01
あのときの気持ちを
あのときに伝えられなかった
あのときの私に
どうしても伝えたかった。
「俺と別れてくれないか」
「え…?」
何気ないいつもの電話のはずだった。
彼が声のトーンをさげ、ゆっくりと言った。
「他に好きな子できたんだ…ごめん」
まただ…
「そ…っか、分かった」
またやっちゃってたのか。
「ごめんな」
彼が申し訳無さそうに言う。
「ううん、ぢゃ、バイ…」
バイバイを言い切らないうちに彼からの電話は切れてしまった。
また、彼氏に振られた。
告白されて付き合った。
束縛も嫉妬もしなかった。
だから私はいつも振られる。
本気になれなかった。
私には……
ずっと忘れられない人がいるから。
その人を心に置いたまま付き合ってきた。
だからどうしても彼氏は二番目の存在。
もちろんそんな気持ちは自分の中に仕舞い込んで封印する。
いつももう忘れなきゃって思うんだけど、結局駄目になる。
遠いその人を見てて、近くの彼氏を見ていない事に何となく気付かれて、最後は皆離れていく。
そんな繰り返しばかりだった。
彼氏とのつながりが切れた瞬間、急に体が軽くなった気がした。
自分の気持ちに嘘をついていた事実から開放されたからだろうか。
ベッドの上に携帯電話を放り投げ、机の引き出しの奥に仕舞い込んであっ
た一冊のアルバムを取り出した。
そこには、大切に封印していた一枚の写真がある。
その人と一緒に写った唯一の写真。
「やっぱり忘れられない…」
でももう遅いんだ。