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振り返るとそこには、ナミがいた。
「やっほ、アヒルちゃん!」
……どうして?
もしかして!!気がついた!!???
私が私だって事に気がついた!!!???
私が期待の眼差しを送ると、ナミはニコッと微笑んだ。
そして、
「私ね、美術部なんだ〜。今のテーマは『写生』でね、好きな所を描いてるんだけど、私はここで今絵を描いてるの」
全く気づいてなかった…
ですよね……
でもそれを聞いたとき、記憶が鮮明に蘇った。
そうだ。
私、ここで『好きな人』を描いたんだ。
写生は景色や事物のありさまを見たままに写し取ること。
この場所で、この風景の中にいる、あの人の一番輝いてる姿を見たままに感じたままに描いたんだ。
ナミは小屋の真横で絵を描く準備をしていた。
その時、一枚の画用紙に描きかけの絵が見えた。
場所というより、明らかに一人の人物がメインの絵だった。
おい、それ露骨過ぎだろ……
ちょっと照れくさくなってしまった。
その絵をじっと見る私に気がつき、ナミは恥ずかしそうに言った。
「エヘヘ、バレた?私この人が好きなんだ。1年生の時からずっと好きなの。サッカーしてるときがすっごいカッコいいんだよ!」
そこには一人の恋する少女がいた。
自分のこういう顔見るのって、何か変な感じだけど…
いい顔してんぢゃん。
片思いなのにすっごい幸せそう。
こんな感情も忘れちゃってたなー…
でもね、
19歳になったときにそれもすっごーーーく後悔すんのよ。
だからね、
何が何でもね、
絶対今!!
アンタが告白しなきゃ駄目なんだからね!!!!!
いつしか険しい目つきでナミを見ていた。
それに気づいたナミはまたもぎょっとした。
「また見られてる……アヒルちゃん私の事嫌い……???」
ナミは筆を取りながらアヒルの私に語りかけてきた。
「もうすぐ堀内君、中学最後の試合があるんだ。それまでに伝えたい事があるんだけどね……あはは、でも無理かなぁ。話しかけるきっかけなんか全然ないし、いつもこうやって遠くから見てることしか出来ないんだ」
そうだった。
私はとにかくネガティブで、
勇気もなくて、
こんな風に伝わりもしない想いばっかで胸の中膨らませて、
一言!
たった一言ぢゃん!!
この時だって、好きって既に言いたかったんだ!!
それが、自分に勇気がないばかりに言えずに終わるんだ。
でも私の中では終わってなくて…
今の私を苦しめてるのはアンタなんだ!
だから、言いなよ!!
言ってくれなきゃ困るのよ!!!
大迷惑なんだよ!!!!
いつしか私はヒートアップして、声に出して訴えていた。
もちろん、人間の言葉ではなく、アヒルの鳴き声なのだが…