怪話篇 第二十話 ただいま!
1
「ただいまぁ! あら、お姉ちゃん帰ってたのぉ」
「おかえりぃ」
「あ~あ、暑い暑い。ねえ、何かなぁい?」
「そーねぇ……」
「あっ、いーモノめっけ。ねぇ、お姉ちゃんも飲むぅ?」
「うん」
「はい。……ねね、お姉。今日さぁ、教育実習の人達が来たんだよ。えーと3人、じゃなくって4人だったかな。代表で、挨拶した人があがっちゃててね、もう頓珍漢な事ばかり喋ってたのよ」
「へえ」
「でもねえ、中に割と格好良いのがいたからねえ。みんな狙ってるんだ。でもあたしのタイプじゃないね。軽そうなのは、やなんだ」
「そおー」
「米村のとこに、1人付くそうなんだって。だから来週くらいに授業やらされるんじゃないかな、あたしらのクラスで」
「ふぅーん」
「くふっ、今から楽しみ。あっ、そうだ。あのねえ、……」
「後で」
「ありゃ、バレてたか。しゃーない、後でお父さんに訊こうっと」
「好きにしたら」
2
「ただーいまぁ!」
「おかえりぃ」
「今日も、暑い暑い。少しくらい降らないかなぁ、雨」
「そーねぇ……」
「あっ、曇ってきたよ。降るかも知んないねぇ」
「うん」
「あっ、降ってきたよ。ねね、ほらあ」
「へえ」
「ああ! お姉、洗濯物ぉ~。早く取り込んどかなきゃ。ねぇー、お姉ったらあー」
「そおー。」
「もうっ、お姉ったら。……やだっ! もう濡れちゃってるう」
「ふぅーん」
「そんな事言ってないで、手伝ってよぉ」
「後で」
「もう、知らない。お母さんに言い付けちゃうんだから!」
「好きにしたら」
3
「帰ったよぉ~」
「おかえりぃ」
「ねえねえ、お母さんどうしたのお? お買い物?」
「そーねぇ……」
「ああ、お腹空いたなぁ。何かないの? ねぇ、お姉ったらあ」
「うん」
「もう、ぐーたらなんだからっ! そんなんじゃ、嫁の貰い手がなくなっちゃうよー。いいのぉ」
「へえ」
「へえじゃないよ、もう。もう知らないんだから」
「そおー」
「あっあっ。お姉、『べすとてん』やってるよ。ねっ、ほらっ」
「ふぅーん」
「見ないの?」
「後で」
「終わっちゃうよ。ビデオなんか録っといてあげないんだから。知らないよぉー」
「好きにしたら」
4
「たらいまあ~」
「おかえりぃ」
「お姉、元気ない。どうしたのよー?」
「そーねぇ……」
「風邪でもひいたんじゃなあい。お医者さん、行くう?」
「うん」
「今年の風邪は、質が悪いって」
「へえ」
「もう! 行くなら行くようにしないとっ。そんな風にしてるから」
「そおー」
「そんじゃ、布団しいとくから。薬のんどいてよお」
「ふぅーん」
「人事みたいに言わないの。もう、しゃんとしてよねえ。治んないよ」
「後で」
「……本当に知らないよ」
「好きにしたら」
5
「たっだいまー。帰ったよお」
「おかえりぃ」
「どしたの?」
「そーねぇ……」
「あっ、あたし宿題あるから。じゃーね」
「うん」
「へえ」
「そおー」
「ふぅーん」
「ねぇ、ここ判んないんだけど……」
「後で」
「いじわるう。後でお父さんに教えてもーらおっと」
「好きにしたら」
6
「帰ったよお」
「おかえりぃ」
「お姉は何処も行かないの?」
「そーねぇ……」
「駅前のお店で欲しいのあるんだ。一緒にいかない?」
「うん」
「ねー、どうす……の。行く……ょお」
「へえ」
「ねえった……」
「そおー」
「…………」
「ふぅーん。……、ん?」
「…………」
「……とうとう壊れちゃったみたいねえ。新しい”妹”探さなきゃなんないなぁ……。あ~あぁ、面倒臭いなぁ」
「ただいま、今帰ったわよ。お父さん、今日も帰り遅くなりそうねぇ」
eof.
初出:こむ 11号(1991年冬)