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光 -ひかり-  作者: 美波
第四章 ねがい
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第29話 星空

 一番にランチの場所にと選んだその場所は、わたしが以前、第一話だけを見て感動してしまったドラマのロケ地に使われた定食屋さんだった。

 ドラマではモクモクとタバコの煙がこもっていて、お客さんもおじさんばかりのオヤジ臭い定食屋さんだった。

 でも実際のお店は、定食屋と言っても実際は若い女性も気軽に入れるヘルシーな女性メニューから男性が満足できるメニューも取りそろえた清潔なお店だった。


「ドラマって見ますか?」

「ドラマ? うーん、あまり見ないかな」


 テレビで紹介されたお店だということもあって混雑していた。

 早めにお店に行ったけどわたしたちの前に三組ほど待っている人たちがいて、わたしたちのうしろにはさらに行列が出来ていた。

 それでも列の中で待っている間も鈴村さんと会話をしていると、待っている時間は退屈もしなくて楽しかった。


「心ちゃんは見るの? ここドラマで使われた場所なんだっけ?」

「えーっと、第一話だけですが…」

「なにそれ」

「で、でも第一話でこのお店はメインの二人が運命的な出会いを果たした場所なの……たぶん」

「たぶんって」

「だ、だって第一話しか見ていないからその後どうなったかはよく……」

「あはは、そうだよね、そうなるよね」


 わたしはなかなか敬語が抜けきらずにいた。

 ものまねの罰ゲームをしなければいけない数は完全に超えていたし、鈴村さんは分かっているだろうけど何も言わなかった。


「鈴村さんってあのドラマに出ている、名前忘れちゃったんだけど主人公の弟に顔が似てる」

「えー? 顔?」

「大橋さんも言ってた、似てるって」

「誰だろう、気になるな。名前思い出してよ」

「あの、若い人ですよ」

「……いっぱいいるよ、若い人なんて」

「……」


 何も言えなかった。

 必死にあの弟の名前を思い出そうとしたけど、顔は思い出せるのに名前がなかなか出てこなかった。

 そんなわたしに鈴村さんが「あ、でも俺名前聞いてもわかんないかも」と言ってくれて、帰ったら調べようと思って考えることを止める。


「第一話しか見てないんだけど、すごく印象的だったと言うか……」

「このお店が?」

「いや、出会いが」

「出会い?」

「失恋した主人公が、ここで彼に出会うの。あ~彼女はこの人とこの後幸せになるんだなぁって思って」

「そう……」

「あ、全然意味わかんないよね……」

「そんなこと」


 あの時はきっと、自分とこのドラマの主人公を重ねて見てしまっていたから。

 だからこんなささいなシーンでも、とても印象的で心に残った。

 ここはあのドラマの二人の運命の出会いの場所なんだ。


「どうする? 今、二人が幸せになってなかったら」

「えっ」

「もしかしたら、全然別の人と結ばれてるかもよ?」

「それはあるかも……でも、最終的には二人はくっつくと思うよ? あのドラマのメインだし」

「そっか」


お店の中から店員さんが出てきてメニューを手渡してくれた。

 気がつけば、次にお店に入れる順番まで来ていた。


「でもやっぱり、一番はテレビで見たこのお店のメニューが気になって!」

「すごいね、たくさんあるね」

「メニュー選ぶ時、迷うタイプ?」

「うーん、そうだね。……あ、決まった」

「早いよ!」


 笑っていると店員さんに「お待たせしました」と声をかけられ中へと入る。

 ドラマで見た場所とは完全に別の場所のようだったけど、メニューを見ていたらもともとここは人気のお店だったみたいだしドラマのことよりもご飯のことが気になっていた。


 席に着くとお水を持ってきた若いお兄さんに、鈴村さんが「お兄さん清水純に似てますね」と話しかけられ思い出した。

 そうだ、あのドラマの主人公の弟役の俳優さんの名前だ。

でも鈴村さんは名前を聞いても分からなかったみたいで「それは誰ですか ?」と真顔で聞き返している。

 わたしも芸能関係に詳しくないから他人のこと言えないけど、笑ってしまった。

 注文を済ませ店員のお兄さんが去った後、わたしはバッグから携帯を取り出した。


「ちょっと待って。携帯で探せば出てくるかも」


 清水純が分からない鈴村さんに、インターネットで検索して顔を見せてあげようと思った。

 でも……

 はりきって携帯を手にしてみたのはいいものの、携帯を電話とメールと目ざまし以外必要最低限使うことがないわたしは操作がわからなくて固まった。


「えっと、どうやってやるんだっけ……?」

「俺もよく知らない……接続ボタンみたいなのがあったよね?」


 おそるおそる鈴村さんを見ると目を合わせてお互いに自然と笑みがこぼれて大爆笑だった。


「電子機器とか、鈴村さんってこういうの詳しいんじゃないの?」

「うーん、携帯屋じゃないから使い方は詳しくないよ。携帯なんてあんま使わないしさ」

「一緒! 使うのは電話とメールと目覚ましくらいかな」

「目覚まし使うんだ。心ちゃんに負けたー」

「どうやって起きてるの?」

「据え置き型の目覚まし時計だけど」

「……」

「……なんで笑うの?」


 毎日眠る前に目覚ましをセットしているのかな、って思ったら失礼過ぎるけど可笑しくて笑ってしまった。

 それから十年以上も前に大学の入学祝いに親戚からもらった目覚ましを未だに愛用しているという話になった。

 目覚まし時計の話からお互いの大学生活の話になり、話に夢中になっている間に料理が届いて会話をしながらご飯を食べているとそれだけで結構な時間が過ぎていた。

 たくさんの行列が出来ていたことを思い出すとあまり長居するのは悪いなと思っていたら同じ考えだったのか鈴村さんが「出ようか」と言って頷くとお店をあとにした。



 車に戻っておいしかったねとお互いにご飯の感想を話してしばらく今行ったお店の話をしているうちに車は発信して「次はどこに行こう」という話になった。


「心ちゃんが、行きたいって言ってた大きな公園ってたぶん夕方行くと混むよね」


 その場所は以前雑誌で読んだクリスマスイルミネーション特集で、夜になると公園全体がライトアップされて幻想的な雰囲気の世界に変わるという公園だった。

 恋人同士だけでなく家族連れもたくさん訪れて賑わうというその場所は高速を使って車で行けばそう遠くはない場所だった。


「あそこって店とかも色々あったよね、たしか」

「はい。公園って言っても小さなアトラクションもあるし……お店もおみやげ屋さんもたくさんあるみたい」

「早めに行ってのんびりしてようか」


 目的地もすぐに決まり向かう途中の高速のサービスエリアでお茶をしたり、何かを買う訳でもなかったけどおみやげを見たりして楽しんだ。

 交通事故渋滞に巻き込まれたりして予想外のかなりの足止めを食らったけれど、彼と一緒だと苦痛に感じることも退屈に感じることもなかった。

 鈴村さんも渋滞してもイライラする様子もまったくなかった。

 疲れてないか、眠たくないかと声をかけると「話相手がいれば大丈夫」と穏やかに言った。


 渋滞を抜ける頃、陽はもう沈みかけていて赤色に染まろうとしていた。

 さらに目的地に着く頃にはイルミネーションを目的で訪れる多くの車に再び駐車場に入るまでに渋滞に巻き込まれる。

 「ちょうどいい時間に着いた! 計算通りだね」と互いに無理矢理前向きにテンションを上げていたらそれだけでも楽しかった。


 車を降りた時、空には星空が広がっていてまわりにはこの公園の施設以外特になにもないような静かな場所だったから、いつも自分が見上げる星空に比べて星の数が多いように感じた。


 空を見上げていたら隣から「星、詳しいの?」と言う声が聞こえてきて、首を横に振って「分かる星座と言ったらオリオン座くらいかな」と言って指を指した。


 笑顔を向けると、同じようにほほ笑んだ彼の表情が目に入って首元にしっかりと巻きつけたマフラーで寒さをしのぐようにして口元まで隠した。

 本当は寒さなんてほとんど感じなくて頬が赤くなる感覚だけが脳に伝わってきたのだけど、隠してももう外は暗いから分かんないかな。


 冬の寒空の下。

 陽が暮れて風も少しずつ強くなってきた。

 でも冬の綺麗な星空を見たら、なぜだか胸がドキドキとしてこの後何か楽しいことが待ち構えているみたいに、ワクワクした気持ちに足取りが軽くなって……なんだか子供みたいだな、と思った。


 子供の頃はよく、学校の授業で覚えた大きくて一目見てすぐにわかるオリオン座を探したものだった。

 気がついたら夢を見て心を踊らされていたあの頃の夢を自然と一人語り出していた。


 駐車場から少し離れたライトアップされた公園へ向かう途中、わたしは一人子供の頃に見た数々の叶わなかった夢の話をした。



遅くなりましたが、新年あけましておめでとうございます!

今日からまた更新がんばります。

本年もどうぞよろしくおねがいします。

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