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光 -ひかり-  作者: 美波
第三章 なみだ
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第13話 違う世界

 大橋さんと二人きりになったロッカーに、「クリスマス、か……じゃないですよ!」と賑やかな大橋さんの声が響いた。

 彼女はいつも朝から晩まで同じ高いテンションを保っていて彼女を見るとよく「若いな……」って納得してしまう。

 そんな自分がおばちゃんみたいで少しだけ悲しい。


「クリスマスまであと一ヶ月なのにいいんですか? 1人で寂しく過ごすクリスマスでも……」

「あー……、どうかな? わたしは慣れてるから」

「胸張らないで下さーい。はぁ……どこかにいい出会いが転がってないかな~」

「大橋さんは友達も多いし出会いとかたくさんありそうに見えるけどな」


 制服に着替えが済んだ大橋さんは「そうでもないんですよ~」と言うと自分のロッカーの鍵を閉めた。


「秋元さんは……男友達いますか?」

「いるように見える?」

「正直見えないです」

「……」


 一瞬止まった時間と気まずい空気をなんとか払拭しようと言葉を続けた。


「ど、どうして? 男友達って何?」

「いや、だって。誰かいるんだったらその人からまた新たな出会いへって友達の輪を広げていけるじゃないですか」

「たしかに……」

「で、いつか素敵な人に出会えたり」


 大橋さんは「ま、わたしは男女の友情ってどうなのかなって思うから。だから意外にも男友達はあんまりいないんですよ~」と言って笑った。


「もし、いい話あったらよろしくお願いします」

「いい話ってもしかして……」

「一回でいいから秋元さんに合コンに誘って欲しいな~」


 最後に「なんちゃって!」と明るく告げると大橋さんは「お先です」と言ってロッカーを出て行った。

 ロッカーに設置してある時計を見たら、始業時間に迫っていた。

 わたしも急いで制服に着替えてロッカーをあとにした。


 そういえば、大橋さんには合コンに手を引いて連れて行ってもらってばかりでわたしが彼女のためにしてあげられたことって一つもなかった。

 それだけじゃない。

 様々な情報に敏感な彼女に、新しくオープンしたテレビで話題になっている飲食店に会社の子数人で連れて行ってもらったこともあった。

 彼女に新商品の化粧品のサンプルをもらい、使い心地がよくて今はその化粧品を使ったりもしている。

 流行りに鈍感なわたしのわずかな情報源はすべて彼女だった。

 もちろん話についていけないことも多々あるけれど、それでもいつもすべてにおいてタイプのまったく違うわたしにも慕って親切にしてくれる。

 悪いなって思うこともあったけど彼女はいつも「秋元さんにはいつも仕事にお世話になっているので」と言って笑った。


 考えれば考えるほどに。

 さっき秋元さんが「合コンに誘って欲しい」って言ったのは実は本心なんじゃないかな!?と思い始めてきた。


 いや、というか。

 当たり前の話だよね……。


 本当に自分はダメな先輩だなって思うと、ため息しか出なかった。



 テンションがいつもに比べて若干高めだった朝に比べて帰りは少しだけ落ち込んでいた。

 俯いて地面を見ながらいつもの通勤路を歩いている時だった。

 手にしているバッグ中で携帯が振動した。

 早瀬さんからの着信だった。


「もしもし?」

『あっ、心ちゃん。今いい?』

「はい。どうしたんですか?」

『あ、その前に本当にこの間はごめんね』

「もういいですって。本当に!」


 当日は電話で、次の日はメールで彼から謝罪の言葉を受け取っていた。

 腰は次の日には良くなったみたいで今日は普通に会社に出社すると言っていた。


「よかったですね、良くなって」

『でもまだ湿布は貼ってて……。今日とかさ周りから湿布臭いって言われてさ』

「あはは、それはちょっと酷いですね」

『だよねー』


『ねぇ今週平日暇な日ある?』

「だいたい暇ですけど」

『……』


 電話の向こうで早瀬さんが笑っているのがわかる。

 でも面白くて笑っていると言うより、苦笑いって言うのかな……そんな気がする。


『この前のごめんなさいの意味も込めて何かおいしいもの食べに行こうよ』

「あ、はい。いいですよ」


 早瀬さんに「誘っといてアレだけど、どこかいいお店知ってる?」と聞かれて何も答えられなかった。

 こんな時、大橋さんだったらいいお店たくさん知ってそうなんだけど。


 そういえば大橋さんは男友達がどうとか言っていた。

 男女の友情は微妙だみたいなことも言っていたけど、それでも友達から出会いの場を広げて行ってその先に素敵な出会いがあるかもしれないとも言っていた。


「あの……」

『んー?なに?』

「あのー、わたしの会社の後輩も連れて行くとかありですか……?」

『え?』

「あ、あの! すごく明るくて楽しくていい子なんです! お店とかすごく詳しくて」

『うんうん』


 話しをしているうちにとても失礼なことを言っているような気がしてきた。

 いや、でも最初会おうって話した時も誰か他の人誘ってもいいよ、みたいなこと言ってたし……。

 さすがに今「合コンしましょう!」とは言えないけど、ご飯くらいなら……。

 相手の反応を伺うようにして話をしていると早瀬さんが「いいね !それ!」と言って、乗って来た。


「ほ、ほんとですか!」

『うんうん! もちろん、その後輩の子って女の子だよね?』

「当たり前じゃないですか!」

『男連れてきたらびっくりするよね』

「さすがにないですよ、それは!」


 少しの緊張から一変して笑いがもれた。

 すると早瀬さんが「じゃあ俺も適当に誰か暇そうな奴連れていくよー」と言った。

 暇そうな人ですか、と呟くと「うん、同僚」とも。


 こういうのって何て言うんだろう。

 少人数の合コン?

 合コンなんて呼べるものでもないかな……。

 でも、よかった。

 大橋さん、喜んでくれるかな。


 『実は俺加奈からさ』


 早瀬さんの口から加奈さんの名前が出て、ゆっくりと歩いていた足が一瞬止まった。


『心ちゃんをもっと外に連れ出してくれってお願いされたんだ』

「連れ出す?」

『引きこもりなんだって~?』

「まぁ、……そうですね。どちらかと言えば」


『大袈裟なこと言うけどさ、一度きりの人生なんだからもっと色んな人に出会って楽しもうね!』


 早瀬さんの言葉に思わず今日一日の中で一番の大きな声で「はい!」と答えていた。


 どうしてわたしは友人がみんな結婚してしまって自分は一人ぼっちなんだって思ったりしたのかな。

 ちゃんとまわりを見渡せば麻衣子も大橋さんや、加奈さんだって、出会ったばかりの早瀬さんだって。

 自分を応援してくれる人はいるのに。

 わたしは自ら目を閉じて殻に閉じこもって「どうせ自分なんか」っていつも最初から諦めていた。

 ちょっと頑張って結果が出なければ「やっぱりね」って諦めてばかりだった。

 出会いも、恋愛も、その先の幸せも全部。


 世界が変わったみたいだった。


 あの日からかな、変わったのは。



 わたしの心の中に小さくて儚いけど、優しくて穏やかな光が灯ったあの人との出会いの日。


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