの書斎で見てたんだよ」

「!!?えぇっ・・・!!?」

 おさまっていたアリスの赤面が再度そのものとなる。

「そこで、リアンとスケッチブックを見てただろ?アリス」

「う、うん」

 アリスに突っ込む隙を与えず、バニーはさくさくと話しを進める。アリスも、バニーの真剣な様子に抗議できずおとなしく質問に答える。

「・・・クイーンは、リアンに“愛してる”とかそういった類の言葉を言ってもらったことがないんだって。それなのに、そのスケッチブックに描かれている人のことを“世界で一番好き”とか言っちゃったから・・・それで、ね。」

 クイーンがキレちゃったって話。はぁ、とバニーは大きくため息をついた。

 その話を聞いたアリスはきょとんとした顔でバニーを見据えた。

「・・・え?・・・だって、あれ・・・」


「何の・・・こと?」

 リアンは掠れた声でようやくそれだけ答えた。

「何のこと?はっ!アリスと一緒にスケッチブックを見ていただろう?それに描いてある奴だよ!!俺には見せれないんだろう!?そうだよな!一応俺たちは夫婦だからな!他の奴が描いてあるスケッチブックなんか見せれるはずないよな!!」

 クイーンは一気にまくし立てる。

 いままでの、すべての感情をのせるように。

「一応って・・・何だよ・・・」

 クイーンはかっとなってリアンを殴りかけたが、ぐっとそれを堪える。

「一応だろ!?お前はもうむこうに帰れないもんな!一人で生きるより誰かに足開いたほうが生きやすいよな!たとえ愛してもいない奴でも!!」

 クイーンは、悲痛に叫ぶ。

「お前は一度だって俺に“愛してる”と言ったことはないだろう!!でも!そのスケッチブックの奴には“世界で一番”だと言っただろうが!!」

 リアンの瞳に、涙が溢れ出す。

「行けばいい!!お前の愛している奴のもとに!!」


「そうしたら・・・そいつの前でお前を殺して俺も死んでやる!!」


 リアンの頬を、涙が伝う。

「・・・クイー・・・」

「俺は!お前が誰を愛していても・・お前だけを愛している!!絶対に、手放すものか・・・!!!」

 クイーンは、リアンをかき抱きながらそう、叫んだ。

 

 どこまでも、愛してやまないもの。

 愛して、やまないもの。


 リアンは、クイーンの腕の中で瞳をいっぱいに開いて空を見つめている。その瞳からはとめどなく涙が流れている。


「クイーン・・・」


 リアンに呼ばれ、クイーンはわずかにリアンから離れる。

 リアンは、クイーンにさきほどのスケッチブックを手渡した。

「俺が・・・世界でただ一人・・・愛している人だ・・・」

 リアンは、どこまでも優しく微笑んだ。


「クイーンだよ」

「は!?」

 今度はバニーがすっとんきょんな声を上げる。

「だから、スケッチブックに描いてあるのも、世界で一番リアンが愛してるのもクイーンなんだって」

 「な・・・」

 アリスのその話に。

 バニーは、言葉を失ったのだった・・・。


「これは・・・」

 クイーンは、スケッチブックを1ページずつ見ていた。そして、すべてのページを見終わったあとに、ゆっくりとリアンへと向き直る。

「ほら、気が済んだ?さ、俺を殺して?そんで、アンタも死ぬの。そしたら、アンタは永遠に俺のものだね」

 リアンははっきりと、そうクイーンに告げた。

 そのリアンを、再びクイーンは抱きしめる。

「他に・・・好きな奴がいるんだと思っていた・・・」

 掠れた声でクイーンは呟く。

「・・・んなわけないでしょ」

 リアンは動かずに、ただ、クイーンに身を任せた。

「お前は何も言わないから・・・しかたなくここに残ったんだと思っていた・・・」

 その言葉に。

「ばっかじゃないの!!?」

 今度はリアンがキレた。

「さっきもアンタそんなこと言ってたけどさ!だれが好きでもない奴と結婚なんかするかっての!好きでもない奴に抱かれ続けるなんて俺はできねーよ!!」

「・・・リアン・・・」

「っとに・・・!」

 まるで強がるように、リアンはそうこぼす。

 泣きながら、愛を謳うあなたが。

 どこまでも、愛しくて、愛しくて。

 

 クイーンは、下を向くリアンの顎を掴んで上を向かせる。クイーンのブルーアイズがリアンの瞳に映る。

 真っ青な、クイーンの瞳が。

「何で、今まで愛してると言ってくれなかったんだ?」

 クイーンの、曇りのない、その、瞳。

「アンタ・・・昔言ってたじゃん・・・」

 リアンは耳まで真っ赤にしてボソッともらす。

「前に言ってたろ!?手に入ると・・・それには興味がなくなるって!!」

 リアンは、クイーンの手をはずし、俯いてしまう。

「・・・リアン・・・」

 その様子が、愛らしくて。

 愛らしくて。

「リアン・・・心配しなくても、俺はお前のものだ・・・」

 クイーンは笑顔でリアンを抱きすくめると、その額に優しくキスを落とした。


「だって、リアン言ってたよ。ここに残ったのはクイーンがいるからだって。あと、クイーンを愛してるからだって」

「・・・じゃあ、何でそれを相手に伝えないんだ?」

 伝えていれば。

 今回のような騒動にはならなかってのに。

「笑いながらだけど・・・何か、それを言うとクイーンに捨てられる〜とか言ってた。・・・あと・・・ひねくれてるからかなって言ってたよ」

「・・・・わけがわからん」 

 バニーは頭を抱え出した。

「ま、あの2人なら大丈夫だって!」

 アリスは明るくそう言った。

「だって、バニーの親だもん」

 それってどういう意味・・・?

「ま、まぁ・・・何とかなるかな・・・」

 そう言うと、バニーは思いついたようにアリスにキスをした。

「な・・・!!?」

 それだけで、アリスの心臓はものすごい音で鳴り出す。


 これは、まだダメかな・・・。


 真っ赤になって挙動不審となるアリスの様子にバニーは苦笑する。

 バニーは、まだ当分の間はおあずけを食らいそうである。


 そんな、初々しい2人・・・。


「あ!!」

「?どうしたの?アリス」

 突然、アリスが何かを思い出したかのように大きな声を上げる。

「・・・・マスターと・・・ガーデンの出会い・・・・」


 さてさて。1つの謎を残したまま・・・。

 バニーとアリスは家路につくのであった・・・。

                                    〜続〜


いかがでしたでしょうか〜。何か先の見えすぎた話でしたね。あは。近々、ムーンのほうでクイーンとリアンの馴れ初め過去編をリアン視点で書く予定です〜。BL要素が強くなるかもですので大丈夫な方はよろしくお願いします。PNはがー子でございます☆

いつも感想などありがとうございます!本当に励みです!!うちのパソの関係でお返事ができないのですが、感想や評価は本当にありがたく、嬉しく思って読ませていただいております!!読んでいただけるだけでも嬉しいのに・・・!頑張って次作も書いていきたいと思います^^

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