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光 -ひかり-  作者: 美波
第八章 少し先の未来
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第53話 初対面

 山岸さんと別れ蒼生君に電話をすると、彼は帰宅途中だった。

 わたしも電車に乗って、地元の駅に着いて少し待つと蒼生君がやってきた。


「ごめんね。急に連絡して」

「いいけど……珍しいね。心ちゃんが帰りこんなに遅いの」

「うん。山岸さんとご飯食べてたの」


 山岸さんと佐々木君のこととか、話したいことはいっぱいあったけど。


「どうしよう、結構時間も遅いし家まで送ろうか?」

「ううん! いいよ。お互い、まっすぐ自分の家に向かった方がお互いに一番早いし」

「そう?」

「ほんとにごめん。……明日、会えるのにね」


 明日の休日は一日デートの約束をしている。話はまた明日にしよう。

 今はただ、


「ただ、急に会いたくなっちゃって……」


 素直に今の気持ちを伝えると、突然蒼生君がわたしの手を取った。


「やっぱ送ってく」

「そ、そんな悪いよ! 疲れてるだろうし、お腹だって空いて……」

「俺は大丈夫。心ちゃんのほうこそ疲れてる?」

「全然!! まだ元気いっぱい!!」


 つい気合いの入りすぎた返事をしてしまう。だって、少しでも一緒にいてもらえるなら、疲れなんて一瞬で吹き飛んでしまうのだ。


「じゃあ、車にしよっと。一度ウチまできてもらっていい?」

「うん!」


 手を繋いで歩いていたら蒼生君の家につくのはあっという間で、ここから車に乗ったらほんの数十分で家に着いてしまう。寂しいけど明日も会えるのだからと言い聞かせて車に乗り込もうとしたその時。

 ガチャっとドアの開く音がして、足音が近づいてきた。そしてわたしたちがいる駐車場付近で足音が止まる。


「蒼生? いるの?」


 声がする方へ振り返ると、家の門扉を出たところからこちらを見据える女性の姿が見えた。


「あら? あなたは……?」


 夜、センサーライトの光だけじゃ最初は相手の顔ははっきりと見えなかった。少しずつこちらに近づいてきた女性と間近で顔を合わせると、突然のことに固まるわたしとは対照的に女性はにっこりとほほ笑んだ。

 部屋着姿で素顔の女性は、透明感のあるとても綺麗で柔らかな雰囲気の人だった。よく知る人物に、どことなく面影があるような……。


「姉ちゃん。どうしたの?」


 一歩前に出た蒼生君が女性のことを姉ちゃんと呼んだ。予想通りのことだけど……突然のお姉さんの登場にわたしの緊張は一気に高まった。


「お父さんたちが明日行く旅行先のナビ設定をしておいて欲しいって」

「また旅行?」

「そう、一泊だけどね。いいかげん、ナビの使い方くらい覚えてほしいわ」


 そして、また蒼生君のお姉さんと目が合って咄嗟にわたしは「はじめまして」と言って頭を下げた。「彼女は……」と蒼生君がわたしのことを言いかけたと同時に、お姉さんは「蒼生の彼女ね?」と蒼生君に質問しながらわたしと目を合わせた。

 わたしが頷いたのと蒼生君が「そうだよ」と答えたのも同時だった。

 お姉さんはわたしの正面に立つととても優しい笑顔を見せた。


「驚いたでしょう? 突然出てきてごめんなさい」

「いいえ」

「こちらこそはじめまして。蒼生の姉です」

「秋元……心です」


 まさか蒼生君のお姉さんと顔を合わせることになるとは思っていなかったわたしはいつもだったら軽いパニック状態になるところなのだけど、蒼生君のお姉さんのとても親しみやすい雰囲気にほっとしたのかさっきの緊張も一瞬でほぐれていた。


「送ってあげるんだよね?」

「そうだよ」


 お姉さんは「うん」と納得したように蒼生君に向かって頷くと「じゃあ、わたしは」と言って立ち去ろうとしたけど、すぐに振り向いてわたしに言った。


「今日はもう時間が遅いので……。また後日、次にここへ立ち寄った際はお茶でも飲んで行ってくださいね」

「は、はい!」


 お姉さんは口角を上げてにこやかにほほ笑むと二台先にある車に乗り込んだ。


「さ、行こうか」

「うん」


 わたしは蒼生君の車に乗り込んで、車が駐車場に出る時に駐車場に停まる他の車に目を向けると、車の中でナビの設定をしているだろうお姉さんがこちらに向かって手を振っていたので頭を下げて手を振りかえした。

 二人きりになった車内で出る話題は早速蒼生君のお姉さんの話。


「お姉さん、綺麗で優しそうな人だね」

「そうかな」

「うん。蒼生君とも、姉弟仲良さそうだったし」

「まぁ……悪くはないかな。もうお互い大人だしさ」

「昔はケンカしたってこと?」

「したよ。くだらないことでいっぱい」

「そうなのかぁ。でもいいなぁ。わたし一人っ子だから兄弟いるの憧れる」

「一人っ子の人はみんなそう言うよね」

「……今度寄った時はお茶飲んで行ってって言われちゃった」

「うん。ぜひ」

「えぇ!? い、いいの?」

「うん」


 迷う様子もなくあっさりとした返事。そんな簡単に……? そういえば前に蒼生君の家にお邪魔した時も抵抗のある様子はなかった。

 嬉しくて、つい頬が緩んでしまう。頬が緩んだついでに今日嬉しかった出来事をかいつまんで話した。


「今日ね、蒼生君のこと惚れ直す話を聞いちゃった」

「なに?」

「ごめーん。長くなっちゃうから明日詳しく話すけど……やっぱり、蒼生君って優しいなって思った」

「えぇ……優しくなんかないよ俺は」

「優しいよ」

「優しいのは、好きな人にだけだよ」

「え?」

「だからそういう勘違いをしてしまうだけで……って、好きな人にも優しくできてるのか分かんないけど。どう?」

「ど、どうって。わたし!? わたしのこと!?」

「他に誰がいる!」


 蒼生君はわざとらしく大きな溜息をついた。


「もー、やめようよぉ。今更気持ちの確認をするような会話は。俺たち両想いだよね?」

「うん。って、蒼生君だって今確認した」

「念のために」


 同時に吹き出してしまうような、他のひとからみたらきっとくだらなくて、でもわたしたちからしてみたらじゃれ合っているような幸せなひと時。

 相変わらずのわたしたちだけど……この空気がやっぱり好きだ。


 翌日のデート午後から。プランは特に何も決めず、待ち合わせの時間だけを決めて会った。

早速今日は何をしようかという話になって、そういえば映画を一緒に観に言ったことがないという話になる。映画館デートと言えば定番だもの。

 でも、お互いに今観たい映画が思い浮かばなくて、わたしが唯一思い浮かんだ観てみたいと思った映画は上映がすでに終わっている映画だった。


「それってもうレンタル出てる映画?」

「うん。去年の映画だからたぶんもう」

「じゃあ借りて、ウチで観ようか」

「……え?」


 ウチって……蒼生君のお家?


「で、でも突然お邪魔したら迷惑じゃ……」

「今日親は旅行行ってていないから」


 そういえば昨日、お姉さんとそんなような話をしていたような……。


「姉親子はいると思うけど」


 お姉さんに、今度立ち寄った際はお茶でも飲んでいってねと昨日言われたばかりだけど……まさかその日がこんなに早く来るとは思いもしなかった。

 迷いは一瞬。


「……うん。行ってもいい? みずほちゃんに、もう一度会いたいなって思っていたし」


 優しい雰囲気のあのお姉さんとも、また会ってみたいと思ったからわたしは笑顔で頷いた。



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