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光 -ひかり-  作者: 美波
第五章 聖なる夜に
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第37話 忘れ物

 ジュエリーショップを出ると細かな雪が空を舞っていた。

 地面に落ちたら一瞬で消える細かく儚い雪の結晶。傘を差すまでもなくすぐに止んでしまいそうだ。ホワイトクリスマスには程遠い。


「「寒い……」」


 同時に口から出る言葉は同じ。目を合わせて笑い合った。

 時刻は午後八時過ぎ。

 近くのファッションビルに入っている混みあうレストランに並んで遅めの夕食を済ませ、外に出ればもういい時間。


「少しブラブラ歩いて帰ろうか」

 

 あっという間の一日だった。もう終わっちゃうのかぁ。

 わたし、何か肝心なことを忘れている気がする……なんだっけ?

 かじかむ手を、胸の前で無意識にすり合わせて空を見上げていた。


「手、つなごっか」

「えっ!?」


 大げさに驚いて隣を見上げた。……声、大きすぎだよ。

 わたしの反応を伺う試すようないたずらな笑みに思わず……


「いいんですか?」

「それは何の確認なのかな」

「さ、さぁ……」


 胸の前で行き場を失っていた片方の手が鈴村さんの手に包まれた。

 お互いに冷たくなっている手も、触れ合った部分からじわじわと温かくなってくる。でもほっとする温かさは一瞬。今日もすぐに手汗が全開。あ、熱い……。

 でも……ほらやっぱり。隣を見上げると、手汗なんかを気にして不安になるわたしの気持ちを一気に吹き飛ばしてしまうような、包み込んでくれるような温かな雰囲気と目元。 

 「行こっか」とくすぐったそうに目を細めて笑う笑顔に胸の奥がきゅうってなる。


「あ、爪が可愛い」

「指だけでも、クリスマス仕様にしようと思って」

「ふーん」

「大橋さんに、手がボロボロだって指摘されて……」

「ははっ」

「……笑われた」

「ごめん。でも後輩にそこまではっきり言われちゃうとこ、らしいなって思って」

「先輩の威厳ゼロ。どうしたらいいですか?」

「諦めたら?」

「えっ!」


 弾む会話、好きな人のとなり。

 楽しくて、なんて居心地がいいんだろう。

 今の時期だけ街頭に飾られるイルミネーションの明かりが、今日は一層明るく眩しく感じる。


「ボロボロでカサカサだって言われて……繋いだときに手がガサガサしてたら嫌かなって……」

「別に……」

「でも滑らかな手の方が繋いでて気持ちがいいもの! 絶対! だからネイルと一緒にオイルマッサージも受けて……」

「……」

「あー……鈴村さんの方がきれいな手してる」


 つないだ手をまじまじと見る。

 繋いだ感触もカサついていないし、わたしの指みたいに傷もついてない。


「ありがとう」

「え?」

「手を繋いだときのことを考えて、色々気を遣ってくれたんだね」

「そ、それは……!」


 つ、繋ぐ気満々の発言。

 どんだけ気合入れてんだ!? って……。は、恥ずかしいよーう……。


「手がボロボロとかカサカサとか……正直あまり気にならないけど、そうやって色々頑張ってくれてるんだって思うと嬉しい」


 照れくさくて、顔が上げられない。

 でも……喜んでもらえたなら、よかったのかな。少しずつ、わたしにも喜びが込み上げてくる。


「なんか申し訳ないな~。俺も何か出来ること……」

「わ、わたしの頑張りを無駄にしないためにも……こうやって、ときどき……」

「んー? どんどん声が小さくなって聞こえない」

「ときどき手を繋いでください! よろしくお願いします!」


 誰かに向かうわけではなく、思い切り前方に向けて頭を下げる。

 なにやってるんだろう……自分。

 せっかく今のところいい感じできているのに……


「……ぶっ!」


 隣で大きく吹き出す音。

 ほら! もう、台無し!!


「笑わないでよ~……。こっちはすごく真剣に……」

「もう……心ちゃんのその、なんていうのかな。俺の中の色々なものをがっつり鷲掴みにされるような……」

「天然なんです!」

「自分で天然とか言わないよ!」

「……わたしのどこが天然なんですかぁ? よく人から言われるんだけど……」

「はぁ!?」


 支離滅裂。もう、しゃべってて自分が何を言っているのかが分からなくなってきた……。自滅。

 でも隣で楽しそうに笑う、声が、顔が、空気が、全部。

 全部好きだから、恥ずかしいよって泣きそうに身体を丸めながらも、最後はにんまり。嬉しくて口元はにやけてしまうのだ。

 「そろそろ帰らなきゃね」の言葉に、空いた方の手をぎゅっと握りしめた。

 手にはプレゼントしてもらった宝物と……


「……あぁっ!」

「な、どうした!?」

「ちょっとだけ、もうちょっとだけ時間いいかな……!?」

「俺は別にいいけど……」


 そうだ、大事なことを一つ忘れていた。

 久々のデートに浮かれて、わたしは、自分が密かに用意していたプレゼントを渡すのを忘れていた……。

 初心者だから、許して……。



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