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光 -ひかり-  作者: 美波
第三章 なみだ
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第18話 寝不足のワケは

 翌朝、制服に着替えてロッカーを出ると大橋さんに腕を引かれ女子トイレに連れ込まれた。

 お昼まで待てなかったようだ。


「昨日はありがとうございました!」

「あ、ううん。どうだった? 楽しめた?」

「すっごく! いい人達でした~!!」

「そっか、よかったぁ」


「支払いって本当によかったんですかね?」

「うん、早瀬さんが払ってくれたみたいで早瀬さんに昨日夜メールしたらね、気にしないでって。鈴村さんから徴収するって」

「あははっ」


 大橋さんはこの日も朝からエンジン全開の様子で明るかった。

 わたしは昨日、ほとんど眠れなく寝不足であまり元気が出なかった。


「勝手に理系男子ってもっと真面目ーで物静かな人なのかなって思いこんでたけど二人とも明るかったし」

「言ったじゃん、早瀬さんは明るくて楽しい人だよって」


「しかも二人とも外見も結構イケてません?」

「顔? 顔は、うん。あー、わたしはあんまよくわかんないな……他人のことどうこう言える顔してな」


 わたしが話している途中で大橋さんが割り込むように「鈴村さんって清水純(しみず じゅん)君に似てませんか?」と言った。


「だ、誰? 清水?」

「えぇ!? 知らないんですか!?」

「……テレビの人だね?」

「もぉ~秋元さーん!!」


 大橋さんに肩を揺すられる。

 この間一瞬だけ一生懸命勉強したんだけどな。

 最近またサボっちゃったからな……。


「今大人気の若手俳優ですよ! 結構ドラマとか出てますよ?」

「たとえば?」

「あ。今、月9に出てますよ?」

「……あっ!!!」


 あの初回放送を観て涙したドラマだ。思い出した。


「もしかして主人公の弟!?」

「そう! そうです! カッコイイんだけど、笑うとキュートですよね彼」


 言われてみれば、似ているような気がしてきた。

 ……。

 テレビの中でキラキラと輝いているタレントさんに似ている彼と自分……

 その事実に急にあまり高くなかったテンションがさらに下がってヘコんだ。


「秋元さんにお願いがあるんですけど……」

「ん? なに?」

「早瀬さんの連絡先教えてもらってもいいですか? 昨日聞きそびれちゃったし、あ、もちろん本人に断りをいれてからでいいです!」

「えっと……早瀬さんだけでいいの? 鈴村さんは」

「そんな無粋なこと、できませんよ!」

「……はい?」


 大橋さんは「わたしも頑張ろーっと!」と言って先に女子トイレを出て行った。

 一人静かな女子トイレに残されたわたしの胸ポケットに入れた携帯の振動音が響いた。

 ディスプレイに表示された名前を見て頬が緩んで思わず笑みがこぼれた。


 わたしの寝不足の原因、鈴村さんからのメールだった。

 昨日寝る前に鈴村さんから今日はありがとうってこととおやすみなさいという簡単な内容のメールが届いた。

 彼から届いたはじめてのメールに嬉しくて感動して、ただ一言一行だけ簡単な返信すればよかっただけなのに、その一行のメールを作るのに大変な時間がかかってしまった。

 気がつけば深夜になって、いつの間にか眠ってしまい目が覚めたら朝だった。

 今朝慌てて返信をして、その返事が今返って来た。


 おはようって言葉と、今日も一日頑張ろうねというとても簡素な内容なメールだったけれど。


 それでも、このメール一通でなんだか今日一日頑張れそうな気持になるから不思議だ。


 寝不足なんて一気に吹き飛んだ。



 仕事を終えた帰り道で、歩きながら何度も携帯に着信やメールの受信をしていないかチェックをしてしまう。

 今まで携帯なんて必要最低限、見ることも触ることもなかったのに。

 定時で帰れるわたしと違って鈴村さんはまだお仕事中だよね……。

 そんなことをぼーっと思い浮かべながら日が沈んで暗くなったいつもの帰宅の道を歩いていた。


「心~!」


 背後から聞こえる声に振り返ると、修ちゃんが手を上げてこちらに向かって走ってきた。


「珍しい! 今帰り? 早いね?」

「心はいっつもこんな早いの? いいよな~羨ましい」


 家が隣同士で、通勤に使う駅も電車も同じだったけれど、通勤時に会ったことはたぶん数年間の間で数えられるほどしかなかった。

 お互いの自宅まで約あと五分くらいの道のりだったけど、久々に並んで歩いた。


「修ちゃん家出る日、もう決まったの?」

「あーもう、別にいつでもいいんだけどいつにしよう」

「楽しみだね?」

「寂しいだろ」

「べっつに~」


 わたしたちの笑い声が人通りの少ない静かな歩道と夜空に響いた。

 そういえば、ちゃんと「おめでとう」ってまだ一度も言えていなかった。


「修ちゃんあのさ」

「そういえば心さ」


「……え?」


 小さかったわたしの声は同時に発せられた修ちゃんの声にかき消されてしまった。


「早瀬に会ったんだって? 加奈に聞いた」

「あぁ、うん! 修ちゃんも知ってる人なんだよね?」

「うん、何度か会ったことあるけど……いい奴だと思うよ?」

「なにそれ?」

「たまには心から色気のある良い話を聞きたいんだけど……いいかげんに」

「あはは……ほんとだね」


 わたしの今までの人生で浮いた話と言えば……。

 高校生の時に一度、身に覚えのない彼氏がいたことがあったくらいかな……。

 告白をされて、自分では断ったつもりだったんだけどうまく伝わらなかったみたいで……。

 知らない間に付き合っていることになっていて、知らない間にフラれていた。

 あ、ちなみに手も繋いだこともないから付き合ってるなんて言えるものではなかったけれど。


「でも今ね、ちょっと頑張ろうって。そう思ってるんだよ?」

「おっ、いいじゃん」


 修ちゃんにこんな話をするなんて、不思議な気分だった。


 あっという間に自宅の前について、修ちゃんと別れると家に入って階段を駆け上がって自分の部屋に直行した。

 バッグから携帯を取り出して、友人の麻衣子に電話をかけた。


 恋の、アドバイスをもらおうと思って。




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