社会貢献嫌いの少女はゴミを拾う。
「誰かの為に____」
うるさい、もう聞き飽きた。
「未来を守る為に_____」
その”未来”ってのが来る頃には私は死んでいるんだろ?なら、関係ないじゃないか。
今苦しみながら全力で社会貢献したところで何になる。
心底興味がない。
だれが何を掲げて何を訴えようがどうでもいい。でも、誰もが本気で思ってるわけじゃない。誰かに言えと言われて、都合のいい綺麗ごと吐いている奴も、いい子ちゃんを演じる為にやってるやつもいる。
そいつらがどういう考えで社会貢献してようがどうでもいい。
ただ、世間に媚びるのは嫌いだ。
……確かに嫌いなんだ。嫌い、嫌いでも、それは許されない。
教師に盾突く度胸もないし、自分の意見を大声で叫ぶこともできない。
人前ではうまく話すこともできない。
出来ないことだらけの学生でしかない私には、できない。
それに、私の意見は筋が通っていない。
だって私は今、ごみを拾っているのだから。
笑ってしまうだろう?社会貢献なんて!とか言うひねくれたやつが、ちまちまタバコやペットボトルなんて拾ってるんだ。頭おかしいだろ。
けれど、私はそれでいいと思ってる。
なぜなら、あの子が教えてくれたことだから。
小学校のころからの親友、絵真が教えてくれた、大事なことだから。
茂みから見つかったコンビニ袋を一回り大きい、袋に詰め込む。
袋の中には空き缶やコンビニ弁当のゴミ、そして無数のタバコの吸い殻とお菓子のゴミ。袋は膨らんでいて、たくさん荷物を持っているように見えるが、とても軽い。左手で持っているトングの十分の一もないくらいだ。
その軽さは小学五年生の時感じたものと似ていた。
余計なこと話考えず、自分らしく、自分の考えを貫こうと思ったあの日の身軽さと。
暑い夏のある日、自然豊かな公園で少女たちは遊んでいた。
「ねえ、エマ。」
目の前には穏やかそうな女の子が木の上に座っている。
彼女は「なぁに?」と優し気に聞いた。
「世界平和って、どう思う?」
私はそこらへんで拾った棒を斜め上に向かって投げつける。
右手に持っている袋はガサッと音を立てた。入っているのはゴミではなかった。
茶色くて、人によっては発狂するかもしれないものがギッシリと入っていた。
投げた棒は木に当たった。正確に言えば、木の枝の先端部分だ。そこについていた物体が落ちてきた。
私はそれを拾い、袋にしまう。落ちてきたのはセミの抜け殻だった。
おそらく、ミンミンゼミの抜け殻だろう。私はエマと二人でセミの抜け殻を集めていた。
理由はない。ただ、楽しそうだからだ。
「貴方はどう思うの?」
エマは真剣に考えていた。でも、質問の意図が分からなかったらしい。
私は彼女に目線を合わせて言う。
「わからない。」
エマに言っているはずなのに、独り言のように話す。
「確かに、いいことだと思うよ。でも、私たちにとって関係なんてなくて、どこか違う世界の話のようだから、熱心になれない。それに、一部の人が必死になってやっているのに、やる気のない奴だったり、嘘ついてるやつが多すぎる。」
私は視線を上にずらしてボソッと呟く。「……私も含めてね」と。
「いいじゃない、それで。」
エマはふわりと飛び降りた。
木が揺れて、セミが何匹か飛んで行った。
「別に熱心である必要なんてないよ。それに、世界平和の為に行動する必要なんてない。世界は未来の為に方法を示してくれる。でも、やるかどうか決めるのは自分自身だよ。」
話ながら彼女は木の棒を拾う。それを力強く投げる。カンッと音を立てて枝の先端部分に当たった。
ボキッと言う音もなった。先端で脆かったのもあり、簡単に折れた。折れた枝を持ち、セミの抜け殻を取り外す。
「ひとつ、聞いてもいい?」
「なにを?」
「あなたの好きなモノ。」
エマはそういうとセミの抜け殻を差し出した。
私はそれに手を伸ばす。
好きなモノ。たくさんある。その中でも、一番大切なモノ。
「セミの抜け殻、集めるの、楽しい。」
セミの抜け殻なんて大したものじゃない。
どうでもいい。
好きでも嫌いでもない。
でも、今この瞬間は楽しい。
だからそう答えた。
エマは少し口角を上げて言った。
「集めるのが好きなんだと思うよ。貝殻だったり、ダンゴムシだったり、石だったり。そのものは本当になんでもいい。でも、集めるのが好き。きっとそうなんだと思う。」
私は返事をしなかった。
「無理に社会貢献なんてする必要ない。だからさ、好きなモノと結びつけてみようよ。夏が過ぎたらさ、一緒にゴミ拾おう?きっと楽しいよ、サキ。」
集められるなら何でもよかった。
それがゴミだろうと、なんだろうと。
ゴミ拾いは想像以上に楽しかった。
捨てる側の人にも罪悪感というものはあるのだろう。
絶対隠そうという意思を感じるものを見つけられた時、たまらなくうれしかった。
まるで隠された宝物を見つけられたような気がして。
社会貢献は嫌いだ。私の趣味はゴミ拾い。感謝される必要なんて無いのだから。
明日、スピーチがある。世界平和のスピーチコンテストだ。
ここで、少し、頑張ってみようと思ってる。
_________
「次、広井咲さん。」
先生の言葉を聞き、私は立ち上がる。
心臓はドクンドクンと音を立てている。少し手汗もにじんでいる。
教卓の前に立ち原稿用紙を開く。
練習の時を思い出しながら前を見る。
40人近い人数が一気にこっちを見る。深呼吸をして口を開く。
「『自分の為に』 広井咲
私はゴミを拾うことが好きです。」
声が少し震えていた。どうしてもみんなと目線を合わせられず、下を向いてしまう。
「理由は単純、楽しいからです。私は幼いころから”集めること”が好きでした。虫だったり、貝殻だったり、セミの抜け殻だったり。それらを集めるのが一番の楽しみでした。皆さんで言う、推しのグッズを集めることに近いかもしれません。集めるという行為が宝さがしに似ていて、とても面白いです。そんな私も小学校高学年の時、世界平和について学びました。最初は全然イメージがわかなくて、どうすればいいのかわかりませんでした。それを友達に相談すると意外な言葉が返ってきました。『自分の為に行動する、それでいいじゃないか。』と。無理をしてまで誰かの為に尽くす必要はない。その言葉を聞いた時、自分の好きなことが役に立つかもしれないと思いました。集めること。それはゴミでも集められさえすれば私にとってはとても楽しいことです。そう思った私はゴミ拾いをしてみました。それは予想の数百倍楽しいことでした。茂みの奥の方にあるビニールゴミを引っ張り出した時の喜びはとても大きいものでした。他にもごみを集めるということに対する利点はあります。それはいつの間にか増えることです。ポイ捨てする人は少なからずいます。風で飛んでくるものもあります。例え全部取りつくしたとしても次から次に出てきます。しかも一年中取り放題。私は私のためにゴミを拾います。それがとても楽しいからです。とはいってもゴミ拾いが好きな人は少数派でしょう。中にはそれがストレスになる人もいる。そういう人は無理にやらなくてもいいと思います。ところで、皆さんの好きなモノは何ですか?買い物が好きな人、エコバッグを持っていますか?裁縫が好きな人、破れた服を縫ったりしてますか?料理が好きな人、普段は捨ててしまうところを料理に活用する方法などを調べてみませんか?有名になりたい、褒められたい。どんな動機でも構いません。あなたの好きなモノ、性格、得意なこと、それらを世界平和に役立ててみませんか?誰かのため、世界の為じゃなくて、自分の為に。」
中盤からはしっかり目を見て話せていたはずだ。目線もあっていた。
上手くできた、はずだ。
次の瞬間、耳の奥に響くほどの拍手が聞こえた。
……ああ、楽しい!!




