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「も…アヒルちゃん…はぁはぁ……」
ナミが息を整えて顔を上げた先には、大人しく捕まったアヒルを抱える堀内がいた。
「あ、堀…う……ち君…」
ナミの顔が一気に真っ赤になる。
「何か、気がついたらコイツココにいて…逃げられたん?」
笑いながら堀内が言った。
「う…うん…寝てたとこ掃除してたらビックリさせちゃったみたいで……その……ありがとう!!捕まえてくれて!!!私足遅いしどんくさいから全然追いつかなくて……」
顔を真っ赤にしながらあたふたしているナミ。
それを見た堀内は更に笑った。
「あはは!俺のとこに来た時は全然コイツ逃げなかったぜ」
「わ…私嫌われてるのかも……」
恥ずかしさで泣きそうにうつむく。
「今度は逃がすなよ!」
そういって堀内はナミに近づき、アヒルを渡そうとした。
緊張が高まる。
その時堀内が言った。
「あ、俺このまま連れてこうか?」
「ううん!そんな!私が悪いんだから!!捕まえてくれただけでも感謝だし大丈夫!!ありがとう!!!」
ナミはこれ以上迷惑掛けまいと必死で断った。
その時の様子を見ていた私は堀内のちょっとした表情を見逃さなかった。
え…?
今……
一瞬だったから、見間違いかもしれないけど、
ちょっと残念そうな顔をしたように見えた。
まさかね……
堀内は改めてナミにアヒルを手渡した。
震える手で受け取るナミ。
その時、ナミの手を掘内が一瞬握った。
「しっかり捕まえとけよ!!」
その言葉と一緒に。
恥ずかしさで顔が上げられなくなったナミは、コクッと力強くうなずくので精一杯だった。
「じゃぁ俺部活行くな!」
そう言って掘内が去っていく。
ちょ、
こら!!!
チャンスだよ!!!
今だよ!!!
そう今。
今こそが、やっと私が与えられたチャンスなんだ。
私は不安な眼差しでナミと堀内を交互に何度も見た。
ねぇ!!
ちょっと!!!
早く呼び止めなよ!!!!
行っちゃうよ!!!??
ねぇ!!!
グワグワと声に発する私をただ抱きしめて立ってるだけのナミ。
手が触れた嬉しさをまた小さな思い出にして自分の中に大事にしまおうとしているのだろうか。
でももう、それは意味のないことなんだ。
私がナミを見上げると…
ナミは笑ってはいなかった。
真剣な目をしている。
それまでに伝えたい事があるんだけどね…
あの時私に言った台詞が蘇る。
ナミもきっとそれが今だと分っているんだ。
だけど、どうしても声に発して言えない様子。
私を抱きしめる腕がぎゅっと強くなる。
あーーーーもう!!!!
まって!!
堀内待ってよ!!!!
待ってってば!!!