第5話 暗い空とわたし
合コンの翌日の土曜日。
予定もなく家でゴロゴロしていると、玄関から母親がわたしを呼ぶ声が聞こえてきた。
行ってみると修ちゃんの姿があった。
自分の部屋へと案内すると、ドサリと大きな音を立てて手に持っていた紙袋を床に下ろした。
「どうしたの?急に」
「これ、一緒に見ようと思って」
そう言って彼が床に広げたのはわたしたちの子供の頃の写真だった。
「部屋片付けてたら一番最後に出てきた」
「うわぁ、懐かしい」
手に取って昔の写真を眺めていると昔の記憶が蘇ってきて、懐かしく楽しいけどちょっぴり切ない気持になった。
アルバムを手に一ページずつゆっくりとめくりながら、昨日の合コンの話をしてみた。
「昨日さ、合コン行ったんだ」
「マジでか。変な奴にひっかかったりしてないだろうな」
「なんか、サクラさんに似てるって言われた」
「さくら?」
「胸どきトライアングルっていうアニメのキャラクターらしいんだけど……知ってる?」
「いや」
「胸どきとトライアングルの間の(星)は忘れちゃダメだって……」
「……は?」
「ちなみにサクラさんは脇役だけどなかなかの人気キャラで……」
「もういい」
修ちゃんは額に手をあてて深いため息を吐いたけどすぐに立てなおすと「変なのには気をつけろよ」と言った。
「変なのって。何? 心配してくれるの?」
「そりゃあ、心は妹みたいなもんだし」
「ほぉ~妹、か」
大丈夫だよ。
こんなのもう、慣れてるから。
だから、傷つくの分かってるけどもうちょっと質問、してみようかな。
「一度もさ、わたしのこと女として意識したことない?」
「どうした、急に」
「ほら。わたしって結構、セクシーでしょ? このうなじあたりが…」
「あはは! 何見せてんだよ! ないない、それは、ない」
「……笑いすぎ」
「妹を意識するなんて、ありえないだろ?」
「だよね~」
大丈夫だよ。
こんなの全然、大丈夫。
修ちゃんが帰った後、わたしも外へ出た。
ただ目的もなく街をブラブラと歩いてみた。
駅前に辿り着くと急に街の色が変わった。
人の数が増え、華やかになった。
オシャレをして歩く人々の色々な色が重なって耳に届くたくさんの声が賑やかだ。
しまった。
ものすごい地味な普段着姿で、気づいたらここまで歩いてきてしまった。
わたしを見ている人なんて誰もいないのに。
ひどくこの街の景色に浮いているような気がしてきて恥ずかしくなった。
自然と歩く足が止まると、無意識に空を見上げた。
こんな気持ちの時はスカッと晴れた快晴の空を拝みたいところだったけど、あいにくどんよりと曇っている。
自分の今の気持ちが、広い空に表れているみたいだった。
ポツリと一粒の水滴が自分の頬に落ちた。
一粒、二粒と。
わたしの頬を濡らしいく。
そうだ、今日の天気予報は午後からは雨の予報だった。
街は、今度は街行く人々が差す傘の色と模様でカラフルな色で彩られた。
傘を持たないわたしはやっぱり、この地に一人、浮いているような気がした。
俯いたら次第に増えてくる雨の粒がアルファルトを濡らし色を変え、次第に真っ黒な色になった。
どんよりと空は曇って視界は真っ黒で、なんだか今のわたしの心の中みたい。
「濡れちゃいますよ?」
背後からかけられた声と同時に、真っ黒な視界に鮮やかなブルーの色が混じった。
わたしの大好きな真っ青な空と同じ色をした傘が、わたしを覆うように影を作った。