06
「もしもし、それは願い事かね?」
突然部屋に聞きなれない声がした。
私は飛び起きた。
部屋を見渡すとそこにいたのは…
「ハロー!ワシは小箱の精。主人の願い、どんな願いでも一つだけ叶えよう」
だそうだ。
状況が読み込めず思考が停止した。
つかの間の沈黙の後、多分異常事態なのだと理解し、危機感を覚えたと同時にそれを表現していた。
「ぎぃいいぃいいやぁああぁあああぁあぁあぁ!!!!!」
そこには知らないジジィが長く伸びた白い髭を触りながら立っていた。
自分のテリトリーに進入を許さぬものが勝手にいたら、危険を察して防衛体制になるものだ。
「だっ!!誰だぁあぁ!!!!どっから沸いたぁああぁ!!!!」
私はビックリして片っ端から手元にあったものを投げつけていた。
「こ、これ!!やめんか!!!痛いっ!!」
投げるものがなくなり、息せき切らして叫んだ。
「な!!何なのよアンタ!!!!人の部屋にどーやって…不法侵入で訴えるよ!!!!」
「自分で呼んどいてそりゃなかろーに」
何言ってるんだこのジジィは。
人の部屋に勝手に入っておいて私が呼んだと言う。
「呼んでないーーーー!!!!!!!」
こんなジジィ呼ぶわけがない。
全身全霊を込めて否定した。
「なんじゃとぉ!!お前さん「ぷぷーぅ」と言ったじゃろ!それがワシを呼ぶための呪文なんじゃ!発音もバッチリじゃったおかげでスッと出てこれたわい!」
呪文???
そんなこといった覚えがない。
『ぷぷ〜ぅ』
その時聞き覚えのある音が頭の中に蘇る。
まさか…あの音…??
「ちょっと!!人のおなら聞かないでよ!!恥ずかしいっ!!!」
つまりは、このジジィは小箱の精で、私のしたおならの音がはっきりと呪文として聞こえた為に、召還された……という事らしい。
って!!!!
はぁあぁ!!?
まっぢっでっ!!!?
これってこれって、まさかあの店のおじさんの言ってた…
『昔からこの小箱には精がおるという言い伝えがありましてな。きっと貴女のお役に立つでしょう』
あの話はホントだったのーーーー!!!!!???
「うっそー!!!ただの1500円の小箱ぢゃなかった訳ーー!!!!」
「しぇ……1500円!!!?」
ジジィは自分が売られた価格にショックだったようだ。
「ワシも安ぅなったもんじゃ……久々の仕事なのに主人は犯罪者扱い……帰ろうかの…」
ジジィは落ち込んだ様子で小箱に戻ろうとしていた。
私は慌てて止めた。
「ちょ、ちょっと待ったーーーー!!!!」
ジジィの目の色が変わった。
私は唾を飲み込んでジジィに問いかけた。
「一つだけ…願いを叶えると言ったわね。どんな願いでも…??」
まさか、ほんとにそんなこと…
でも…
「ワシに叶えられん願いなどないっ!!」
ジジィは腰に手を当て、エッヘン!とばかりに言った。
「ただし、悪意のある願いは除いてじゃ。フォッフォッフォ!」
私は身を乗り出してジジィに要求した。
「だったらお願い!!私を4年前に戻して!!!」
私の願いは一つ。
あの頃に戻って、気持ちを伝えるだけ。
それさえ出来れば…
そんな願いを、本気で頼んでいた。