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光 -ひかり-  作者: 美波
第六章 長い夜
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第41話 やっと言えた

「本当にいいんですか?」

「うん、いいの。修司は心ちゃんと帰って」


 遅い時間まで修ちゃんも含めた4人で飲んで、店を出た時だった。

 加奈さんが時間も遅いから修ちゃんにはわたしと帰るようにと言ったんだ。

 早瀬さんが「じゃあしょうがないな、俺が送って行ってやるよ」と言うと「いいよ。タクシーで帰るから」と言って加奈さんは早瀬さんの申し出を断った。


「タクシーなら……安全ですね」

「ちょっと待って、心ちゃん。今のって俺が安全じゃないってこと!?」

「え? ち、違いますよ! そんなつもり全然……」


 わたしはただ、タクシーなら自宅前まで送り届けてくれるから安心かなって意味で言っただけだった。


「そっか分かった。気をつけて帰れよ」

「うん」


 修ちゃんは加奈さんと早瀬さんに「またな~」と挨拶を済ませ背を向け、わたしも「おやすみなさい」と言って軽く頭を下げて修ちゃんのあとを追った。


 修ちゃんと並んで歩く間、同じことがずっと頭の中をぐるぐるとまわっていた。

 どうやって好きな人が出来たよって報告しようかって。


「さっきさ」

「ん?」

「心の話になるとなんか加奈と早瀬がずっとニヤニヤしていたような気がするんだけど……何で?」

「えーっと」

 

 修ちゃんの視線を感じて同時に「何?」という一言が耳に響いた。

 拳を握りしめてよし、言おうと心に決めた。


「好きな人、彼氏が出来た」

「やっぱ早瀬!?」

「えっ!! 違うよ! ど、どうして!?」

「え、違うの?」

「違うよ……」

「なんだ……違うんだ。今日はその知らせかと思って来たのに」


どういうことかと問いかけると、修ちゃんはわたしが以前恋に前向きに頑張ろうと思っていると話した時、その相手を早瀬さんだと思いこんだらしく、今日わたしたちが会うと聞いてその場に呼ばれててっきり、わたしが早瀬さんと付き合うことになりましたという報告をもらうものだと思っていたらしい。


「なんだよぉ~せっかく覚悟してきたのに」

「覚悟って」

「いや、ちゃんと笑顔で心と早瀬を祝福してあげようと……」

「間違ってるから!」

「……」


 修ちゃんは空を仰ぐようにして「あはは」と笑った。

 わたしも俯いて同じように笑った。


「どんな奴?」

「いい人だよ」

「いい人って。もっと他にないのかよ」

「優しくて……いい人!」

「……おまえな」


 どんな人って言われてもとても一言二言では言い表せないよ。


「ま、良かったな」

「妬かないでね?」

「なんだよそれ」

「加奈さんが言ってた。妬くと思うけど無視しちゃっていいからねって」

「……」


 修ちゃんは眉間にシワを寄せ「アイツ……」と呟いた。

 そんな姿にも笑みがこぼれてしまう。


「だって心とはずっと小さい時から一緒にいて、もう兄妹みたいなもんだし」

「うん、そうだったね」


 もう、大丈夫だった。

 妹って言われても、前みたいに胸がぎゅっと詰まって苦しく感じることもなかった。


「心も、俺が結婚するってなったとき」

「最初は悲しかったよ」

「……え?」

「大好きなお兄ちゃんが嫁に行ってしまうようで……」

「それ、なんかおかしいぞ」


 お互いにクスクスと肩を揺らして笑い合うと、その後しばらく無言で夜道を歩いた。

 自然と先に言葉を発したのはわたしだった。


「修ちゃん」

「ん?」

「結婚、おめでとう」

「なんだよ、改まって」

「悲しかったなんて言ってごめん。今は、嬉しい。ホントだよ!」


 もう一度「結婚おめでとう」と伝えると修ちゃんは少し照れくさそうに「ありがとう」と言った。


「ねぇ修ちゃん」

「ん~?」

「わたし、修ちゃんのんこと好きだったよ」

「知ってる」

「あはは、バレてたか~」


 修ちゃんは「心の初恋だけは絶対に俺だ」と言って胸を張った。

 初恋っていつの話をしているんだろう。

 おそらく、幼いころのことを指しているのだと思う。

 つい最近までだったなんて、夢にも思わないよね。

 でもそれでもいい、伝えておきたかった。好きだったってこと。


「初恋は修ちゃんだった。本当に好きだった」

「……なんだよ、あんまり言うと照れるじゃん」

「もっと言ってやろうかな」

「やめろって」


 初恋は修ちゃんだった。

 でも二度目の恋は──



 修ちゃんと一緒にゆっくりと酔いを覚ましながら歩いて、自宅に着く頃には12時をまわっていた。

 本当は今すぐに声が聞きたいなって思ったけど、こんなに遅い時間だし迷惑かなって思ってメールを一通送った。

 今家に着いたよっていう簡単な文章におやすみなさいの言葉を添えて。


 するとメールを送った数秒後に部屋に携帯の音が鳴り響いて、わたしは携帯に飛びついた。

 今、わたしが大好きな人からの着信だったから。



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