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光 -ひかり-  作者: 美波
最終章 ひかり
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第58話 いつも通りの日常

 朝起きたらキッチンからはいい匂いが漂ってきて、テーブルの上には温かい朝ごはん。

 母のおはようの笑顔に応え、新聞を見ながらコーヒーを飲む父には自分からおはようと言う。


 支度を済ませ家を出ると、庭の花壇に水をやる隣の幼馴染の母親に朝の挨拶をして小走りで駅へと向かう。

 会社に着けば可愛い後輩二人がいつも笑いかけてくれて、勤続八年になる職場では先輩としてしっかりと後輩をサポートをする。


 そして、朝起きてから夜眠るまで、常に私の心の中にいる好きな人。


 そんな陽だまりのように暖かくて平和な毎日が当たり前になって、ずっと続くと信じて疑わなかった。


 出会いから一年の、節目を迎えようとする前に大きな転機を迎えた。




【 光-ひかり- 最終章 ひかり 】




 お昼は相変わらずお弁当を持って会議室に向かう。

 一緒にお弁当を食べるメンバーも一緒。三人揃うことは珍しいけど、三人揃った日はガールズトークに花を咲かせあっという間に一時間の休憩時間も過ぎ去ってしまう。

 しかもこの日は会議室には私たちの三人以外は誰もいなかった。だからいつも以上の盛り上がりを見せていた。


「はぁ……ついに山岸さんもそっち側かぁ。いいの、いいのよ。わたしはとっても嬉し……」


 頬杖をついて感傷に浸りながら言う大橋さんの姿が面白くて山岸さんと同時に吹き出してしまった。


「ちょっと! 二人とも笑うなんて酷い!」

「だ、だって……完全に芝居がかってたよ! 笑わせようとしてたでしょ!」


 山岸さんの反論に頷くと大橋さんも「まぁね」と言って笑った。

 山岸さんから彼氏が出来たとう報告を受けた大橋さんの反応は、思ったよりも落ち着いていた。大方予想がついていたというのもあると思うけど、大橋さんは私たちが思っていたよりずっと大人だったということだ。少しだけ、嫉妬に狂うのかなと山岸さんと話していたことを反省した。


「でもいいなぁ。山岸さんは付き合いたてでラブラブ。秋元さんとこはすっかり落ち着いた様子で……あ、そっか」


 でも、やっぱり大橋さんはわたしのよく知る大橋さんだった。突然、突拍子のないことを言い出したのだ。


「そろそろ結婚ですか?」


 それとなく、最近になって意識はし出した言葉だったけど口には出したことがなくて、それをあっさりと大橋さんに口に出して言われて唖然とした。


「な、なに言って……」

「式には呼んでくださいね! 会社の同僚として……あっ! 山岸さんと二人で余興でもなんでもやりますから!」

「よ、余興って! わたし人前に出るの恥ずかしいよ……」


 私を無視してどんどんと話が進む。


「二次会のご予定は? 出来れば開いてほしいです~! そこで今度こそ念願の彼氏をゲット……!」

「ちょっと、大橋さん。結婚式は出会いの場じゃないよ?」

「山岸さんは、式でも二次会でも彼氏にくっついていればいいの。ていうか羨ましい! 彼氏と一緒に式に参加できるなんて!」

「お、大橋さん! だいたいまだ、わたしたち呼んでもらえるか分かんないよ……!」

「わたしたちって言うのは山岸さんとわたしのことですかぁ~? それとも山岸さんと彼氏のことを言ってるんですかぁ~?」

「もう! 大橋さん!」

「あはは!」


 大橋さんの明るい笑い声を最後に二人の会話は止まり、二人の視線がわたしに集中した。


「あれ……秋元さんが固まってる」


 大橋さんが「おーい」と言ってわたしの目の前で手をヒラヒラと振ってはっと我に返る。


「二人とも何を言っているの……? け、け、結婚なんて、そんな、まだ……」

「えー? だってぇ。最近急にお弁当を手作りしてきたり、お料理教室に通おうかなぁとか言い出したり……」

「それは、ただ単に、わたしもいい歳だし……料理くらい」

「そうです、いい歳なんです。秋元さんくらいが結婚をするにはちょうどいい歳だと思います」

「で、でもわたしたちまだ付き合って一年も経ってないし」

「そんなの関係ないですよぉ。結婚はタイミング。なんていうか……話にしか聞いてないけど、秋元さんたちってすごく落ち着いたお付き合いをしているなって印象があって。大人同士だなって感じがして」

「大人だなんて……わたしが、全然……」

「付き合って一年経ってないっていうのが不思議なくらい。長年付き合ってるカップルの雰囲気ありますよ」


 大橋さんの言っていることがいまいちピンとこないでいると隣で山岸さんが「それ分かるかも」と呟いた。


「恋愛って結構浮き沈みがあるものだけど、秋元さんは最初からずっとほのぼのしたお付き合いをしているようで、今も変わらず幸せそうです。幾多の苦難や倦怠期すらも乗り越えた先の幸せをとっくに手に入れているような落ち着きがあって……」

「苦難も倦怠期もまだ一度もないよ……?」

「それがすごいです。きっとこの先もないんだろうなって。もう、結婚を決めるカップルの域に達していると思います」

「い、意味が分かんないよ。二人とも!」


 その後もわたしの結婚話は盛り上がる一方で、昼休みのほとんどを後輩二人にいじられて過ごしたのだった。


 いつも通りの一日を過ごして、今日も定時に仕事を終えた。

 会社を出て駅に着いたとき、めずらしく平日に蒼生君から連絡が入った。電話に出ると今日少しでもいいから会えないかなというものだった。

 平日に蒼生君からのお誘い。はじめてのことだった。

 わたしはのん気に喜んで、軽い足取りで待ち合わせの場所へと向かった。



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