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光 -ひかり-  作者: 美波
第二章 夕陽の下で
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第7話 婚約者

 はじめて結婚式に出席したのは二十二歳の時だった。

 出来ちゃった結婚をした同い年の友人の式だった。


 彼女の子供は今はもう六歳。

 来年小学校に入学する。


 あの日は夕焼け空の下、

 赤く染まった公園でベンチに一人で座って、元気に遊ぶ子供たちを見ながらそんなことを思い浮かべていた。


 秋の夕焼け空は一年の中でも特別綺麗だなと個人的に思う。


 でも鮮やかに真っ赤に染まる空を見ながら秋を感じて、

 澄んだ乾いた空気が肌を撫でもうすぐ冬なんだと思ったら、なんだか物悲しい気持ちになった。




【 光-ひかり- 第二章 夕陽の下で 】




 わたしの務める小さな会社には食堂なんて立派なものはない。

 会社のまわりにランチを楽しめるオシャレなカフェもない。

 だから女性社員に限らずお昼ご飯を持参して、社内で食事を済ませる人が多かった。


 わたしは後輩と一緒に、ほとんど使われることのない最上階の小さな会議室で母親が毎日作ってくれるお弁当を食べる。

 最上階といっても、三階だけど。


 この日はお昼になって会議室に行ってみると、大橋さんと彼女と同期の山岸さんが楽しそうに会話をして盛り上がっていた。


「あ、秋元さん!」

「なんか、盛り上がってるね?」


 四角く並べられた長いテーブルに並んで座る彼女たちと向かい合うように座った。


「聞いてください!山岸さん、彼氏できたんだって!」

「えーっ!そうなの!?もしかして……前話してたずっと好きだった人!?」


 山岸さんは少しだけ頬を赤くして頷いた。

 大橋さんと違って大人しくて気弱な彼女は、長い間片思いしている人がいるけど想いを伝えることができないってずっと悩んでいた。


「よかったねぇ!! え~っそっかぁ……うん、よかったね!! よかったねぇ!!」


 何度もよかったねと繰り返すわたしに照れながらも何度も何度も彼女は頷いた。

 幸せそう。

 なぜ自分が頬を緩めているのだろう、笑っちゃうね。でも、嬉しいから。


「秋元さん! わたしたち負けてられませんよ!」

「そうだよねぇ……」

「この前の合コン、そういえばどうでした?」

「うーん。残念ながら」

「一緒ですぅ……なんか隣にいた人にマニアックな会話されちゃって」


 一緒だ、って思った。

 でもそのマニアックな会話の中身について聞く隙もなく、大橋さんは「秋元さんはぬけがけはナシですからね!」と言ってコンビニで買ったであろう菓子パンを大きな口を開けて頬張った。


「山岸さんは、どうやって好きだった彼と付き合うことになったの?」

「なんか……わたしが好きだって知ってたみたいで、彼の方から」

「態度で伝わっちゃったってやつ?」

「たぶん……」

「どうやったら伝わるのかな?」

「わ、わからないですけど……」


 わたしは「あ、ごめん。変なこと聞いて」と言ってお弁当をテーブルの上に広げた。

 今更そんなこと知ったって、わたしにはもう遅いよね。 



 自宅から会社までの距離は電車に乗って二十分ほどだった。

 徒歩の時間を入れても一時間見れば十分だった。


 午後五時半の定時で上がる頃にはもう辺りは薄暗くなって、自宅に着く頃には真っ暗になっていた。


 自宅の前に着くと隣の家から「お邪魔しました」と言う女性の声が聞こえてきた。

 その方向に目を向けて少しすると家から出てきた女性と目が合った。

 暗くてもお互いの家の門に設置された街灯がお互いの顔を照らしてそれが誰かってことはすぐに分かった。


「心ちゃん! 今、帰り?」

「はい。加奈さんは?」

「わたし? わたしはちょっと彼のお母さんに用事があって」

「修ちゃんはまだ帰ってないんですか?」

「うん。あぁ、いいの。修司には今日は用事ないし」


 修ちゃんの婚約者の加奈さんはわたしより一つ年上だけど、

 修ちゃんよりもずっとしっかりしていて、結婚前なのにすでに修ちゃんを尻に敷いている。

 でも、そんな二人はいつも楽しそう。


「わたし、二次会行くんで。楽しみにしてます」

「ありがとう! ゲームの景品、いっぱい用意するから、がんばってね!!」

「はーい!」


 加奈さんは笑顔を見せると「じゃあ」と言って背を向けた。


「あ。歩きですか?」


 声をかけ引きとめると、加奈さんは振り返って「うん」と言った。

 駅までは歩いて十五分ほどかかる。


「よかったら、駅までですけど送りましょうか」

「でも……今帰ったばっかでしょ。疲れてるでしょ」

「いいえ~。仕事、暇なんで」


 わたしが笑顔を見せると加奈さんは「じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな」と言ってこちらに向かって歩いてくる。

 綺麗な長い髪がサラサラと風になびいてとても綺麗だった。


 なんとなく彼女の真似をして髪を伸ばしてみたけど。

 わたしの髪はいつも毛先が片方だけハネて、

 同じように伸ばしても加奈さんのように風にサラサラとなびく綺麗な髪とは大違いだった。


「今日のお礼はケーキでいいですよ」

「修司に言っておくね」

「あはは」


 一緒に自宅の車庫にある車に乗り込むと駅まで加奈さんを送るために車を発進させた。



 決めた。

 今週の休みの日に、髪を切ろう。


 これから冬になる。

 ショートだと首元が寒いから肩くらいの長さにしようかな。


 あ、でも。そんな中途半端な長さにしたら、もっと髪がハネちゃうか。

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