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光 -ひかり-  作者: 美波
第八章 少し先の未来
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第54話 訪問

 DVDをレンタルして蒼生君の家へと向かった。

 家に着くとお姉さんの車はなく、みずほちゃんと一緒に出掛けているようだった。


「ふふ、落書きが増えてる」


 久々に足を踏み入れた蒼生君の部屋は、相変わらず、一見すっきりと片付いているように見えるけど、床に散らばるオモチャや床の落書きは前に来た時より増えていた。


「……将来、この部屋はみずほに譲ろうと思ってるんだ」

「でももうすでに、半分くらいみずほちゃんの部屋になってない?」


 部屋の一角にはおままごと用の台所が置いてあってオモチャの食器や食材、ぬいぐるみなどが周りには散らばっていた。


「どうしておままごとセットごと蒼生君の部屋に?」

「ここでやりたいんだって」


 蒼生君は床に散らばるオモチャを拾ってその全部を部屋の隅に寄せると「座って」とクッションをお置いてわたしに座るように促した。


「ごめんね。下のテレビ、レコーダー壊れてて」

「ううん」


 蒼生君の部屋のレコーダー内臓テレビに借りてきたDVDをセットすると蒼生君もわたしの隣に座った。背中にはちょうどいい位置にベッドのマットレスがあたってもたれかかれる。


「どんな映画? 見るからにコメディだったけど」


 レンタルの際に手に取ったパDVDのパッケージも、映画のタイトルも中身を見なくてもコメディ映画だと分かるものだった。正直に見てみたかった映画を選んだわたし。今更だけど……もっと、恋人同士で鑑賞するような映画にすればよかったかなと少し後悔した。

 でもその映画は期待を裏切らない面白さで、二時間はあっという間でほとんど笑っていたような気がする。


「……ごめん。わたし一人で笑ってたよね……?」

「そんなことないよ。おもしろかったよ」

「……蒼生君は、どっちかというと泣くわたしを見て笑ってたでしょ」

「だって。笑いながら泣く人初めて見たから」


 そして「びっくりしちゃった」と言って思い出し笑い。だって……涙が出るほど面白かったんだもん。

 蒼生君は観終わったDVDをケースにしまいながら「まだ三時かぁ」と呟く。


「お姉さんとみずほちゃん遅いね」

「あぁ、そういえば。……会いたい?」

「え?」


 迷惑じゃなければ……会いたいけど。

 蒼生君はどう思ってるんだろう。わたしが自分の家族に会うことを。

 もしわたしが逆の立場だったら、自分の家族に会ってもらいたい気持ちはあるけど、会わせたら家族に何か余計なことを告げ口されるんじゃないかという心配で複雑な気分だ。思い切って聞いてみることにした。


「あの……ずっと思ってたんだけど」

「うん。なに?」

「蒼生君はわたしが自分の家族に会うことに抵抗ない……?」

「ないよ」


 あまりにもはっきりと即答されてどきっと胸が高鳴る。その瞬間色々な感情が入り乱れたけど、一番はやっぱり、嬉しい気持ち。さらに続けて「だって心ちゃんだもん」と言われて、その真意を確認するより前に感動が込み上げてきて言葉を失った。どういう意味? って聞きそびれてしまった。でもきっとがっかりするような意味ではないことは確か。目を合わせると口角を上げて優しく微笑む蒼生君を見てそう確信した。

 なんだか急にじっとしていられなくなって、お手洗いを借りようと立ち上がろうとした時だった。

 はずみでクッションの下から出てきた小さなオモチャのかけらに足を取られて、中腰のまま前にいる蒼生君に向かって倒れそうになった。


「わっ……わぁ!」


 まぬけな声と同時に結構な勢いで倒れこんだ。でも床に落ちることなく、蒼生君に抱きとめられる形で着地した。蒼生君の上にまたがるように乗って、彼の肩に手をつき身体を起こして、見下ろしながら出たわたしの第一声。


「ごめん……押し倒しちゃった……」


 あまりに突然の急接近に、いつもならパニックになるところなんだろうけどただ呆然とした。


「押し倒しちゃった、って……わざと?」

「まっ! まままままさか!!」

「ダメだよこんな昼間っから」

「だ、だから、ちが、違う……!」

「ごめん、冗談だよ」


 笑いながらそう言うと、次に「あ、帰ってきた」と言って目線を部屋の扉に移した。


「え……?」


 少しすると部屋の外から話し声とトントンと階段を上がってくる音が聞こえてきた。

 わたしは慌てて蒼生君から離れて立ち上がった。

 すると足音が部屋の前で止まると、部屋の扉が開いて女の子が勢いよく飛び出してきた。


「おにいちゃんただいまー!」


 飛び出してきたのはみずほちゃんだった。久々に見るみずほちゃんは、前に比べて背が伸びているのが一目見て分かった。


「こら、みずほ! だめだってば!」


 続いて部屋に入ってきたのは蒼生君のお姉さん。みずほちゃんとお姉さん。交互に見ると両方と目があった。


「おねえちゃんだれー?」

「こ、こら」


 お姉さんはみずほちゃんの手を引くと申し訳なさそうに「ごめんなさい」と謝った。


「邪魔、しちゃったかしら……?」

「い、いいえ!」


 みずほちゃんは蒼生君のところへ駆け寄ると「これ、ママにかってもらったの!」と、小さなイルカのぬいぐるみを自慢げに見せている。蒼生君は「よかったね」と笑顔で応えるとみずほちゃんの身体をわたしの方へと向けた。


「こころちゃんだよ。覚えてる?」

「こころちゃん?」

「あ。名前は知らなかったか。ええっと……一度、いつも行く公園で会ったことがあったよね?」

「んー?」


 みずほちゃんは身体をくねくねさせながら首をかしげている。一度だけ、ちらっと顔を合わせたことがあるだけだ。小さな子供が覚えていなくても仕方が無い。わたしは蒼生君に「いいの」と言ってみずほちゃんの前でしゃがんだ。


「はじめまして、みずほちゃん。わたしの名前はこころって言うの。よろしくね!」


 みずほちゃんはクリクリの目をさらに大きく見開いて「うん!」と元気良く頷いた。そして背を向けオモチャの台所の方へ駆けると振り向いた。


「こころちゃん。これ、いっしょにする?」


 どうやら、おままごとに誘われたみたい。嬉しくって、すぐに頷いてみずほちゃんの隣に行く。


「遊び方、おねえちゃんに教えてもらえる?」

「うん! いいよ!」


 無邪気な笑顔が本当に可愛くて、胸がきゅんきゅんしてしまう。

 小さな子供と遊ぶのは不慣れだけど、わたしなりに一生懸命みずほちゃんの相手をした。


 しばらくみずほちゃんと遊んでからリビングのある一階へと下りた。

 みずほちゃんはテレビの前で子供番組に夢中になって、わたしと蒼生君はダイニングテーブルに座るように勧められてお姉さんがお茶を出してくれた。大きな六人掛けのダイニングテーブルの端にはみずほちゃんの子供用のイスが置いてある。テーブルの真ん中には小さなボウルに浮いたお花が飾ってあってとってもオシャレ。部屋の中にもところどころお花が飾ってあるし、お母さんかお姉さんの趣味なのかなと予想した。


「ごめんなさいね。お客さんがいらしてることは靴見てすぐに分かったんだけど、わたし荷物持っててみずほを止められなくて……。それに、遊び相手にもなってもらって」

「いいえ、気にしないでください」


 隣には蒼生君、向かいにお姉さんが座った。


「心さんって、もしかして保母さん?」

「えっ! ち、違います」

「そうなの? てっきり……。子供の相手がとてもお上手だったから……」

「いえ……。わたしは兄弟がいませんし、みずほちゃんくらいの年齢のお子さんと接する機会も今まであまりなかったので何をどうしたらいいのか分からなくて……」

「嘘、信じられない」


 口に手を当てて驚いた様子のお姉さん。昨日も思ったけど、話し方などの雰囲気もしぐさもとても女性らしく上品な人だ。でもにこっと微笑むととても可愛らしくてどこか人懐っこく見えるその笑顔はとても親しみやすい。


「もう夕方になるけど、このあとどうするの?」


 お姉さんが蒼生君に向かって問いかける。


「決めてないけど、外出るよ」

「もしよかったら、ウチでご飯食べて行かない?」


 お姉さんはわたしに目線を移してそう言うとほほ笑んだ。

さすがにいきなりお茶だけでなくご飯までごちそうになるのは悪いと思ったわたしはやんわりと遠慮して、蒼生君もわたしの反応を見て断ってくれた。

 するとお姉さんはキッチンに目線を移した。


「近所のスーパーでタイムセールやってて買いすぎちゃったの。今日は両親もいないのに……」


 カウンターの上に大きな買い物袋が二つ乗っている。生ものは冷蔵庫にしまったあとだろうし……だとしたらすごい量だ。


「無理に、とは言わないんだけど……もし、よろしければ」


 そう言いながらお姉さんは再びわたしを見た。


「えっと……じゃあ、お言葉に甘えて……」


 二度誘われてさすがにもう一度断ることは出来なくて迷いながらもコクリと頷いた。



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