第47話 焦るわたし
真っ青な空の下、澄んだ空気に真っ白な息が消えていく。
肌に触れる空気は痛みを感じるほどに冷たかったけど、二人に送られる視線、拍手、声援はとても温かかった。
いつもは純白のドレスに身を包んだ花嫁の友人にばかりに視線を送っていたけれど、この日は忙しく視線を交互に動かし教会の扉を開けて現れた新郎新婦、二人の幸せそうな笑顔を胸に焼き付けたいと思った。
それなのに、涙で視界が滲む。
様々な想いが優しく温かい空気に乗ってわたしの心に響き涙腺を刺激する。
かつて、幾度となく出席した結婚式で涙を流したことはあったけれど、この日ほど感慨深い日はない。
静かに涙を流した時、隣からハンカチが差し出された。
こんな時に、自分の今隣にいる人の存在を確認して、さらに涙が止まらなくなったんだ。
【 光-ひかり- 第七章 結婚式 】
修ちゃんと加奈さんの結婚式を一ヶ月後に控えたとある日、年末に家を出て新居で暮らしている修ちゃんと加奈さんが一緒に新年の挨拶と称してわたしの自宅へやってきた。
今日はお正月休み最終日だった。
「やっぱりどうしても、心ちゃんには出席して欲しいの」
加奈さんはわたしに結婚式に出席して欲しいと言った。
二人の結婚が決まった時、わたしは今ほど加奈さんと親しくはなかったし、出席するとしても新郎側か新婦側での出席かで二人を悩ませた。
どちらで出席しても、座席などの問題もあって、わたし一人が孤立することは目に見えていた。
わたしは修ちゃんの友人も加奈さんの友人もほとんど知らないし、知っているのは修ちゃんの家族だけだけど家族席に座るわけにはいかない。
だからわたしは結婚式へは参加せず二次会への参加だけにして、結婚祝いを別で贈ることに決めた。
「でも今から出席って……可能なんですか?」
「挙式だけなら大丈夫。ご祝儀ゼロで、挙式だけでいいから」
「挙式だけ、かぁ」
そっか、挙式だけなら披露宴の出し物の変更もないし自由席だろうし問題ないのかな。
「もし、よかったらなんだけど……無理にとは言わない」
「何言ってるんですか。喜んで出席します」
「ほんと!?」
わたしが頷くと加奈さんは興奮気味に「やった! オッケーだって」と隣に座る修ちゃんに喜びを露わにした。
修ちゃんもわたしに「ほんとにいいの?」と確認し、同じように「うん」と言って頷いた。
「一応名前を式場に知らせておかなきゃいけないんだけど。心さ新郎側、新婦側どっちがいい?」
「どっちでもいいよ」
わたしのどっちでもいいの言葉に「だよね~!」と言って二人が同時に笑い出した。
だって本当にどっちでもいいんだもん。
二人は目を合わせると、同時にわたしへと視線を移した。
「それで、提案があるんだけど」
「提案?」
「心ちゃんの彼も、一緒にどう?」
「はい?」
加奈さんの言葉にただ唖然とした。
ど、どういうこと……?
一緒にって、鈴村さんも一緒に二人の挙式に参加するってこと?
「一緒にって……だって、会ったこともないのに?」
「会おうよ! 会ってみたいし。まだ一ヶ月あるから」
「あ、でも……」
「同じようにね、何組かのカップルを挙式に誘ってるの。デートだと思って気軽に参加してもらえば」
修ちゃんに視線を向けると「彼の都合もあると思うから無理なら無理でいいよ」と言った。
「でも、会ってみたいのは事実だからそこは都合つけてよ」
「ちょっと、修司? 心ちゃんの彼氏に失礼なことしないでよ?」
「失礼なことってなんだよ」
「保護者的な?いつものお兄ちゃん気取り?」
「俺の目は厳しいぞ」
「何言ってんだか!」
加奈さんが「心ちゃんが選んだ人なんだからいい人に違いないよね~」とわたしに向けて言うと、横から修ちゃんが「だから心配なんだよ、心は昔から色んなところが抜けてるんだ」と言った。
む……失礼な。
「ま、とりあえず心ちゃん。彼にそれとなーく伝えておいて?」
「はい、わかりました……」
「一緒にさ、挙式とか参加してみるとイメージ沸くかもしんないし」
「イメージ?」
「今後の参考に」
「……えっ!」
こ、今後の参考って……そ…それは。
「この日を機に二人の結婚の意識が高まるかもしれないよ?」
「ま、まだわたしたちはそんな……!」
「でも心もう、結構いい歳だぞ?」
「分かってるよ!」
結局この日は最後、二人に散々からかわれて終わった。
夜になってだいぶ気分が落ち着いてきたところで、鈴村さんに電話をしようと思った。
今日のことを話そうと思って。
修ちゃんと加奈さんの話は何度かしたことはあるから、すぐに二人のことは理解はしてくれると思う。
あとはわたしが彼らの挙式に参加することと、あと一緒に参加しないかってことと……その前に一度四人で会わないかって話をした方がいいのかな。
通話ボタンを押した携帯から呼び出し音が鳴る。
でも一緒に挙式に参加となると、やっぱ意識しちゃうのかな。
一緒に他人の挙式に参加することも式場に行くこともなかなかないことだし……
誘ったりなんかしたらわたしが何か結婚を急いでるみたいに思われちゃう!?
『もしもし?』
そんなつもりないのに。
あ、どうしよう。
なんだか頭が混乱して……
「一緒に結婚式場に行かない!?」
『……え?』
話の過程を無視していきなり本題。
焦ってる時のわたしはいつもダメだ。