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光 -ひかり-  作者: 美波
第五章 聖なる夜に
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第36話 たからもの

 久々に聞いたその声に、開口一番「お久しぶりです!」と声を弾ませた。


『久しぶり。ごめんね、連絡ずっと出来なくて』

「いいえ、こっちこそ!」

『いいことでもあった? 何か話したそうな感じだ。なに?』

「へへ」


 声だけで伝わっちゃう喜びににんまり。

 わたしは数日間にあった同級生との再会の件、昔の友達の件を伝えた。

 人に自分の言いたいことを伝えるのは昔から苦手だった。

 下手で分かりにくい説明でも、電話越しに優しい笑顔で頷いてくれる鈴村さんの顔が思い浮かんで、喜ばせようと興奮する子供みたいに一生懸命に伝えた。


『そっか、それは同窓会が楽しみだね』

「うん!」

『同級生にばったり会って、しかもその彼が昔の友達と結婚するって話を聞いて……うんうん。そりゃスゴイ』

「いつどうやってどのタイミングで恋人同士になったのかとか池田君は何も教えてくれなかったから、河野さん本人にいっぱい聞こうと思って」

『女の子ってそういう話好きだよね~』


 好き……なのかな。うん、好きだけど。

 でも以前はあまり積極的に聞いたりするほうじゃなかったかもしれない。「心ちゃんは?」って聞かれれば答えることが何もなかったから。

 電話の向こうで鈴村さんが小さく吹き出した。


『でも、同級生の件よりも手伝って欲しいって言われて断れない心ちゃん人の良さがよーく伝わってくる話だったよ』

「……うっ」


 痛いところをつかれてしまって何も言い返せない。


『あ。明日なんだけど』

「は、はい!」


 ドキンと大きく胸が高鳴った。  


『ごめんね、もっと早いうちから色々話したり計画立てたりできればよかったんだけど……気づいたら明日はもうクリスマスイブだよ』

「いいんです!」


 忙しいのは十分に分かっているもの。

 でもちゃんと意識して気づいてくれてたんだ……忘れちゃってるかなぁと少し思っていたことは内緒。


『遠慮しないでどんどん言ってくれていいんだよ? じゃないと俺、さらっとクリスマスでもなんでもスルーして……』

「いいんです」


 そういうところが、好きだもん。

 恋愛経験ゼロのわたしでも変に気負うことなく、安心してお付き合いをしていける。

 今まで二十八年間一人だったんだもん。大人になって、今は仕事もしていて……急に恋一色の日々になってもきっと混乱して疲れちゃう。

 でもなぜだか今年の冬は……


「でも明日は……会いたい」

『うん』


 わたしにだって、他の女の子たちのようにイベントを意識して浮かれることがあったっていいよね?


『明日は雪が降るらしいよ』

「えっ!」

『あれ、喜んでる? 積もったら大変だよ?』

「でも、イブに雪とか!」

『……』


 電話越しに温度差を感じる。

 でもライトアップされた街に深々とした雪が降るどこか幻想的な景色を想像したら興奮してしまった。


『パラつく程度みたいだけどね』

「なんだぁ……」

『落ち込んでる~? 大雪になったら電車も止まるし外も歩けないし会えないよ』

「鈴村さんに乙女ゴコロは分からないんです」

『……言うね』

「ご、ごめん」

『でも明日は何があっても絶対に会いに行く』

「え……」

『心ちゃんが会いたいって言ってくれたから』


 今が電話でよかった。

 喜びに興奮して急激に上がる体温で、顔は真っ赤、冬なのに脇のあたりが汗ばんできた。


『じゃあ、また明日』

「うん、明日」


 電話を切ってふぅと息を吐いた。パタパタと手で自分の熱くなっている顔を仰ぐ。

 ……明日が楽しみだな。

 そうだ、準備しておこう。

 クローゼットを開けて洋服を引っ張り出して鏡とにらめっこが、深夜まで続いた。



 クリスマスイブ当日、午後七時。

 約束の時間に少し遅れて鈴村さんがやってきた。

 お互いに通勤は電車。待ち合わせは最寄駅。今日はいつもに増して人通りが多い。

 鈴村さんと仕事帰りに会うことはほとんどなかったから、スーツ姿は未だに新鮮で今は冬だからコートも着ていて……


「ちょっといい!?」

「えっ!」


 久々に会う好きな人の姿を見て感動している暇もなく手を引かれた。

 どこへ!?


 連れてこられたのは、女性なら誰もが憧れるジュエリーブランドのお店。ターゲットは二十代から三十代。ちょうどわたしたちくらいの年齢層のカップルが多く店内にいるように見えた。

 店の外から店内をのぞくことは多かったけど、中に入ったのははじめてだ。


「ここ八時で終わっちゃうんだって」

「……はい?」

「ごめんね、プレゼント用意するのすっかり忘れてた」

「……ふふっ」


 思わず、吹き出してしまった。

 忘れてた、って……正直すぎる。

 プレゼントなんか、いいのに。ついこの間まで大橋さんに「クリスマスまであと一ヶ月なのにいいんですか」と言われて「慣れてるから」と胸を張っていた自分。

 一緒に過ごす人がいること自体信じられないことだ。


「リビングに放置してあった雑誌を見てここがいいかなって」

「雑誌って、お姉さんのだ?」

「うん。一人でこようと思ったけど色々予定外の仕事……いいや、言い訳は。どんなのが好き?」

「えっと……あの、いいの? そんな気を遣わなくても……」

「まだ遠慮する? あ、店員さん呼ぶね」


 綺麗なアクセサリーを身にまとった女性の店員さんがやってきた。

 どんなものが好みかと聞かれ……

 アクセサリーは、一度買えば同じものを繰り返し長年使っている自分。

 流行とかも……まだまだ疎いし。

 とりあえず、


「あの……オススメのものを見せてもらえますか」


 これに限る。

 閉店時間ぎりぎりまで悩んで決めたアクセサリー。

 「こっちは?」「どっちがいいと思う?」。何度も鈴村さんに聞いた。

 割と真剣に見て考えてくれて、自分の好みなんかどうでもよくなって、とにかく彼の意見を第一に参考にした。

 これだと決めたアクセサリーが、可愛く包装されて自分の手の中にきたときは、どきどきとした胸のときめきと、胸いっぱいの感動。

 大げさかもしれないけど、ここが人前じゃなかったら飛び跳ねて喜んでしまったかもしれない。

 嬉しいな……。一緒に選んで決めて、しかもはじめて好きな人から買ってもらったクリスマスプレゼント。


 この人に出会えた奇跡に勝るものは何もないけど、宝物がまた一つ出来た。



長らく更新をお休みしていて申し訳ございませんでした。

急にスイッチが入ったので更新してみました。


ちょっと早めのクリスマスのお話。

プレゼント(アクセサリー)の詳細などは次話にて。

ほのぼのとした二人らしいクリスマス雰囲気のお話になっていると思います。

どうぞよろしくお願い致します。



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